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アリスをめぐるミステリー  作者: 大和麻也
アリスの小説
19/58

第三回 噂

五月号掲載


『手紙を開くとき』

星宮アリス

 思った通りだ、と美穂は考えた。

 このみが早い時間に集まりを抜けてしてしまうのは仕方がないことと思っていたが、これまでの制作の様子をよくよく振り返ってみれば、直登はほとんど毎回のようにこのみの退出直後に帰宅している。

 そのことを正樹にも訊いてみたことがある。正樹も正樹で納得がいかない表情を浮かべて、

「確かこのみが塾に行くとき、駅のほうに行くんじゃなかったか? そうすると、直登と同じ方向に歩くことになるんだ。俺もその道で帰っているから、たぶんそうだと思う」

 と話したのだった。そのときは美穂も正樹も、ふたりの関係に変化があったのではないかと考えてこそいたが、互いに口にはしなかった。

 それでも、何かが一歩一歩進んでいる。このみは少々無理にでも制作に協力することが増えていった。そうしているとき、ふと浮かない顔をすることがある。そして、ちらちらと直登を気にしているように見える。美穂と正樹はそう感じていた。

「なあ、このシーンに用意しなきゃいけないのはこれでよかったか?」

 直登が映画の進行について声をかけてようやく、正樹ははっとして気持ちが制作に戻ってきた。

 それは主人公の男女が手紙を交換するシーンに使う手紙の相談で、直登とこのみが一緒に撮影することが少なかったために、直登がひとりで演じた際に使った封筒と今回撮影するそれ以前のシーンの封筒とを一致させる必要があった。封筒や便箋は物語上かなりややこしくなっていたが、問題はすぐに解決した。

 直登とこのみが手紙を手にして位置につく。ところが、

「ああ、また動かないぞ」

 とまさに撮影を再開しようというところで、カメラの具合が悪くなってしまう。

 カメラに駆け寄り手に取って見るのは圭介(けいすけ)で、高価なカメラを快く貸してくれた持ち主でもある。ここのところカメラは不調が続いていた。

「なあ、ちゃんと手入れしてくれているのか? 自分でも滅多に見たのことのないエラーがしょっちゅう出てくるぞ」

「悪いな、貸してくれているのに」正樹が手を合わせる。「手入れはちゃんとしているつもりなんだけど」

 圭介は唇を尖らせながら、その場で不調を修正して何とか撮影を乗り切った。

 撮影を開始したばかりのときより、ずっと作業は順調になっていた。何よりこのみの参加が増えたからだ。ところがそうして作業がどんどん進んでいくことによってカメラの不調をはじめとする問題が発生しはじめていた。

 特に深刻だったのが、台本の問題だった。

「この愛羅のシーン、お話に入れるのは素敵だと思うんだけど、これだと辻褄が合わないシーンがあるんだよね。どうすればいいと思う?」

「そうはいっても……私は台本のことよくわからないし」

 美穂と愛羅はしばしばふたり並んで香織に相談を持ち掛けるが、香織は撮影当初と変わらず自分の小説が映画となることに無関心だ。彼女が本当は改変に憤っているのではないか、と不安でならない。それは正樹が圭介に気を遣うのとまったく同じである。

 そして、撮影解散後の遅刻した予備校へと急ぐこのみと、それを追うかのように駆けていく直登がメンバーの間でも評判になっていた。それは当然、ふたりの関係を疑うものであり、中には、直登がこのみを相手役に指名したのははじめからそうした下心があったからではないかという噂まで立ちはじめていた。そうでなければ、あのやんちゃな直登が物静かなこのみと懇意にするなんて信じられない、と。

 その噂に、普通でなくそわそわと落ち着かない高校生が、ふたり。

【次号に続く】

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