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アリスをめぐるミステリー  作者: 大和麻也
文化祭特別号(夏休み取材編)
40/58

7-1 出発

辛島法人(2)――天文部部長

戸川祐未子(2)――天文部員

高橋隆一(2)――天文部員

坂村実保(2)――天文部員

俵(1)――天文部女子部員

留川(1)――天文部男子部員

後藤先生――天文部顧問

宮崎(2)――サイクリング部部長

岡本唯花(1)――生物部員

川崎(1)――生物部員

 夏休み直前特別号の発行は終業式その日だ。

 それが終われば、文化祭特別号――文化祭第二のパンフレットを自称する特大の増刊号の作成が始まる。普段の新聞なら「特別号」と名の付くものであってもせいぜい二週間以内で仕上げるのに対して、文化祭特別号は夏休みのほぼ全期間を費やすまさに「特別」の一号である。

 そこで、新聞部にも合宿がある。

「新聞部に合宿なんてあるの? 何しに行くわけ?」

 出発前夜のうちに荷物を居間に下しておくと、それを目にした風呂上がりの礼奈が疑問を口にした。確かに、キーボードを叩いて作った原稿を印刷して配布するだけの新聞部が、どうしてわざわざ何日も遠出をすることがあろうか。

「新聞部が合宿に行って何をするわけではないけれど、ほかの部の合宿に同行して取材するんだ」

「……はあ?」

「今年は天文部に同行して、天文部の合宿を取材する。文化祭特別号の特集記事のためにな」

 ああ、と礼奈は無理に納得したように頷いた。

 夏の合宿の申請は毎年五月末にある。我が部は申請する部活から抽籤し、前の年度や部活取材との兼ね合いを考慮しつつ取材する部を決定、さらにそこから宿の工面などをしている。それを実現するには非常に高度な折衝を要するのだが、今年は各所での安斉先輩の活躍によって期間ギリギリに取材の承諾と合宿の申請を完遂することができた。

 我が校は一応私立大学の系列校である。その私大も腐っても有名校で、世間にも高校生にもさほど大したところではないと思われているとはいえ、財力と規模においては申し分ない。だから、多くの部活が日本中にある大学の合宿所を利用し、天文部も例外ではない。今回訪れる山奥の合宿所には、小規模ではあるが立派な天文台がある。

 天文部は予算だけでなく気象条件も考慮に入れねばならない。そこで合宿は四泊五日となかなかに長く、新聞部もかなり真剣に予算と相談することになった(最終的に安斉先輩の尽力で解決した)。荷物もそれ相応に多くなり、荷造りだけで汗をかいてしまう。風呂に入りなおしたいくらいだ。

「とにかく」濡れた髪の礼奈がにやにやと笑っている。「一週間兄貴がいないならせいせいするね。パソコンも使い放題だし」

 うちのパソコンは家族共用だ。

「お前だって陸上部が忙しいだろう」

「熱中症対策で夏の活動には制限がかかってるんだよ。さほど忙しかないね」

 礼奈も年齢につれておれと口調が似てきた気がする。おれとて両親に似たのだが。

 しかし、現在礼奈が通う公立中学におれも通っていたが、たった二年でルールが厳しくなっていたとは。人間暑さには弱い。体は壊すし、気が滅入ったりおかしなことを考えたりしがちだ。

「礼奈、お土産にリクエストはあるか?」

「……兄貴がそんなこと言うとか、気持ち悪いんだけど」

 リビングの冷房は肌寒いくらいに効いているはずだ。



 合宿所には、主に電車の乗り継ぎで向かうことになる。

 おれの家や高校の近所も大層な田舎ではあるが、今回の目的地はその比にならない。まさに辺鄙、辺境の地だ。

 集合場所は高校の最寄りの隣の駅、風景が一変して田畑に囲われる一歩手前のターミナル駅である。集合のために進行方向と逆に移動することになるメンバーもいるので、改札の外と内とで二度人数確認をすることになる。外で集まるのはおれと天文部の辛島(からしま)部長、同じく高橋(たかはし)先輩、そして西野先生の四人だけだ。ほか九人は改札を通過した先で待っている。

 集合時刻まではまだ五分以上余裕があったものの、おれは最後の到着だった。

「すみません、大荷物だったので普段より移動時間が長引いてしまって」

 謝意の会釈でぎこちなく挨拶して加わった。おれを含め集合した四人の男性たちは、残らずチェック柄のシャツを着ていた。

「平気、平気。時間通りなんだから。真面目だなぁ」

 穏やかに笑ってくれたのは高橋先輩だ。よく日焼けしていて筋肉質、むしろ運動部員かと見紛うほどである。

「むしろ天文部員のほうが遅れそうだよな」

 振り返って辛島先輩に笑いかけた。腕を組んだ部長は冗談めかして、呆れたような、澄ましたような表情を作って「まったく」と頷いた。彼の角ばった眼鏡は、おれが以前使っていたものとデザインが似ている。

 改札を抜けた先には、約束通り見慣れた顔が並んでいた。三倉部長に安斉先輩、水橋。初めて見る私服姿は新鮮だ。天文部員では、一年生の(たわら)留川(とめかわ)が到着している。その数歩後ろには、西野先生と言葉を交わす天文部顧問の後藤(ごとう)先生。比較的遠方に住んでいる田崎からは、数分の遅刻をするかもしれないという連絡が来ていた。

祐未子(ゆみこ)坂村(さかむら)は?」

 天文部は二年生の女子部員ふたりが未到着らしい。連絡もないそうだ。

「ふたりとも次の電車で着くんじゃないか?」

 高橋先輩が電光掲示板を示しながら言う。数分後に到着する急行に乗っているのではないか、と。ふたりは近所に住んでいるから同じ電車に乗っているはずだとか。おれは田崎がそれに乗って来るという連絡を受けていた。

 ところが、やがて急行が到着して田崎が現れても、下車してきた客の流れの中にそのふたりはいなかった。

「いまどのあたりにいるか訊けたか?」

「いいや、まだ返信がない」

 天文部員はチャットで連絡を試みるが、上手くいかない。田崎は事前に伝えていただけの遅刻だったから、電車が遅れているわけではなさそうだ。

「電車に乗ってたら電話しても出てくれないしな……何もしないでいるより、メールだけでもしてみるか」

 と、辛島先輩が携帯電話を手にしたそのとき、改札の向こうで手を振る二人組の女性が現れた。水色の半袖シャツとジーンズ生地のスカートで快活な印象を与えるショートカットは坂村先輩、対照的に白い襟がアクセントとなった濃紺のワンピースで物静かな雰囲気の戸川(とがわ)先輩だ。十分ほどの遅刻、小走りで合流した。

「ごめん、遅くなって」

 何でも、バスに乗ってきたのだという。

「どうしてバスなんかに? 電車のほうが早いだろうに」

「別に。時間の都合がよかっただけ」

 辛島先輩の問いに坂村先輩が素っ気なく答えた声には、やや冷たくあしらう感があっただろうか。

「あいつ案外根に持ってたんだな」高橋先輩の独り言が耳に入ったので訊いてみると、彼はこっそりと教えてくれた。「友達が旅行するらしいんだけど、合宿と日程が被って行けなかったんだと」

 とにかく集合できたということで、両顧問による点呼ののち、後藤先生から出発の音頭がかけられる。ここから数時間、一三人での旅路だ。

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