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ようやくできました第二話です、どうぞ楽しんでいってください。
「おはよう、エルリック」
そう呼ばれて声のするほうへ顔を向ける。
「ごめん、モーリス気が付いたら寝てた」
彼は今回の巡察班のリーダーだ、面倒見がよくて部下想いの好青年で特に僕や妹のアニには良くしてくれる。
今度は僕の右隣から声がかかる。
「まぁ、仕方ないよなこいつまだ12になったばかりなんだ、夜勤がこたえたんだろ」
ミーシャがフォローしてくれたけど僕はそれを言い訳にしたくない。
間髪入れずに運転席から突っ込みが入った
「座ってるだけの奴らは好きかって言えて羨ましいですね、そろそろ運転替わってもらえませんか?」
そう言って町を出てからこの車を運転しているのはリゲルだ。
「それじゃぁ、俺が代ろうか?」
ミーシャがそう言って運転席へ身を乗り出してリゲルに向かいそう答える。
今度は、それを聞いていたモーリスがその申し出を却下する。
「お前はダメだ」
「なんでさ?俺だって車の運転くらいできるの知ってるじゃん」
ミーシャが後部座席から身を乗り出したままの態勢でモーリスとやり取りを繰り広げている。
横で見ていると何かの拍子でフロントガラスに叩き付けられそうで危ない態勢だ
「ミーシャ、お前が車のハンドルを握ると巡察にならないんだよ」
モーリスは前を見たまま声だけで抑揚のない調子でそう続けた。モーリスにそう言われてミーシャは顔全部を使って納得できないことを表現している、それを横目で見たモーリスは今度ははっきりとこう言った。
「巡察っていうのは決められたルート上に変化や異常がないかを視て回ることをいうんだ、だから速度はそんなに速くないんだ」
そう言われて何を言われているのか気づいたミーシャは言葉を遮りすぐさま否定に入る。
「でもさぁ、ゆっくり走ってたら眠くなっていろんな物見落としちゃうぜ?だから速度は少しでも速いほうが集中できると思うんだよね」
そう言って二カっと笑った。
そのやり取りを黙って聞いていたリゲルが呆れたように二人に聞こえる声でボソッと言う
「その少しが100㌔オーバーとはね」
モーリスがそう言う事だから諦めろとばかりに頷いて見せた。
すっかり会話に入りそびれた僕はそのまま窓の外を流れていくパイプラインを観察する事にした。
何も変わらない、町を出た時から窓の外を流れる景色は薄緑色をした何で作られたかわからない人工物とその周りに起伏のある平原が広がり時折背の高い林が見え、たまに大地に亀裂が入っていてちょっとした断崖絶壁になっているくらいで生き物の気配も少し有る程度の平和な光景だ。
「ふわぁ~」
あまりの代り映えの無さに思わずあくびが出た。
「エル坊もなんかフォローしてくれよ~」
そう言いながら反論の糸口を見つけられないミーシャは自分の元居た所へ戻って来た。
「いつか速く走らなきゃいけなくなった時に運転できるよ」
僕はテキトーにそう答えた
「いつかっていつだよ‼」
少し膨れた様子で声を上げて言う
「今じゃないいつか」
僕は視線をそのままに気のない声でそっけなく答えた。
するとミーシャはやってらんねぇと言わんばかりにシートにドカッと腰を下ろす。
僕とミーシャとの短いやり取りが終わった直後、ミーシャが何かを見つけて声を上げた。
「モーリス、あれなんだと思う?3時の方向400メーターくらい先」
一同が一斉にミーシャの指示した方向へ視線を向ける。
そこにはこの辺りでは異様といえる物体が在った、それはここからでははっきりとは確認出来ないが人の形をしているようだった、しかし400メーター近く離れた所からそれが人だと確認できるにしてはそれは明らかに大きすぎたし人影にしては形が歪に見える気がする。
僕は判断がつけられず皆に聞いてみた。
「ねぇ、あれ人がいるように見えるんだけど」
「そうですね、人が立っているように見えますがあれは人ですか?」
「だよな?人にしては大きすぎないか?」
おおむね意見は一致していた様だった。
すると真剣な面持ちで状況を考えていたモーリスは何かを決断して明らかに普段話す声とは別の声で僕たちに指示を出す。
「リゲル、あれに向かって進め。後ろの二人は左右の警戒」
今日初めて見るモーリスの班長としての貫禄、なんというか勇ましい。
普段と違う雰囲気に戸惑いながらもそれが指揮官としてのモーリスが発した命令だと意識した瞬間、僕たちの体は反射的に動いていた。
僕とミーシャが各々窓を全開にして上半身を窓の外に乗り出す格好で僕が車の左側、ミーシャが車の右側を銃を構えていつでも射撃できる態勢で警戒する。
もちろん、窓を開ける前にマガジンを着けてボルトを引くのを忘れていない。
こういう時にいつもの練習の賜物だと実感する、命令されればスムーズに動いて素早く実行できる。少しは戦力になれてると思うと安心した。
「本部応答願う、本部応答願う」
モーリスがスイッチだらけの機械を使って町に常設されている巡察本部と連絡を取るために本部を呼んでいた。
間髪入れずに皆は無線機って呼んでる機械から短い声が聞こえる。
「こちら本部」
「巡察04、ポイントA4付近で正体不明の物体発見、調査の為正規ルートを外れ行動する」
「本部了解、15分後に定時連絡せよ」
「巡察04了解、通信終わる」
暗号のような短いやり取りが終わってから少しの間を空けてリゲルがモーリスに話しかけた。
「班長としての貫禄出てきましたね」
「何回も班長やってればこういう時どうしたらベストな選択なのかくらい自然と身に着くよ」
不意にかけられた誉め言葉に少々驚きながらも素直に思っている事を言葉にして自分が緊張していることに初めて気が付いた。
モーリスが緊張しているのは付き合いのそこそこあるリゲルには初めから気が付いていた事だった。
「今回で何回目ですか?」
彼の緊張を和らげようと会話を続ける。
「うーん、だいぶ間隔空いてるから良くは覚えてないが確か12回だったか・・?」
別の事に頭を使ったせいか声のトーンはだいぶいつもの調子になっていたがやはり余裕がないのだろうか微妙に声に緊張が出ていた。
「12回ですか、それはもうベテランの域ですね、でも僕はもうやりたくはありませんね」
そう言うと自分でも顔が火照るのが分かった。
「まぁ、班長デビューの日にあんだけトラブルに巻き込まれてればトラウマにもなるだろうよ」
リゲルが初班長の日の事を思い出してやっと気持ちに余裕の出来たモーリスは肩の荷が少しだけ軽くなった気がした。
それを感じ取ったリゲルは
「そうです、俺の受難に比べればこんなのトラブルのうちに数えませんよ」
自分の苦い過去を思い出し、ため息交じりにそう言った。