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アリスをめぐるミステリー  作者: 大和麻也
夏休み直前特別号
33/58

6-1 校外取材

前有彩(2)――アニメ文化部部長

藤岡理恵子(2)――アニメ文化部副部長

槙枝望(2)――漫画部員

吉寺修二(1)――アニメ文化部員

大和田英雄(1)――アニメ文化部員

楠神周(1)――漫画、アニメ文化部員

「岩出って新聞部員として損してるよね」

 期末テストの終了と梅雨明けによってぐっと暑さの実感が増してきたころ、おれは水橋からそう指摘された。

「おれがどう損をしているんだ?」

 メールのチェックをしていたパソコンの画面から顔を上げ、水橋と向かい合う。

 彼女は大袈裟なため息をひとつ。腰に両手を置いて、諭すように言う。

「だって、校外取材に一度も出かけないじゃない。新聞部といえばそういう貴重な出会いを重ねることが醍醐味でしょうに」

「確かにおれは校外の取材に同行したことはないし、水橋の考えも一理あるとは思うが、だからって損をしているというのはちょっと。おれは第一目的としてアリスを探しているんだし、それに部活動巡りでいろいろな生徒に会っているんだから」

 そうかなあ、と水橋は首を傾ぐ。元よりおれをからかうつもりしかないようだ。

「岩出が新聞部に入った目的は星宮アリス。でも、そのせいで新聞部ならではのことをできないんじゃ、損をしているのと同じでしょ」

「じゃあ、水橋は校外取材をしたくて新聞部に入ったのか?」

 首肯。

 テスト最終日のきょうは、日程の都合上まだ部室に三倉先輩と安斉先輩は現れていない。自然、一年生どうしが語らう雰囲気となり、おれは同席していた田崎にも話を振った。田崎が新聞部に入ったのはなぜか、と。

「僕はボランティア部がメインのつもりだから、役に立つかなって」

 田崎は新聞部のほかにボランティア部とパソコン部にも所属しており、文化部を複数掛け持ちする、この学校の典型的な生徒と言えるだろう。水橋も西野先生とよほど親しいのか英語部にも入部しており、新聞部で兼部をしていないのはおれと三倉部長だけである。

 田崎の回答を得た水橋は、ほらね、とおれを煽る。

「それに、岩出は星宮アリスの手がかりをどれくらい掴んだっていうのさ」

 返す言葉もない。

 とはいえおれの腹の中には、やはりアリスは新聞部員なのではないかという考えがある。アリスの新聞部への順応の度合いからすれば、それが一番合理的なはずだ。連載が二年目に入ったことを考えると当然三倉部長や安斉先輩への疑いも増すが、推薦入試のときにAlice Memoを拾ったことを考慮に入れると演者が中学三年生のころからアリスはアリスであったとも考えられ、水橋や田崎だって候補となる。

 でも、そうやって解釈が拡大していく限りアリスに至ることはできない。四月から進展していないと言われても甘んじて受け入れるほかないのだ。

「そう言われると、校外取材も行ったほうがいいのかも」

 水橋は満足げに大きく頷いた。暑いからと束ねた髪が揺れる。

 そのとき、校舎のほうからチャイムが聞こえてくる。二年生のテストもたったいま終了したのだ。



「それにしたって、岩出が本当に来るとは思わなかった」

 水橋は薄ら笑いを浮かべてそう言った。

 日曜日、新聞部は校外取材に出かけた。取材をするのは名の知れた出版社の広報を務める人で、西野先生の大学時代からの付き合いということでプライベートな時間まで割いてくれた。

 その帰り道、華美な夏の装いの人々で込み合う電車の中で、制服姿の高校生の一団が揺られていた。

「岩出が変なところで真面目なのもいまに始まった話じゃないけどね」

 安斉先輩が乗っかっておれをからかう。

 こうして校外取材に同行したのも、売り言葉に買い言葉だったことは否定できない。

「いやいや、それはそうですけど」おれが言い返す時間も与えず、水橋が安斉先輩に応じる。「それこそ、真面目さのあまり『取材に行っている暇はない』なんて言いかねませんから」

 真面目、真面目と言われるのはいつものことだが、それを笑う水橋や安斉先輩につられて、部長や田崎までもが口を押えて肩を揺らしているのを見るのは、何度同じ場面になっても口を尖らせたくなる。

 おれが急に校外取材に行くと言い出したのにも、水橋に言われたというほかにもっと真っ当な理由がある。おれは夏休み直前特別号において偶然にも「アニメ文化部」の取材が決まっており、今回の校外取材は非常にいいタイミングだったのだ。

 きのうのうちにアニメ文化部を訪れておいたのだが、取材先が中高校生に人気の漫画雑誌『週刊ダッシュ』の広報担当者だと聞いた途端、案の定部員たちは目の色を変えた。『ダッシュ』の作品は現在までに数多くアニメ化されている、と今回取材させてくれた方が言っていた。

 とはいえ、ファンレターを渡してくれないかと頼まれるなんて思いもしなかった。彼らは一時間も内容を悩み、書き上げるまでおれはずっと待たされていた。先方はおれが何通ものファンレターを持ってきたものだから目を丸くしていたが、無事届けることを約束して受け取ってくれた。

 ――部活の取材に役立てる、ファンレターを届けるという理由を聞いたら、水橋たちはなおのこと「真面目すぎる」と言って笑うことだろう。

「まあ、コンタクトにしてから見た目は真面目すぎなくなったね」

 こちらを振り返った水橋は、もはや笑い疲れているふうだ。

 …………。

 我慢、我慢。

 乗り換えの都合で、ターミナル駅で新聞部員は解散した。

 おれひとり、この駅の駐輪場に停めておいた自転車で帰ることになる。ここから一駅のところに学校があり、その学校の近場に住んでいるのは新聞部員の中でおれだけなのだ。

 家路が同じ方角の部員たちはまだおれのことで笑うのだろうな、と思いつつ駐輪場へ向かうため一度駅を出ようとしていると、その脇にあるガラス張りのハンバーガーショップの店内がふと目についた。知り合いがそこからおれに手を振っていたのだ。

 これでは目立ってしまう、と思って仕方なくおれはそちらに向かった。

(まえ)先輩、そういうことはしないでください」

 おれを呼んだのは、ビビットピンクのフレームの眼鏡にポニーテールの二年生、アニメ文化部部長である。彼女たち五人組はカウンター席を一列に陣取っていた。

「嫌だなあ、諒くんこそ。有紗(ありさ)先輩と呼んでって言ったじゃないか」

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