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4-1 料理部の看板娘

宮村ひとみ(1)――料理部員

秋津みどり(1)――料理部員

野々村果歩(2)――料理部員

進藤亜妃(3)――料理、文芸部員

小林涼子(3)――料理部部長

城崎美優――卒業生、料理部前部長

玉田先生――料理部顧問

 まもなく梅雨入りという時期になった。

 ここ最近雨が多く、きょうも弱い雨が降り続いている。気温もぐっと上がってきたので蒸し暑く、とはいえ雨に濡れると体が冷えるものだから、夏服の生徒たちはワイシャツを長袖にしたりセーターやカーディガンを着たりと各々体温調節に苦慮している。

 おれも長袖のシャツにベストを着て登校する日が多い。最近髪を切ったこともあってか、朝の支度をして出かけようとしたとき礼奈から「新聞記者っぽくなってきたじゃん」とからかわれた。だからというわけではないが、眼鏡の度が合わなくなってきたし保証期間も切れているので、調節ついでにコンタクトレンズに変えようかと考えている。

 アリス探しは、先方が相変わらずなのでこれといって進展はない。小説も計画通りに進められていて、アリスの正体を掴むどころか、Alice Memoの記述がなければ人間味すらも感じられないくらいだ。

 ただし、少し実験をしてみた。

 アリスは常に、原稿を新聞部の小説欄ぴったりに仕上げて送ってくる。新聞部は文書作成ソフトを用いたレイアウトを使っているので、パソコンを扱えればぴったりに文章を作ることは不可能ではない。でも、簡単ではないはずだ。

 おれは何度か実験をした。生徒会が作っている新聞の記事とまったく同じ文章ファイルを作ることを試みたのだ。書式を推測し、記事を書き写す。画像の入っていないページで三ページほど試したが、段落がずれる、一ページに収まらない、フォントや文字サイズによって完成が異なるなど問題が続出した。

 結果は、おれの視力を余計に低下させただけであった。

 おれ自身パソコンの扱いは基本的なものならほとんど何でもできるという自負がある。それでもうまくいかなかったのだから、アリスの正体についてある程度の絞り込みができる――パソコンが相当得意で本当にレイアウトをコピーできてしまうか、新聞部に所属する、あるいは所属したことのある人物ということになる。

 この新たな考えについては部員たちには話さないことにした。万一おれの推測が当たっていて、新聞部内にアリスがいたとしたら、警戒されてしまう。とはいえ、部長なら最初からこのくらいの絞り込みをしていたかもしれない。

 おれと部長とでふたりきりだった部室に、ほかの三人の部員がやってきた。ミーティングの時間である。

 つい、四人の様子をちらちらと横目で窺ってしまう。

 この部員たちにも、アリスである可能性がある。

 いや、もとより全生徒にアリスの可能性があるのは確かだし、そう考えてきたのだが、それがごく身近な人物に有力候補がいるとなると胸が高鳴る。それが事実なら話が簡単すぎる気もするし、だからこそ強固に隠匿されてきたとも考えられる。

 まだ五里霧中だ、と心の中で首を振って会議に集中する。

 校外取材の段取りも伝えられ、おれは部活特集の籤を引いた。

「料理部か」

 クラスメイトや知り合いに料理部員はいないが、家庭科室前に活動中の写真が何枚か貼られているのを見たことがある。料理部は新聞部と同じくこの学校に典型的な部活動で、活発なあまり部活が乱立した結果部員が集まらずに数人で活動している文化部のひとつである。抽籤ではどうしてもそういう部活に当たりがちだ。

 リストによると、今年の部員は十人、全員が女子部員だそうだ。取材は週末になりそうで、西野先生が取り付けてくれた校外取材には今回も行けないとわかった。

「それにしても、女子部員ばかりではアポも取りにくいですね。顧問の玉田(たまだ)先生とも面識がありませんし。また安斉先輩にお願いしてもいいですか?」

 任せといて、と安斉先輩が頷いた。料理部には幼馴染がいるからメールひとつで約束を取り付けられるだろう、と。

 料理部と聞いて反応する部員はもうひとり、水橋だ。

「クラスメイトの宮村(みやむら)ひとみって子がいるんだけど、すごくかわいいから、楽しみにしておいて」

「それは別に……」

 それよりもアリスのヒントに出会えるほうがありがたい。

 ふと窓の外に目を向けるといつの間にか雨が止んでいた。



 料理部が部室として使っている家庭科室は、特別教室棟の二階西側にある。授業で調理実習をしたことはまだないが、東側三階に化学実験室があるために「水道から怪しいものが流れて来る」などと笑われている部屋だ。

 活動は水曜日と土曜日。水曜日はミーティングで、土曜日に調理する献立を決めるのだそうだ。必要に応じて、金曜日に買い出しをする。

 躊躇いながら家庭科室をノックすると、部長の小林(こばやし)先輩が応じてくれた。おれの取材に合わせてまだ活動をはじめないでいてくれたとかで、九人の女子部員が団欒して過ごしていた。エプロンをした女子ばかりの空間には戸惑ってしまう。

 ひとり休んでいるのだろうか、などと考えながら視線のやりどころに困っていると、ほかの部員たちも来客に気が付いて何人かが集まってくる。二年に一度しか取材されるチャンスがない新聞部のルールのため、多くの生徒にとって取材は珍しいものだ。料理部は小規模だからよっぽどその心象が強いのか、いろいろと茶化される。おれを一目見て新聞部っぽいだとか、料理部に取材するようなことなんてないだとか、こういうことを書いてくれだとか。

 その中で、「取材するなら看板娘の宮村ひとみで決まりだ」と一年生のひとりが言い、ほかの部員の肩を掴んで前に押し出した。

「ちょっと、みどりちゃん!」

 抗議の声に、その宮村ひとみを振り返る。水橋からも聞いた名前だと思い出しつつ、目の焦点を合わせた瞬間、おれは言葉を失った。


 ――だって、こんなにかわいいだなんて思いもしないじゃないか。

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