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お待たせしました第四話です、今回はちょっと設定の説明的な所を含んでいるので少し長くなってしまいました(´;ω;`)

----機動兵器----


それは二百年前に起こった国家解体戦争時に国家、企業の両陣営において主力を務めた高機能汎用兵器の総称であり、全高10メートル弱、基本重量約20トンの標準型をベースに大型のサイズから小動物サイズまで多岐にわたり開発され、その種類は数え知れない。

 その中でも最も数多く生産され、戦場の主役を戦車から奪い取り、あらゆる戦場で多大な戦果を挙げた、人の姿を模した機動兵器の事を機甲化歩兵(アーマーナイト)と呼んでいた。

 現存する兵器の中で機甲化歩兵はたった一機で戦局をひっくり返せるほどの強大な戦闘力を保有するがゆえに生身の人間が敵うはずもない存在だった・・・


 「機動兵器、しかも機甲化歩兵ですか…」

絶望的な表情を浮かべて重々しい調子でリゲルが呟き、その横で今にも重力に圧し潰されてしまいそうな調子のモーリスが希望的観測を発したが、その言葉には説得力が込められていなかった、それはまるで死神に確実な死を宣言されたかの言葉だった。


 しばらくの間、車内は沈黙が重くのしかかり車両の走行音と段差を乗り越える音だけが聞こえていた。

 その空気の変化に後部座席の二人も気が付いており、窓を全開で心地よい風を顔に受けているはずなのにヌルっとした嫌な汗をかく。

 

 モーリスとリゲルの会話はよく聞こえないが先ほどから二人の様子がいつもと違う、なんというか重い空気を感じていたエルリックは、原因が初めは人影に見えていた物、今は影の輪郭がくっきりしてそれが何者なのかはっきり認識できる物に有るのだと確信していた。


 その影は面と角で構成された厳つい体躯をした、いかにもロボットですと主張する形をしている。

 その機体は左手に機体前面を覆えるほど大きな盾を構えていて、右手には機甲化歩兵用の銃が装備されていた。

 その立ち姿は半身に盾を構え身を守り、右手の銃口だけを盾から出して今にも撃ちだす体勢で僕達ではない全く別の方角を向いて微動だにせず狙いを定めていた。


 (どこを狙っているんだろう?あの方角は山しかないんだけど?)

エルリックはその機体の狙っている方向を見ようと身を乗り出すが、見えるものは今までも見ていた景色と変わらない平原と林、それからかなり遠くの方に山々が見えるだけだった。


 何の前触れもなく車両が機甲化歩兵を中心に左旋回を始めたがこれはきっとモーリスの指示だろう、ここから見る二人に変わった感じが無かったから僕も落ち着いていられた、それでも向かいのミーシャは背中側に機甲化歩兵がいるのですごく構え難そうだ。

「ミーシャ、その体勢しんどくないの?」

窓越しにミーシャの体が180度捻じれる様な態勢で警戒体勢をとっているのを見て、思わずミーシャに声を掛けてしまった。

「物凄く構え難い!車が揺れてるから全力で踏ん張ってないと窓から落ちそうだ!」

そう答えたミーシャは窓枠に完全に座るような体勢から更に体を捻じって機甲化歩兵の方へ銃を向けている、車が揺れるたびに上半身がフラついてバランスを崩しがちになる。


(やっぱりミーシャは凄いな、13歳でひとつしか違わないのにあんな無理な体勢でもちゃんと狙えるし、こんな大きいのをあんな遠くからでも見つけるし、どうすればミーシャみたいになれるんだろう?)

そう思うエルリックは歳の近いミーシャに尊敬の気持ちを隠せずにいた、同時に歳が近いせいかどうしても自分との実力を比べてしまい、自分の方が劣っていると思うと少し自己嫌悪になってしまいそうだった。

(お仕事終わったら射撃場で自主練しよう!)

 そう思うと無意識に肩に力が入り、気持ちが高ぶるのを感じた。


「エル坊、肩の力抜いてリラックスだぜ、そんなに力んでたら車から落っこっちまう、せっかくモーリスが気を使って左回りにしてくれてるんだから普段通り気楽に行けよ」

 僕の考えを読んだように車内から声をかけられた。


 声の主はミーシャだった、体勢がしんどいのか車内から銃を出して構える体勢に変える途中で声を掛けてきたのだった。

 少し気になる事を言っていた気もするが実際にその通りなのだから聞き返すことはしないで、帰ったら自主練しようって思いが更に強くなるに留めておいた。

 

 こんなやり取りをお互い顔は合わせずに声だけでコミュニケーションを取る、会話しつつも目はしっかりと周囲を警戒している、と言っても視線は正体不明の機甲化歩兵に注がれていてそれ以外の方角の警戒は散漫になっていたが・・・


 距離を取りつつ機甲化歩兵の周囲を左回りに旋回していた一行は機体正面に差し掛かった時、安堵の溜息をつき一気に体中の力が抜けてしまった。

 今までの緊迫した空気は一体何だったのかと言わんばかりに皆が口を開き、思い思いの言葉を発してこの瞬間までの緊張感を笑い飛ばすのだった。


「俺たちは死体に警戒していたのか」

とモーリスが疲れた顔して一言

「まぁ、いい予行練習になったからコレは有りなんじゃね?」

とミーシャはお気楽な調子で場の空気を和ませようと一言

リゲルは最悪の事態は避けられて良かったと安心した表情をして一言。

「何にしてもやることは増えましたが目の前の危機は避けられたみたいですね」

…僕は目の前にある光景にただただ目を奪われて言葉を失っていた。


初めは人影にしか見えなかった機甲化歩兵が、今では機体構成が双眼鏡なしでもはっきり見える程の距離まで近づいていた。


正体不明の機甲化歩兵との距離は50メーター前後、そこまで接近して初めて気が付いた大穴、その穴は機体の胸部を前から背中に向けて空いていた、通常の機体であればその場所には機体を操縦するコクピットが存在している、人間でいう鳩尾(みぞおち)辺りにポッカリと大きな穴が開いていて、まるでその空間には初めから何も存在していなかった様に穴を通して青空が見えていた。


 「なぁモーリス、もっと近くで見ようぜ」

ミーシャがさっきまでのキリっとした調子から普段の調子に戻って、好奇心に目をキラキラさせて初めて目にする機甲化歩兵に興味津々にそう言った。

 そう聞かれたモーリスは、これ以上近づく事はせず班長のままの気迫で「対人兵器が機能していたら死ぬぞ」と釘を刺した、そして今の場所から双眼鏡で今は動かない機甲化歩兵を隅々まで観察している。


 僕はコクピットを撃ち抜かれた機甲化歩兵を見ながら戦闘の事を考えていた。

 今、僕達がいるこの場所で何かと戦って負けた、コクピットユニットを丸ごと撃ち抜かれて負けた、そのコクピットには人が居たはず…

 この戦闘で人が死んで戦いに決着がついて、目の前にあるこの機体はその後こうやって死体をさらしている、でもコクピットは綺麗さっぱり消えていて人間のいた気配すら無い、もしかしたら無人型の機甲化歩兵だったのかもしれない。

 それでも戦いに負けるって寂しく思えて心が締め付けられる様で少しだけ息が苦しくなる気がした。


 隣にいたミーシャが「大丈夫か?」と声を掛けてきたが、僕はうんと頷き、鉄砲を持っていない方の手で胸を押さえるのは止められなかった。

 そうでもしていないと、自分もこの可哀そうな機械の様に胸を撃ち抜かれて死ぬんじゃないかと、底知れない恐怖と悲しみの入り混じった感情が無意識のうちにそうさせるのだった。

 

 車から降りていたモーリスが車で待機しているリゲルの所に寄って来て難しそうな話をしている。

「何かわかりましたか?」

ドアを挟んでモーリスがすぐ横まで来ると、待ってましたと言わんばかりに声を掛けた。

「機体の外見からだけじゃ詳しいことは判らないな、とりあえず企業標準機体をベースに武装は変更してるようだし、カラーリングや部隊表記の類はオリジナルの仕様になってる」

そう言うと小さく首を横に振り、厄介ごとがまた増えたと呟くモーリスだった。

 リゲルはその情報だけで察しはついていたが意思の確認をするように思っていた事を聞いてみる。

「となると傭兵ですかね?」

ミック(MIC)の兵隊の可能性は十分あるな」

「そうじゃなければ企業のエリートだろう」

リゲルの問いにモーリスは二つの答えで返したが、どちらもこの上ない程の厄介事なのは変わりなかった。


 ミック(MIC)とはこの世界で唯一の、そして世界最大ともいえる軍事力を保有する人材派遣会社だ、その業務内容は普通の労働力の斡旋に留まらず、戦闘員の派遣、捕虜や難民、ストリートチルドレンの人身売買も業務内容に含まれる。

 そして、派遣される戦闘員には機甲化歩兵を手足の様に扱い戦闘代行を請け負う社員も数多く存在する、そういう連中の大半が搭乗者に合わせたチューニングが施され、思い思いのカラーリングやパーソナルマークのペイントが認められている。 


 同時に企業の軍事部門に所属し、特別優秀な社員をエリートと呼び、彼らの特権としてミック同様に個人の自由が認められていた。

  

 特に厄介なのはエリートの方で彼らは一様に自分は特別なのだという選民意識を持ち、負けるはずがないと思い込んでいる所が有る。

 そのエリートを戦闘で失う事は企業の大きな損失であり、何より自社の支配地域への政治的影響が大きいため、エリートが負けた事実はどんな手段を使ってでも隠そうとするからだ。


 二人がそんな会話をしている最中、退屈しのぎにミーシャが車の外で無理な体勢で固まった体をのばしていたのだが、それでも退屈を持て余したのか、おもむろに手の平位の石を拾い上げ、機甲化歩兵に向けて思いっきり投げつけた。


 初めて見る機甲化歩兵を近くで見たい好奇心を諦めきれずにいたミーシャは、今がチャンスとばかりに対人兵器の有無を確認しようと全力で遠投したのだが、これが最悪の結果を招くことになるとは誰も思っていなかった。





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