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他人からの言葉を真剣に検討するのは賢い

「魔王様も、こうも抵抗できずに嬲っていては成果が無く面白くない、とおっしゃっておられる! と言うことで、難易度を大きく下げるぞ!」

「待ってました!」


 そうですよね、四方八方から石をぶつけてくるのを見て楽しいのは一時だけですよね!

 育成ゲームするんなら、それなりに成果ないと面白くないですよね!


 びくびくしながら中庭に呼ばれた俺は、ギュウキ様の方針転換に安心していた。

 少なくとも、あんなにハードルを上げられた場合、まず強くなるも何もない。

 俺が痛い思いをして、嫌な思いをして、戦うのが怖くなるだけである。


「儂が石を投げるので、尻尾ではじけ。その間に呪文を唱えて反撃せよ」

「分かりました!」


 良かった、常識の範疇に難易度が下がった!

 袋叩きから大きく前進して、希望が見えてきた!

 これなら被弾をゼロに抑えられそうだ!


「そうさな……獄炎の魔法などどうだ?」

「分かりました! 頑張ります!」

「ガハハハ! 良し、その意気だ!」


 目の前にギュウキ様が一人いて、中々大きい石を持っている。いつものようにそれを俺に向かって投げる構えだ。

 嫌ないつものようにだが、何とか達成して見せる! 問題ない、獄炎の魔法は、振り付けも呪文もばっちり覚えている!


「『我が体に刻まれし刻印よ、記されしままに在るべし』」


 振付を決めながら尻尾を動かす。

 重要なのは振り付けと呪文、それを正しくこなすこと!

 そして、尻尾と意識は常に前方へ向ける!


「『焼き、焦がし、燃やし、呪うべ』しゃああああ?!」

「ほれほれ、いくぞ!」


 やっぱ無理があるってこれ!

 先日の集団リンチほどじゃあないけども、呪文を唱えることはともかく、踊りながらは無理だ!

 だって、どう考えても視線が変わるし! 隙だらけの瞬間ができるし!

 っていうか、踊りの振り付けをギュウキ様も知っているから、そのタイミングで攻撃してくるし!


「どうした、そんなことでは勇者たちに勝てんぞ!」

「ぐぅうう!」


 このままでは駄目だ……何とか打開しなければならない。

 そうだ、逆に考えよう! 俺の振り付けをギュウキ様が知っていてそのタイミングに仕掛けてくるということは、俺もそのタイミングがわかるということだ!


「『我が体に刻まれし刻印よ、記されしままに在るべし』」


「『焼き、焦がし、燃やし、呪うべ……』」


 此処だああ!

 俺は視線を逸らすタイミングで、尻尾を大振りして着弾時の軌道を全て埋める!

 これでギュウキ様も手が出せまい!


「『……し。呼び招くは罪を焼くほの』おおお!?」

「ガハハハ! 甘いぞ!」


 駄目だった。一度攻撃を防げたことで慢心して、見えていたのに弾けなかった!

 というかこっちが防御するタイミングで攻撃してこなかったので、アレっと思ってしまった!

 完全に虚を突かれた! 不意打ちされた!

 顔面にいいのが当たった! 一瞬意識が遠のいた!


「うむ、良く受けようと工夫したな。だが、まだ甘い。そうご丁寧に、お前の動きの隙だけを狙うと思うな! お前の心の隙をこそ、その尻尾から読み取って狙ってくるぞ!」


 凄い的確な助言だ……でもやっぱりハイレベルな気がする。

 回復していく顔を抑えながら、涙目でギュウキ様を見る。

 相変わらず豪快に笑っているが、なんか豪傑すぎて価値観の相違が隠せない。

 まあ確かに、ギュウキ様のおっしゃる通りで、こういう攻撃に対処できないと意味が無いのだけども!


「さあ、続けるぞ!」


 続行かどうか、意思の確認もしないし!


「『我が体に刻まれし刻印よ、記されしままに在るべし』」

「『焼き、焦がし、燃やし、呪うべし』!」

「『呼び招くは罪を焼くほの』おおお!」

「『お……魂を清める、裁きの黒炎な』りはああああ?!」


「そらそら、その一瞬が命取りだぞ!」


「『我が体に刻まれし刻印よ、記されしままに在るべし』」

「『焼き、焦がし、燃やし、呪うべし』」

「『呼び招くは罪を焼く炎、魂を清める裁きの黒炎なり』」

「『現世に出でて愚者たち』にはああああああ!」


「そらそら、隙だらけだぞ!」


「『我が』ああああ?!」


「最初だからと油断するな!」



 魔王城では外が見えない。外が見えないので、場内の明かりが全て。

 日夜などわからず、故に時間の感覚もマヒしていた。

 一体どれだけ踊っただろうか。一体どれだけ呪文を唱えただろうか。

 一体どれだけ……石を喰らい続けてきただろうか。


「『我が体に刻まれし刻印よ、記されしままに在るべし』」


 段々タイミングがつかめてきた。そう、俺には二つの隙がある。

 一つは動作で生じる隙、もう一つは慢心する心の隙。


「『焼き、焦がし、燃やし、呪うべし』」


 その二つがどの時点で生じるのか、俺は体で覚えていった。

 それはつまり、隙を客観視できるようになったという事。


「『呼び招くは罪を焼く炎、魂を清める裁きの黒炎なり』」


 既に踊りも呪文も、呼吸するようにこなすことができていた。

 一つの動作をすれば、自然と次の動作に移行することができている。


「『現世に出でて愚者を捕えよ、永劫の監獄につなぐべし』」


 数度石が飛んでくるが、分かる。これは撃ち落とされると分かった上で、それでも確認するかのように投げてきているだけなのだと。

 そう、俺は既にこの呪文をマスターしていた……。

 もはや、真正面から石を投げてきたところで、この魔法を妨害することはできない!


「『ヘルフレイム』」


 突き出した俺の手の先から、黒い炎がほとばしる。

 その熱量たるや、中庭に転がっていた剣や槍の木の部分が発火するほどだった。

 直接触れずに、ただその高熱だけで万物を焼き尽くすかと言う黒い炎。

 それが収まったとき、俺は眼をむいていた。目の前にいたのは黒い炎に焼かれながらも踏みとどまり、服やら髭やらがチリチリになっている、アフロになったおっさんだった。

 ギュウキ様は、おそらく避けることもできたであろうに、俺の魔法を体で受け止めてくれていたのだ。


「おおう……大した威力ではないか、コトワリよ!」

「ギュウキ様……!」


 ギュウキ様の背後の石の壁は、高熱によって溶解し、更にその周辺を燃え上がらせていた。

 既にセラエノ様が鎮火、修復作業に当たっているが、そんなことはどうでもいい。

 俺はようやく、初めて、攻撃呪文を唱えることに成功したのだ! 練習中に!


「いやあ、このギュウキも危うく魔王様の下を離れるところでございましたなあ! これはもう、勇者共など恐れるに足りないのでは?」

「うむ、見事である!」


 魔王様も俺の成功を喜んでくれていた。

 なんかさっきまでリンチというか魔王様公認の拷問が執り行われていたが、そんなことが気にならないほど、魔王様からのお褒めの言葉が嬉しかった。

 自然と膝を付き、礼をとってしまう。なんという、あふれ出るカリスマか!

 元をただすと何もかもこの人が原因なのに、全然気にならないぞ!


「よもや、初日でこなすとは……この魔王、嬉しく思うぞ?」

「ギュウキ様の御指導と、魔王様から賜ったこの尾のおかげでございます!」

「嬉しいことを言うではないか……良い良い……褒めてつかわす」


 歓喜の余り、涙を流していた。

 客観視すると、DVされてる子供の構図だが、人類史的にはよくあることだから仕方ないのかもしれない。

 とにかく、俺は魔王様に多少気に入られたのだ。こんな嬉しい話は無い。

 なにせ魔王様に飽きられたら、それで人生終了だしな!


「ではギュウキよ……続けるが良い」

「ガハハハ! お任せあれ、魔王様! さあ、どんどん行くぞ、コトワリよ!」

「え」

「修練は一日にしてならず! 今の感覚を忘れぬうちに、特訓だ!」


 そうだよね……そりゃあ一回上手くいったぐらいじゃあ、特訓は終わらないよね。



 どうにも、この世界で俺がどれだけ長く過ごしても、元の世界では全く時間は経過していないらしい。

 イメージとしては、俺がいない間ずっと向こうの世界の時間が止まっているのだろう。

 あるいは、俺がこちらに召喚されたタイミングへ時間旅行しているのかもしれない。

 つまり、仮に俺がこっちで十年とか過ごしたら、その分俺がおっさんになって、向こうでは違和感バリバリになるわけだ。

 まあ、そんなこと言い出したら、そもそも尻尾が生えたり耳なし芳一になってる時点で、親が泣くとは思うのだが。


「さあ、今日も勝負よ!」

「はい……それでは、その……今日はトランプと言うカードをお持ちしました」

「……え?」


 何やら、妙に傷だらけの手で俺に指さしている、ウイ姫様。

 俺は今日の為に態々トランプを持ってきたのだが、どうやら彼女は先日の続きをご所望だったようだ。

 俺としては、彼女に肉体的なハンデを意識しないで遊べるゲームを提案したかったのだが……。


「あ、じゃあ今日も的当てをしましょうか」

「いいわよ! 逃げたみたいじゃないの!」


 すげえムキになってゲーム続行の意思を見せるウイ姫様。

 負けず嫌いなのはいいことだが、どうなんだろうか。


ウイ

魔王の娘

友達募集中

好感度 20パーセント

期待値 40パーセント



「で、どういう遊びなのかしら?!」

「カードゲームですよ。このカードがあれば多くの遊びができますが、最初ですし分かりやすく、はっきりと勝敗のつくゲームにしましょう」


 簡単なゲーム、とは言わない。

 難しいゲームをしようと言っても、ぶっちゃけ俺もわからないし説明できないしな。

 七並べやババ抜きジジ抜きを二人でしても仕方がないし、神経衰弱で勝負といこう。


「とまあ、絵合わせですね」

「……ねえ、一応聞くけど、貴方その解析の力で絵をわかったりしないわよね?」


 意外な着眼点だった。

 確かに、俺の解析が人ではなく物にも及ぶとすればそれは確かに可能で、こうしたカードゲームだと勝ちたい放題だ。

 特に神経衰弱なんて、ゲームにならないしな。一人で一方的に取れるし。

 何が問題かって、俺の能力が今現在無機物に及ばないのは、俺の自己申告以外に証明も何もできないということだった。


「あ~~、考えたこともなかったですね」

「そうなの? こう、伝説の武器とか、そう言うのは分からないの?」

「俺の能力って、基本的に『対人』でして……」


 その辺り、俺の性格が色濃く反映されていると思われる。

 俺は物の価値を計ることよりも、人の価値や性質を計りたがるからだ。

 鑑定ではなく、解析。つまり、俺の性格が反映されたこの力は、少なくともこの時点では人しか計れない。


「……ねえ、チート能力って心の願望の現れよね?」

「ええ、そうですね」

「貴方、いつも人の顔色うかがって楽しいの?」


 ものすごい、人格否定だった。っていうか、この場合人生の否定に近いだろう。

 俺は他人の顔色を窺って生きている。それが間違っていると、楽しくないと言い切っていた。


「お母さまのお情けで生かされてる私が何を言っても、その、説得力がないと思うけど、その人生の何が楽しいの?」

「まあ、楽しくはないですね」


 多分、俺のクラスメイト達は全員、今頃人生の絶頂を迎えているだろう。

 自分こそ主人公、と思っている野郎もいる。

 自分が人のためになる、と思っている女生徒もいる。


 その一方で、俺が裏切ったことを不審に思っている生徒たちもいるだろう。

 佐鳥や瀬音辺りが、確実に怪しんでいるはずだ。

 いくらなんでも、他の男子生徒ならまだしも、『都理がなんの根拠もなく、魔王に従うわけがない』と信じてくれているに違いない。

 というか『俺主人公だ! 魔王が現れた! この人エロいし、この人に従っちゃえ!』という判断基準で動く男だとは、流石に思われてないと良いな。

 そこまで評価が低いと、流石に救われない。


「でもまあ……楽をするのが人生じゃないでしょう」

「でも、楽じゃない上に楽しくないじゃない」

「それは、まあ……」

「どうせなら、クラスメイトと一緒に戦うべきだったんじゃないの?」


 ううむ……中々深いことをおっしゃるな、このお姫様は。

 確かに、俺の能力自体が俺の性格の……俺の生き方の現れなんだろう。

 相手を一撃で殺す力があり、どんな攻撃を受けても防ぐ力があり、どんどんレベルアップする力があった。

 武器を生み出す力があり、魔法を高速で唱える力があり、失敗をやり直す力があった。

 そうした他の奴らのチートに対して、俺は解析と言う能力を得ている。

 俺は目の前の彼女の言うように、他人の顔色を窺って生きる道を選んでいるのだろう。


「……その、ごめんね、変なこと言って」

「いいんです。確かに、そうですね」


 勝ち目のない相手と、勝ち目のある相手を見極める。勝てない相手には尻尾を振る。

 それは野生の獣なら持っていなければならない、最低限の知恵だ。

 だが、それで、その先に人間としての幸せはあるのだろうか。

 要領よく、都合よく、他人の顔色ばかりを気にして生きる。

 それは……チートとは程遠いしんどい生き方だった。

 俺は、夢が無さすぎるのではないだろうか。


「その……お酒飲みましょう!」

「なんでですか?!」

「ギュウキが言ってたわ! 友人が落ち込んでいたら、お酒を奢るんだって!」

「お互い未成年じゃないですか! お酒、飲めないでしょう!」

「そ、それはそうかもしれないけど……でも、他に、慰める方法なんて……」


 知識の範囲が狭い! 適用される範囲が、彼女の望む友好範囲と重なっていない!

 情報源があの豪傑だけとか、魔王様はこのお姫様をどう育てたいのだろうか?!


「怒ってない? 困ってない? 嫌にならない?」

「もちろんですよ、ええ、本当です」


 しかし、確かにそうなのだろう。

 そこまで重く考えていなかったが、俺は魔王様に服従して、その先楽しいのだろうか。

 楽しくも無ければ楽でもなく、面白くもない日々。

 魔王様の御機嫌ばかりをうかがって、そのままなんとかやり過ごす。

 それで、俺の人生は良いのだろうか?

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[一言] 落ち込んでる男を女がなぐさめる方法といったらアレしかないでしょ?(ゲス顔)
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