自分で自分を守るのは善い
「大丈夫、最近元気ないわよ?」
「大丈夫だよ、母さん」
最近、ギュウキ様からの特訓が厳しい。
何時優しかったのかという話なのだが、最近は特に過酷だった。
その結果、俺の顔色は悪い。
いつでも陰気で、朝飯を食っている時も、寝起きとは無関係な辛さがあった。
おかげで母さんから心配をされるほどである。
「本当に? 学校でいじめられたりしていない?」
「大丈夫、問題ないって」
いじめられている、と言えばそうだろう。
だがそれはあんまり問題ではない。
「本当に……本当に?」
「うん、大丈夫」
まさか異世界で魔王の部下になっていて、先輩から過酷な暴力を受けているとはいえまい。
俺が苦しむさまを魔王が見て笑っている、というのは親としては辛いだろう。
普通の専業主婦である母さんは、そんな心配はしなくていいのだ。そもそも説明だってしたくない。
「ごちそうさま。もう行くよ」
「本当に、何かあったらいいなさいね?」
家族に対してうしろめたいことがあり、それを隠す。
なんとも恰好の悪い話だと思うが、罪悪感はない。
「いってきます」
学校に向かうことも、そこまで陰鬱ではない。
確かに円木は嫌だが、そこまでの被害はない。
少なくとも彼は、俺へ鉄球をぶつけてこないからだ。
おそらく彼は、何かの偶然で俺のことや一年A組のことを思い出したのだろう。
ものすごく些細なきっかけで、俺に攻撃する理由を見つけたのだろう。
そして俺自身も、一年が経過したことを想って感傷的になり、無意味に神経質になっていただけだ。
俺は昨日と変わりなく学校に向かい、教室で自分の椅子に座り、英単語を暗記する。
とても淀みなく、学生生活を満喫する。
「おい、人殺し~~」
何時ものようにしていると、昨日と同じように円木が話しかけてきた。
やはりクラスの中の空気も昨日と同じだが、俺の心だけは動かない。
正真正銘、本当にどうでもいいことだ。
ウイ様にも言ったことだが、こいつが何を言ってきても何も変わらない。
「お前さ、スマホはもってても、クラスの誰にもメールアドレスやら、ツヅッターやらなにやらを教えてねえじゃん。それってよ、とっても怪しくないか? スマホでなにやってるんだ? やましいことでもあるんだろ?」
中々痛いところを突いてくる。
彼にとっては『怪しいのでつっついてやろう』という程度だが、実際本当だ。
本当に人殺しであり、放課後にも二十四時間外労働をしている俺は、友達というものを作っていなかった。
まあ、ツヅッターとかいうものは、一年だった時から使っていないのだが。
「何か言えよ~~」
だんだん、声のトーンが荒くなっていく。
俺が本当に無反応なので、だんだん苛立ってきている。
それをチート能力で観察できる俺だが、他の誰でも同じようなことを想うだろう。
「お前さ~~俺が話しかけてるんだぞ? 何か言うのが礼儀ってもんじゃないのか?」
だんだん俺に近づいてくる、俺の嫌がるところを見たい男。
彼はきっと、つまらない退屈な日常に飽きているのだろう。
それがどれだけ尊いのかわからずに、興味本位で他人を暴こうとしている。
ウイ様もおっしゃっていたが、俺が常識の範疇で彼へ攻撃をすればどうなるだろう。
かなり力を加減して、普通の高校生がキレた程度の振る舞いをして……。
例えば、座っている椅子を凶器にして、たたきつける。
それをすれば、彼はどうなるだろうか。
もちろん俺もただでは済まない。もしかしたら少年院に送られるかもしれないし、そうでなくても病院に入ることになるかもしれない。
だがその程度だ。もともとお先真っ暗な俺の人生が、わかりやすく暗くなるだけだ。
しかし円木はそれで満足できるのだろうか。例えば生涯残る肉体の不自由や、あるいは顔に傷が残るとか、そんなことになったらどう思うのだろうか。
自分の浅慮を呪うのか、それとも俺を呪うのか。
一年A組の奴らは、どう思っているのだろうか。
「おい」
ぐい、と胸倉をつかまれた。
円木は苛立った顔で、俺をにらんでいた。
「お前、俺のことを舐めているのか?」
そもそも彼こそが、一番俺を舐めている。
他人を舐めることが好きだからこそ、他人に舐められることが嫌い、ということかもしれない。
「何か言えよ」
「喧嘩するつもりか?」
挑発をするつもりはないが、俺の質問は結果的に挑発的になっていた。
ただ本心でもある。朝礼前ということでほとんどの生徒がここにいる。そんな状況で手を出せば、どうなるかなど目に見えて明らかだ。
「俺がビビってるとても思ってるのか? お友達が助けてくれるとでも思っているのか、人殺しのくせに!」
なかなか心無いことを言われる。
もしも昨日言われていたら、泣いてしまっていたかもしれない。
「よせよ」
「あん?!」
「俺のことなんて、どうでもいいだろう?」
俺の言葉を聞いて、円木は嬉しそうに笑った。
とても野卑で、下種な笑みだった。
しかし不思議と、軽蔑する気は起きなかった。
「お前のことが、どうでもいい~~? 人が死んでるのにか! 流石人殺しは、言うことが違うなあ!」
一応言っておくが、一年A組の生徒たちは死んでいるということにはなっていない。
今のところは行方不明で、いまだに捜索されているところである。
「はっきり言えよ、俺が殺しましたってな!」
はっきり言った場合、どうなのだろうか。
ほんの少しの間、はっきり言ってやろうかと思ってしまうが、それは引っ込めた。
なぜ母親にも告白していないことを、こんな奴に言わねばならないのか。
「おらおら、やましい事がないのなら、違うって言えよ!」
俺はここでようやく、こいつに対して嘘をつくことへの無価値さを思い知った。
なんで難癖をつけてくるだけの相手に、嘘をいうことを気にしていたのだろうか。
「俺は何も知らないし、わからない」
本当は失踪している理由も、どこにいるのかも、俺は知っている。
「俺は誰も殺していない」
いや、殺している。四人も殺している。
「お前の言っていることは、全部違う」
盗人甚だしいというよりは、まさに殺人鬼の言葉だろう。
これが推理小説なら、俺は後でさぞ批難されるに違いない。
だが悲しいことに、この世界では俺の言葉が間違っていると証明することはできない。
「ふてぶてしい奴だなあ、お前は、本当に!」
わかり切っていたことではあるが、俺が何を言っても、円木は全く気にしない。
俺が嘘を言っていると見抜いているわけではないが、俺のことを否定したくてたまらない。
「本当のことを言えよ、本当のことを!」
自分の聞きたいことしか聞かないこいつは、とんでもなく嫌な奴だ。
人殺しほどではないが、人を傷つけている。
「円木」
「なんだよ、人を殺してごめんなさい、か?」
もったいない話だと思う。
俺が人を殺してでも維持したいと思っている日常を、無償で享受できるのだから、もっと有効活用するべきだ。
「俺にかまうなよ」
俺に殺された四人が、どうあがいても手に入れられない日本での日々を、もっと楽しいことに使うべきだ。
俺なんかを苦しませることよりも、周りの人を楽しくさせることに労力を割くべきだ。
「こんなことしても、誰もお前のことを凄いなんて思わないぞ」
そうでなくても、普通に勉強をするべきだ。
そっちの方が、ずっと有意義に時間を使える。
「な、手を放せよ」
「す、すかしてんじゃねえぞ!」
俺の冷静な態度が気に入らなかったのか、円木は俺を殴っていた。
もちろん、痛い。能力を制限している俺は、一般人と何も変わらない。
殴られた手が痛くなるとか、俺がめちゃくちゃ硬くて問題がないとか、そんなことは起こらない。
だがしかし、相手は普通の学生だ。
空手やボクシングを習っているわけではないのだし、殴られてもそんなにはいたくない。
「なあ、なんか言えよ」
「先生に言いつけるぞ」
自分でも言っていて恥ずかしいことだった。
俺はしばらく前に、一年A組の面々へそう煽った覚えがある。
「なんだよ、小学生かよ!」
「ただの高校生だよ」
「高校生が、殴られたからって先生にチクるのか?」
「チクられると困るだろう?」
「困らねえよ!」
「じゃあ先生が来ても続けるんだな?」
「ふざけてんのか?!」
「続けるのかって聞いているんだ」
「だから、お前小学生かよ! 恥ずかしくないのかよ!」
先生に対して、暴力を振るわれたと伝える。
それが牽制になる、暴力を止めるきっかけになる。
まったくもって、平和なことだった。
「恥ずかしくないぞ」
「ふ、ふざけんな!」
どうやら自分のやっていることが、悪いことだとは分かっているらしい。
彼はとてもまともだ。俺なんかにかまうよりも、もっと建設的なことができる。
彼はこれからの努力で、未来を光り輝かせることができるのだ。
「もう座れよ、先生が来るぞ」
円木は、そこまで俺の話を聞いた。
しかし意地になっていた彼は、俺をもう一度殴った。
今度は顔ではなく胸にあたった。多分顔を殴ろうとして、失敗したのだろう。
痛くはなかったが、それでも俺はしりもちをついた。
「ふん! 人殺しのくせに!」
そう言い捨てると、円木は自分の席に戻っていった。
※
俺は本当に生死をかけた戦いをしている。
本当の意味で、覚悟と決意に満ちた生活をしている。
温い堕落した生活にあこがれる、熱さと冷たさの同居した日々を過ごしている。
そんな俺からすれば、不用意に敵を作ろうとすることができる、どうでもいい理由で他人を殴ることができる、円木という男が羨ましかった。
日本で生まれて日本で育って、日本を出ずに済む彼が羨ましかった。
彼は誰かを殴ったぐらいで、人殺しだとののしったぐらいで、言いがかりをつけていじめたぐらいで、自分が殺されることはないと思っている。
そんなことが起こるわけがないと思っていて、実際その通りなのだ。
だからこそ、なんの意味もないことに執着することができる。
要するに、円木は誰かに勝ちたいのだ。勝つこと自体が目的で、勝つことでなにか目標を達成したいということはないのだ。
相手に悔しい思いをさせたかったり、泣かせたり、困らせたりしたいのだ。
だからこそ、無駄にしつこくて無意味に意地になる。
俺の殺人には、闘争には、勝利には、きちんと理由がある。
俺は彼らを殺すということで魔王様に忠義を示し、その結果として延命が図れる。
俺は彼らを殺すことで、家に帰ることができるのだ。
だからこそ、逆に他のことで戦うことはない。利益にならないからだ。
だが彼は、とにかく勝ちたいだけだ。
手段と目的がむちゃくちゃになっている。
普通は何かいいことがあるから戦うのであり、勝つとはいいことを得るということだ。だから勝つのは気持ちがいい。
だが勝った気分になると気持ちがいいので、良いことがなくても戦いたくなってしまう。
これは円木に限らず、誰にでも言えることなのかもしれない。
勝つという成功を味わっていない人ならば、そういうものを欲してしまうのかもしれない。
しかしそれは、本当にただの自己満足だ。勝ったところで満足感しか得られない。
負けても何も失うことがないと思い込んでいるからこそ、戦いを続けようとする。
弱いと思った相手を探して、思った通りの反応をしないと苛立ち、逆に負けそうになるとそれを拒絶する。
勝つことだけが目的で、負けたくないだけで、何かを失うわけではないと思い込んで戦い続ける。
実際には、労力と時間という、取り戻しようもないものを失い続けているのに。
惜しい、もったいない。
例え勝利の実感を得られないとしても、もっと有効な時間の使い方などいくらでもある筈なのに。
刺激に飢えて、何もかもを失う。欲求に負けて、常道を見失う。
今、俺は強く思うのだ。
チート能力や刺激的な冒険よりも、普通の生活こそが普通の人間には価値があるのだと。
「ふんがぁふ!」
魔王城で訓練をしている俺は、いつものように鉄球をぶつけられていた。
足元にはベルトコンベア、後方には巨大なトゲ、迫る電気トラップ、投げられてくる鉄球。
アクションゲームのキャラクターと化した俺は、価値があるとは知っていても辛い特訓に明け暮れていた。
「そらそらどうした! 実戦では誰も回復魔法などかけてくれんぞ!」
「へぶし!」
「練習だからと気を抜くな! お前は何度死んでもおかしくないのだぞ!」
「ふぐぅ!」
「この過酷な特訓を乗り越えなければ、勇者に勝つなど夢のまた夢だぞ!」
「おぐふぅ!」
「そらそら、倒れている時こそ好機なのだぞ! 一瞬でも早く立て!」
「あんぎゃ!」
非常に今更だが、俺が一番最初に殺した岡城鬼が羨ましくなってきた。
最初に殺したのはアイツだったが、きっとこんな痛い思いはしなかっただろう。
「みろ、魔王様を!」
「ふぁあ~~」
「お前があんまり進歩がないので、退屈しておられるではないか!」
こんなに痛い目にあってまで、あんな甘やかされた勇者たちに勝たなければならないのだろうか。
確かに強くなれるけれども、前回は圧倒できたけれども、圧倒でき過ぎた気がする。
ここまでして、強くなりたいわけじゃないんだ……!
「えっぐ……うっぐ……!」
「コトワリ」
「は、はい……魔王様」
「続けろ」
「わ、わかりました……!」
先生、助けてください。
本当に、先生助けてください、というだけで解決する日本が懐かしい。
宇宙の創造神からパワハラされるって、人間には重すぎる負担だ。
泣いてしまった俺を叱咤する魔王様。
激励ではないのがポイントで、このまま放置されると本当にまずい。
俺は泣き言も言えずに再度ベルトコンベアで走り始めた。
「そらそら、走れ走れ!」
「ぎゃあああああ!」
この痛みが! この苦しみが! この嘆きが! この血と汗と涙が!
俺の中の罪悪感をどんどん落としていく!
多分俺一人が味わっている苦痛で、勇者全員分の苦痛を凌駕している!
勇者は保護されていたらしいが、俺は保護されていない! 虐待されている!
誰か保護してくれ! 誰か守護してくれ!
※
このままでは駄目だ、俺は強く思っていた。
このままでは、勇者と戦う前に、ギュウキ様に殺される。
っていうか、魔王様に見限られてしまう。
最大の敵は身内、それも上司全員。比喩誇張抜きで、最大最強すぎる……!
クラスメイト全員よりも魔王様の方が強いから裏切ったのだから、ある意味では仕方のないことではあるけれども!
でも、これはない! 死んだほうがいい放課後ってなんだろう!
とにかく、誰も助けてくれない以上、自助努力による自己解決しかない!
そうじゃないと、流石にもたない。
「セラエノ様! お願いがあります!」
「なんでしょうか」
「俺にバリアを教えてください!」
夢と情熱をもって、俺はセラエノ様へ教えを乞うていた。
非常に今更だが、俺は二種類しか魔法を習っていない。
自分の姿と能力を封印したり、それを解除する『トランス』。
前方の広い範囲を炎で攻撃する『ヘルフレイム』。
体に耳なし芳一のごとく刻まれた呪文の数だけ、俺は魔法を使うことができる。
しかし問題なのは、呪文を習い踊りを習わなければならい。体に刻まれた術を発動させるには、そういう手間が必要なのだ。
果たしてそれは、憶えていると言えるのだろうか。使えないので、憶えているとは言えない。
「俺思ったんです、このままだとすんげえ痛いって!」
「なるほど」
俺の切実な願いに、セラエノ様はあっさりと応じてくれていた。
「わかりました」
「やった!」
「貴方に対して積極的な指導は禁じられていますが、希望した魔法の指導は許可されています」
「……もしかして、今まででも教えを乞えば、教えていただけたのですか?」
「もちろんです」
今までの痛みと苦しみと嘆きと血と汗と涙はいったい……。
つまり俺は、自分に与えられた育成システムを良く理解しないまま、ただステージに臨んでいただけだと。
虚脱という言葉を体現し、俺は膝から崩れそうになった。
本当に、今までの苦労は何だったのか……。まさにくたびれ儲けの銭失いである。
「バリアを教わりたい、というのであればお教えします。ですが、貴方の想像するバリアとは、どのような魔法でしょうか」
「どのような、とは……?」
「バリアとやらが防御手段であることは理解しています。ですが、その防御手段は無数に存在しています。習得したいバリアの形態や目的を教えていただきたい」
なにやら辞書のようなことを言いだしたセラエノ様。
いや、実際辞書だったような気もする。
「鉄球が防げればいいのですが……」
「条件が不十分です」
「では……とにかく強度が高いものをお願いします」
「承知しました。では『ブレイクポイント』をお教えします」
なにやら物騒な名前のバリアを教えてもらえることになった。
どちらかと言えば、攻撃魔法のようだが、大丈夫なのだろうか。
「では私の踊りに続いてください」
「あ、はい」
やはり踊りを踊らなければならないのか……!
※
命がかかっているのだから、何をするにしても必死である。
どれだけセンスのない詠唱や意味の解らない踊りを踊ってでも、身の安全に比べればためらうことにならない。
「『我が体に刻まれし刻印よ、記されしままに在るべし』」
「『動け、止まれ、阻め、貫け』」
「『極小の星よ、意のままに踊れ』」
「『ブレイクポイント』」
幸い、ベルトコンベアに乗る前に、あらかじめ魔法を使うことは許可されているようだった。
ギュウキ様を待たせている俺は、魔王様の前で唱えて踊るという無様をさらしつつ、初めての防御呪文を披露した。
「ほう……」
魔王様は多少の工夫をした俺を見て、にやりと笑っている。
ただの根性論で拷問に耐えていても、特に面白くはあるまい。
俺はようやく、この特訓の真意を見極めつつあった。
「魔王様、務めさせていただきます」
「期待しているぞ、コトワリ=ナインテイル」
俺は自分で考えて、この難題を突破する。
本番で、クラスメイトを殺すときに、魔王様の僕として圧倒できるようになるために。
これは、そういう育成ゲームなのだ。
「ブレイクポイントで身を守るか……面白い!」
「よろしくお願いします、ギュウキ様」
俺はいつものように、巨大なベルトコンベアの上に乗り走り出す。
防御魔法を展開した俺だが、ぱっと見では普通と何も変わりはない。
だがしかし、俺の周囲には極小の『星』が浮かび、俺のことを守っている。
点のように小さいが最強の硬度をもち、俺の近くに浮かんで固定されているのだ。
炎や風のような実体のない攻撃や、銃弾のように小さい攻撃には意味がないが、鉄球のように巨大な攻撃にはこの上なく有効だ。
この星は俺の意思で動かせるが、それ以外では動かない。つまり、敵の攻撃が星に当たると、弾かれるか止まるのだ。
ようするに、地面に固定されているボーリングのピンみたいなものである。
それが全部で五つ、俺の周囲を旋回しているのだ。
これでギュウキ様の鉄球攻撃を弾ける、走ってハードルを越えることに専念できる。
「うううおおおおお!」
今日こそ、走りぬいて見せる!
絶対に鉄球攻撃を食らわず、電撃も食らわず、痛い思いをせずに走破して見せる!
「だりゃああああ!」
確固たる決意を込めて、俺は叫ぶ。
「ふっ……おもしろい! 行くぞ、コトワリ!」
走りながら叫ぶ俺に対して、ギュウキ様も笑う。
そうか、この人も俺が工夫するのを待っていたのか……!
「ぬぅん!」
非常にパワフルな叫びと共に、鉄球が投げられる。
しかし、俺はすでに防御魔法を展開している!
ギュウキ様の方と背面は、ばっちりカバーしているのだ!
「当たらないですよ!」
「それはどうかな?」
頭頂部に何かが命中していた。
俺は一瞬で気絶し、そのままベルトコンベアに乗って、後方の針に貫かれていた。
「これぞ我が秘技……アイアンフォークボール!」
鉄球の軌道を、曲げるなんてこと、できたんだ……。
「見事だぞ、ギュウキ」
「光栄です、魔王様」
針で貫かれたままの俺は、魔王様から褒められているギュウキ様を恨めしく見ていた。
なんで一回ぐらい、俺の防御魔法のすごいところを見せてくれないのだろうか……。
そして今更のように俺は思い出していた。
そうだ、魔王様ほどじゃないとしても、ギュウキ様だってとんでもなく強いんだった……。




