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立ち上がれないのが悪い

「若竹、瀬音。集まってもらって悪いな」


 一年A組の生徒である百葉武は、若竹と瀬音を自分の部屋に招いていた。

 不安げな二人に対して、百葉はやや自信のある顔をしている。

 真剣な顔の裏には、この状況を打開する案があるように見えた。


「本当は俺が仕切らないといけないんだ……お前が誘ってくれて、正直ほっとしているぐらいだよ」

「私もよ。過激なことを言ったけど、結局他人任せね」


 何とかしなければ、また裏切者が来る。

 魔王を倒すとか世界を救うとか以前に、まずは人殺しを迎え撃たねばならなかった。


「実は二人に提案がある」


 ややもったいぶっているのは、本人も自分の考えが万人受けするものではないと理解しているからだろう。

 だが理解していても、ほかの考えは彼に思いつかなかった。


「成長補正型と能力向上型以外の生徒は、戦闘に参加させないようにしよう」


 この場の三人は、全員成長補正型である。

 だからこそ逆に、その言葉には意表を突かれていた。


「クラスメイトをチートで区別するのか?! 強いか弱いかで、切り捨てるっていうのか?!」

「生産型と特殊能力型はともかく、戦闘補助型まで戦闘に参加させないの?」


 若竹は怒り、瀬音は不安そうになっていた。

 その反応に対して、百葉は想像通りと言わんばかりにしている。


「そもそも、だ。俺たちは全員が一定のレベルになるまでは、上限に達するやつがいても同じ場所でモンスターを倒し続けていただろう? それはつまり、レベルが上がるのが遅いやつがいたってことだろう」

「それはそうだろう。俺たち成長補正型は、文字通り成長する速度が早いんだ。俺なんてその最たる例だぞ? 差があるに決まっている!」

「本当にそう思っているのか?」


 怒っている若竹に対して、呆れている百葉。


「そういうのを抜きにしても、レベルが上がるのは遅いやつらがいた。戦闘に参加するの嫌がっていたからだ、違うか?」

「それだって、最近は後れを取り戻しつつあったじゃないか!」

「最近じゃなくて、今はどうなんだよ」


 今までは楽しい冒険だったが、これからは本当に命がけの決死行である。

 それに対して、尻込みしても不思議ではない。


「戦いたくないやつを、無理に戦わせない方がいい」


 そういわれてしまえば、若竹は黙るしかなかった。

 確かに自分はまだ己を奮い立たせているが、全員がそうなれるとは思えない。


「現実的に考えて、レベル上げだって怖がるやつも出るだろ? そいつらを一々説得している間にも時間は経つんだ、今すぐ動ける奴だけでなんとかした方がいい」

「それは……そうかもしれないが……」

「ちょっと、私の質問に答えてちょうだいよ。なんで能力向上型と成長補正型だけなのよ」


 言われてみれば、確かにそうするべきだ。

 戦いたくない相手を説得する時間が無駄で、今すぐ動けるものだけでも行動を開始するべきである。

 しかし、瀬音は切り捨てる相手に、戦闘補助型も含まれていることが分からなかった。

 というよりも、チートの分類で分けるのかがわからない。


「最近思ったんだが、チートの分類で性格が分かれてるんじゃないか? いや、逆か。性格でチートが決まっているっていうのかもな」


 レベルが上がりやすかったり、スキルの習得速度が上がる成長補正型。

 特定の能力値が高くなったり、特定の条件で能力が上がる能力向上型。

 攻撃に特殊な効果が付属されたり、攻撃そのものが強化される戦闘補助型。

 自分が傷を負いにくく、死ににくなっている自己保存型。

 単独で能力として成立している特殊能力型。

 そして、武器やアイテムを製造する生産型。


 全部で六種類あるチートは、もともと持ち主の望んでいた力だと説明されている。

 だとすれば、おおむね六種類に性格を分けることができるのではないだろうか。


「俺たち成長補正型は、もともと努力家だった。そうだろ?」


 自分で自分のことを称賛しているようだが、実際自覚はしている。

 この場の三人は、この世界に来る前から努力を怠らない者たちだった。


「能力向上型は、良くも悪くも自分に対して自信がある奴だった。岡城もそうだっただろ?」


 努力していないわけではないだろうが、今現在の自分に対して自信がある。

 真っ先に都に挑んだことを含めて、岡城は確かに自信があるようだった。


「じゃあ戦闘補助型はどうなの?」

「ズルをしてでも勝ちたいって奴なんじゃないか?」

「……ひどいことを言うな」


 確かに即死判定のある攻撃や、魔法が連発できるというのは、ズルと言われても仕方がない。

 とにかく勝ちたい、実力が伴わなくてもいいから結果が欲しい。

 そういう人間が戦闘補助型になるのだ、と百葉は語る。


「振り返ってみろよ。戦闘補助型のやつらが一番攻撃が得意なのに、最初は能力向上型よりも敵を倒していなかっただろう?」


 言われてみればそうだったような気がする。

 気がする、というのは正確にレベルを観測する手段がないからだ。

 皮肉にも、それができるのは裏切った都だけである。


「戦うのはいいけれども、自分は死にたくないっていうのが自己保存型だったな……確かにそういう生徒達が、この状況で戦いたいと思えるわけがないか……」


 ズルをしてでも勝ちたいということは、勝てる自信のない戦いには参加したがらないだろう。

 全く逆の性質だが、自己保存型のチートを得ている生徒たちも、死ぬ危険が高い戦いには参加したくないはずだ。


「じゃあ特殊能力型と生産型は? 貴方はどういう性格だと思っているの?」

「同じ土俵に上がりたくないやつ、他人と競うんじゃなくて違うことができるようになりたいって奴だな」


 二つをまとめているが、確かに本質的には同じだろう。戦いたいと積極的になれるわけではあるまい。

 そもそも細かい精神分析をしている場合ではないし、おおむねあっているのならそれでいいはずだ。


「とにかく……戦いたくないやつを無理矢理戦わせても、足手まといになるだけだ」


 その残酷な言葉とは裏腹に、当人の顔はとても沈んでいる。

 足手まといどころではない、以前の都を相手にしたときは誰もが役立たずだった。

 このままでは駄目だと、彼は強く思っていた。


「だから、今すぐ立ち上がれる奴らでレベル上げを再開しよう。その上で、今度こそお前には、ちゃんと指揮をとってほしい」

「……そうだな」


 百葉から頼まれたことで、若竹は再び歩き出す覚悟を決めていた。


「このままじゃ、何もできない。都に勝てないな……」

「ああ、その通りだ。今度こそ俺たちは、集団としての強さを手に入れないといけない」


 これは弁解ではなくただの事実なのだが、一年A組の生徒たちは例外なく努力していた。

 確かにモンスターを倒すことに消極的だった生徒もいたが、それでもレベル35までは鍛えていたのだ。

 たしかに当初はチートを持っているだけの一般人だったが、少なくともモンスターと戦うことに関しては専門家になりつつあったのだ。


 人間よりも強大な存在へ挑むというのは、当然ながら容易ではない。

 しかも常に自分よりも強い敵と戦い続け、レベルを上げ続けなければならない。

 そんな日々が一年近く続いたのだ。


 不利な状況では積極的になれない面々も、怠慢な日々を過ごしていたわけではない。

 モンスターと戦うことも命がけであり、深い森林などで昼夜を過ごすことも過酷なことだった。


 前回の醜態は、ほとんどの生徒がまともだったからだ。

 仮にもクラスメイトだった男を殺すなど、普通の倫理観から言えばあり得ない。

 鋼や岡城がおかしかったのであり……。


「そうね、今度は集団の訓練を重点的にしましょう」


 言い訳をしそうになる自分をこらえて、瀬音は前向きになろうとしていた。

 自分たちは世界を救わねばならず、そうでなければ死んでしまう。

 それがまともではないのだから、自分たちはまともではない人間にならなければならない。

 世界を救う勇者が、まともなわけがないのだから。



 こうして、ようやく一年A組は再起動を始めた。

 今まではどうしていいのかわからなかったが、とりあえず方針は決まったのである。


「ここからは、成長補正型と能力向上型だと分かっている生徒だけで行こうと思う」


 三人は話し合った結果を、他のクラスメイト達を集めて説明した。

 不思議なもので、先ほどまでは自信喪失していた能力向上型や成長補正型の生徒たちも、自分たちが選ばれたのだという自覚があると奮起していた。

 やはりチート能力を得ている中でも、自分たちは優れている、頼られていると思うとやる気を出すものである。


 その一方で、自己保存型の面々は安堵していた。

 百葉が察していたように、自分が死ぬかもしれないと思うと、参加したいという意欲は湧かなかった。


 戦闘補助型の面々は、安堵というよりもひたすら悔しそうである。

 自分たちも戦える、戦いたいと思っている。しかし勝ち目が薄いと思うと、臆病風に吹かれてしまう。


「もちろん、他の生徒たちも参加したいなら構わない」


 若竹は、その反応を見てひとまず安心していた。

 説得を不必要とするほどに、選ばれた生徒たちはやる気を出していたのだから。


「ただし、今後はもう足並みをそろえたりしない。今までは全員がレベルを上げるまでは一つの場所に全員が残っていたけども、これからは決して配慮しない」


 以前の若竹なら、絶対に言わないことだった。

 遅れた者は置いていく、自分を高められるものだけで戦っていく。

 しかしそれは仕方がないことだ、なにせ全員の命がかかっている。


「あ、あの……」


 心細そうに挙手をしたのは、風呂敷つつみ。

 未だにチート能力を把握していない生徒の一人だった。


「それじゃあ、もしもレベル上げに行っている間に魔王や都君が来たら、どうするんですか?」

「諦めてくれ」


 とても残酷に、迷いなく切り捨てていた。

 即答されたことによって、彼女は悲鳴を上げることもできなかった。


「はっきり言うが、置いていく面々に関してはあきらめている」


 もしかしたら、置いていった面々は魔王によって殺されるかもしれない。

 足手まといたちは、何もできずに死ぬかもしれない。

 だがそれを、若竹は決断していた。


「俺達がこうしている間にも、都は魔王によって強化されているだろう。もしもレベル上げをしなかったら、集団で戦う練習をしなかったら、また何もできずに殺されるだけだ」

「わ、私たちのことを見捨てるの?!」

「そうだ!」


 少し前に、自分が言われたこと。

 それを逆に、彼女へ言い返す。

 自分を咎めていた、大多数の内の一人へ言い返す。

 黙っているだけの、他の面々にも言い返す。


「俺達は! 世界を救うんじゃなかったのか!」


 生徒(こども)たちに、勇者(おとな)になれとどなりつけていた。


「一年近く一緒に戦ってきた仲間が死んだんだ。傷つくのは当たり前だし、怖くなるのも仕方がない! だけど、じゃあどうするんだ! 俺たちはこの世界で、一番強いんだぞ! 勇者を守ってくれる人なんて、どこにもいないんだ!」


 ほんの少し前まで、一年A組の生徒たちは幸福の絶頂だった。

 努力をして、成長して、実感して、それを周囲から誉めそやされて。


 まさにチートで無双だった。

 異世界に召喚された、勇者としての日々を過ごしていた。


 だが今になって、ようやく理解したのだ。

 こんな年端も行かない子供たちを、称賛してこびへつらっていた、この世界の人々の気持ちが。


 この世で一番大事な自分たちの命が脅かされていて、自分ではどうにもならない。

 それをどうにかできるかもしれない相手がいれば、いくらでもこびへつらうだろう。

 だって、命がかかっているんだから。


「泣いてもわめいても! 殴られても殺されても! 学校も先生も法律も警察も! 俺たちのことを助けてくれないんだぞ!」


 誰よりも優れていて、誰よりも上の地位を与えられた。

 それはつまり、誰も救ってくれないということ。

 自分の仕事を、他の誰かが尻拭いしてくれないということ。

 都に言われて、ようやく気付いたことだった。


「倫理も、道徳も、正義も、善良も! 人殺しには通じないぞ!」

「だ、だったら、だったら助けてよ、若竹君! なんでもするから!」

「助けない!」


 助けを乞う仲間に対して、彼は人生で一番言ってはいけないことを言っていた。


「俺は……俺たちは、弱い! 弱いんだよ! 弱いから、強くならないといけないんだよ!」


 だがその言葉の正しさよりも、それを絞り出している若竹の言葉に圧倒されて、風呂敷も他の生徒たちも言葉を出せなかった。


「弱いと、誰も守れないんだよ! 自分のことだって、友達のことだって、国家だって世界だって! だから俺たちは、勇者は、この世界に召喚されてきたんじゃないか!」


 無力だった。


「だけど……!」

「アレは嫌、これも嫌! 自分は何もしたくない、自分は何も考えたくない! 何時まで赤ん坊のつもりだ!」


 この場の全員が無力だった。

 誰にも誰かへ気遣う余裕はない。


 強く言われたために、風呂敷は黙って泣き出してしまう。

 しかしそれを誰も助けなかった。普通なら誰かが彼女へ寄り添うのだろうが、今はそんなことをするクラスメイトはいなかった。

 なぜなら、誰もが彼女と同じように、助けてくれる誰かを求めていたのだから。


「話を進めようか」


 そんな彼女へ一瞥もせずに、高嶺花は話を切り替えた。

 無駄なことをしている時間はない、と言わんばかりである。


「具体的な作戦はあるんだろうね。まさか前みたいに、説得するとか、あとは自由にとか言い出さないよね?」

「もちろんだ。今回はレベル上げの段階から、集団での戦闘を想定する」


 一年以上遅いことだが、若竹は殺す覚悟を決めていた。


「レベル上げに合わせて、都を殺すための特訓をする」

「それは当たり前だろう? 問題はどういう作戦を練るかだ」


 高嶺の質問はもっともだった。

 ここまで言って、何も考えていませんでは話にならない。


「前回と違って、わかっていることがある。都のチート能力が、ステータスの閲覧だってことだ」


 特殊能力型に分類される、ステータスを見るチート。

 きわめて単純で非力であろうが、それを『格上』が持っているとなると厄介極まりない。


「あいつは一方的にこっちの能力を見てくる。攻略本を読んでいる相手と戦うようなものだ」


 ことデジタルゲームにおいて、攻略情報というものを知っているのと知らないのでは、天と地ほどに差が生まれる。

 情報社会に生きている者たちにとって、これはとても深刻な問題だった。


「こっちが習得している魔法やスキルさえ見てくるかもしれない相手に、奇策なんて練っても仕方がない。正攻法で戦う」

「……続けて」

「瀬音と万は魔法を覚えるのが早い。今までは二人とも色々な呪文を覚えてもらっていたけど、これからは仲間にも効果が及ぶ補助呪文を優先して覚えてもらう」


 根回しというよりは、会議の前に準備をしていた。

 若竹、百葉、瀬音の三人で練った具体案が、理路整然と並べられていく。


「あ、あの……私はもう補助魔法をいくつか使えるけど。瀬音さんもそうだよね?」


 成長補正型の中で唯一会議に参加していなかった万は、やや戸惑いつつも質問する。


「ええ、その通り。でも今までは回復魔法や攻撃魔法も、まんべんなく覚えていたわよね。これからはできるだけ高度な補助魔法を優先して覚えていくわ」

「攻撃魔法はともかく、回復魔法はいいの?!」

「蘇生できない以上、無駄よ。あいつは格上だから、確実に一撃で殺しに来るわよ」


 徹底して痛めつけた鋼だけは別だが、ほかの三人は一撃で殺されていた。

 それだけ実力差があるということだが、次はそうならないと期待することはできない。

 蘇生手段がないとわかっている以上、殺すのが一番確実な無力化だからだ。

 そしてそもそも、都はクラスメイトを全員殺すのが最終目標である。


「格上を相手に蘇生アイテムや蘇生魔法を使いながら持ちこたえる、そんなゲームみたいな戦法は無理よ。できるだけ実力差を埋めて、全員が殺されないように立ち回りながら……削る」


 瀬音は、一拍置いた。


「殺すわ」


 はっきりと、そう言い切っていた。


「他の奴は、遠距離攻撃と近距離攻撃の武器を、最低でも一つずつ使えるようになってもらう」


 説明を引き継いだのは百葉だった。

 やはり真剣な面持ちで、正攻法を語る。


「万と瀬音を守りながら、全員でカバーしあって戦う」


 特に面白くもなく、確実に勝てるとは思えない戦法だった。

 しかし実際のところ、戦術や戦法の天才がいるわけでもない。

 本気で殺しに来る人間を相手に、これ以上の策も思いつかなかった。


「これは今できる最善の策であって、必勝の策には程遠い。だがそれでも、みんなには協力してほしい」

「みんなっていうけどよ」


 挙手したのは、成金歩だった。

 いまだに自分のチートを知らない彼は、闘志をみなぎらせた顔をしている。


「まずよ、成長補正型と能力向上型の奴らは戦うのか?」


 挑発的な質問に対して、成長補正型と能力向上型の面々は頷いていた。

 各々の表情に差異はあるが、それでも若竹の提案に希望を見出していた。


「そうか……けどよ、足りないだろ。流石に」


 指を折って、人数を数えていく。

 実際のところ、二十五人のうち半分以下だった。

 成長補正型が四人、能力向上型が三人である。両方を合わせても、七人しかいない。


「お前言ってたよな、やる気があるなら、他の奴でもいいって。俺はまだチートがわかってないけど、それでもいいか?」

「……いいのか、歩」

「いいのかもなにも、ないだろう。風呂敷が言ってたみたいに、やる気のあるやつだけ前に進んだら、残るのはやる気のない奴だぞ。それこそ何もできないままじゃねえか」


 びくり、と、縮こまっていた加寸土の体が震えた。


「俺も偉そうなことは言えないけどよ、それでもこのままやる気のない奴に埋もれるのはごめんだ」


 このまま何もしなければ、それこそ何もできないまま指をくわえて待つことになる。

 もちろん若竹たちがうまくやってくれるかもしれないが、それは完全に他人まかせだ。

 なにもしないままおびえて過ごす日々、というのを想像して身震いしてしまう。


「ここが分岐点だ、それなら乗らないって話はないぜ」


 自分一人ではどうしていいのかわからなくても、誰かが動き出せばそれに続くことができる。

 それをなれ合いというのは簡単だが、命がかかっていれば勇敢というほかないだろう。


「そうだな……俺も行く」


 土俵綱も続いた。


「ま、待ってくれ……」


 そして、その場の全員にとって意外なことに、当人さえも戸惑いながら挙手していた。

 他の面々と比べて、あまりにも弱弱しいが、それでも自分で解決するためにレベル上げに参加しようとしていた。


「俺も……行くよ」


 加寸土英が、やる気のある面々に交じると言っていた。

 しかし、お世辞にもやる気があるようには見えない。


「いいのか、加寸土」


 若竹は、厳しい顔をしていた。

 確かに残るのも不安だろうが、今後も戦闘に参加するとなれば不安どころの騒ぎではない。


「これから先は、レベル上げだって危険だ。都と戦う前に死ぬかもしれないぞ」

「それでも……いい。行くよ、俺も」

「誰も、守ってやれないんだぞ」


 誰の心も、決して単純ではない。

 怖くないわけではないし、優越感を感じていないわけでもない。

 彼の心もまた、参加と不参加の理由が天秤で揺れている。

 少なくとも今は、参加の方に傾いていた。


「俺は、やる気がある……!」

「そうか……わかった」


 ちんけな誇りだった。

 仮にも彼女である高嶺が参加するのに、自分が指をくわえて震えていることなどできるわけもない。

 彼が参加を決めたのは、本当にそんな、あまりにも馬鹿々々しい理由だった。

 だがそれでも、彼にとってはこの上なく大事なことだった。


「英……いいのに」

「そんなわけにいくか……お前が行くんなら、俺だって行くしかないだろうが!」


 自暴自棄になっており、見るからに後悔している。

 だがそれでも、彼は一歩踏み出していた。


「残ったみんなは、俺達の無事を祈ってくれ」


 切り離した、切り捨てた、見放した、見捨てた。

 どう言いつくろっても、劣っている者、戦えない者を置いていく行為である。

 だがそれでも、それを最良と信じた十人が再起していた。


「今までの成功を忘れよう、俺たちはもう一度最初からやり直すんだ!」

若竹 伸 『成長』〈スピードラニング〉成長補正型


「ごめんね、マナ。勝手に決めて」

瀬音 らり 『万能』〈コンプリートブック〉成長補正型


「いいよ……らりといっしょなら、もうちょっとだけ頑張れると思うし」

万 マナ 『賢人』〈エンシェントスラッド〉成長補正型


「言い出しっぺとして、やることやらないとな」

百葉 武 『武人』〈シークレットスクロール〉成長補正型


「ま、これはこれで悪くない。英の傍にいられるしね」

高嶺 花 『天恵』〈スタートダッシュ〉能力向上型


「やれやれ……生き残るならこっちの方かな?」

丁半 白磁 『豪運』〈キングロード〉能力向上型


「武たちが決めたことってのは残念だけど、ここで逃げたら女が廃るってもんよね」

佐鳥 忍 『野生』〈ネイチャースタイル〉能力向上型


「ここが土俵際、なんてな」

土俵 綱 不明


「成り上がるならここからだ……!」

成金 歩 不明


「俺は……情けない男なんかじゃない……! 必ず、本物になってみせる!」

加寸土 英 『報復』〈ジャスティスペナルティ〉

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公からすると敵方のクラスメイトサイドがただ愚かなだけのやられ役じゃなく、各人の葛藤や行動理念がありそれぞれが成長していくのが素晴らしい。 最終的に主人公が蹴散らすカタルシスの為なのかも…
[良い点] 各章読み終えてから改めて読むと、各々の能力の把握具合や進展がキャラクターごとに事細かに決められてて良い。判明の理路も納得感がある [一言] 第三部更新されているので読み返し 加寸土君から狐…
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