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1-9

  はためいていたのは裾の長い白衣だった、前を開けているから旗の様に見えたようだ、白衣と一緒に長く伸びた黒髪も同様に風でふわりと流れている。 


 白衣を着込んだその人はモーリス達が入口まで来ると「遅い、いつまで待たせる気だ」と言って不貞腐れたように頬を膨らませ顔を横に向けると、そのまま体の向きを換えて建物の中へと入って行ってしまう。


 その後ろ姿は、高さの有るピンヒールとそれの発する廊下を叩く乾いた音が、大人の真似事をして背伸びしている少女の様に見えて、余計に幼さと感じてしまう。


 出会って早々に不満の声をかけられた一行だが、言われる程待たせたつもりは無いはずだ、詰所を出て3分と経ってないのに、八つ当たりされるほど待たせただろうか?と皆疑問に思うが、彼女が建物の中に消えていったので、自分達もまた彼女に続いて扉をくぐる。


 コンクリートともレンガとも言えない石造りで作られた建物の廊下を早足に進んで行き、綺麗に設えられた引戸の前で立ち止まると扉の電子ロックを解除して部屋の中に入る。

 

 リゲルはマルルクから渡された書類の入ったケースを少女に渡すが、渋々というか嫌々と言った表情で受け取り、ケースの中身に目を通し始めると、すぐに眉間にしわを寄せてあからさまに険悪な顔をするとモーリス達に服を脱いで部屋の中央にある医療用カプセルに入るように指示を出す。


 モーリスたちは服を脱ごうにも脱衣場が無いので仕方なくその場で服を脱ぎ始める。

 

 あまりにも潔く異性の前で服を脱ぎ始めるから、少女はすっかり止めるタイミングを逃し、その光景を眺めるしかなかった。

 しかし少女は衣類が一枚、また一枚と床に落ちる度に顔を赤らめていき、次第に眼のやり場に困り視線が泳ぎ出す。

 モーリスの鍛え上げられた肉体美が披露される頃には、少女は耳まで赤くなり顔を背けてしまっていた。


 それでも年頃の娘が持つ好奇心に抗うのは難しいのか、時折目だけで盗み見ていた。


 少女の悩ましい色情など気にも留めず、リゲルはモーリスのむき出しの鍛え抜かれた肉体に賞賛の声を送り、気を良くしたモーリスは肉体の隆起を際立たせるポーズを取っては別のポーズを取り、油断なく全ての部位が美しく、そして逞しく鍛え抜かれていることをアピールする。


 その姿を見て、リゲルは自分の鍛えたい部位を更に鍛えるためにアドバイスを受けようと、その部位を隆起させるポーズを取った、盛上りこそ小さいが一分の隙なく削ぎ落とされた脂肪の替わりに、筋肉を惜しみなくこれでもかと詰め込んだ胸部はモーリスとは違った肉体美を作り出す。


 年少の二人は隆起こそ乏しいものの、無駄のない引き締まった体つきをしている、逞しい肉体美に羨望の眼差しを送り、更にそれが本物か確かめるように触ったり叩いたりしている。


 すっかり蚊帳の外の少女は目の前で繰り広げられている男の世界に、興味津々の様子だが、自分もその世界に飛び込むには勇気が足りなかった。

 モーリスとリゲルが隆起させた身体を痙攣でも起こしているように動かしている様を見ては、小さく歓喜の吐息が漏れ、次第に少女の呼吸が熱を帯びて荒くなる。


 そんな少女の様子に気付いたリゲルが手招きして少女を自分の所まで呼び寄せる。

 挙動不審な様子を見せ、行こうか行くまいか決められない少女に、痺れを切らしたリゲルが自ら少女の目の前まで歩み寄る、逃げようともせずその場で立ち尽くす少女は、俯いて両手を足の間に挟んでモジモジと身を捩っている。

 少女に向かい「好きな所をどうぞ」と一言優しく言うと、コクリと頷き顔を上げた少女が「じゃあ胸を触っても良いですか?」と顔を真っ赤に染め、まっすぐな眼差しと不安げな声で聞いてくる。

 その質問に答える代わりに、胸を隆起させるポーズを取り触って良い事を伝える。

 

 好奇心に目を輝かせながら、小刻みに震える腕を腫れ物に触る位オズオズと伸ばされた指先が微かに触れ、そのまま指を使って胸を撫でる。

 リゲルは少女に笑みが宿るのを見ると、思いっきり胸部を波打たせサービスする。


 リゲルの悪戯に驚き、反射的に手を引っ込めたがあまりの動揺で、引っ込めた手ごと弾き飛ばされるように後ろに仰け反って、そのままバランスを崩して倒れこみ、尻もちをついてしまった少女は、バツが悪そうに怒ったような表情で立ち上がり埃を払うと、早くカプセルに入るよう怒鳴るような声で催促してカプセルを指さす。


 少女の指示に従いカプセルに入ると、少女は自らの髪を腕に巻いた髪留めでポニーテールにして結い上げると、微かに薄紅色の残る頬を両手で叩き、そのまま肩の高さで両手を握り締め気合を込めた。


少女が操作パネルを操作し始めると、カプセルが閉まり意識が宙に浮き、心地よい浮遊感とともに意識が遠のいた。




 次にモーリス達が目を覚ました時にはカプセルの扉が開き、少し離れた所で人の話し声が聞こえていた時だった。


 話し声というには穏やかではない、どちらかと言うとお説教のような一方的な会話だった、まだ薄らボンヤリとした視覚と聴覚の中で、会話の主は先ほどの少女と、その上司らしい大人の女性の二人でされていた。

 

 どうやら、少女が一人で機材を動かした事に対して少女は怒られているようだ。


 その場から動けない状況の中どうしたものかと思って様子を見ていると、おもむろに少女が自らのショートパンツに手を掛け、それを躊躇した様子でゆっくり下ろし、スラリとした白い下肢が露出された。


 何が起こったのか理解できないモーリスが硬直していると少女は操作パネルの有る机の角に両手を付き、着ている白衣の裾を捲り上げ臀部が露になる。


 完全に思考を停止したモーリスはどこを見てるかわからない目でその成り行きを見ていると、叱りつけていた方の女性が手にした定規で少女の臀部を勢いよく叩きだし、空気が弾けたような痛々しい音が部屋中に反響する。


 痛々しい音が部屋中に響く度に、少女の顔には苦悶の色が浮かび、モーリス達を見て苦悶と共に、あられもない格好をしている事に羞恥心も混ざり、生唾を飲む好色的な表情が作られる。


 終わらない折檻に、少女はとうとう悲鳴と共に許しを切願する声が涙と一緒にあふれ出す。


もはや、少女の幼い顔はその痛みが愉悦なのか苦痛なのかわからない程に歪められその声は聞くに耐えないものになっていた。


 医務室に静寂が戻り、少女の嗚咽が残った。


打ち捨てられたようにその場でくずおれている少女は露になっている白くスラリと伸びた下肢と対照的に真赤に腫れあがっている臀部に広がる痛みとその熱のせいでそこから動けないのが想像するより容易に見て取れた。


 先ほどまで少女を折檻していた女性にモーリス達は出てくるよう、有無を言わさぬ乱暴な口調で催促され、カプセルの外に出ざるを得なくなったので、強烈な気まずさを覚えながらも恐る恐るカプセルからゆっくりと体を出すと、その場から動けずにいた少女は飛び跳ねるように体を起こすと、片方の足にショートパンツを引っ掛けたまま脱兎の如くその場から走り去っていった。


 カプセルから外に出て衣服を整えている一行はあまりの気まずさに誰も口を開かず、時を刻む音だけが聞こえて来る。


 先に沈黙を破ったのは先刻まで鬼の形相をしていた女性だった。


 なんでも、あの少女は以前、救急搬送されてきた負傷者を医療ミスで死ぬ寸前まで追いやった事が有るらしかった。

 その事を知って、さっきの剣幕と体罰には意味が有り、筋の通った教育なのだと理解すると直前まであった気まずさはすっかり晴れていた。


 最後に検査結果が分かるのに時間がかかるからテキトーに時間を潰してくるよう言い伝えると、操作パネルに向かい検査データの解析に取り掛かった。




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