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異世界に行きたい

 ここは異世界。

 

 ここは異世界。


 ここは異世界。


 ここは異世界。


 ここは異世界。


 ここは異世界。


 ここは異世界。


 ここはい… 


「なー、お前何やってんの?頭抱えて」

「せかいではないんだよなぁ」

「は?」

「なんでもない」


 そう。ここは異世界じゃない。

 日本の、東京の、立川の片隅のコンビニの前だ。異世界らしさのかけらもない。

 あー、つまらない。


「つまんなそうな顔してんな」

「あー、なんか楽しいことないかな」

「…ちっ」


 突然雄太が僕の後ろのコンビニの窓ガラスをどんと叩き、顔をぐっと近づけてくる。今現在存在する東京の高校生の中でも、トップクラスに容姿の整った雄太の顔が、眼前に迫っている。それこそちょっと身を乗り出せば唇が接触してしまうのではないかと言うくらいに。全国の女子高校生ならほぼ全てがドキッとするシチュエーションではないだろうか。僕は男なので、気色悪いとしか思わないが。


「なんだよ」

「俺と一緒にいる時にそんな顔するなよ!」

「は?」


 熱いまなざしを向けてくる雄太。真剣な表情だ。その瞳には強い意思が宿っている。肩は上下し、吐息も激しくなっている。わかってるだろ?俺がいいたいことは。そう表情で訴えかけてくる。まー、わからなくはない。こいつはいつもいつもこうなのだ。僕は至って普通の高校生だと自覚しているのだが、なぜかこいつはそんな僕をえらく気に入ってくれているようで、執拗に迫ってくるのだ。まーつまり、こいつは僕と喧嘩でもしたいのだろう。


「あー、もうそういうのいいから」


 僕のなげやりな態度にしびれを切らしたのか、雄太は二三歩距離をとると、「ふざけるなよー!!!!」と盛大に叫んだ。そして雄太の体から金色の蒸気が立ち上る。


「雄太の体からあふれ出るこの“気”は!?あの伝説のエンジェルマイスターの失われし秘術」

「へー、知ってるんだ。なら、分かるだろ?俺の気持ちが。このあふれ出る金色の秘闘気が愛情をエネルギーに人知を超えた力を発揮する。人の身でありながら神の領域へと足を踏み込む禁断の技であることが!」


 こいつは僕と喧嘩するためにそこまで技と力を磨いてくれたのか。この闘気を会得するにはそんじょそこらの覚悟ではだめだったはずだ。でも、それでも。僕の心は…… 


「そんなに僕のことを思ってくれるのは嬉しい。だけど、僕は異世界に憧れているんだ。この世界でのことには心は動かされないんだ」

「この分からずや。俺の手で死ねー」


 雄太がこぶしを振り上げる。遅い。この程度のスピードなら目をつむっても避けれる。だが、ここでこの一撃をくらって木っ端みじんになるのもまた一興。それが原因で異世界に旅立てるかもしれない。

 

 そんなことを考えていた時、僕と雄太の間に、人影が割り込んだ。


「やめるんだ!二人とも」

「誰だ!?」

「…君は」


 ふりあげた雄太のこぶしは止まらない。突然割り込んだ謎の人影に動揺するも、こぶしの勢いは全く弱まっていない。このままでは雄太の金色のこぶしが、謎の人影を木っ端みじんにしてしまうだろう。


 僕はそっと三歩下がった。


 そして、その直後、雄太のこぶしが謎の人影を木っ端みじんに吹き飛ばした。吹き飛んだ肉と骨が僕の後ろのコンビニの窓を破壊していく。僕は冷静にその血肉を避ける。


「く…一体なんだったんだこいつは」

「ふははははははは。私を殺したな」


 どこからか響く謎の声。周囲を見渡すも、どこにも気配は感じられない。後ろからふわりと風を感じる。振り向くと、飛び散った謎の人影の血や肉や骨が黒いもやとなって消えていた。そして、その黒いもやが雄太の周りをまとわりつく。


「な…なんだこれは」

「お前は私に呪われたのだ」


 そんな二人のやり取りを横目に、僕は帰路についた。


 はぁ、あんなやつらの近くにいたら身が持たないよ。


 その時、僕の眼前に高速で物体が飛来してきた。それは音速の壁を超え、亜光速で飛んできていた。剣…か?それはまるで僕が恋焦がれる異世界ものの小説によくでてくるエクスカリバーと呼ばれる聖剣を思わせるフォルムであった。僕は慌ててその剣の柄をつかんだ。


「おおーすげー!!かっこいい」

「smおあpppあわりmだ」


 剣から謎の音がなる。

 僕は気持ち悪くなってその剣を道端に捨てて再度帰路についた。


「はーやっと家か」


 僕は手に持っていた肩掛けのバックの小さなポケットの中から鍵をとりだした。鍵はドナルドダッグのキーチェーについている。他にも家のカギだけでなく自転車の鍵なども付けている。そして、取り出し鍵を扉についた鍵穴にそっとあてる。最近どこかさびついてきたのか、なかなかぬるぬるとは入ってくれない。556を使ってもいいのだが、なんだかそれは負けた気がするので僕は使わない。あくまで自分の力で入れてこそだと思っている。途中つっかかりを覚えながらも鍵を、鍵穴の奥まで差し込んだ。そして、鍵を回す。


「キ……キ」


 鍵穴から音が漏れる。壊れちゃう!と、これ以上鍵を回さないでと懇願されているような気持ちにさせられる。だけど、僕は鍵を回すのをやめない。ここで止めたら家に入れないからだ。僕は鍵穴に悪いなと思いつつも、力を込めて一気に回こんだ。


「キ…キン!!!」

「ボキ!!!」

「あ…」


 鍵が折れた。


 家に帰るのは諦めよう。僕は現実逃避でゲーセンにでも行くことにした。

 この時は思わなかったんだ。

 まさかゲーセンであんなことになるだなんて。

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