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(本当、俺なんかよりよっぽどマシだ)

リゲルは心底そう思っていた。

 彼が班長デビューの日の朝、集合場所に行ってみると班員が一人不調で欠席とのことだった、この位の事なら彼が班員として巡察に出る時にも度々あった事なので特に気にもしなかったが、この事は彼の不運の始まりに過ぎないのだった。


その日最初の不幸が一人欠なのだが、その欠員になったメンバーと言うのがリゲルの補佐役としてその日配置された班長経験豊富な人物だったのだ。

 だからと言ってその日の巡察を取り止めにする事はおろか、リゲルの班長デビューを延期させるわけにも行かず、加えてその日は他に班長を務められる人員が全員出払っているという異例の人手不足も手伝ってその日リゲルは班長の職務を務めざるを得なかったのだ。

 当然、全く経験の無いことを一人前にこなせと言うのは当たり前のことだがかなり難易度の高い事だ。


(そこまでは上手く行ってたんだよな)

リゲルは昔を思い出しながら心の中でそう思うのだった。


 彼はなんと無事にその日班長としての務めを滞りなく無事に果たしたのだった。

 リゲル本人は日々の意識の賜物というがそんな簡単な事ではないと班長を務めた事のある人は口を揃えた様に同じことを言う。

 彼は巡察に出るたび班長の傍で班長のやる事を常に見て学んでいたのだった、そのおかげで彼の頭の中には自警団全ての班長達が知識として蓄積されていて、その甲斐あってデビュー初日にしてメンバーの重役が欠けている状態でも任務をこなせたのだ。

 

リゲルの不幸はこの事を皮切りにして多方面に及ぶことになるのが彼の二つ目の不幸だ、その日の巡察報告を耳にした上層部は彼の才能に目を付けて将来の幹部候補として育成しようと思い立ち、事在るごとにリゲルに仕事を任せるようになる、そのせいで彼の日常は多忙になる。

 最近、最も多いのが経験の浅い団員の育成という仕事だがただでさえ時間に追われているリゲルにとって物凄く時間の割かれる仕事なのだった。


(この辺りからおかしくなってきたような気がするんだよな~)

そこまで思い返すと小さな溜め息も一緒に出てしまった。 

 そしてリゲル最大の不幸は彼自身、出世や名誉といったものに興味がなく任務で楽がしたいから仕事を頑張ってやるといったスタイルのため自分の時間が取れない現状こそが最大の不幸なのだった。


(おかしいよな、仕事をきっちりこなせば楽ができると思ってたのに)

 周囲から見れば棚からぼた餅的な出世街道まっしぐらに見えるがそのこと自体本人は快く思っていないようだった。


(仕事をこなせるようになればなるほどのんびり出来なくなってる気がするんだよな)

 彼は元々、のんびりと生きていたいからゆっくり仕事していてもとやかく言われない自警団での仕事に就いているだけなのだ。

 そして今日はというと、いつも通り経験の浅い団員二人とベテラン班長モーリスのメンバーで異例の異常事態対応と来ている、これで無事に帰還出来たら日々の業務の多忙ぶりに拍車がかかるのは想像に容易かった。


(ますますのんびり過ごす時間が少なくなっていく、のんびりと生きていきたいだけなのに)

そう思った矢先に感極まってポロっと思っていたことが口をついて飛び出してきた。

「どうにもまいりましたね」


「全くその通りだな」

リゲルの言葉を聞いていたモーリスが返事をしたが、リゲルはお門違いの返答にクスっと口の端で苦笑いをして肩を落とす。

 モーリスはというとそんなリゲルの様子に気を回す余裕までは回復していないのだった、多少は余裕が生まれたとはいえ相変わらず緊張した様子は消えていなかった。


(最悪、銃撃戦になるかもしれない)

正規の巡察ルートを外れて異常の確認に向かう最中モーリスはそんなことを考えていた、相手の方が強ければこちらは全滅するかもなんて最悪すぎる考えが次々とモーリスの頭の中を駆け巡る。


(そうなった場合、後ろの二人だけでも離脱させて町に報告するか?)

(俺たち二人で戦えるのか?通常の巡察装備でか?)

(武器はSMGだけだぞ⁉)

そこまで考えて、モーリスの中で交戦になった場合は応戦しつつ全員で戦域離脱、その後無線通信で本部と連絡してから事態に対応するといったシナリオが組立てられた。

(たぶんこれが戦闘になった場合の最善の対処だろう)

(もちろんコレを撃たないで済むならそれが一番いい)

「最初のコンタクト次第だな」

 どうなるにしても、あそこの謎の人影とのファーストコンタクトで直後の行動が決まる、そう思い至ると頭の中が急にスッキリした気がして来たが同時に自分の判断の遅れが致命的な失敗に繋がる事に気が付いてモーリスの緊張は頂点に達しようとしていた。


 突然車体が大きく沈み込んでガタンと車体が音を立てた、後部座席で身を乗り出していた二人は車外に転げ落ちそうになって身を強張らせていたがエルリックの方は体を支えきれず必死になって両手を使って窓枠にしがみ付いていた。


「この先大きな川の跡がいくつもあるから気を付けてくださいね」とリゲルがシレっと言うが「もっと早めに行ってくれないか?」とモーリスが本気でビックリした様子で言葉を返す。

後ろでミーシャがドアミラー越しにジトッとした視線を投げつけているがリゲルはスルーしてモーリスに「すまない」と応え、左後ろで忙しくしているエルリックに声をかける。


「エルリック大丈夫かい?」

「いきなりでビックリしたけど大丈夫」

そう答えながらエルリックは両手を離れてスリング一本で体と繋がっていた銃を手繰り寄せてそれを再び構え直す。


 三個目の川床を超えた時不意に横から声がかかる「なぁ、この川床自然に出来たにしては不自然じゃないか」

どうやら同じことを思っていたらしくリゲルは「同感です」と返事して言葉を続けた。

「こんな局所的に地面を掘り返したような川がくねくねと何本も不規則にあるのはおかしいと思います」

先ほどから感じていた違和感をモーリスに告げた。

「お前もそう思うか?」

「加えて地面が焦げているような所も有るし、大きく地面の抉れている所も有る」

そこまで聞いてリゲルは最悪な可能性を思いついて表情を緊張で凍らせる。


 その雰囲気を感じ取ったのかモーリスはひとつの可能性を提示した。

 それを聞いたリゲルは緊張の表情の上に恐れを張り付かせた。


最悪の可能性、機動兵器の戦闘がその場で在ったと言う事実。

それは今朝の出発前のブリーフィングで聞いていない、通常そういった戦闘の有無や武装勢力の出現といった火薬臭い事は真っ先に巡察報告で報告され、次の巡察班に引継ぎされる。

 しかし今回はそんな事()()()()()()、つまり前回の巡察から今回の巡察の間に戦闘が有り今も見えている人影はこの戦闘跡を作った機動兵器という可能性だった。




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