物語の始まり
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・・・
「ここはどこだろう?」
気が付くと見たことのない空間が周りに在った、聞いたことのない言葉、見た事のない服を着た人達、机と呼ぶには上板と骨具だけの簡素な机と椅子。
おそらくあれは机だろう、それでも僕が知っている机とは少し違うようでその片側には一様に同じ鞄が掛けられている、それにそれらは整然と並べられていた。
「僕は何をしていたんだっけ?なんでこんな知らない世界に居るんだろう?」
「ねぇ‼」
突然景色の一部から僕を呼ぶ声がした、同時に肩を軽く叩かれる。
僕は声のした方向を向くとそこには男の子が立っていて僕に話しかけた様子だった。
彼は僕が振り向くと言葉を続けた
「さっきからボーっとしてどうしたの?」
「早くしないと学食並んじゃうよ、早く行こうよ」
状況を理解しきれていない僕はとりあえず彼についていく、学食に向かう廊下を小走り気味に僕の手を引いてドンドンと先に進む彼は何やらいろんな小言をこぼしていた、どれも聞いた事の無い名前ばかりだった。
(生物?数学?5限目?訳が分からない)
僕は混乱している頭でたくさん考えた、考えて学食に着く頃にはここは学校という教育機関だという事がわかった、僕は彼に言われるままに券売機で食券を買いそれと昼食を交換して席に着く。
「いただきます」
彼は両手を胸の前で合わせて昼食に手を付けた
僕もそれを真似して昼食に手を付ける、初めて口にする味だった
「うまい‼」
思わず口から言葉が出る、それを見て彼はカラッとした笑顔で笑う。
(あれ?この感覚は覚えてるぞ?このふわふわした気持ち、前にもどこかで合ったような気がする)
ゆるい幸福感を抱えながら「おいしいものをうまいって言って何が悪い」と拗ねた様に応える。
なんでもない会話をした、たぶん何でもない日常のありふれた会話だった、会話の内容はよく覚えてないけどとても幸せな気持ちで一杯だったのは覚えてる。
・・・久しく忘れていた気持ち、それはただの夢の中の出来事だった。
突然前触れもなく意識が遠のいていき心地よい浮遊感が身を包んだ、周囲が白い光に包まれホワイトアウトする、ほんの数舜その空間を漂ったかと思ったらどこかに着地する、次第に意識が明瞭になり感覚が伴った。
どうやら僕は知らぬ間に寝ていたらしい、目が覚めるとそこは車の後部座席でドアに半分寄り掛かる形で首から上をくの字に曲げて眠っていたようだった。
寝ぼけている意識で首から上だけで周りをのんびり見回す。
(いつの間に寝ちゃったんだろう?)
そう思いつつ何の気なしに窓の外を眺めながら自分の腕の中に有る物を確かめるように撫で回す、同時に今自分の置かれている状態を頭の中で再認識する。
(あぁそうか、昨夜は遅かったし今朝は早かったから仕方ないのかな)
そうやって自分に言い訳しながら久しぶりの巡察任務なのに緊張感の無い自分にイラつきを覚えて小さな溜め息をつく。
(今どの辺を周ってるんだろう?僕の側にパイプラインが見えるからそんなに時間は経ってないと思うけど…)
今見えているパイプラインは中を大量の天然水が都に向けて流れている、僕の生活している町は湖から採れる飲用可能な天然水を主要な産業にしていて、このパイプラインが壊れると町はもちろんこのパイプラインの終点の都も経済的ダメージは計り知れない。
というより天然水の採取・輸出以外の貿易手段は皆無でこのパイプラインが壊れると、すぐさま経済的窮地の追い込まれるから地域の皆で自警団を組織して文字通り生命線であるパイプラインを毎日昼夜問わず巡察して異常がないか見て回っている訳である。
今日の任務の重大さを再認識して居眠りしても仕方ない、なんて思った自分に心底呆れて視線を窓の外から腕の中に移すと触りなれた感触の物が在った。
撫でているだけでどこに触れているのか分かるくらい手に馴染んだ鉄の塊、アサルトライフル。
自動小銃、銃、ライフル、みんな自分の呼びやすいように好き好きにその鉄の塊の事を呼んでいるけど僕は鉄砲って呼んでる、正確にはUZIサブマシンガンって名前らしいけど何百年も昔に起こった国家解体戦争より昔から使われている鉄砲って事しか僕は知らない。
鉄砲に詳しい大人が前の巡察の時に話してくれた事を思い出した。
(使ってる弾が拳銃の弾だからアサルトライフルって呼ばないんだっけ?あれ?でも大人が持ってるあの小さいのは拳銃の弾を使ってるけどハンドガンって呼んでるよね?)
僕は鉄砲の種類の多さに頭を悩ませる。
(自警団でお仕事初めて2年経つけど普段使ってない鉄砲の事はあんまり覚えてないな~)
何の気なしにそう思った。
「おはようエルリック、よく眠れたかな?」
不意に前の座席から僕を呼ぶ声が聞こえた。