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アリスをめぐるミステリー  作者: 大和麻也
新学年特別号
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1-2 新聞部

「新聞部は毎年、新学年特別号、新入部員特別号、五月号、六月号、夏休み直前特別号、文化祭特別号、十月号、十一月号、冬休み直前特別号、一月号、二月号、学年末特別号の一二回、四ページ構成の新聞を作って発行しているんだ。そうそう、特別号では増ページもするぞ。一学期は充実でね、特に文化祭で文化祭特別号を含めた既刊六号を一斉に配布するのは達成感があっていいよ。……あ、申し遅れたけど俺は部長の三倉隼太(みくらはやた)。この学校の文化部では三年生になった時点で引退という伝統のところが多くてね、俺も安斉もそれで部長になったばかりの二年生さ」

 安斉先輩によって連れてこられた新聞部。机に腰かけた二年生がつらつらと部活の紹介を語った。これほど熱弁するあたり、あらかじめ一年生が来たら話すことを決めていたのかもしれない。よほど部員が少ないのか。

 新聞部の部屋はちょうど文芸部の真下にあった。部室の中は「散らかっている」というのが正直な印象で、部屋の中央の長机には薄汚い水色のクロスがかかり、紙が散乱している。ただ、散らかっているだけで設備自体はなかなかよいらしく、書き込みと磁石でいっぱいの大きなホワイトボードのほか、ガラス窓付きの背の高い棚――中身は紙だらけだが――も並んでいるし、窓際には事務机がふたつ並んでデスクトップパソコンが二台設置されている。その傍にはプリンターも。

 一通りの紹介が終わったところで、ホワイトボードを興味なさそうに見つめていた安斉先輩が口を挟む。

「三倉、その一年生、アリスに反応した最初の生徒だよ。さっき文芸部で訊いてきた」

 それを聞いた三倉部長は部活の紹介をストップする。

「本当か? それは朗報だ」

 すると跳ねるように机を降り、綿の飛び出たパイプ椅子に腰かけていたおれのほうに歩み寄ってくる。おれより背は低そうだ。

「星宮アリスは新聞部でも謎の存在でね。何か知っている人がいないかと思っていたところさ」

 部長の言葉にただ、はあ、と漏れる。それは矢継ぎ早の三倉先輩の語り口や唐突に本題に突入したことへと困惑とともに、文芸部に続いて新聞部でもアリスに関する有力な情報はないのか、という落胆の表れでもある。

「キミは星宮アリスに関心を示した。つまり少なくともうちの新聞を見てはくれたようだね」

「ええ、まあ」

 三倉部長はにっと口角を吊り上げた。先刻の安斉先輩のように、おれを見透かしているように。

「安斉、この一年生クンは、文芸部で星宮アリスのことを何て言って聞いてきたんだ?」

 部長の問いに、安斉先輩は欠伸でもしたいように応じる。

「これは部員のペンネームなのか、だって。そうそう、その一年生、名前は岩出諒っていうんだって」

「うん、なるほどね。わかった」

 再びおれと視線を合わせる。

「じゃあ、岩出。ひょっとして星宮アリスに関係するモノを持っていないか?」

 どきりとした。文芸部から新聞部まで歩くあいだにAlice Memoと新学年特別号は鞄に仕舞った。Alice Memoを本人に直接会ってそっと内密に返すには、できるだけこれを持っていることは誰にも知られたくなかったのだが、まさか三倉部長がそれを見もせずに言い当ててくるとは。

 かといって秘密にすると決めたのだから黙っていると、三倉部長のほうからその指摘の根拠を語りはじめる。

「実は星宮アリスはとてもガードが固くてね。新聞部にメールで原稿を送ってくれるのはいいけれど、その素性については明かしてくれそうにないし、何を聞いても返信はない。一方的に原稿を送るだけ。だから、岩出がその星宮アリスに興味を抱くなら間違いなく新聞から。でも、新聞を見ていきなり星宮アリスに関心を持つのはそれほど考えられるケースじゃないし、しかも先に文芸部に行って『ペンネームか』と尋ねるということは、星宮アリスがいわば小説家であり、架空の名前であることを、岩出は元々知っていたということになる。本人である可能性はとりあえずないとして、それなら、星宮アリスの存在を示す手がかりを持っているか見たかでないとね」

 まあ、岩出が例外的な人物でなければだけど、と付け足して締めくくった。

 この話からふたつ驚いていた。ひとつは当然、言い当てられたこと。もうひとつは、実際にアリスがAlice Memoにあるように「メールでしか応対しない」ということだ。

「まあ、事情はどうあれ星宮アリスを探しているなら手伝う。それには新聞部員であることが一番手っ取り早いぞ、ということだ」

 三倉先輩はおれの近くから二、三歩離れ、また机に腰かけた。

 確かに、アリスは新聞部員としか連絡を取らないらしい。そのメール上でも無駄な話はしないようだが、Alice Memoを紛失しているはずのアリスならば、おれがそれを持っていると伝えればあるいは何か答えてくれるかもしれない。

 しかし、新聞部に入部するにはもう少し決め手がほしい。連絡が可能になっただけではアリスと出会えるかは不透明だし、その確証がなければ新聞部の活動も中途半端になってしまう。それはよくない。

 考えるふうをして、目の前にあった新聞を手に取る。昨年度の二月号だった。ぱらぱらと捲ってみると、目についた。

「部活紹介……」

 それは女子バスケットボール部の特集だった。毎号ひとつ、部活を取材するらしい。

 そうか、アリスはAlice Memo上の人格で構成された架空の人物。アリスは部活動をしていないと設定されているが、それを演じたり装ったりする「本体」のほうは何かしらの部活に所属しているかもしれない。それに、部活紹介によって人脈が広がれば、アリスにも近づけるかもしれない。

「そうだな、入部してくれるなら、星宮アリス探しと部活紹介のページは岩出に任せよう。俺たちも星宮アリスに興味があるのは確かだが、いまは俺と安斉しか部員がいないから、部の存続にも人手が必要なんだ。もちろん、岩出が新聞作成に関心があって、部員として必要なことをやってくれるなら、の話だが」

 …………。

「わかりました、やりましょう」

 三倉部長が白い歯を見せた。

「そうか、それはありがたい。やってくれるな? 星宮アリス探しも、部活紹介も」

「はい。やるからには本気で」

 こうして、新聞部員としてのアリス探しの高校生活がはじまった。


「新聞部へようこそ」

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