平凡な生き恥の終わりと、終わっていない罪人の日々
およそループものの物語で重要となるのは、どうやって悲劇的な結末を回避するか、であろう。
どうすればいいのかを探って、何度もループを繰り返して、その度に心が倦んでいくのはよくあることだ。
だが今回はそれがない、なにせ条件が明白だ。
なんとかして十四人の生徒にやる気を出してもらって、協力して都理を倒す。それでループを脱出できる、目標も手段もわかりやすかった。
そして十四人にやる気を出してもらう方法も、もうわかっている。
ループを繰り返せる離島が自ら強くなって、説得力を得ればいい。
一旦説得力を得れば、そこからは繰り返せばいいだけのこと。
極論、『前回は惜しいところまでいったんだ、今回は絶対助かる!』とでも言って騙せば、他の生徒たちも騙されてくれるだろう。
つまり、無理でも不可能でもなんでもない。
ただ鍛えて強く成れば、それだけで理に勝てるのだ。
それは奇跡でもなんでもなく……ただ困難なだけである。
※
この世界において強くなる方法は、およそ四つである。
そのうちの一つ、武器の強さについては、この城にあるものが最高位であるとされている。
よって、1年A組の生徒たちは、他の三つによって強くなるのだ。
一つはモンスターを倒して、自身のレベルを上げること。
一つは精神的成長によって、チートのレベルを上げること。
一つは座学によって、スキルや魔法を習得することである。
離島来人のチートは最初から強力だが、成長の余地がない。
ではモンスターを倒してレベル上げをするべきなのだろうが、これも難しい。
一応ではあるが、離島も既に『巨獣の深森』での最大レベルに達している。
これ以上レベルを上げるには、『不毛の荒野』に行かなければならない。
それも、一人で。
チュートリアルともいえる『練兵の平原』を越えて『巨獣の深森』に入ったことがある彼は、危険度が段違いに上がることを知っている。
若竹たち十人と一緒に入るならともかく、離島一人で入るなど自殺に他ならない。
死んでも経験値はため込まれるので、死ぬ前に一体でも倒すことができれば、少しずつでもレベルは上がっていく。
だが一体も倒すことができないのなら、何度死んでも死に損である。
それでもアクションゲームのプレイヤースキルめいた技量の向上は見込めるかもしれないが、それができると思うほど離島は愚かではなかった。
であれば、普通に座学で魔法やスキルを習得するほかない。
実質的に時間制限がないのだから、いくらでも習得可能である。
強力なスキルや魔法を覚えれば、たった一人でも『不毛の荒野』へ挑戦できるだけの実力を得られる。
つまりざっくり言って、十年ぐらい座学をして、十年ぐらい不毛の荒野で鍛えて、それから十四人の生徒を勧誘すればいい。
言っては何だが、普通に達成可能である。何かの偶然や幸運、乱数を期待する必要はなく、ただ積み重ねればいいだけだ。
それも、ただ勉強するだけである。
誰かが邪魔をするわけじゃないし、誰かが強制してくるわけでもないし、仕事をしながらでもないし、家事をしながらでもない。年がら年中、徹夜で勉強する必要もない。適度に休憩や休日を挟みながら、好きなだけ学業に専念できる。
つまりは……日本の学生と変わりない。
「……きつい」
三回目のループが始まって、たった一月のことだった。
離島はこの一か月、真面目に勉強していた。
最初こそ夜遅くまで毎日勉強していたが、今では適度に休みながら勉強をしている。
その上で、彼は既に音を上げていた。
「まだ一か月しかたってない……これから十年も、場合によっては二十年も頑張らないといけないのか……?」
文章にしてしまえば『十年間真面目に勉強しました』の一行で終わる。
なんのために勉強してるのかと悩む必要はなく、むしろ必要な魔法やスキルを習得するための勉強だけをしている。
煩わしい人間関係に悩んでいるわけでもない。
ただただ、勉強が辛い。
今日も明日も明後日も、座学をし続けることが辛い。
普通に、常識の範疇で辛い。地獄のような苦しみではなく、日常で経験しうる範囲での辛さだった。
それにさえ、彼は耐えかねていた。
「……キツイ」
蓄積していた鬱憤が、漏れ出ていた。
ごく普通の人間である離島は、ごく普通の苦難に、ごく普通に屈していた。
十年地獄に耐えるとか、十年拷問を受けるとかではない。十年勉強する、という普通の苦労に負けていた。
「なんで俺がこんなに頑張るんだ……!」
ある意味で、彼は正気に戻っていた。
そもそも彼は、本気で勉強したことがない。
日本の高校生だった時の彼は、学生だったにも関わらず、真剣に勉強したことがほとんどない。
それは他に楽しいことがあるのもさることながら、単純に勉強が辛いからである。
彼の世界では、多くの人が勉強の苦しみに耐えていた。
勉強の苦しみ、デスクワークでの苦しみに耐えられる者こそが、優れたものとされていた。
いや、勉強の苦しみだけではない。
芸術の苦しみ、運動の苦しみ、労働の苦しみ。
いずれの苦しみも、等しく尊い。
それに耐えられない者は、劣っているとされていた。
「……勉強しないと。休日は明後日だ、今日は勉強を頑張る日だ。だから、頑張らないといけないのに」
千里の道も一歩から。だが決断しただけで、最後まで歩み切れるものではない。
一歩一歩歩かねば、絶対にゴールにはたどり着けない。
常識的に可能なことなのに、耐えられていない己の不甲斐なさに苦しむ。
彼のよく知る物語の主人公なら耐えられることに、彼はまったく耐えられなかった。
歩かなければ目的地に達せない、その当たり前に彼は直面していたのだ。
「……ああ、もう嫌だ! 今日はもう寝る! 明日頑張ればいいんだ! どうせこんな心境で頑張ったっていいことない!」
わめいてごまかすが、彼も自分で理解している。
頑張らなくったってまったく問題ないが、それは先送りでしかない。
結局、十年間分勉強しなければならない。
さぼってもゴールは逃げないが、頑張らないと近づかない。
「明日頑張って……そうしたら明後日も頑張って……?」
十年後は想像できない、だが今日一日は想像できる、明後日のことも想像できる。
今のこの、頑張らない自分の、その連続に心がつぶれる。
「お、俺は……」
頑張れば解決できるのに、頑張りたくないという理由で諦める。
それは彼の価値観、基準に於いて底辺の発想である。
己を駄目な人間であると認めるのは、思い上がっている者にとって、とても苦痛を伴うことだ。
だがしかし、その苦痛は立派な人間になるための苦痛に比べれば、とても労力が小さい。
「ああ……」
彼は自分の可能性を信じていた。
やり直せば解決できると思っていた。
努力すれば成果が出せると信じていた。
だが努力できなかった。それが、彼自身のたどり着いた答えだ。
これは彼だけが悪いわけではない。
およそループ系の物語において、ループを抜けるために努力をするのは、せざるを得ない理由があるから。
それは二通りある。一つは自分以外の大切な誰かを救うため、もう一つは脱出しなければ死に続けるため。
悲しいことに、彼にはその両方が欠けていた。
「……」
死ねば楽になれる。
明日も明後日も、続いていく自分への失望を終えられる。
自殺すれば、ループを終えられる。
「……」
彼は、普通の人間だった。
嫌なことに耐えられなくて、死に逃げる。
そんなありふれた判断をせざるを得ない、どうしようもない普通の学生だった。
「もういいや」
彼が真に主人公ならば、他の誰かが助けてくれる、止めてくれる。
だが彼は、主人公になれなかった。
※
長い二年だった。
日本に戻った都理は、達成感の虚無に浸っていた。
人生で初めて死に物狂いになった、何度も屈しかけた二年に浸っていた。
ろくでもない二年だった。思い出すだけで息が荒くなる、最悪の二年間だった。
だが終わっていた。
神の視点を持つ魔王曰く、離島は三回目のループで自決したとのことだった。
まあそうだろうなと、彼は納得していた。
よほどの異常者でもない限り、何も大事なものがない状況で、真面目に頑張り続けるなどできない。
両親やウイがいたから、乗り越えることができた二年だったのだ。
何度も屈しかけた、屈しても不思議ではなかった。
それでも、支えてもらえたから。
「……物語の主人公だって、支えてもらえないと頑張れない。ましてや俺達にはな」
死にたくないという理由だけでは、人は頑張れない。
彼自身こそが、嫌という程知っていることだった。
「……久しぶりに、ゲームでも買おうかな」
苦難を乗り越えた者だけが得られる、立派な大人が知っている、充実した達成感の中。
ようやく余裕をもって周囲を見れるようになった都理。
周囲が受験勉強や進路で騒いでいる中、一足先に楽になっている彼。
彼自身の受験が終わったわけではないのだが、それでも心は楽だった。
あれだけの苦難を乗り越えたのだ、もう何も怖くない。
どんなに辛いことがあっても、きっと乗り越えられる。
そう信じていた彼は、教室の中でホームルームが始まるのを待っていた。
二十九人を殺すことで取り戻した平穏を満喫する彼は、教室にいる騒がしいクラスメイト達を眺めている。
「……みんな、席に着きなさい」
そう思っている理の前に、緊張した顔の教師が入ってきた。
理はチート能力によって状況が深刻であることだけは察していたが、聡い生徒たちも気付いていた。
「……早く席に着くんだ!」
努めて冷静であろうとして。
その言葉を体現する担任教師は、受験を控えている生徒たちへ深刻なことを伝えようとしていた。
「円木全威という生徒が、入院していたことは皆が知るところだろう」
思いもよらぬ名前を聞いて、理は目を見開いた。
善意を掲げて醜悪に振舞い、周囲の正義によって断罪された生徒。
その名前を、深刻な教師から聞くとは思っていなかった。
「……彼が、病院のベッドで、殺されていた。死んでいたのではなく、殺害されていたそうだ」
緩衝の余地がない、余りにも残酷な『現実』がそこにあった。
確かにありえないことではないが、そうそうないことだった。
衝撃の極みのような言葉を聞いて、生徒たちは言葉を失っていた。
このクラスの中には、二年生だった時に理や全威と同じクラスだった生徒もいた。
その彼らとて、全威が死んで欲しいなどと思っていなかった。
いや、思っている者がいたとしても、実際に殺されれば安堵するなどありえなかった。
円木全威は確かに害悪だったが、既に襲撃されて、人生が変わるほどの後遺症を受けている。
その時点で彼への憎悪は晴れており、それ以上罰することは誰も望んでいなかった。
これ以上はやり過ぎだと、誰もが思っていたのだ。
「だ、だが、その……それだけではない」
担任教師は、受験前だという大事な次期の生徒たちへ、それどころではないと、緊急事態の到来を伝えていた。
「……当校の一年生や二年生、卒業生も数人、暴行を受けて入院している。意識は、戻っていないそうだ」
何がどうなっているのか、やはり誰も説明できない。それこそ、一年A組の生徒が一名を除いて失踪したときと同じように、突如として訪れた異常への困惑があった。
だが不可解ではない、明かに犯人がいる。それも、悪意に満ちた誰かだ。
「そのことについて、緊急の学校集会を開く。皆、直ぐに体育館に向かってくれ」
行方不明ではない、確実な被害者の居る暴行事件。
この学校の人間が、どこかの誰かに狙われている。
日常へと回帰していた理は、他の生徒たちと同じようにおびえることしかできなかった。
※
校長と教頭。
学校の最高責任者であり、学校に関わる多くのことへ責任をもって対応をする立場である。
権限が強い分責任の重い役職であり、就任するにあたって多くの覚悟を決めることが求められるだろう。
だがまさか、こんな状況を想定しているものなどそういないだろう。
一年A組が失踪した事件も含めて、想定外の凶事が短期間で連続し過ぎていた。
校長や教頭がどれだけ有能だったとしても、回避できる事態ではない。
責任問題を問う声もあるだろうが、対策を立てる余地などなかっただろう。
仮に未来が分かっていたとしても、どうしようもなかったはずだ。
だがそんな泣き言に逃げるほど、この学校の校長と教頭は凡愚ではなかった。
校長や教頭という役職の限界を超えた状況だったとしても、最後まで職務を全うする覚悟だった。
この二人は警察から知らされた情報を校長室で精査していた。
「登下校中に襲われた生徒たちは、背中を日本刀のような刃物で斬られ……今も意識不明」
「入院していた円木君は、夜中に殺された。それも、分厚い刃物で、頭部を横に切断されていた……」
登下校中に襲われた生徒はともかく、円木についてはどんなド素人でもわかる異常な殺害方法だった。
人間の頭といえば、もっとも頑丈な部位である。金づちで砕くならともかく、切断するなど工作機械でも使わなければ不可能だ。
それを病院で行えるわけもなく……。
「痛ましいことだ。保護者の気持ちを考えると、胸が痛む……」
「ええ、おっしゃる通りです」
だがそれは、警察が悩むべきことだった。
この二人にとって重要なことは、どうやって殺されたかではなく、誰が殺されたかであろう。
「今更、私たちの老後などどうでもいい……暮らしぶりが少し変わるだけのことだからな。だが……亡くなった生徒とその親族については……人生に大きな影を……」
「……どこの誰かは知りませんが、許されないことです。次の犠牲者が出るよりも早く、捕まえていただきたいですな」
「それは、警察に任せましょう。私たちにできることは、協力することだけで……?」
がちゃりと、ノックもなく校長室のドアが開いた。
密室トリックもへったくれもなく、手に凶器を持った『何者か』が侵入してくる。
「……な?」
「……は?」
見たこともない誰かだった。
その誰かは、いびつな刃物を振りかぶって……。
※
全校集会の直前に、校長と教頭が暴行を受けた。
鋭利ではない刃物、いびつな『切れない刃物』で斬られた二人は、生徒たち同様に意識を失ったまま救急車によって搬送された。
不幸中の幸い、というべきだろう。
既に体育館へ集められていた生徒たちは、そのまま速やかに帰宅することになった。
こうなれば受験だとか部活だとかではない、生命の危機である。
残された教員たちは、警察の指示の下生徒たちを家に帰した。
もちろん、保護者に迎えに来させたうえで、である。
都は慌てて迎えに来た自分の母と一緒に、大急ぎで帰宅した。
普段は使わないタクシーを使っての、怯えながらの下校だった。
もはや避難という他ない。
「こ、理……お父さんも帰ってくるっていうから、それまでは家の外に出ちゃダメよ? いえ、家のドアを開けても駄目!」
「……わかってるよ、母さん」
「ああもう……警察の人も、家に帰った方がいいだなんて……パトロールを厳重にするって言ってたけど……当てにできないわ……!」
危機感を持っている母親に対して、理は少し冷えた目をしていた。
それは母のことを軽蔑しているわけではなく、彼自身が頭を冷やしているだけのことだった。
「母さん、しばらく一緒に居よう。俺も、その、怖くてさ。一人の部屋にいたくないんだ」
「ええ、そうね! しばらくの間はトイレにも行っちゃだめよ!」
母親は最大に警戒している。
最大に警戒して尚、夫を呼ぶとか、警察に文句を言うとか、家にカギをかけるとか、ドアを開けないとか、そんなことしかできなかった。
白昼堂々学校に入り込んで凶行に及ぶ殺人鬼には、余りにも無力である。
「うん……母さんもね」
その一方で、理は警戒するどころではなかった。
憎悪というまどろっこしい私情などなく、確固たる迎撃の意思を固めていた。
もしも可能なら、自分の父親に対してもなにがしかの保護策を打つところだった。
(殺す)
葛藤の余地がないことだった。
無差別であれ理由があるのであれ、自分の家族へ危害を加えるものに対しては『ハードル』がなかった。
彼は倫理観との葛藤を経ることなく、自分の暴力を振るう気だった。
異世界で殺しあわされたとかではなく、証拠の残る過剰防衛を行う気だった。
それが原因で如何なる罰を受けたとしても、それによって将来を失うとしても、まったく問題に感じなかった。
燃え盛る闘志などない、自分の前に凶行を行うものが現れれば、事務的に殺すつもりだった。
そんな彼と母のもとへ、父親が慌てて帰ってくる。
慌てて帰宅した一方で、手にはレトルトの食材やペットボトルがあった。
彼も彼なりの最善として、籠城策を行うつもりだったのだろう。
それがどの程度の意味を持つのかわからないが、彼はできることを尽くしていた。
だがやはり、現実からすれば儚い抵抗だった。
犯人が捕まるとか証拠が残らないとか、そういう『必然の結末』など些細だ。
犯人が捕まろうが地獄に落ちようが、家族が死ぬことに比べれば大したことではない。
(俺も、最善を尽くす……やるべきことをやる……可能なら殺す……!)
家族が死ぬかもしれない、というのは理にとって十分にあり得ることだ。
ありえることだからこそ、全力で回避しようとする。
完全犯罪を成した後、まったくどうでもいいことで大罪を成すことになるとしても。
※
その夜のことであった。
都一家は居間に集まり、全員で就寝した。
全員まとめて殺される、という可能性があるが、それに対しては理自身が抵抗するつもりだった。
だがそれはそれとして、理は己の尾である傀儡の尾を放った。
最初は蚤に変化させ、小さな隙間から家の外に出した。その後はコウモリに変身させ、空を行かせる。
この日本でも、コウモリぐらいは棲息している。一匹飛んでいるだけなら、さほど問題でもなかった。
あとはそのコウモリを、警察病院に飛ばせばいい。
理は状況を詳しく理解していないが、警察病院の存在は知っていたため、その住所をざっと調べて、そこへ向かわせたのである。
流石は警察病院、警戒は厳重だった。だが人間相手へ警戒しているだけのこと、虫や小動物にはどんなセンサーも意味を持たなかった。
建物さえ特定できていれば、捜索に時間はかからない。さほど焦ることもなく、理の尾は襲撃された者たちを探し始めた。
理は決して、正義の味方ではない。
最高レベルのステータス閲覧を用いれば、あらゆる悪を見破ることさえできる。
だがそんなことをする気はない、そこまで図太く、図々しい精神になることはない。
だが自分や家族に危害が加わるとなれば話が別だ。
犯人の標的を確認するためなら、ためらわない。
自分の大事なものを守るために、ズルがどうとか言っている場合ではない。
(……ん?)
収容されている患者本人を見るより先に、おかしなことに気付いたのである。
(若竹……岡城……日野……?!)
自宅の居間で、両親と一緒に寝ている理は、思わず叫びかけた。
(こいつら……一年A組の生徒の、兄弟だ)
因果が、めぐってきたような、そんな感覚だった。
本来なら自分を糾弾していい遺族たちが、警察病院のベッドで、被害者として並んでいるのだ。
(あいつらの兄弟が……なんで?! 俺ならともかく、あいつらの兄弟が狙われる理由なんてあるか? いや、それに……どう考えても、円木は無関係……それに校長と教頭も、更に無関係だ)
教頭や校長、殺された円木。この三人以外は、全員が一年A組の兄弟であった。
まさか別の犯人がそれぞれ襲撃したのか、とも思わないでもなかった。
だがしかし、強烈なほどの先入観を覚えずにいられなかった。
(円木と校長、教頭……それからあいつらの兄弟を襲撃する……そんなことをする理由のある奴が、この世界にいるのか? いや、どこの世界にもいないはずだ……どうなってる?)
混乱する一方で、理は戦慄せざるを得なかった。
一年A組に関わっている者が襲われたというのなら、自分もその家族も、その標的になりうるのだから。
(非日常が、また始まったのか……いや、終わっていなかったのか……!)