異世界召喚なんて起きなかった
僕の足元に突然浮かんだ魔法陣。僕が望んでやまなかった異世界転移か!?と心躍っていると、僕の横に座った明美が突然焦ったような表情をみせ、明らかに狼狽している。
「そんな…どうしてここがわかったの。確実にまいたはずなのに…」
「どうしたの?そんなに慌てて」
「…!?しまった。あなた。早くここから逃げ…」
明美が慌てて僕を押し出そうとするが、僕は逆にその流れ明美に返し、魔法陣の外に追い出す。
「こんな機会誰にも邪魔させない!!!」
明美はしりもちをつきながらそんな僕に驚きの視線を向ける。
その時、突然視界がぼやけ、気付くと見知らぬ男女に囲まれていた。そして、確実にゲームセンターではない場所に移動していたようだった。近くに川の音がするので、河原だろうか。僕を囲む男女は僕と同じ高校の学生服を着ている。ということは…僕は瞬時に状況を理解し落胆する。
これは異世界召喚ではない…
僕は膝から崩れ落ちた。
「ん?明美じゃないやつが来たが?」
「そんなバカな僕の転移魔法は確実に作用したはずなんだけど…」
「もー、本当に使い物にならないわね」
「それにしても、なんだこいつ。いきなり召喚されて戸惑ってるのか。立ってられてないな。だせーやつ」
僕を取り囲む男女が何やら言い争いをしているが既にどうでもよくなっていた。異世界召喚でないならこれはいったい何の時間の無駄だ?
「まー、明美じゃないとはいえ、異能を見られたからには消すしかないだろな。これがばれたら俺たちが消されてしまうかもしれない」
「そうね。私たちの力で殺された人間は存在も消滅し、最初からいなかったことになる。それが一番問題にならない解決策ね」
髪を金髪に染めたヤンキーが、膝をついた僕を見下ろし、僕の顔に手をかざした。
「お前も運がわるかったな。こんなことに巻き込まれてよ。大丈夫だ。お前が死んでも誰も悲しむやつはいない。どーせ忘れるからな」
そう言って、ヤンキーの手から突然ものすごい熱量の炎が飛び出す。
僕はそれを着ていた学生服をたたきつけ消滅させる。そして、即座に立ち上がり、ヤンキーの延髄に手刀を打ち下ろした。男は何もわからないまま意識を手放し、地面に倒れこんだ。
「な…何が起こったんだ?」
「どうして丸山が倒れて、こいつが立っているんだ?」
「俺は全く目を離していなかった。でも、何が起きたのか全くわからなかった」
僕を取り囲んでいた男女が狼狽する。僕は沸き起こった感情の熱量をぶつけるように叫んだ。
「人を期待させるだけさせて肩透かしなんて…ふざけるなー!!!!!」
「「「!?」」」
その咆哮は、爆音爆速の衝撃波となって、彼らを襲った。
召喚術士と思われる男と女は吹き飛び、目と耳から血を流し泡を吹いて気絶した。唯一僕の咆哮に反応した男は、片膝をつき、目と耳から血を吹き出しながら苦悶の表情を浮かべる。
残った男に向かって僕は言う。
「僕を期待させた罪、万死に値する。楽に死ねると思うなよ?」