初めての異世界
シャリルによると、アフィとの集合場所は噴水のある広場とのこと。地図の上にこの店と広場を見つけ、道のりを覚えた私は、この世界に新たな足跡を追加するべく、支度を済ませた。
空に浮かび、存在を強く強調している炎の玉は私の肌を焼いている。こっちの世界の住人は慣れているようだが、地球生まれの身体は流石に悲鳴を漏らしている。シャリルに渡されたこの麦わら帽子によって視界は確保されているが、気温が高いあまり、遠方はぼんやりしている。
隣を歩く少女もまた、悠々とした顔つきでいたが、やがてこちらを見返した。この子がアフィリア・クローザである。立派な貴族の末裔だそうで、先程から出会った人には必ず挨拶をしている。この大変律儀な次期当主様は、シャリルとは対極の位置にある、闇魔法を使うらしい。今日は魔法についても教えてくれるらしいので、心待ちにすることにした。
広場で出会った私たちは、広場から伸びる六つの路を全て見て回ることにした。シャリルのパン屋のような商店から、ギルドや図書館など、割と何でもある、という印象が強かった。地球にはない、魔法関係の店には特に興味が湧いた。今度行く約束もした。
その後、大きいという表現では遠慮がちな程、ただただ大きい公園へ向かった。広場にもあったのだが、公園には三つ、ワープホールと呼ばれるシステムがあった。魔力を流し込むことで簡単に移動出来る、という便利なものである。公園の端に着いたとき一つ見かけたが、そこからは地平線が見えるくらい果てがなかったため、ある理由が良く理解できた。この公園、どうやら四ブロックくらいに分けるのが暗黙の了解らしい。アフィとともにワープホールで公園の反対側、魔法の飛び交う空間へ移動した。
「おおおぉぉぉぉ」
「魔法見るの初めて?」
「うん!私にも使えるのかな?」
「適正があれば使えるよ。この都市では、そうだね…魔法の適正持ってる人は約七割くらいってとこだね」
「そうなんだ。私地球生まれだから無理かな」
「チキュウ?ああ、シャリルが言ってた『もうひとつの世界』のことか。そっちには魔法なかったんだよね。どうやって移動してたの?まさか全部徒歩だったの?」
「えーっと、車とか新幹線とかかな。石炭とか電気とか使うんだよ」
「石炭って、奴隷が取らされてるアレか。電気って何?」
「電気っていうのは、何だろ。電球とかだよ。あれの魔法じゃないバージョンって言ったらいいのかな。そっか、この世界には奴隷がいるのか。なんか生々しくて嫌だね…」
「魔法も奴隷も無い国、か。平和そうでいいね。行ってみたいな」
「いやいや、そんなことないよ。割とぐちゃぐちゃしてるから、こっちの人は生きづらいと思うな」
「へー、大変そうだね。それよりも、さっきの電球が気になる。作れたりしないかな?」
「職人とかじゃないから無理だけど、形とか仕組みとかなら説明できるよ。紙とペンある?あっ、ありがとう。こんな形で、これとこれがこうなってるから電気が通って、そうそうこの手に持ってるこんな感じの…ん?」
「へー、これが電気とやらで光る球か。面白そうだけど、どうやって光るの?」
「電気を引いてこないといけなくて…ってそうじゃなくて。いつから電球持ってたっけ。最初なかったよね。アフィの?」
「ううん。でも、気づいたらあったよね」
「説明してたら手の中に出現した…?訳わからん。てか怖い」
「そういう魔法なのかもしれないよ。ポジティブに考えよう!」
「なるほど。そうだね、ポジティブシンキング…くっ、気になるぅぅ」
「鈴華が欲しいと思ったから、チキュウから電球を持ってこれたってことかな」
「説明してる間に?うーん、他の物で同じことしてみれば何かわかるかもしれないな…よし、じゃあ車の説明しよう」
「先生、追加の紙です。どうぞ」
「あ、ありがとう。えーっと、こんな形です。仕組みは……」
「先生?」
「詰んだ。車の仕組みなんて分からない。細かいところは普通知らないからね」
「他の簡単なもので挑戦しましょう、先生」
「いや、先生って。 そうだなぁ、複雑じゃなくて、分かりやすそうなもの…よし、傘だ!」
「傘って、あの傘?」
「うん。描くぞ〜」
「私もお役に立てそうです。是非こき使ってください」
「こき使うって…まあいいや。形と仕組みはこんなものだろう。出でよ、傘!」
「…」
「…」
「あっ、鈴華の前、空間が少し歪んでます」
「どれどれ。あっ、これか。お、傘の先端が出てきた」
空間の歪みからは傘一本のみが出てきた。なお、歪みは、傘を出し切ると消えた。この傘は、間違いなく、私が前世で使っていた傘である。地球から引っ張り出すという説も、あながち間違いではないようだ。
その後、他のものでも確かめ、この魔法(?)の条件を私とアフィで確認した。
「必要なのは、その物の形、使い道、仕組み。色とか模様なんかは無くても大丈夫。ただし、本人が欲しいと思わない限り、持ち込めない。っと、まあこんな感じですか」
「頭良いんだね、アフィ」
「いえいえ、それほどでも」
「ところでさあ」
「はい?」
「これって地球に返せるのかな」
「…」
「…」
「…やってみるか」
「そうですね。イメージは同じでいいかと。ただチキュウに持っていくと考えると出来ると思います」
「それっ!……出来たのかな?」
「少なくとも、ここからは無くなりましたね」
「ま、まままままあいいや。私知らない」
「私も知らないことにします。私は何も関与してない。大丈夫、大丈夫…」
「もういい時間だし、帰ろっか」
「そうですね。私の闇魔法もいつかご覧にいれましょう」
「楽しみにしてますね。今度、賢者様が来るときに今日のこと聞いてみるよ。多分何かわかりそう」
「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「いいよ。人は多い方が楽しいもんね」
「はい!ありがとうございます」
「じゃあ、この辺で。さよなら、また今度」
「はい。さようなら」
自分でもよく分からない能力を得た私は、戸惑いながらも、安心出来るあの家に帰って癒しを求めることにした。
「シャリル、ただいまー」
「おかえり、ついさっき閉店したばっかりだよ」
「お疲れ様。聞いて、あのね___」
今日あったことを全部聞かせている姿はまるで子供である。シャリルにもどんな能力かは分からず、召喚魔法の類ではないかという見解を示した。
明日の予定は決めていないが、なるようになるだろう。文字の勉強も必要なので、多少は座学の時間があることだろう。いつかはシャリルと寝たいなと思いながら、ゆっくりと目を瞑るのであった。
次の日の朝、私はまた強烈な眩しさに襲われることになるのであった。