1日の始まり
こちらの世界に来て、記念すべき最初の目覚めの時間がやってきた。が、生憎とそれは心地よく感じることはなかった。むしろ拷問である。体が眠ることを拒絶しているのだ。あと数分くらいで鳴り出す時計を見つめながら、冴え渡った頭で今朝のことを思い出した。
あれは、まだ私が夢の世界に閉じこもっていた頃の話。猛烈な眩しさが瞼を貫通して、夢の世界から私を引っ張り出したのである。少し直視するだけで失明する気がした。本当にそうなったら洒落にならないのでやらないが。地球では程よく目覚めさせてくれる太陽が、異世界風になると、まるで殺戮マシーンである。
金属音が部屋に充満しているのに気づき、ようやく意識を取り戻した。夜までには対策を講じる必要があるなと思いながら、洗面所へ向かった。
洗面所のドアを開けると、高さが1メートルと少しばかりの人形が立っていた。いや、訂正。女神である。
「おっはよー!起きるの早いんだね〜」
「おはよう。シャリルこそ早いね。流石店長さん」
「えっへん!せっかくだし、朝ごはんも豪華にしちゃおう!」
「毎日自分で朝ごはん作ってるの?」
「そうだよ。偉いでしょ〜」
「…いや、ほんと。こんなに小さいのに苦労してるね。私も見習わないとな…」
「あれ?泣いてるよ、鈴華。辛かったら相談くらい乗ってあげられるよ?」
「えっ、泣いてた?あちゃー。シャリルにはこんな顔見せたくなかったなぁ。ごめんね、ちょっと今は話せないんだ。自分でも心の整理が出来てないっていうか、何というか…でも、もしかすると、いつかシャリルに打ち明けられるかもね」
「そう。何かしらの事情があるのね。まあ、いつでも鈴華のことを受け入れる準備はしておかないとね」
「えっ、それって結婚…いやいや、何もない。こんなしっとりしたムードの時に不純なこと考えるなんて…」
「さっきから独り言が多いけど、私のこと嫌い…?」
「えっ、何でそうなる。いえ、そんな嫌いなんて滅相もない。むしろ好きです、愛してます」
「あら、そうなの。元気そうで良かったわ。そろそろご飯の支度をしなくちゃね。椅子にでも座って待ってて、すぐつくるから」
「パン屋のつくるパンですか。これは期待出来ますなぁ」
「え〜、プレッシャーに弱いんだからやめてよぉぉ」
元の世界の事情を少し挟んでしまったが、最終的には和やかな朝を過ごすことに成功した。こんな新婚さんのような生活が毎日続くとなると、幸せすぎて出血多量でどこかへ転生してしまいそうだ。朝食を終えた後、言うまでもなくシャリルは仕事に勤しんだ。そんな姿も見たかったが、今日はシャリルの友達である、アフィと街を散策する予定が入っている。
どうやら、この世界には元の世界とは一味違ったことが沢山あるらしい。シャリルには色々と教えてもらったが、他にも知っておくべきことはあると言う。それらは実際に肌身で感じた方が良いらしいので、今日より数日間、アフィによるカローリアツアーが行われるのであった。