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アリスをめぐるミステリー  作者: 大和麻也
新入部員特別号
8/58

2-3 サッカー部新体制

 倉庫のほうも気になるが、おれはそもそも取材をするのが一番の目的である。

 先刻米原先輩が言っていた、期待の新人とやらと会うことになる。その彼は、ウォームアップの一団からひとり外れ、柔軟などをしていた。米原先輩に声をかけられ、彼はこちらを一瞥。その細い眉と茶色の瞳、彫りの深い顔立ちから、一見してダブルだと気が付く。

「こちら内山浪漫(うちやまろまん)。期待の新人サイドバック」

 米原先輩の紹介を受け、新入部員が立ち上がる。

 ……で、でかい!

 これは田崎よりも背が高いに違いない。田崎がおれより十センチほど高いから、この内山というのは一八〇センチ後半、いや、九〇あるかも。

「記事にはばっちりでしょ?」米原先輩がおれに顔を寄せて囁く。「実力はもちろん、ルックスとかも」

 好みなんですか? と冗談半分で訊き返す。

 キミみたいな眼鏡のしょうゆ顔よりはね、と手痛い返答。

 とにかく取材をはじめることにした。米原先輩は練習に残るので、ふたりでグラウンドの外に出る。

「怪我でもしたのか?」

 歩きながら訊いた。練習に参加していなかったし、さっき別メニューだと聞いた。

「疲れが溜まってるらしい。きつい練習は止められてるから、ランニングとストレッチくらいしかできないんだ」

 グラウンドを囲うネットの外側に置かれたベンチに腰掛ける。中で練習している選手たちが見え、こちらを少し気にしている部員もいる。

 しかし、取材はどういうことを訊けばよいのだろう? 部長や安斉先輩はあまり多くは教えてくれなかった。高校生なのだから自分で考えろ、ということか。とにかく、サッカー部の期待の新人として取り上げるのだから、この内山浪漫について詳しく聞いて、書けばよいのだろう。

 取材用に部長から渡されたメモ帳を開く。

「おれも初めてだからちょっと緊張するんだけど……ええと、ダブルなのかって訊いてもいいのか?」

「ああ、そうだよ。母親がヨーロッパ系だから」

「どうりでガタイがいいよな」

「そこは我ながら自慢だな」

「よく知らないで言うのもあれだけど、サイドバックも背が高いと有利なんだろうな」

「そりゃどのポジションでも大きいに越したことはないってば。まあ、監督はフォワードにコンバートするって言ってた」

 体の大きさやその濃い顔とは違って柔らかい印象。先輩マネージャーの言う通り、あらゆるところで注目されそうな部員だ。

「練習できないのにコンバートだけは決まってるんじゃ大変だな」

「その通り」

 と、ため息。

「疲れが溜まって休んでいるんだよな? まだ入部したばかりだし……そんなにきつい練習なのか?」

 浪漫は苦笑いしながら首を振った。

「まだ参加していないからわからない」

「じゃあ、中学のときからの?」

「いま思えばオレの中学って結構まずい練習メニューだったみたい。室戸監督の練習を見ててそう思う」

 ネット越しにちらりとグラウンドを見る。ウォームアップは終わったようだが、まだボールを使った練習はしていないようだ。息も上がって汗だくの部員も見られる。

「体力強化中心って聞いたぞ」

「そうそう。ぶっちゃけ……オレならやりたくないけどな」

 きつそうだ、と浪漫はまた笑った。彼は口も大きく、ぐっと口角が上がり白い歯を覗かせる。

「じゃあ、高校に入って変わった実感はあんまりない?」

「そうだな、それは練習に参加してる奴らに訊いたほうがいいな」

 ここで、ふと思い出したので訊いてみる。

「浪漫は調整中らしいけど、倉庫の片付けはしているのか?」

「ああ、やってるよ。片付けなんて中学一年生のとき以来だな」

「面倒?」

「オレはそうでもないよ。でもみんな嫌だって言ってる。ハードな練習のあとだから」

 この浪漫の話や米原先輩の言葉からすると、一年生だからといって後片付けまでやらされるということは、いままでなかったのだろう。走ることが中心のメニューだってそうに違いない。

 浪漫とは一五分ほど話して、記事のために充分に聞くことができた。中学のころ県大会の決勝まで行ったとか、スポーツ推薦でこの学校に入学しただとか、サッカーのために遠方から親戚の家に下宿しているだとか。

 新聞には写真を撮っておきたかったが、新聞部にはこれが一台しかない。きょうは田崎が使っているから、きょうのところは引き上げることにした。

 その旨を練習中失礼して米原先輩に伝えに行くと、きのう最初に声をかけたときのような低い声で、

「準備不足ね」

 とばっさり。下調べしていないこともバレていて、取材をするなら少しくらい事前に調べておくべきだと叱られた。取材で頭がいっぱいになって、ろくに部長や安斉先輩と話していなかった自分の完全なミスだ。二、三の注意にはい、はい、と素直に頷いた。

 謝りながらなんとか土曜日の練習を見せてもらう約束を取り付け、グラウンドを去ろうというときだった。

「先輩、また怪我です!」

 中沢が叫んで、米原先輩が駆けて行った。

 ミニハードルを使った練習で誰かが転んだらしい。部員たちは苦々しい表情を浮かべていた。

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