表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリスをめぐるミステリー  作者: 大和麻也
新学年特別号
3/58

1-1 文芸部

岩出諒(1)――主人公、語り。新聞部員

星宮アリス――架空の女子生徒

三倉隼太(2)――新聞部部長

安斉直巳(2)――新聞部員、文芸部部長

水橋(1)――新聞部員の女子生徒、英語部員

田崎(1)――新聞部員の男子生徒、パソコン部員、ボランティア部員

西野先生――新聞部および英語部の顧問

岩出礼奈――諒の妹。中学二年生


※()の数字は高校の学年

※この一覧のみ全編共通の登場人物

『星宮アリス Hoshimiya Alice

 ・在校生の女子生徒

 ・部活には所属していない

 ・メールでしか応対しない。また、新聞部としての連絡以外にも応えない

 ・常に丁寧語で話す

 ・一人称は「自分」

 ・小説は書くのも読むのも好きだが、自ら語ることはほとんどない

 ・「時間厳守」を自分にも他人にも厳しく律している

 ・約束は「破らない、破らせない」が信条

 ・疑問は積極的に口にする

 ・「真面目」こそ自分の長所でありたいと思っている

 ・どちらかといえば性善説を信じている

 ・何事も下準備をしっかりとしておきたいと考えていて、やや融通が利かない

 ・努力は人に見えないところでするものだと思っている

 ・論理的整合性を重視するが、自分の好みについては直感的な面もある

 ・自分がちゃんとできることは、他の人にもちゃんとやってもらいたい』



 星宮アリス――

 彼女は小さなノートに箇条書きされた一五項目によってまとめられていた。

 校内新聞に掲載されている小説『手紙を開くとき』を執筆するための「ペンネーム」であると、普通なら思っただろう。ただおれはそう思わない。Alice Memoに記された彼女の為人を読んだのだ。

 入試のときに拾ったこの小さなノート。持ち主がわからず、急いでいてつい持ち出してしまったが、これが小説のいわゆるネタ帳であると踏んだのは正解であった。ノートの一ページめ――アリスの人格が記されたページ――には興味をそそられるが、その先の記述を見ると、明らかに小説の題材となる舞台や設定、登場人物などがタイトルとともに記されていた。だから、星宮アリスの名前を見つけるには、生徒が書く小説を載せた何かしらを探せばよくて、実際に校内新聞の「新学年特別号」で発見できた。

 記述は雑然としているが、筆跡から何となく女子生徒であるとは伝わってくる。そこで、文芸部員の女子だろうと当たりを付けた。

 部室棟は新一年生にとっては未知の領域。顔も知らない上級生が忙しく行き来し、体験入部をしようとうろついている一年生たちもあたふたとしている。その中でも確固とした目的を持つおれは案内図を確認し、迷いのない足取りで階段を上る。

 息を上げながら、五階まで辿り着く。

 呼吸を整えつつ文芸部の部室の前に立った。

 中からは何人かの女子生徒の声が聞こえてくる。ノックを躊躇ってしまう。一度躊躇いだすといろいろな不安を思い出す。そもそもこうして文芸部を訪ねるのはAlice Memoを返却するため、なおかつ自分の足で訪ねるのは、小説のネタ帳というデリケートなものの返却には本人と会うのが一番よいと考えたから。だが、複数人の部員がいるこの部室に入り、「ノートを返しに来ました」では結局のところ不特定多数に「アリスは誰ですか?」と訊くのと変わらない――いままでの配慮が水の泡だ。

 やはり持ち主を特定するまでおれが持っていようか。いや、それでは時期が遅くなってしまい失礼だ。自分がせめぎ合う。

「何をしているの?」

 にわかに声をかけられ、はっとして振り返る。同時にさっとノートを後ろ手に持ち替えて隠す。

 声をかけてきた女子生徒は、黒髪のセミショートが穏やかな印象を与えるのとは裏腹に、目つきは少しきつい。雰囲気といい、態度といい、上級生のようだ。何をしているかと問われただけなのに、つい緊張してしまう。

「ああ、いや……別に」

 結局まともに答えられなかった。

「体験入部? 文芸部なら私が部長だから、用事があったら遠慮なく言ってほしいのだけれど」

 ますます緊張が増してしまう。

「ええと……やっぱり何でもありません」

「そう?」

「はい」

「じゃあ、そこ通して。中に入るから」

「あ、……失礼しました」

 さばさばとした物言い。先輩だからというよりも、この先輩だからこそ、妙な恐れとでもいうべきものを感じてしまう。いや、むしろ「畏れ」だろうか。

 自分は身を引いて、彼女がドアノブに触れたとき、これではだめだと意を決し、尋ねてみる。

「あの」

「何? やっぱり何かあるの?」

「その……星宮アリスって、ここの部員さんのペンネームですか?」

 文芸部部長はきょとんとする。一年生の男子生徒が部活そのものよりも部員のほうに関心を示したのだから、面食らって当然だろう。

 彼女は次に、にやりと笑う表情を浮かべた。

「ああ、なるほど。ちょっとわかった」

 そう言うと、手をかけていたドアノブを回した。おれの質問を無視されたのかと一瞬思ったが、そうではない。彼女は中の部員たち――四人いた――に問いかけたのだ。

「ペンネーム星宮アリスさん、手を挙げて」

 すると、部員たちはさっきの部長と同じように、きょとん。おれ自身もきょとん、だ。

 部長は中の四人にちょっと用事ができたと言い、ドアを閉めた。そして、また言葉を失っているおれに向かい合った。

「この通り、星宮アリスはうちの部員にはいない」

 …………。

「でも、まあ……とにかく、こっちにおいで」

 そう言って小さく手招きし、階段のほうへと歩き出す。おれは呆然と三歩ほど見送ってしまったが、すぐに身を翻して早足に追った。

 部長は歩きつつ、肩越しにおれに話す。

「文芸部では部長だけど、新聞部員でもあるの。アリスに関しては、そっちのほうが詳しいから」

「はあ……」

「私、安斉直巳(あんざいなおみ)。二年。君は?」

 階段に差し掛かったとき、薄暗い照明を彼女の黒髪がちらっと反射した。凛としたその先輩の背中を見、今後長い付き合いになるのではないかと直感する。だから名乗ったのかもしれない。踊り場に差し掛かって、ようやく自分もそれを示す。

「一年生、岩出諒(いわでりょう)です」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ