とつぜんの鳥の子色
一話の冒頭に戻ります。
クルクさんとイルミさんと離れてしばらく経ってようやくその生活に慣れてきた頃、ボクは兄上さまに呼ばれた。
兄上さまはいまだにボクが兄と呼ぶことに違和感を感じるみたいだ。でも兄上さまの見た目は僕の知ってる大人よりずっと若い。孤児院のおじさんはいつも口の端にいつも深いシワを作って、ボクに笑いかけてくれた。
だから、お顔にシワのない兄上さまを父と呼ぶのは違う気がする。ボクの弟というには兄上さまは大っきいし、だからと言って名前で呼ぶのはなんかイヤだ。
ボクは言葉だけでもいいから、兄上さまと家族だってことをみんなに知らせて回りたいから。
ボクは結局抱っこしてもらって、歩くたびにサラサラと揺れる兄上さまの漆黒の髪を眺めながら、そんな図々しいことを考えていた。
「はじみぇまして、ニーリャ、です」
兄上さまに抱っこされて連れてこられた場所には、髪の短いひとがいた。
この国の服は男女の区別がないし、髪だって男の人も女の人も長くて、あんまり綺麗な龍だとお声を聞くまでわからないこともある。
このひとの声はどちらかというと低い方だけど、ボクよりも幼い子どものようなつたない言葉づかいと、低めの落ち着いた声の差が不思議だった。
でもこのひとを見た瞬間、なんでだかわからないけど、はっきりボクはおねいさんだと思った。
そんなことより、ボクはこのひとの色に興味がひかれて目が離せない。
おねいさんの肌の色は黄色がまざった淡い色で、ボクも含めてこのお城にいる龍のみんなは白っぽい肌の色をしている。ボクが元いた町にいた人はもっと黒っぽかったから、おねいさんの肌の色は今まで見たことない色だった。
おねいさんのお目目もそう。
龍族の瞳っていうのは黄色っぽいのが普通で、それが黄色に近ければ近いほど龍の力が強くて、黄色に近いけどちょっと別の色だったりすると力が弱いんだって。
それの意味がよくわからなくてみんなに聞いたら、龍族は本当は龍人族っていって、人と龍の二つの姿を持つんだって。その龍の姿の時の力の強さが目の色と関係してるらしいけど、どうしてなのか聞いてもボクにはわからなかった。
今はそんなみんなと生活してるし、元の町でもこんな色は見たことなかったから、思わずじぃっと見入っちゃった。
それに気づいたおねいさんは、ボクの方を見て首を小さくかしげた。あ、鼻のあたりにそばかすが見えた。かわいい。
「今本人が紹介したように、この者はニーリャだ。先日こちらにやってきた異世界からの来訪者だ」
おねいさんの座るソファの後ろに立って、夕日色のお兄さんが説明した。…おねいさんに気を取られてていたので気づかなかった。
「この子が昨日の…」
「そうだ。馬鹿なヒトの国の最後の悪あがきで残されていた魔法陣が、何故か昨日発動したようでな」
「四ヶ月近くも経っている筈だが…」
「愚かな者共の考えることなどわからんが、恐らく中途半端に完成していた物が月日と共に魔力を自然に吸収したが為に発動したのだろう。我らに対抗できる存在を呼ぶ為に、な」
「しかもそれが異世界だったとは…」
「ああ、我々は魔法陣のような細い物は使わぬからな。火急な害はないと見て詳細な解析を怠ったのは我らの落ち度だ。このような幼き者を巻き込んでしまうとは…」
兄上に抱っこされたままのボクは、何故か立ったまま話を続ける二人の話に耳を傾ける。でも難しいことばかりで、よくわからない。
わかるのは、いつも以上に夕日色のお兄さんがよく喋ってるってことと、時々背中がゾワゾワってなりそうなくらい怖い目をすること。
こんな夕日色のお兄さんを見るのは初めてで、綺麗な人が感情をむき出しにするとすんごく怖いんだってことがよくわかった。
「それで、アイスターシュを連れて来いといった理由は?」
「ああ、どうやら言葉が解らないようでな。俺が教えたくともひと時も離れずにいるのは難しい。
クルクかライナスに教師役をと思ったが、一人のために独占させるには貴重すぎる人材だからな。まだ子供のアイスターシュも一緒に学べば良いのではと考えた」
「そのお前の独りよがりの考えに乗っかるのは癪だが、こいつもそろそろしっかり勉強させる必要があるとは考えていたからな。良しとしてやる。
どうだ、アイスターシュ。一人より二人の方が勉強も捗ると思うが…」
兄上さまが言うことに反対なんてない。
ボクはうんと頷くだけ。
「よし、決まりだな。アイスターシュ、自己紹介してみろ」
夕日色のお兄さんに言われて、兄上さまから降ろしてもらうと、ボクはおねいさんの座るソファの近くまで歩いていった。
「はじめまして。ボクは、アイスターシュ、です」
おねいさんの黒っぽい瞳にじっと見つめられると、なんかその目に引き込まれちゃいそうになる。
きっと言葉のわからないこのおねいさんは、今ここにいる誰より真剣にボクの話を聞いているからそう思うのかもしれない。
「ア、イス、たあ、ス?」
「アイスターシュ」
「アイス、たあしゅ」
ボク名前、そんなに言いづらいのかな。
「アイス」
おねいさんここだけはちゃんと言えるから。
「アイス?」
「アイス」
これでいいや。こんな呼び方されるの初めて。
ちゃんと言えて嬉しいって表情でおねいさんがボクを何度もアイスって呼んでくれるから、ボクにも気持ちが移ってくるような気がする。
「ニーリャ」
「ニーリャさま」
「ニーリャ」
「ニーリャさま?」
おねいさんが自分を指差してニーリャと名前を紹介してくれるから、ボクもちゃんと呼んでるのに、おねいさんは首を振って何度も名前を繰り返す。
何がダメなの?
「アイスターシュ、ニーリャに“様”をつける必要はないそうだ」
本人の希望だからな、と念を押されたので、様をつけずに呼んでみた。
「ニーリャ」
すると先ほどの笑顔とは比べ元にならないくらいの笑顔で、ニーリャは喜んでくれた。手を差し出してきたので、思わず自分の手を出せば、力強く握られた。
でもそれは痛くなくて、もう一度ニーリャと呼ぶと、繋がれた手がブンブンと振られた。これはちょっとだけ痛かった。
「アイスターシュ、敬語も使わなくて良い。ニーリャは今から言葉を覚えていく為、お前とは日常的な会話を学んだ方が良いだろうからな」
「わかりました」
それで今日のお話はおしまいだった。
勉強会は明日からみたいで、部屋を出るときニーリャに手を振られたから、手を振り返したらまた振り返してもらった。
笑うともっと幼くなるニーリャを見て、色んなニーリャを知る。そうすると、どんどん好きになっていく。それはまるで、贈り物をもらったときみたいなわくわくだった。
「勉強、頑張れよ」
「うん」
「ニーリャと、仲良くやれそうか?」
「うん、仲よくなりたい」
いつものように抱っこしてもらって、ボクのお部屋に戻ってくると、兄上さまと一緒にソファに座ってお話する。
隣に座った兄上さまは、そうかそうか、と嬉しそうにボクの頭を撫でる。
頑張れよ、って言ってもらえたから、ボクは明日の勉強がますます楽しみになった。
「勉強に訓練に料理に掃除、お前は本当に何でも出来るようになるな」
「うん、なりたい」
そうなれば、きっとずっと兄上さまといられるんじゃないかなって思ってるから。
「無理するなよ。お前が体を壊したら俺が一番心配するんだからな」
うん。それが当たり前のことだって、ボクもわかったから。
嬉しいっていうのが少し恥ずかしくて、兄上さまに横から抱きつく。
「それでいい。お前はもっともっと俺に甘えろ」
ぽんぽん、と背中を叩かれる。
こうやってなんでも許してもらえちゃうから、甘えるって自然とできるようになるんだね。
「ところで、さっきはニーリャに“アイス”って呼ばれてたが、それでいいのか?」
「うん、おねいさんならいい」
「え?」
兄上さまが突然驚いた声をあげるから、名前を省略して呼ぶのってだめなことなのかなって思った。
「だめ?」
「いや、そうではなくて、“おねいさん”ってお姉さんか?」
「うん、そうだよ」
どうしたの? と首をかしげる。
「あー、何でもない、うん。気にしなくていいし、お前がいいなら“アイス”で構わない。……後で確認しないとな」
ぽそっと言った言葉は聞こえなかったけど、別に悪いことじゃないってわかってホッとした。
「龍族は名前の長いやつは、親しい間柄なら短くして愛称で呼ぶことが多いから、何もおかしい事はない」
「…ボクは?」
つい、本当につい、そう聞いちゃった。
ボクは、親しい間からじゃないの? ボクにも、そんな愛称がほしい。そう呼んでほしい。
そんな想いを抑えられなくて、ぽろっと出ちゃった。言葉は回収したくてもできないから、困る。
「ああ…」
兄上さまの顔が見たくなくて、顔があげられなくて、兄上さまにきつく抱きつく。
呆れられた顔なんて、見たくない。
「何を恥ずかしがっているんだ。そういう我儘をもっと言えと俺はいつも言っているだろう。
そうだな、お前の愛称か。アイスターシュの名は誰につけてもらったんだ?」
「わかんない。ボク気づいたら孤児院にいて、アイスターシュって呼ばれてたから」
「そうか」
すると兄上さまは、ボクの脇に手を入れ軽々と抱き上げてしまった。
ボクは抵抗する間も無く、気づくと兄上さまの膝の上に乗せられ向かい合っていた。
「我々龍族はな、名前を特に大切にしている。名は龍を表し、家族を表し、国を表す。それほど大切なものだから、家族がそれはもう必死に考えるんだ。
俺らは家族だ。俺だけが呼ぶお前の名を付けてもいいか?」
このお月さまのような黄色い目をボクは何度も見てきた。
ボクに、兄上さまは名前までくれると言う。
家族も、生きることも、その意味も、価値も、とにかく何もかもをくれた兄上さまは、目に見えるここにいていいボクをくれると言う。
龍族にとってとても大切な名前を、僕に考えてくれると言う。
驚きすぎて反応が遅れた。
「嫌か?」
不安そうにお月さまが揺れるのを見て、ボクは首が取れそうなくらい、首を振った。
嫌じゃない。嫌なわけがない!
「そうか。やはりアイスターシュから取りたいよな。アイスはニーリャが呼ぶ名だし…。ターシュ、スティ……どうするか…」
うんうんと悩み始めた兄上さまは、しばらく腕を組んで考えていたけど、部屋で考える、と言ってボクを騎士団のみんなのところに置いて、一人お部屋にこもってしまった。
「名前ねぇ」
「副隊長はチビィには甘いからな」
「今日はもう出てこないだろ」
「そういえば、隊長もヤバかったよな」
「あの他人を寄せ付けない雰囲気が剥がれ落ちてたわ」
訓練の指示を出す前に兄上さまはいなくなってしまったから、みんなは軽く走りながら会話をしている。
ボクはまだまだついていくだけで大変だから、みんなの会話を聞くことしかできない。ペースをボクに合わせて落としてくれてるのに、みんなは文句も言わない。
無理すんなってみんなが頭をなでて励ましてくれる。だから、ボクはもっと頑張ろうって思える。
みんなにとっては軽く流した訓練が終わると、ボクを部屋まで送ってくれた。
その晩の夕食もいつもと同じように兄上さまと一緒に食べたけど、返事がうん…とかああ…、とかばっかりでボクを見てくれてないみたいで、ちょっとさみしかった。
うわの空の様子でございましたね、って寝る前に挨拶に来てくれたクルクさんが言ってた。
どういうこと? ってボクが聞いてもクルクさんは、明日をお楽しみに、って言うだけで優しく頭を撫でて部屋から出て行ってしまった。
「イスタだ!」
朝、兄上さまの大きな声でボクは目が覚めた。
兄上さまに抱き起こされて、ちらりと見たカーテンの先の外はまだ薄暗い。…夜明け前かなぁ。
「…おはよう、ございます、兄上さま」
でも、僕もうちょっと寝たいなぁ。
「聞けイスタ。お前はイスタだ。やはりこれが一番響きが良い」
イスタ、それがボクが兄上さまの家族である証。
寝ないでずっと考えてたのかな。
「うん、ボクはイスタだね。じゃあ、おやすみしよう?」
「ああ、興奮してこんな時間に起こしてしまったのか。すまない」
「うん、兄上さまも、いっしょね」
ベッドに降ろしてくれた兄上さまの袖をシワが付いちゃうくらいつかんで、ボクのベッドに引き込む。兄上さまに用意してもらったボクのベッドは、おっきい兄上さまが寝ても大丈夫なくらい大きい。
いっしょにふとんの中に潜れば、自然とボクはまた眠くなる。
「無理やり起こして悪かったなイスタ。ゆっくり眠れ」
「兄上さまも、おやすみ」
頭を撫でられれば、まぶたが落ちて眠気でふわふわしてくる。
「…ノクタだ。イスタ」
ノクタ…それは兄上さまのお名前でしょ?
「ああ…お前の兄は俺だけだ。俺をノクタと呼べる家族も……イスタだけだ」
ふふ、兄上さま、ボクだけの兄上さまだね。
嬉しくて、笑っちゃった。
「そうだな。お前も俺だけのイスタだ。
…俺も眠るか。お休み、イスタ」
「橙の、九月?」
「そう、ちょうどニーリャがこっちに来たころのことをそう言うの」
「ずっと、空が夕日」
「うん」
ニーリャが来て一年。
ボクが兄上さまに拾われて一年とちょっと。
今は龍族の国の暦で、橙の九月と呼ばれるちょっと特別な時期。
三十日間くらい、ずっと日が沈まずに太陽が夕日色でお空に居続ける期間を橙の九月という。
「夕日は、こわい」
「そう?」
「でも、今のとき? の夕日色はこわくない」
「“とき”じゃなくて時期、かな。橙の九月の“時期”ね。
でもなんで?」
違いなんてない気がする。夕日は夕日だし。
「うんと、夕日のオレンジは夜の黒とまざると、こわい。やみにのまれそう。
でも今は、ちがう。ずっと夕日色。全部。ずっとあたたかい色のまま。だから、こわくないの」
ニーリャは一年で、全く話せない聞いてもわからない状況から、こんなに喋れるようになった。まだわからない言葉もあるし、たどたどしいけど、ボクと話ができるまでになった。
勉強の時間はこうしてニーリャのお部屋でやるようになって一年。机にかじりつくだけじゃなくて、一緒に話す時間も多くなった。
言葉の習得には、ニーリャは随分時間がかかったけど、覚えて話し始めるとニーリャの言ってることは難しいことが多い。
きっと、ボクよりずっと頭がいいんだと思う。
『きっと暖色のままだからそう感じるのかも。逢う魔が時なんていう言葉もあるくらいだし、夜に近づけば近づくほど、闇の深さが強調されて怖いのかな』
「オウマ、ガトキ?」
ニーリャはこうしてときどき自分の言葉で喋ることがある。ボクには全くわからないんだけど、ニーリャといつも一緒にいる夕日色のお兄さんは少しわかるみたい。
「そういえば、アイスのかみ、のびたね。キレイ」
「ニーリャもだよ」
ニーリャの言葉をボクにわかるように説明するのは、きっととても難しいんだと思う。だからこうやって突然話が変わることもよくある。
「銀色で、きらきらしてる」
「ニーリャの髪も、黒くてつやつや」
初めて会ったとき、ニーリャの髪は短かった。
そのせいかわからないけど、ニーリャは最初他の人から男の子だと思われていたみたい。
「おいで。むすんであげる」
ニーリャに呼ばれ鏡台の前に座れば、後ろで結んでいた髪紐が解かれ、ゆっくりボクの髪を梳かしてくれる。
「こんな子を、男の子とまちがえるなんて、ありえない」
「ニーリャも、でしょ」
「わたしは、かみも短かったし、ジャージ着てたし」
“ジャージ”が何かは知らないけど、龍族は男女の外見の差というか、区別はあまりないから、髪の長さとか服装とかあまり関係ないかなってボクは思ってた。
でも、ニーリャのキレイな黒髪がのびて、今みたいに肩くらいの長さになると、もうニーリャは女の子にしか見えない。ボクは初めて見たときからわかってたけどね。
「はい、できた」
正面の鏡を見れば、ボクの髪は頭の上から縄みたいに編まれて、首の両脇に二つ垂れている。
「あ、今日はみつあみだ」
「そう。アイスはかわいいから、なんでも似あう。やりがい、あり」
今度は交代して、ボクがニーリャの髪を梳かす。
ニーリャみたいに器用じゃないから、ボクはただ櫛を入れるだけ。ニーリャの髪は真っ黒で、ニーリャのほんのり黄色っぽい肌にとても合ってる。来たときより薄くなった肌の色は、ますますニーリャをかわいくする。
そうニーリャに言っても、全然本気にしてくれない。だって夕日色のお兄さんもそんなこと言ってたから、ボクだけがそう思ってるんじゃないもん。
でもこんなにかわいいニーリャがボクより七つも年上とは思わなかった。ほんの2、3歳上かと思ってた。
そう言ったら、ニーリャにはもっと下だと思ってたって言われた。
チビだけど、もうボクも十歳だよ、っていうのが、ニーリャが話せるようになってしたボクたちの最初の会話だったと思う。
コンコン、と戸を叩く音が聞こえた。
「どうぞ」
ニーリャが入室を許可すれば、入ってきたのは兄上さまと夕日色のお兄さん。
「さあ、ニーリャ、そろそろお茶の時間ですよ」
「はい、リュカさん」
龍族の衣装に身を包んだニーリャは、差し出された夕日色のお兄さんの手を取って部屋から出で行く。
ボクも兄上さまに手を握られて、ニーリャの部屋の戸を閉めて後をついていく。
二人のお茶の時間は邪魔しちゃダメなんだって兄上さまに言われてるから、ボクらは二人とは途中で別れてボクの部屋に向かう。
夕日色のお兄さんはニーリャとの時間をとっても大切にしてるから、その間何もすることがないボクを兄上さまが相手してくれることになった。それを、悪いボクは実はうれしく思ってる。
だって、兄上さまとゆっくりできる時間が食事の時間以外にも増えたから。
でもこんなこと言うと、兄上さまに悪い子ってバレちゃうから言わないの。
◇◇◇
この一年。
我が家族のイスタの成長を間近で見てきた。
身内の贔屓目があるのは重々承知しているが、こいつは中々優秀だと思う。頭の回転も速いし、観察力もあり他人の機微にも敏い。
身体の方は健康な食事と生活のおかげか、不健康そうな痩せ細った身体からは脱出したが、まだまだ実際の年齢やその精神年齢に身体が追いついていないのが現状だ。
はじめ本人の口から十歳と聞いても到底信じられなかった。
だが、嬉しいことに表情面では大きな成果があった。
ニーリャのような近しい年頃の娘の影響か、口数も増え、緩やかな表情を浮かべるのももう珍しくない。
スフルリュカに溺愛されているせいで、イスタにニーリャと過ごす時間を長く取ってやれないのが残念だが、その分俺がイスタと過ごす時間が増えたのだから良しとしよう。
お待たせいたしました。お楽しみいただけたのなら幸いです。