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緊張感

本作を応援してくださりありがとうございます。


短いですが、お楽しみください。

 魔王のしもべ、都理。

 現在浪人中の彼であるが、異世界の友人ボール・マックスの召喚獣として奮闘する日々を送っていた。


 敵が人間ではなく強力なモンスターということで彼の気が滅入ることもなく、むしろ救われた後の世界で戦うという充実した日々を送っていた。


 彼は幸せだったのだが、ボール・マックスのほうはそうでもなかった。

 不機嫌そうな顔で理に近づく。


「なんかお前、俺より目立ってないか?」

「そんなことないだろ。忖度抜きに、お前の方が活躍しているだろ?」

「そんなのは当たり前だ。だけどそれはそれとしてお前の方が目立ってるって話をしてるんだよ」


 露骨にイラついた表情で見上げてくるボールに理はたじたじだった。


「俺だって昔は、大量の呪われた武具をフル活用してたもんだ。自分で言うのもなんだが、そりゃあもう派手で見栄えしたもんだ」

「もちろん知っている。俺だってお前と戦ったからな」

「お前が全部壊したんだよ!」

「うっ……ごめん」

「あんときは殺しあってたから今更あ~だこうだいう気はねえ。聖剣をゲットした分強くなったしな。けどよ……聖剣一本で戦うとどうしてもお前より地味になるんだよなあ」


 都理は魔王より賜った九つの尾と魔法を組み合わせ、なおかつチートであるステータス閲覧により相手の弱点や急所などを読み取りつつ立ち回っている。

 一方でボールは聖剣一本で戦っていた。聖剣が非常に強力なので後れは取らないのだが、絵面が単調になりがちというのは事実であろう。


「お前もうちょっと地味に戦えないか?」

「透過の尾とかを使えば行けるけども……負けたら怒るだろ?」

「当たり前だ!」

「それに俺ってお前の召喚獣なんだし……召喚獣が派手なのってある意味当たり前なんじゃないか?」

「そこを何とかしようって話だ。お前は俺の引き立て役になれ」

「酷いこと言うなあ……いいけど」


 尻尾をうねうねと動かしながら考える理。

 何気ない仕草だったのだが、ボールはそれに注視していた。


「お前さあ、それ狐の尻尾だよな? 九本だし」

「狐……ではないと思うぞ。九本だけど」

「もう狐でいいだろ。お前狐に変身して、俺を乗せて戦え。それでお前が引き立て役になる」

「え~~? やったことないから自信ないぞ」

「じゃあ練習しろよ! 絶対だからな、約束だからな!」


 一方的に約束を取り付けられて途方に暮れていた理だが、まあしょうがないかと受け入れて練習することにしたのだった。



 魔王の住まう地にて、ギュウキとセラエノに理は現状を説明していた。

 二人とも特に否定することなく応じている。


「もしもお前が魔王様の乗騎であったのなら、魔王様以外の者を背に乗せるなど許されざることだが……そういうわけでもないのだし、問題はなかろうよ」

「狐に変身すること自体も可能ですね、すでに体に焼き付けてありますよ」


(そんなどうでもいい魔法まで体に焼き付け済みなのか……)


 都理の体には魔法が焼き付けてある。

 呪文を唱えて踊れば、自動的に魔法が使えるようになっている。


 とはいえそのすべてを彼が把握しているわけではない。

 今までは有用な魔法の使い方を習っていただけである。

 今回は普通なら必要ではない魔法を教わろうとしたのだが、それすらも焼き付け済みだったので驚いていた。


「動物に変身する魔法というのはポピュラーですよ。他にも多くの動物へ変身する魔法を覚えてみますか?」

「いえ、結構です……」

「うむ、やめた方がいいだろう。なにせ骨格から変わるのだから歩き方を覚えるだけでも大変だぞ」


 セラエノとしてはいろいろ教えたかったようだが、ギュウキは消極的であった。


「ましてお前は人を乗せて戦うつもりなのだろう? 相手がひとかどの戦士とはいえ、迂闊に動けば互いの強さを殺しあうことになる。狐に変身するというのならそれに専念すべきだろう」

「で、では特訓ですか!?」


 都理の脳内には、今までの過酷な特訓がよぎった。

 乗り越えてきたことではあるし、成果も確実。

 つらく苦しいだろうが覚悟の上で相談していた。

 それでも怖いものは怖いので、声が震えている。


「特訓は必要だろうが、その前にまず四足歩行の練習をせねばな。とはいえ……」


 ギュウキは改めて理を観察する。

 狐に変身して特訓をすることに前向きではあるが、死に物狂いではない。


(半端なやる気で修行をしたとして……それで戦場に出たとして……もしものことがあれば誰も喜ぶまい)


 この修行へのモチベーションを上げなければならない。それには少々以上の荒療治が必要だった。


「少々特別な練習から始めるとしよう」



 四足歩行というのは非常に安定感があるのだが、二足歩行の人間がいきなり四足歩行の骨格に変化すれば歩行するのも難しくなる。骨格から異なる運動に脳が混乱する。

 集中力と緊張感をもって練習しなければ習得に膨大な時間を要するであろう。



 現在都理は、多大なる集中力と緊張感をもって練習に臨んでいた。


 現在彼は人間を乗せられるほど大きな狐に変身し、背中に鞍を取り付けて四足歩行をしていた。

 背中には『おもり』を乗せているが、そこまでの重量的負荷はない。

 しかし精神的にはとことん追い詰められていた。


『ギュウキのやつめに懇願されてみたが……これはこれで面白い。たどたどしい歩みを全身で感じるのう』


 現在彼は魔王を背中に乗せて歩いているのである。

 いうまでもなく、彼がこの世で最も恐れる相手であった。


「申し訳ありませぬ、魔王様。本来ならこれは最終段階に課すべき試練であり、たどたどしい歩みに魔王様をお付き合いさせることは心苦しいのです。しかし最初が肝心故……」

『長く仕えておるおぬしの頼みとあっては断れぬよ』


 揺れず、早く、まっすぐ進む。

 今までの特訓の中で一番簡単な訓練だったのだが、一番精神的につらかった。


 今までは失敗しても死んでもやり直すだけだったが、今回は失敗した場合死ぬ。

 殺されると明言されているわけではないが、それに近い処遇を受けかねない。


『どうしたコトワリ、震えておるぞ? よもや我を背に乗せて歩くということが気に食わぬか?』

「いえ! わが身に過ぎた幸福かと!」

『分かっているのなら好機を生かすことだ。この我に上達を実感させるなど稀であるしのう……』


 魔王は理に対して暴力をふるうことはなく、自ら重心を動かして落ちようともしない。しかしそれでもプレッシャーはすさまじい。

 彼女は面白がって、彼をからかっているのである。


『我は寛大であるが、相応に面子というものがある。我が大いに手を貸してやっているのに、何の成果も感じられないというのなら……なにか罰を与えねばならぬな』

「承知しております!」


 狐に変身した理は全身から汗を流しつつ、驚異的な速度で四足歩行に順応していくのであった。

 魔王は健気な部下の成長を、全身で感じ楽しんでいるのであった。


「私も協力しようかな~~」

(勘弁してください!)


 特訓を見学しているウイは自分もやりたがっていたが、理はその未来が訪れないことを全力で願うばかりであった。

本作コミカライズの最終七巻が各ストア様で販売が開始されております。自分の書き下ろし小説もありますので、どうぞお願いします。

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― 新着の感想 ―
血反吐と血尿と血涙が同時に出そうな緊張感ですね。
その…魔王様の偉大なお尻が背中に載っていると言う事を意識すると、最大の危機が訪れるはずだが、その心も多分魔王様に読まれているところ(そしてその辺りを明らかに楽しんでいるところ)が流石魔王(さすまお)。
必要な事しかしていないのに、パワハラにしかならん状況っちゅうのは、気の毒に過ぎる。
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