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平凡な生き恥の終わりと、終わっていない罪人の日々

 およそループものの物語で重要となるのは、どうやって悲劇的な結末を回避するか、であろう。

 どうすればいいのかを探って、何度もループを繰り返して、その度に心が倦んでいくのはよくあることだ。

 だが今回はそれがない、なにせ条件が明白だ。


 なんとかして十四人の生徒にやる気を出してもらって、協力して都理を倒す。それでループを脱出できる、目標も手段もわかりやすかった。


 そして十四人にやる気を出してもらう方法も、もうわかっている。

 ループを繰り返せる離島が自ら強くなって、説得力を得ればいい。


 一旦説得力を得れば、そこからは繰り返せばいいだけのこと。

 極論、『前回は惜しいところまでいったんだ、今回は絶対助かる!』とでも言って騙せば、他の生徒たちも騙されてくれるだろう。


 つまり、無理でも不可能でもなんでもない。

 ただ鍛えて強く成れば、それだけで理に勝てるのだ。

 それは奇跡でもなんでもなく……ただ困難なだけである。



 この世界において強くなる方法は、およそ四つである。

 そのうちの一つ、武器の強さについては、この城にあるものが最高位であるとされている。

 よって、1年A組の生徒たちは、他の三つによって強くなるのだ。


 一つはモンスターを倒して、自身のレベルを上げること。

 一つは精神的成長によって、チートのレベルを上げること。

 一つは座学によって、スキルや魔法を習得することである。


 離島来人のチートは最初から強力だが、成長の余地がない。

 ではモンスターを倒してレベル上げをするべきなのだろうが、これも難しい。


 一応ではあるが、離島も既に『巨獣の深森』での最大レベルに達している。

 これ以上レベルを上げるには、『不毛の荒野』に行かなければならない。

 それも、一人で。


 チュートリアルともいえる『練兵の平原』を越えて『巨獣の深森』に入ったことがある彼は、危険度が段違いに上がることを知っている。

 若竹たち十人と一緒に入るならともかく、離島一人で入るなど自殺に他ならない。


 死んでも経験値はため込まれるので、死ぬ前に一体でも倒すことができれば、少しずつでもレベルは上がっていく。

 だが一体も倒すことができないのなら、何度死んでも死に損である。


 それでもアクションゲームのプレイヤースキルめいた技量の向上は見込めるかもしれないが、それができると思うほど離島は愚かではなかった。


 であれば、普通に座学で魔法やスキルを習得するほかない。

 実質的に時間制限がないのだから、いくらでも習得可能である。

 強力なスキルや魔法を覚えれば、たった一人でも『不毛の荒野』へ挑戦できるだけの実力を得られる。


 つまりざっくり言って、十年ぐらい座学をして、十年ぐらい不毛の荒野で鍛えて、それから十四人の生徒を勧誘すればいい。

 言っては何だが、普通に達成可能である。何かの偶然や幸運、乱数を期待する必要はなく、ただ積み重ねればいいだけだ。


 それも、ただ勉強するだけである。

 誰かが邪魔をするわけじゃないし、誰かが強制してくるわけでもないし、仕事をしながらでもないし、家事をしながらでもない。年がら年中、徹夜で勉強する必要もない。適度に休憩や休日を挟みながら、好きなだけ学業に専念できる。


 つまりは……日本の学生と変わりない。


「……きつい」


 三回目のループが始まって、たった一月のことだった。

 離島はこの一か月、真面目に勉強していた。

 最初こそ夜遅くまで毎日勉強していたが、今では適度に休みながら勉強をしている。


 その上で、彼は既に音を上げていた。


「まだ一か月しかたってない……これから十年も、場合によっては二十年も頑張らないといけないのか……?」


 文章にしてしまえば『十年間真面目に勉強しました』の一行で終わる。

 なんのために勉強してるのかと悩む必要はなく、むしろ必要な魔法やスキルを習得するための勉強だけをしている。

 煩わしい人間関係に悩んでいるわけでもない。


 ただただ、勉強が辛い。

 今日も明日も明後日も、座学をし続けることが辛い。

 普通に、常識の範疇で辛い。地獄のような苦しみではなく、日常で経験しうる範囲での辛さだった。


 それにさえ、彼は耐えかねていた。


「……キツイ」


 蓄積していた鬱憤が、漏れ出ていた。

 ごく普通の人間である離島は、ごく普通の苦難に、ごく普通に屈していた。

 十年地獄に耐えるとか、十年拷問を受けるとかではない。十年勉強する、という普通の苦労に負けていた。


「なんで俺がこんなに頑張るんだ……!」


 ある意味で、彼は正気に戻っていた。

 そもそも彼は、本気で勉強したことがない。

 日本の高校生だった時の彼は、学生だったにも関わらず、真剣に勉強したことがほとんどない。

 それは他に楽しいことがあるのもさることながら、単純に勉強が辛いからである。


 彼の世界では、多くの人が勉強の苦しみに耐えていた。

 勉強の苦しみ、デスクワークでの苦しみに耐えられる者こそが、優れたものとされていた。


 いや、勉強の苦しみだけではない。

 芸術の苦しみ、運動の苦しみ、労働の苦しみ。

 いずれの苦しみも、等しく尊い。


 それに耐えられない者は、劣っているとされていた。


「……勉強しないと。休日は明後日だ、今日は勉強を頑張る日だ。だから、頑張らないといけないのに」


 千里の道も一歩から。だが決断しただけで、最後まで歩み切れるものではない。

 一歩一歩歩かねば、絶対にゴールにはたどり着けない。


 常識的に可能なことなのに、耐えられていない己の不甲斐なさに苦しむ。

 彼のよく知る物語の主人公なら耐えられることに、彼はまったく耐えられなかった。


 歩かなければ目的地に達せない、その当たり前に彼は直面していたのだ。 


「……ああ、もう嫌だ! 今日はもう寝る! 明日頑張ればいいんだ! どうせこんな心境で頑張ったっていいことない!」


 わめいてごまかすが、彼も自分で理解している。

 頑張らなくったってまったく問題ないが、それは先送りでしかない。

 結局、十年間分勉強しなければならない。


 さぼってもゴールは逃げないが、頑張らないと近づかない。


「明日頑張って……そうしたら明後日も頑張って……?」


 十年後は想像できない、だが今日一日は想像できる、明後日のことも想像できる。

 今のこの、頑張らない自分の、その連続に心がつぶれる。


「お、俺は……」


 頑張れば解決できるのに、頑張りたくないという理由で諦める。

 それは彼の価値観、基準に於いて底辺の発想である。


 己を駄目な人間であると認めるのは、思い上がっている者にとって、とても苦痛を伴うことだ。

 だがしかし、その苦痛は立派な人間になるための苦痛に比べれば、とても労力が小さい。


「ああ……」


 彼は自分の可能性を信じていた。

 やり直せば解決できると思っていた。

 努力すれば成果が出せると信じていた。


 だが努力できなかった。それが、彼自身のたどり着いた答えだ。


 これは彼だけが悪いわけではない。

 およそループ系の物語において、ループを抜けるために努力をするのは、せざるを得ない理由があるから。


 それは二通りある。一つは自分以外の大切な誰かを救うため、もう一つは脱出しなければ死に続けるため。

 悲しいことに、彼にはその両方が欠けていた。


「……」


 死ねば楽になれる。

 明日も明後日も、続いていく自分への失望を終えられる。


 自殺すれば、ループを終えられる。


「……」


 彼は、普通の人間だった。

 嫌なことに耐えられなくて、死に逃げる。

 そんなありふれた判断をせざるを得ない、どうしようもない普通の学生だった。


「もういいや」


 彼が真に主人公ならば、他の誰かが助けてくれる、止めてくれる。


 だが彼は、主人公になれなかった。



 長い二年だった。

 日本に戻った都理は、達成感の虚無に浸っていた。


 人生で初めて死に物狂いになった、何度も屈しかけた二年に浸っていた。


 ろくでもない二年だった。思い出すだけで息が荒くなる、最悪の二年間だった。


 だが終わっていた。

 神の視点を持つ魔王曰く、離島は三回目のループで自決したとのことだった。


 まあそうだろうなと、彼は納得していた。

 よほどの異常者でもない限り、何も大事なものがない状況で、真面目に頑張り続けるなどできない。

 両親やウイがいたから、乗り越えることができた二年だったのだ。


 何度も屈しかけた、屈しても不思議ではなかった。

 それでも、支えてもらえたから。


「……物語の主人公だって、支えてもらえないと頑張れない。ましてや俺達にはな」


 死にたくないという理由だけでは、人は頑張れない。

 彼自身こそが、嫌という程知っていることだった。


「……久しぶりに、ゲームでも買おうかな」


 苦難を乗り越えた者だけが得られる、立派な大人が知っている、充実した達成感の中。

 ようやく余裕をもって周囲を見れるようになった都理。


 周囲が受験勉強や進路で騒いでいる中、一足先に楽になっている彼。

 彼自身の受験が終わったわけではないのだが、それでも心は楽だった。


 あれだけの苦難を乗り越えたのだ、もう何も怖くない。

 どんなに辛いことがあっても、きっと乗り越えられる。


 そう信じていた彼は、教室の中でホームルームが始まるのを待っていた。

 二十九人を殺すことで取り戻した平穏を満喫する彼は、教室にいる騒がしいクラスメイト達を眺めている。


「……みんな、席に着きなさい」


 そう思っている理の前に、緊張した顔の教師が入ってきた。

 理はチート能力によって状況が深刻であることだけは察していたが、聡い生徒たちも気付いていた。


「……早く席に着くんだ!」


 努めて冷静であろうとして。

 その言葉を体現する担任教師は、受験を控えている生徒たちへ深刻なことを伝えようとしていた。


円木(つぶらき)全威(ぜんい)という生徒が、入院していたことは皆が知るところだろう」


 思いもよらぬ名前を聞いて、理は目を見開いた。

 善意を掲げて醜悪に振舞い、周囲の正義によって断罪された生徒。

 その名前を、深刻な教師から聞くとは思っていなかった。


「……彼が、病院のベッドで、殺されていた。死んでいたのではなく、殺害されていたそうだ」


 緩衝の余地がない、余りにも残酷な『現実』がそこにあった。

 確かにありえないことではないが、そうそうないことだった。


 衝撃の極みのような言葉を聞いて、生徒たちは言葉を失っていた。

 このクラスの中には、二年生だった時に理や全威と同じクラスだった生徒もいた。

 その彼らとて、全威が死んで欲しいなどと思っていなかった。


 いや、思っている者がいたとしても、実際に殺されれば安堵するなどありえなかった。


 円木全威は確かに害悪だったが、既に襲撃されて、人生が変わるほどの後遺症を受けている。

 その時点で彼への憎悪は晴れており、それ以上罰することは誰も望んでいなかった。


 これ以上はやり過ぎだと、誰もが思っていたのだ。


「だ、だが、その……それだけではない」


 担任教師は、受験前だという大事な次期の生徒たちへ、それどころではないと、緊急事態の到来を伝えていた。


「……当校の一年生や二年生、卒業生も数人、暴行を受けて入院している。意識は、戻っていないそうだ」


 何がどうなっているのか、やはり誰も説明できない。それこそ、一年A組の生徒が一名を除いて失踪したときと同じように、突如として訪れた異常への困惑があった。

 だが不可解ではない、明かに犯人がいる。それも、悪意に満ちた誰かだ。


「そのことについて、緊急の学校集会を開く。皆、直ぐに体育館に向かってくれ」


 行方不明ではない、確実な被害者の居る暴行事件。

 この学校の人間が、どこかの誰かに狙われている。


 日常へと回帰していた理は、他の生徒たちと同じようにおびえることしかできなかった。



 校長と教頭。

 学校の最高責任者であり、学校に関わる多くのことへ責任をもって対応をする立場である。

 権限が強い分責任の重い役職であり、就任するにあたって多くの覚悟を決めることが求められるだろう。


 だがまさか、こんな状況を想定しているものなどそういないだろう。

 一年A組が失踪した事件も含めて、想定外の凶事が短期間で連続し過ぎていた。


 校長や教頭がどれだけ有能だったとしても、回避できる事態ではない。

 責任問題を問う声もあるだろうが、対策を立てる余地などなかっただろう。


 仮に未来が分かっていたとしても、どうしようもなかったはずだ。


 だがそんな泣き言に逃げるほど、この学校の校長と教頭は凡愚ではなかった。

 校長や教頭という役職の限界を超えた状況だったとしても、最後まで職務を全うする覚悟だった。


 この二人は警察から知らされた情報を校長室で精査していた。


「登下校中に襲われた生徒たちは、背中を日本刀のような刃物で斬られ……今も意識不明」

「入院していた円木君は、夜中に殺された。それも、分厚い刃物で、頭部を横に切断されていた……」


 登下校中に襲われた生徒はともかく、円木についてはどんなド素人でもわかる異常な殺害方法だった。

 人間の頭といえば、もっとも頑丈な部位である。金づちで砕くならともかく、切断するなど工作機械でも使わなければ不可能だ。

 それを病院で行えるわけもなく……。


「痛ましいことだ。保護者の気持ちを考えると、胸が痛む……」

「ええ、おっしゃる通りです」


 だがそれは、警察が悩むべきことだった。

 この二人にとって重要なことは、どうやって殺されたかではなく、誰が殺されたかであろう。


「今更、私たちの老後などどうでもいい……暮らしぶりが少し変わるだけのことだからな。だが……亡くなった生徒とその親族については……人生に大きな影を……」

「……どこの誰かは知りませんが、許されないことです。次の犠牲者が出るよりも早く、捕まえていただきたいですな」

「それは、警察に任せましょう。私たちにできることは、協力することだけで……?」


 がちゃりと、ノックもなく校長室のドアが開いた。

 密室トリックもへったくれもなく、手に凶器を持った『何者か』が侵入してくる。


「……な?」

「……は?」


 見たこともない誰かだった。

 その誰かは、いびつな刃物を振りかぶって……。



 全校集会の直前に、校長と教頭が暴行を受けた。

 鋭利ではない刃物、いびつな『切れない刃物』で斬られた二人は、生徒たち同様に意識を失ったまま救急車によって搬送された。


 不幸中の幸い、というべきだろう。

 既に体育館へ集められていた生徒たちは、そのまま速やかに帰宅することになった。

 こうなれば受験だとか部活だとかではない、生命の危機である。

 残された教員たちは、警察の指示の下生徒たちを家に帰した。


 もちろん、保護者に迎えに来させたうえで、である。

 都は慌てて迎えに来た自分の母と一緒に、大急ぎで帰宅した。

 普段は使わないタクシーを使っての、怯えながらの下校だった。

 もはや避難という他ない。


「こ、理……お父さんも帰ってくるっていうから、それまでは家の外に出ちゃダメよ? いえ、家のドアを開けても駄目!」

「……わかってるよ、母さん」

「ああもう……警察の人も、家に帰った方がいいだなんて……パトロールを厳重にするって言ってたけど……当てにできないわ……!」


 危機感を持っている母親に対して、理は少し冷えた目をしていた。

 それは母のことを軽蔑しているわけではなく、彼自身が頭を冷やしているだけのことだった。


「母さん、しばらく一緒に居よう。俺も、その、怖くてさ。一人の部屋にいたくないんだ」

「ええ、そうね! しばらくの間はトイレにも行っちゃだめよ!」


 母親は最大に警戒している。

 最大に警戒して尚、夫を呼ぶとか、警察に文句を言うとか、家にカギをかけるとか、ドアを開けないとか、そんなことしかできなかった。

 白昼堂々学校に入り込んで凶行に及ぶ殺人鬼には、余りにも無力である。


「うん……母さんもね」


 その一方で、理は警戒するどころではなかった。

 憎悪というまどろっこしい私情などなく、確固たる迎撃の意思を固めていた。

 もしも可能なら、自分の父親に対してもなにがしかの保護策を打つところだった。


(殺す)


 葛藤の余地がないことだった。

 無差別であれ理由があるのであれ、自分の家族へ危害を加えるものに対しては『ハードル』がなかった。

 彼は倫理観との葛藤を経ることなく、自分の暴力を振るう気だった。


 異世界で殺しあわされたとかではなく、証拠の残る過剰防衛を行う気だった。

 それが原因で如何なる罰を受けたとしても、それによって将来を失うとしても、まったく問題に感じなかった。

 燃え盛る闘志などない、自分の前に凶行を行うものが現れれば、事務的に殺すつもりだった。


 そんな彼と母のもとへ、父親が慌てて帰ってくる。

 慌てて帰宅した一方で、手にはレトルトの食材やペットボトルがあった。


 彼も彼なりの最善として、籠城策を行うつもりだったのだろう。

 それがどの程度の意味を持つのかわからないが、彼はできることを尽くしていた。


 だがやはり、現実からすれば儚い抵抗だった。


 犯人が捕まるとか証拠が残らないとか、そういう『必然の結末』など些細だ。

 犯人が捕まろうが地獄に落ちようが、家族が死ぬことに比べれば大したことではない。


(俺も、最善を尽くす……やるべきことをやる……可能なら殺す……!)


 家族が死ぬかもしれない、というのは理にとって十分にあり得ることだ。

 ありえることだからこそ、全力で回避しようとする。


 完全犯罪を成した後、まったくどうでもいいことで大罪を成すことになるとしても。



 その夜のことであった。

 都一家は居間に集まり、全員で就寝した。

 全員まとめて殺される、という可能性があるが、それに対しては理自身が抵抗するつもりだった。


 だがそれはそれとして、理は己の尾である傀儡の尾を放った。

 最初は蚤に変化させ、小さな隙間から家の外に出した。その後はコウモリに変身させ、空を行かせる。

 この日本でも、コウモリぐらいは棲息している。一匹飛んでいるだけなら、さほど問題でもなかった。

 あとはそのコウモリを、警察病院に飛ばせばいい。


 理は状況を詳しく理解していないが、警察病院の存在は知っていたため、その住所をざっと調べて、そこへ向かわせたのである。


 流石は警察病院、警戒は厳重だった。だが人間相手へ警戒しているだけのこと、虫や小動物にはどんなセンサーも意味を持たなかった。

 建物さえ特定できていれば、捜索に時間はかからない。さほど焦ることもなく、理の尾は襲撃された者たちを探し始めた。


 理は決して、正義の味方ではない。

 最高レベルのステータス閲覧を用いれば、あらゆる悪を見破ることさえできる。

 だがそんなことをする気はない、そこまで図太く、図々しい精神になることはない。


 だが自分や家族に危害が加わるとなれば話が別だ。

 犯人の標的を確認するためなら、ためらわない。


 自分の大事なものを守るために、ズルがどうとか言っている場合ではない。


(……ん?)


 収容されている患者本人を見るより先に、おかしなことに気付いたのである。


(若竹……岡城……日野……?!)


 自宅の居間で、両親と一緒に寝ている理は、思わず叫びかけた。


(こいつら……一年A組の生徒の、兄弟だ)


 因果が、めぐってきたような、そんな感覚だった。

 本来なら自分を糾弾していい遺族たちが、警察病院のベッドで、被害者として並んでいるのだ。


(あいつらの兄弟が……なんで?! 俺ならともかく、あいつらの兄弟が狙われる理由なんてあるか? いや、それに……どう考えても、円木は無関係……それに校長と教頭も、更に無関係だ)


 教頭や校長、殺された円木。この三人以外は、全員が一年A組の兄弟であった。

 まさか別の犯人がそれぞれ襲撃したのか、とも思わないでもなかった。

 だがしかし、強烈なほどの先入観を覚えずにいられなかった。


(円木と校長、教頭……それからあいつらの兄弟を襲撃する……そんなことをする理由のある奴が、この世界にいるのか? いや、どこの世界にもいないはずだ……どうなってる?)


 混乱する一方で、理は戦慄せざるを得なかった。


 一年A組に関わっている者が襲われたというのなら、自分もその家族も、その標的になりうるのだから。


(非日常が、また始まったのか……いや、終わっていなかったのか……!)

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