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3-1 ミーティング

岡本唯花(1)――生物部員

中谷一(3)――生物部部長

佐伯優樹菜(2)――生物部副部長、クラス委員

川崎(1)――生物部員

東尾(1)――生物部員、選挙管理委員

二条榛名(2)――生徒会長候補

南憲太郎(2)――選挙管理委員会委員長

北本速人(3)――元生徒会長

梶原先生――生物部顧問

「助かったよ、三倉。調べてくれて」

 五月号に向けたミーティングに出るために部室を訪れると、そこには馴染みのない二年生の男子生徒がいて、部長と親しげに話していた。

「なあに、お安い御用さ」

「それじゃ、俺はこれから最終の打ち合わせがあるから、またな」

 そう残して、見慣れない男子生徒が去っていった。フレームの太い特徴的な眼鏡をかけたその人は、考えてみればどこかで見たことがあるような気がする。そう思って部長に訊く。

「いまのは?」

「選管の委員長の(みなみ)さ」

 思い出した。今週末に控えた生徒会役員選挙の告知を、何日か前の全校朝礼で行っていた人だ。

「ああ、南憲太郎(けんたろう)って先輩でしたっけ? 仲がいいんですか?」

「まあね。投票用紙について調べてほしいと頼まれていたから、その結果を聞きに来ていたんだ」

「投票用紙?」

「今年は会長が信任投票だろう?」

 そういえば立候補者はひとりだった。

「去年は決選投票だったから、今年どういう書式で投票用紙をつくればいいかわからなかったそうだ。おまけに運が悪くて、生徒会室のパソコンが今年度新しくされたとき、データを紛失してしまったんだと」

 それでどうして新聞部に? という疑問をおれの表情から聞いて、部長は続ける。

「新聞部は生徒が作る新聞という新聞すべてを保存しているんだ。具体的にいえば自分たちの新聞と生徒会新聞、ほかにも文化祭のパンフレットや部員の募集ポスター、生徒会が配布する連絡プリントだって集めてある」

 どうりでこの部屋にはやたらと大きくて立派な棚があって、しかもそれが紙で満杯になっているわけだ。

「つまり、そこから過去の投票用紙を探したわけですね?」

「そういうこと。まあ、投票用紙は普通生徒の人数ぴったりに作るからここにも置かれていなくてね。調べに調べた結果、決選投票は六年ぶりのことだったから苦労したよ。結局、投票方法を連絡する一四年前の生徒会のプリントが見つかって、それで南に書式を伝えることができたわけ」

 以前頼めば何でも徹底的に調べると言っていたが、本当にやってくれるのだな。

 その驚きを部長に伝えると、探しモノはこっちのほうが得意だけどね、と手元のタブレット端末を指さしてにっと歯を見せた。

 ところで、と三倉部長が切り出す。

「星宮アリスに関して新しい発見はあったか?」

 これには黙って首を横に振るしかない。おれが出したメールに返信される希望はもうないだろうし、新しくメールを出したらかえって警戒されるかもしれない。Alice Memoの分析を徹底してはいるが、物語の展開を書いただけのそれでは新しい情報へはなかなか広がらない。

 Alice Memoを見せてほしいと言われ、部長に手渡す。

「ううん……」

「何かわかります?」

「これって複数人が書き込んでいるのか?」

 え、と声が上がる。いままでそんなことは考えてもみなかった。

「いや、俺も筆跡を見分ける技術はないから適当な意見なんだが……書き込みの癖があまりにバラバラだからな」

「だって、少なくとも一年間はそれを使っているんでしょう? 昨年の四月からアリスの連載は始まっているんですから。そうなれば、書き方も微妙に違ってくるのでは?」

「まあ、そう考えるのが妥当なのかな?」

「おれにも複数人が書き込んでいるように見えないでもないですから、考えには入れておきます」

 参ったな、とふたりで唸っていると、田崎、水橋、安斉先輩と立て続けに部員が集まってきた。アリスの話を続けるのは諦め、五月号の計画を話し合う。

 まずは部長からだ。

「ええと、新入部員特別号と違って五月号は通常のレイアウトになる。岩出、水橋、田橋はよくよく見て憶えておくように。それから、西野先生がうちの卒業生と約束したから、次の日曜日に校外取材に連れて行ってくれるそうだ。ただちょっと人数がいても仕方がないし困るから、部員は三人くらいにしてほしいんだってさ。おれか安斉は決定として、あとのふたりは――」

 と、言葉を切ったところでおれは小さく手を上げる。

「おれはいいので、田崎と水橋を。どうせおれは校内の部活の取材があるので」

「それがいい」部長は最初からそのつもりだったのだろう、つらつらと続ける。「じゃあ、俺と田崎と水橋とで校外行きは決定だな。校内の記事だが、体育祭の記事は安斉に任せてもいいか? 岩出も安斉も、俺がサポートに回るから」

 それぞれがこくりと頷き役割分担を了承する。

 続いて、例のティッシュ箱を使った抽籤箱が取り出された。部活記事を担当するおれがそれに手を入れ、籤を一枚取り出す。

「生物部ですね」

 生物部といえば、部室として使われている生物室は水槽がたくさんあり、その世話をしている部活だ。何か変わった動物も飼われているのだろうか? とりあえずハムスターがかわいい。

 運動部ではないし、スムーズに取材が進められそうだ。動物の世話やその研究が活動の中心だから、記事のネタもきっとたくさんあるに違いない。部活特集記事を書く正式なスタートとしてはなかなかやりがいがあるだろう。

「生物部のアポイントは誰に取ればいいですか?」

 部活動リストを示し、先輩たちに問う。すると安斉先輩はこう言う。

「それなら、顧問の梶原(かじわら)先生に私からお願いしておくよ。早ければ明日からでも取材をはじめられるから」

「……安斉先輩っていつもアポを取るのが役割なんですか?」

「そんなところ。顔が広いから」

 …………。

 先月目にしたあのできごとを思うと、絶対にそれだけの理由ではない。

 その後、カメラの使用日程やそのほかの雑用などが連絡され、安斉先輩もこれといって伝えたいことはなかったため、ミーティングはそれだけでお開きとなった。

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