大事なことを深く考えないのは愚か
国の中枢である大聖堂に、魔王の侵入を許したこと。
加えて、召喚に応じた三十人の勇者のうち、一名が魔王についたこと。
「そうか、勇者殿の中から裏切り者が……魔王の侵入を許すとは」
チェスメイト王国のオーバー王はその事実に打ちのめされていた。
本来、勇者召喚は禁じ手の一つだ。強大な力を持つ異世界の住人が、その力で多くの事を成し、その結果どれだけ世界が乱れたことか。
今回、皮肉にも魔王と言うぶつけるべき対象がいるからこそ、こうして踏み切ったのだが、それでも苦渋の決断だったのだ。
それというのも、正に今回のように、魔王に従うという可能性があるからに他ならない。
「いいや、元よりこちらの勝手な都合で呼びだして、戦えと頼んだ身だ……裏切ったなどとは口が裂けても言えまいな」
結局の所、チートと呼ばれる例外的な力を持つこと以外に何もわかっていない、異世界の住人の召喚。
心正しいものが呼びだされることもあるし、心悪しきものが呼びだされることもある。
のるかそるかの丁半博打、運否天賦の風任せ。
そして王の自覚するように、いきなり全く違う世界に呼び出され、戦えと言われて応じなかったとしてもそれはある意味当たり前の事である。
魔王に付いた彼の事をどうして咎めることができようか。
いきなり戦えと言ってきたのは、こちらも魔王も同じであろうに。
魔王を倒すまで返せぬというこの国と、更なる力を与えた上で帰還を許す魔王。果たしてどちらが好待遇なのだろうか。
「ともあれ……勇者殿達にはなんと詫びればいいのやら……強大な力をもつ魔王に挑ませるばかりか、あろうことか学友と戦わねばならぬ運命まで背負わせるとは……」
一国の王として、謁見の間に座する王はあり得ないほど弱弱しく、申し訳なさそうな顔をしていた。
王としてはまだ若いと言える彼を、勇者を代表して若竹が励ましていた。
「ちがいます、貴方が気にすることなんてありません!」
なんでお前が話すんだよ、とは思いつつも、謁見の間で並んでいる『勇者』達は黙っていた。
この状況で好き勝手に話しだしたら、それこそ悪印象を与えかねないからだ。
魔王を見て冷静さを取り戻した勇者たちは、王様に向かって無礼な態度を控えていた。
「王様、困っている人を裏切って、侵略してきた魔王に付く。そんな奴の事なんて弁護しなくていいんです! 一人が裏切ったんじゃない! 二十九人が残ったんです!」
「心強いな……ふふふ……」
これは日本人の一般的な価値観なのだが、『侵略』は悪であり『防衛』は正義である。
少なくとも、世界征服や世界統一を『正義』とすることは少ない。あるとすれば『野心』や『野望』だろう。
ましてや、魔王を名乗る輩があれだけ悪役をアピールしていれば尚の事だ。
場合によっては魔王にも一定の理がある、というパターンもないわけではない。
しかしあの魔王はこの世界を滅ぼす理由を『遊戯』と言い切っていた。つまり、実は人間サイドになにがしかの問題があって、と言うわけではないのだ。
これはもう安心して魔王を倒せるという物である。
「では改めて、勇者の皆には魔王を討つために力を蓄えて欲しい。そのために色々な道具を用意している……どうか、興味がわいた物に手を付けて欲しい」
「……いいんですか?」
「うむ、と言うのもだ、以前召喚された勇者たちも『自分の最も興味を持ったもの』や『自分が最強と思うもの』をチート能力として授かるのだ。魔法を好む者は全ての魔法を操り、剣を好む者は如何なる呪いの魔剣をも操るなど……実に多岐にわたるが本人には何となしにわかるという」
彼らがチート能力を授かっている。それはほぼ確実だ。
だが、まさかステータス画面を見て、それで把握できるというわけではない。
一つ一つ、興味を持つ物を片っ端から試していく。これが一番の近道なのだ。
もちろん、どういうチート能力なのか本人でも把握できないことはままあるのだが。
どういう条件で発動する能力なのか、それは本人でも把握できないのである。
「それから、城には以前の勇者の記録もある。それを確認することもできよう。こうして召喚して早々に申し訳ないが、一刻を争う事ゆえに……皆には期待をさせてもらう!」
※
「では、勇者の皆さまにチート能力の説明をさせていただきます」
金属鎧を着た老齢の騎士、おそらく相応の役職にあるであろう熟練の戦士が『チート能力』と口にするのは一種の滑稽さがあった。
というよりは、この状況そのものが一種滑稽だったのかもしれない。
中世ヨーロッパを思わせる石の城で、日本の学生服を着た生徒が並んで指導を受けていたのだから。
「元々、この世界では異世界より人や生物を招く魔法が研究されており、それによって貴方方の世界から人を召喚することができるようになりました。すると、異世界の住人は元居た世界では持っていなかった力を得ることが分かったのです。そして、彼らはそれを『チート能力』と呼ぶようになりました」
この世界に存在しない力であり、彼らが元居た世界にもない力であり、しかしこの世界に召喚されることで得られる力。それをチート能力と呼ぶ。
それは、学生の彼らにはむしろ説明の必要が無いものだった。
「種類は概ね六つあり……戦闘補助型、成長補正型、能力強化型、自己保存型、生産型、そして特殊能力型となっています」
老齢の騎士は、きびきびと説明をしていく。
一部の生徒は妙に現実的ではっきりしてきたのでやや白けているが、その一方で多くの生徒はその説明を聞くだけでもワクワクしているようだった。
「さしあたり……ここに人形を用意いたしました。どなたか、これを叩いてみたいという方はいらっしゃいますか」
「はい!」
「俺がやる!」
「いいだろ、俺が先だ!」
「はっはっは! ご安心ください、十人分ほど用意してありますので。武器もどうぞ、お好きなものを」
男子生徒の中から、率先して並べられた武器を持って人形の前に行った。
その人形は、本当に簡単な人形だった。壊れかけた鎧兜の中に木を通して、演習の的にする。その為だけの人形がずらりと並んでいた。
「うりゃあああ!」
もう我慢できないと、勝飛という男子が手に持った剣を大上段から不細工に振り下ろしていた。
流石に素人である、と言うことがまるわかりの一撃だった。それでも剣がいいのか兜や鎧が朽ちかけていたのか、その一撃で人形は袈裟切りに切断されていた。
それだけなら、誰もがさほど驚かなかっただろう。
驚くべきことに、彼は一度しか攻撃していないのに、鎧人形は五度も六度も切ったようにばらばらになっていたのだ。
「す、すげええ……」
振った本人が一番驚いていた。
勝飛は、一度斬るだけではなく何度も切り込もうと思っていた。
それがそのまま、同時に発動していたのである。
「お見事、これは『倍速』〈フラッシュフラッシュ〉と呼ばれるチートですな。一度の攻撃で複数回の攻撃となる、戦闘補助型に分類されるものです」
余りにもわかりやすい結果に、老騎士は拍手と共に断言していた。
一度しか剣を振っていないのに、何度も切ったという結果を得る。
これは他の能力ではありえないことだった。
「よし……おらああ!」
岡城という男子が我も続けと剣を振るっていた。
当然、鎧人形は脳天から真っ二つになっていた。
しかし、それどころか地面にまで振り抜かれ、そのまま大地に亀裂を走らせていた。
明らかに、攻撃力が尋常ではない。
「おお……!」
「ふむ……よろしければ、そこにある大きな岩を持ってくださいませんかな?」
自分の力で大地を割った。
その事実だけで打ち震えている岡城に、老騎士は確認のためだと中庭に転がされている大きい岩を示した。
どう見ても人間よりも大きく、岡城に限らず人間が持てる重さではない。
しかし、岡城は持てる、という確信があった。
自信満々でそれに近づいて、そのまま両手に力を籠める。
すると、硬い筈の岩に指が食い込んでいた。そのままゆっくりと持ち上がっていく。
「す、すげえええ!」
クラスメイトの多くが、目の前の光景に驚いていた。
正に、漫画の光景である。
「『怪力』〈パワープレイ〉……能力強化型のチートですな。極めて単純に腕力が上がる能力です」
ゲームでは良く見る、筋力強化。
それを実際に目にすれば、その衝撃はたまらない。
今までの退屈で平凡な日々から逸脱し、自分達は選ばれたものになったのだと、全員が理解していたのだ。
いいや、それは既に理解していた。体感していた、と言ってもいいだろう。
「お二人は既に理解している通り……能力は嗜好がそのまま反映されます。つまり、何度も攻撃できるものが強いと思っていれば戦闘補助型の『倍速』〈フラッシュフラッシュ〉を習得し、単純な筋力をこそ求める者には小細工のない能力強化型の『怪力』〈パワープレイ〉を習得することになります。ではその……」
「はいっ、勝飛です!」
「では勝飛殿……あの岩を持ってみてください」
大急ぎで近寄って、両手を回して顔を赤くしながら持ち上げようとして見る。
岡城は問題なく持ち上げていたそれは、当然のように持ち上がらなかった。
クラスメイトの失笑が漏れる中、早々に勝飛は諦める。
うん、無理だという判断だった。
「戦闘補助型は大抵、『攻撃』をする場合に能力が発動します。なので、攻撃ではなく単純に重いものを持ち上げたり、或いは走ったりするときには、ほぼ意味を持ちません」
試しに、と勝飛が走ってみる。
しかし、傍から見てもわかるように、明らかに今までと変わりが無いようだった。
『倍速』〈フラッシュフラッシュ〉は相手に複数回攻撃できるスキルではあるようだったが……高速移動ができるようになるわけではない様だった。
「ですが、その分攻撃に関しては能力強化型の方が強いとされています。一長一短であり、正しく理解してほしいところです。そして、チートには当然魔法に関する能力もあります。魔法に興味がおあり、と言う方は、あの者の指示に従って、図書館へどうぞ」
興味がそのままチートに反映される。
それを理解した生徒たちのうち、魔法に興味がある、という生徒たちは司書らしき女性の案内の下、中庭から出て行った。
「あの、すみません! 魔法や武器を使うこと以外でも、チートってあるんですよね?」
そう言って挙手したのは星という女生徒だった。
何か違うな、と思い剣をとることができず、しかし魔法もそこまで興味がわかなかった。
おそらく、自分のチートはそれではないと思ったのだろう。
「ええ、これではわからない、と言う方もいらっしゃるでしょう。特に、自己保存型の方にはね」
老騎士が、中庭の隅に並べられた机を手で示した。
そこには、僧侶らしき人物が数名並んで待機している。
「あそこには、弱い武器や薄めた毒などがあります。攻撃を無効化するチートや、状態異常を防ぐチートを確認したいという方はどうぞ」
自分に防御能力があるのか、実際に試してみよう。
それはそれで一種おっかないが、好奇心にはかなわない。
もしかしたら自分にはその能力が、という生徒たちはそちらへ歩いていく。
そして、恐る恐る自分の体に針などを刺していく。
「あれ……」
生酢という女生徒は、自分の体に針を刺して、その痛みを味わった。
その一方で、その痛みがすぐに引いたことも、確かに確認していた。
一部の生徒は回復魔法を受けているが、その一方で自分にはケガがあるのに、それがたちどころに治ったのだ。
「おや……『代謝』〈オートヒール〉ですね」
治療を担当していた僧侶の男性は、そのケガが治る様を見てそう確認していた。
「オート、ヒール……」
「ええ、貴女のお力はケガや毒などが高速で治る力、オートヒール。聞くところによれば、以前に召喚されたその力を持つ勇者様は、腕がちぎれても一瞬で修復されるほどだったとか」
余り嬉しくない情報だった。少なくとも、治るから腕がちぎれてもいい、という感性は彼女にはない。
しかし、能力がはっきりしたのは良い事だった。とりあえず、生酢は一安心である。
そう思っていると、背後でファンタジーな世界に似合わぬ破裂音が聞こえてきた。
「きゃああ?!」
「なんだなんだ?!」
少なくとも、魔法を習いに行った面々は誰も戻ってきていない。
にもかかわらず、なにか焦げ臭い煙が漂っていた。
「……ふん、こんなもんか」
あろうことか、鋼という生徒は手に拳銃を持っていた。オートマチックではなく、リボルバー式の拳銃だった。
ある意味、学生服の生徒が持っていてもありえなくはないが、しかしこの世界には似つかわしくない。
それを彼が日常的に携帯していたのなら、それは明らかに犯罪だ。だが、当然彼はそれを持って召喚されていたわけではない。
「……おお」
「ふん……銃を見るのは初めてか?」
同胞であるクラスメイト達は、彼が拳銃を持っていることに驚いていた。
それこそ、理解できる道具であるだけに、不思議でしょうがないようだった。
まして、初めて見る老齢の騎士は、数メートル先の鎧人形の兜を打ち抜いた拳銃に目を奪われていた。
「ええ、直に見るのは初めてです。そうですか、これが拳銃ですか」
む、とやや面白くなさそうな顔をする鋼。
実際、他の生徒たちもそういうチートなのか、と納得すれば自分の確認作業に戻っていくし、彼らに指導している現地の方々も理解したからか平常に戻っていった。
「銃を、拳銃を知ってるのか?」
「ええ、火薬を燃焼、爆発させて金属の鏃を筒の先から放つ、そういう道具だと聞いています」
思いのほか理解が深く、特に捕捉する要素が一切なかった。
もっと驚いてほしいのだが、誰も驚いていない。
「『錬成』〈フルメタル〉と呼ばれる生産型のチートですな。自分だけが使用できる特異な武器を生み出す力と聞いています」
「そうか……自分だけ?」
「ええ、他の方には使用できないとか」
それは、とてもがっくり来ることだった。
自分は大量に武器を生み出して、それを仲間に使わせたり、現地の人に配布したりと、そうしたことを考えていたのだが。
それは、能力上できないという。
「試しに、私にその拳銃を渡してくださいませんか? ええ、弾を抜いても構いませんが」
不承不承、確認のために拳銃を老騎士に渡す。
すると、自分の手を離れたその段階で霧のように消えていた。
「……!」
「ふむ……記録の通りですな」
「……前の記録だと、俺と同じ能力を持っている奴はどうしていた?」
「遠くから敵を狙える狙撃銃や連射の効く機関銃などを用いて、後方支援に徹していたとか。何分、『錬成』〈フルメタル〉では作れる武器に限界があり、他のチートに比べて連射速度などでは勝っていても、攻撃力では後れを取ったと聞いています」
「そうなのか……?」
「戦闘に特化したチートに比べては、どうしようもないでしょう」
実際、鋼は鎧人形の兜を打ち抜いていた。しかし、それだけだともいえる。
相手が人間なら十分だが、相手は魔物なのだ。仮に今の鋼が拳銃しか生みだせないならば、相手が象よりも強ければ殆ど意味を持たないだろう。
それよりなによりも、この世界にとって拳銃を使う勇者は珍しくもなんともないということが、少々不満だった。
「さて、特に興味がない、と言う方も残っていらっしゃるご様子」
チートの判明した鋼にだけ構うわけにはいかない。
老齢の騎士は、未だに動きかねている生徒たちに本を手にして話しかけていた。
即ち、今まで召喚されていた勇者の記録が記された本だった。
「中々試すわけにはいかない、そうした能力もございます。全ての勇者が自分の能力を明らかにしたというわけではありませんし、皆さまの能力が前例のないものかもしれません。ですが、焦ることは有りません。以前の勇者の冒険譚などを聞いて、どうか自分のチートを探ってみていただきたい」
通常の学問がそうであるように、前例の記録は大いに参考になる。
全てのチートが網羅されているわけではないが、それでも多くのチートが記録されている資料は、とても心強いものだった。
※
「さあ、魔法に興味がおありの皆さん、ここには魔法を習得するための書物が大量にございます。この世界で魔法を会得することは極めて単純、魔法の本を読むだけなのです」
司書風の男性が、厳かな歴史の詰まった図書館で生徒たちに説明を行っていた。
つまり、魔法を覚えるため、何をすればいいのかと言う説明である。
「ですが、ただ読み切ればそのまま習得できるものではありません。難しい魔法は読んでも理解できず、未熟な使い手では習得は困難とされています。ですが、成長補正型のチートの保持者の方は、そうした難しい呪文もあっさりと憶えることができると聞いております」
膨大な蔵書の中から、選び抜かれた多くの本。それは既に机に並べられ、多数の司書がその補佐をするべく待機していた。
「逆に、憶えるのが難しいからと言って気になさることは有りません。戦闘補助型や能力強化型の場合は、憶えることが難しい一方で、実際に使用する際には恩恵を得られます。どうか焦らずに習得しましょう」
司書たちがにこにこと笑う中で、生徒たちは魔法を覚えることができるという本をわいわいがやがやと選んでいく。
果たして自分は、どんな魔法を得るべきなのだろうか。
夢に描いていた魔法を習得するために、誰もが本を選ぶことに、選んだ本を読むことに熱中していた。
「この本は?」
「炎の弾丸を発射する魔法が覚えられます」
「回復魔法はどれですか?」
「こちらになります」
「一番難しいのは?」
「最大規模の攻撃魔法となりますと、こちらになります。ですが、成長補正型でも読破は容易ではありません」
「どれぐらい?」
「成長補正型の方が一切休まずに読み続けたとして、一年かかります」
そうして、その内に全員が本を読んでいくことになった。
成長補正型ではない一般の生徒は、それこそ『見たことのない文字だが読める』状況に興奮する以上に、『読めるけど難しくて理解できない』状況に悪戦苦闘していた。
その中で、二人の女生徒はペラペラとめくっていた。瀬音と、万という女生徒である。
この二人は、おそらく自分が成長補正型なのだろうと概ねを理解していた。
「ねえ万さん」
「なに、瀬音さん」
二人の生徒はするすると魔法を覚えながら、本から目をそらさずに話をしていた。
「私、不思議におもっていたことがあるの。なんで都君は私達を裏切ったのかしら」
「……魔王を見て、ビビってたからでしょう? 私にはそうとしか見えなかったけど」
「そうでしょうね……力をくれるとか、家に帰してくれるとか、そういうことを気にしているふうじゃなかったわね」
魔王に味方するメリットよりも、魔王に敵対するデメリットの方が彼には重要な様だった。
力が欲しくて心服するというよりは、勝ち目が無いと思って降伏しているようだった。
「普通、あのタイミングで降伏するかしら? 私達全員を裏切ってまで。少なくとも私は、都君がそこまで馬鹿だったとは思わないのよ……」
別に、この二人も常に周囲の状況をうかがっていたわけではない。
あの都が、どのタイミングであんなに怯えだしたかなど、一々把握していない。
「そうね……アレかしら、あの魔王が実はゲームのキャラで、彼だけ設定の強さを知っているとか?」
「それなら、都君以外も知ってそうだけど……」
この世界の事も良く知らない、自分達のチートもろくに知らない、そんな状況であんなことができるだろうか。
初対面の魔王に忠誠を誓い、かつクラスメイト全員を敵に回すような、そんな判断が。
「ループもののチートなのかもよ?」
「その割には慌ててたような……」
彼女達が知る『チート能力』には、ゲームのセーブやロードのようにやり直すことができる能力もある。
それがあるのなら、ある程度は納得もできる。
ただ、その場合自分達全員を裏切ったことには、それなりの根拠があるということになる。未来の事を知っている彼は、何を根拠に自分達を裏切ったのか?
「もしかして……私達全員、もう詰んでるのかもね」
そんな笑えない軽口を、瀬音は口にしていた。