7.引きこもり中
はあ…殺してしまった…クイジさんを…人を…。
どうしよう、見つかったら。
見つかったら、私はきっと、殺されてしまう……!
「…ねぇねぇ、知ってる?」
何の話だろう?
「近くで、人が殺されていたらしいわよ。しかもナイフで!」
「ナイフで殺されていたんですか?…物騒ですね、最近」
───見つかった…大変だ…!もし、私だと、ばれてしまったら……!
嫌だっ、死にたくない…外に、出たくない…シャル…っ!
***
怖い、怖い、怖い。
外に出るのが怖い。
クイジさんとのあの一件があり、外がものすごく怖い……!
「いやだ、もう人を殺したくないっ…怖いよ…」
あの時は、どうでもよくて、何も考えてなくて…!私が私じゃないみたいだった…!
もう嫌だ…!
クイジさんを殺してしまったから…!だから、怖い。
また、私が私じゃなくなるんじゃないかって…!
「やだやだ、怖いよ……っ!」
『そんなことないよ』
誰?怖い…嫌だ…っ!答えを……知りたくない……っ!
また、殺すの?…人を。
『違うよ、ルナ』
「!?」
どうして、私の名前を…嫌だ、出てってよっ!!知らない。
誰も知らない!
『ルナ、僕はシャル。覚えてるかい?』
「…シャル……私の、家族。私のたった一人の…家族…!」
すぐに顔を上げて、目の前にいる者が誰か確かめる。
シャルに似た、紫水晶の瞳の瞳を持つ狼。
『そうさ』
私が拾った、狼の子。
犬だと思っていたら狼だった。
利口だから、可愛いから、そのまま飼い続けた。
……でも…シャルは…死んだ。
私はその日から、うるさいのが嫌いになった。
……そうだ、昔の私に戻っただけ。単にただ、戻っただけじゃないの……っ!
『それは違う!』
「何が違うの。シャルは私のただ1人の家族だった!小さい頃に死んだ親なんて、親じゃないっ!ただの他人!……シャルが死んだ日から、私は孤独なの!」
『違うよ、ルナ!僕も拾ってくれた日を覚えてる!だから、ここに来た…外に出よう。僕はそこにいる。早く来てくれ、ルナ…』
「シャルっ!行かないで!」
行ってしまった、外に。
シャル…会いに来てくれた…こんな私に。
……今行くよ、シャル。
***
「シャル…なんで会いに来てくれたの?私に」
私は、シャルが会いに来てくれた理由を知りたい。
今も昔も引きこもり。
ずっとずーっと、私は孤独。
「シャル、答えてよ!もう…行かないで」
『それはできない、ルナ。でも、これを受け取って』
渡されたのは、シャルの瞳のような、美しい紫水晶の塊。
まるで、宝石みたい。
「シャル、これは…?」
『僕の魔石…いつでも呼んで。助けが必要な時だけ。約束』
「シャル…」
消えてしまいそうな…シャル。
私の知ってる、甘えん坊のシャルじゃない。
凛々しい、野生の狼。
でも、心の中は少しだけ甘えん坊の時のシャルと同じ。
『ルナ…僕の魔石は変身ができる。他の人の姿になれるんだ。でも、自分を忘れないでね…』
「シャル……!…ありがとう。また、会えるといいね。どこかで」
『会えるさ。それがある』
…ありがとう、シャル。
そして、サヨナラ。
また会う日まで。
『じゃあ』
「バイバイ、シャル」
一瞬、シャルが微笑んだ気がした。
過去はわかっても、未来まではわからない。
この旅が永遠に続こうとも、乗り越えていく。
それは、誰にでもできる訳じゃない。
私だって、最初からできたんじゃない。
シャルのおかげで、できるんだ。
引きこもり復活です。