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1-6

 土煙は間違いなく俺達を目指して来ている、そうじゃなければ車列なんて組んで巡察ルートを来るはずがない。


 モーリスは飲みかけのマグカップをボンネットに置いてあるトレイに置き、半分ほど残っていた食料を頬張りミーシャの下まで行くと、まだ口の中にある物を飲み下してからミーシャが差し出した双眼鏡を受け取る。


 「そんなに急いで食べたらまた死んじまうぞ」

双眼鏡を渡すとき冗談っぽくミーシャは言うが表情は本気で心配している顔をしていた、だから普段のお調子者の時なら無視する所を今回はその心配を払うように返事を返してしまった。

 「大丈夫だ食べなきゃ体は動かないからな、それにまた倒れたらお前が介抱してくれるんだろ?」

双眼鏡を渡すとそのまま肩をすくめて首を横に小さく振りながら軽口を返す。

 「しょうがないからまたそうなったら人工呼吸してやるよ」

双眼鏡を受け取り、土煙の上っている方を見ようとしていたモーリスの動きが止まりミーシャを見返す、その先には肩を上下に揺らしてカラッとした顔で笑うミーシャの姿があった。

 (やられた、後で覚えてろよ)

若干の苛立ちが湧いてきたが、他のどこかで緊張が緩んで肩の力が抜けるのを感じていた。


 双眼鏡でミーシャの指した方を見ると確かに車列が見えた。

巡察時の編成とは違い車の数が多い、うち一台は防弾装備を施された装甲車だ、しかも50口径のヘビーマシンガンと自動擲弾砲で武装している。

 (初めて見る編成だな、装甲車が先頭でトラック2台が距離を取ってその後ろか)

 「リゲル、無線で何か入ってこないか?」

自分の考えを確定するため無線番をしているリゲルに新しい情報の確認をする。

 「丁度今俺たちを呼び出している所ですよ」

そう言ってリゲルは無線機のスイッチをスピーカーを切り替えた。

 すると、全員がはっきり聞こえる位の音量で無線の声が辺りに響く。

 「巡察04、巡察04応答願う」

無線番をしているリゲルが受話器を取り応答する「こちら巡察04」

 

 エルリックは無線から聞こえる声を聴いてその声の持ち主がマルルクである事に気が付いて、昨夜一緒に本部の団長室を片付けていた事を思い出す。

 (今日は休みって言ってたのに、なんで居るんだろ?)

エルリックは昨夜あった事を思い出しながらドライフルーツや蜂蜜の甘さでベタベタになった口にお茶を含み一緒に咀嚼する、するとお茶のほろ苦いあと味が蜂蜜やチョコの甘味で緩和されて苦みも甘味も絶妙に調律されて食べ易くなる、それを胃の中に落とすと口に残るのはナッツの香ばしい余韻だけが広がる。

 エルリックはこの食べ方が好きでこの行動食が支給されると毎回こうやって食べるのだった。


 携行食とお茶の生み出す自分だけの贅沢に心奪われていると、無線のやり取りを終えたリゲルはスピーカーのスイッチを切った、その無線の内容を全部聞いていたモーリスは、屋根の上で胡坐をかいて車列を眺めていたミーシャに指示を出す、それを見たエルリックは残っていた食事を手早く腹の中に収めるとモーリスとミーシャのトレイを回収に回り、今は要らないと言って食事を取らなかったリゲルに食料だけ渡しに行く。

 わずかに頭痛の残っているリゲルは一欠片だけ受け取り、残りはミーシャと二人で食べなさいと言って残りは受け取らなかった。


 エルリックが食器やコンロ、ポットをラゲッジルームに固定されている収納箱に片付け終わるくらいにマルルク達の班がミーシャの誘導で到着した。


 増援の班が到着早々、今までのゆるい空気が一変して急に騒がしくなった。

 

 装甲車の助手席から降りて来たマルルクは無線で一通りの状況は把握していたが、細かい確認のためモーリスの元まで早足に近づいてくるが待ちきれない、と言わんばかりに少し離れた所から声を掛けてくる。

 「モーリス!災難だったな具合はいいのか!?」

 「報告の通りだ、そんな大声じゃなくてもちゃんと聞こえてる」

そう答えたモーリスは両腕を広げて近づいてきたマルルクに手荒いハグを受けて背中をやさしく叩かれる。

 「全員生きてて何よりだ、この一件で上の連中蜂の巣を突いたみたいに慌ててたぞ」

それを聞いてその場面を想像してしまったモーリスは鼻で笑う。

 「お前みたいな重鎮がこんなトラブルに出張ってくるなんてよっぽどなんだろうな」

マルルクを見た時から思っていた事を素直に口に出し、そんなベテランが現場に出向いてきた理由を聞く。

 「それで、このトラック二台分の機材と技術部の人達は何しに来た?」

すると、表情が一変して歴戦の兵士を彷彿とさせる面持ちでこれが本題です、と言わんばかりに重い話に会話が変化した。 

 「この辺りに機甲化歩兵(アーマーナイト)が出現するのは同盟が定められてから初めての事でな、事態の真相を把握するためにこうやって調査隊が編成されてな、その指揮を俺が執る事になった」

やっぱりそうかとモーリスが頷き、その間もマルルクは話を続ける。

 「それにこんな物騒な話うちらだけじゃどうにもならんから、周辺地域同盟を結んでいるミスチィア鉄鋼都市群にも伝えたら協力してくれるそうだ」

 それを聞いたモーリスは驚いた、驚きのあまりハトが豆鉄砲を食らった顔をする。

 それを見たマルルクは揶揄(からか)う事も笑うこともせず、より真剣な眼差しで言葉を続ける。

「そうだ、事態は当事者のお前たちが思っているほど優しくない」


 驚きのあまり言葉を失くしていたモーリスだが頭の中は超高速で様々なことが巡っていた。


(ちょっと待て、お隣さんが出てくるって?!軍事条約は結んでいないはず、それに彼らがここに来るって?この場所から急いでも半日はかかる道のりをどうやって?)


 その間もマルルクは言葉を続けていた。

 「向こうとしては、自分がこの件に関与していない事を証明するつもりらしいが、ビッグ5でもない限り機甲化歩兵の生産なんか現実的じゃないからな、この機にデータだけでも取っておきたい、あわよくばコイツを持ち帰って技術解析して機甲化歩兵の開発に乗り出すつもりだろう」


 なるほどと思う、ミスチィア鉄鋼都市群はその豊富な地下資源から、鉱物資源の採掘、製鉄を主な産業にして周辺領地に卸している3代目ミスチィア伯爵が治める土地だ。


 だが、都市と機甲化歩兵生産には結び付かない。

 

 それは機甲化歩兵は自動車産業と同じく、いろんな分野の産業の集合体で複合産業だからだ、もちろん骨格や外装、内装に金属部品は余す所なく使われているが、その他に機体を動かすための駆動系、それらを制御する機体制御系、と言ったように電子工学、プログラム、合成樹脂類等々、様々な産業と高度な技術が必要不可欠なのだ、しかもその複雑さは自動車産業の比ではない。

 したがって、いくら大戦以前のロストテクノロジーを持っていても製鉄産業がその技術だけで機甲化歩兵を生産するというのは少し考えが早計に過ぎると思う。


 「ちょっと待った」

そう言ってモーリスはマルルクの話を遮り質問をする、するとマルルクは話を中断し「ふむ」と小さく呟き腕を組む。


「話がつながらない、単なる製鉄屋がなんでいきなり兵器産業に乗り出すんだ?周辺地域同盟でこの辺りの武力はビッグ5に次ぐと言われているのにパワーバランスが崩れて経済戦争に飲込まれるリスクをなんでわざわざ冒す必要がある?」


 小さい都市や集落ならより強い力をもった者に蹂躙され支配されるが、エルリック達の地域では幸いにも経済基盤が確立されているのと、信頼できる指導者の優れた政策のおかげで有象無象のならず者集団の襲撃はここ最近減って来ていた。

 自警団はそういったならず者集団から自分たちの家族や生活、ひいては都市を守るために組織された自衛のための武装組織だ、それに加えて周辺地域同盟のおかげで都市同士がお互いに助け合い、交流も盛んに行われ、この地域一帯は混沌とした戦後の時代で唯一の平和を実現していた。


 だがそれも、ビッグ5が相手となれば話は違ってくる。

ビッグ5、国家解体戦争(旧大戦)を生き残り、大戦以前の前世紀から脈々と続いている世界的な五つの超巨大複合企業体、また国家解体戦争はこのビッグ5が引き起したと伝えられている超弩級の化物企業であり、この世界で繰り広げられている経済戦争は彼らが主軸となって引き起されていた。


 ・・・・そして、彼らが主力としている兵器が機甲化歩兵だ。



やっと年度末の超繁忙期を乗り越えました、これからは執筆の時間が増えると良いな~

なんて考えながら久々の休日を楽しく過ごさせてもらいました。


お待たせしました第6話です、どうぞゆっくり読まれていって下さい。

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