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 その日は盛大な祭りが行われた。

 人の子の花嫁が、国中に歓迎されたことを示す祭りだった。

 タイヨウに焼かれることのない種族は、擬似タイヨウに興味を示し、我が花嫁が狩人の一族であるということに怯える者も居るが、逆に喜ばしいことだと解釈するものが多数を占めた。

 叶は象徴的な意味で、これ以上無い喜ばしい花嫁だった。

「叶、大丈夫か?」

 人混みで見世物になるのは疲れただろう。

「はい。さっき、精霊族の女の子に花飾りを貰ってしまいました」

 叶は嬉しそうに笑う。

「それはいい。祝福の花飾りだ」

「私にとっては不思議な人ばかりですが、とても興味深いです」

「それは良かった。お前がこの国に留まってくれるのが嬉しくて堪らない」

 そう言って頬に触れれば顔を赤く染める。

「まだ、祭りを見たいか?」

「え?」

「いや、お前さえ良ければ、庭園で薔薇をと思ってな」

 近頃は時間さえあれば叶と庭園で過ごす。私は何よりその時間が好きだ。

「はい、是非」

 叶が笑む。なんと愛らしいことか。

「そうだ、アンにもこの花飾りを見せたいわ」

 叶が言う。ああ、アンのことを話していなかった。

「叶、アンはもう居ない」

「え?」

 叶が驚いたように私を見る。

「お前の世話係を変えたことを言っていなかったな。今はリジーという娘がミナの手伝いをしている」

「どうして? 急に……」

「故郷が恋しくなったと言っていた」

 よくもまぁこんなに嘘ばかり並べられるな。自分で呆れてしまう。

「そう、でも、そうね。異世界の娘の世話に嫌気が差したなんてなんて思われてなくてよかった」

「まさか。誰もそのようなことは考えぬ。誰もがお前を歓迎しているのだから」

 叶の手を引いて抱き寄せる。

「空を飛ぶのは好きだろうか」

「え?」

「ミナに聞いた。飛んだらしいな」

 叶は目を見開く。そしてそれから少し怯えた様子を見せた。

「高いところは苦手です」

「それは残念だ。飛んだほうが速いのだが」

「……私は、飛べませんから」

 ああ、確かに自力で飛べないなら身体を委ねるのは怖いかもしれないな。

「私がお前を落としたりするとでも思うか?」

「そ、それは……思わない、けど……」

「では、私に全て委ねろ」

 叶を抱きかかえる。随分と軽い。

「食事は、足りているのか?」

「エドよりはたくさん食べています」

「私は、別に食事を取っているからな」

「そろそろ何を食べているか教えてくれたっていいんじゃないですか?」

「ダメだ」

 叶は不服そうな顔をする。

 地面を蹴り宙を駆ける。腕の中の叶は微かに震える。

「怖いか」

「少し」

「私を信じろ」

 愛しいお前を傷つけるはずが無い。

 もっと、抱えていたかったが、すぐに目的地に着いてしまう。

「もう少し、このままで居たいのだが……」

「重たいでしょう?」

「軽すぎるくらいだ」

 そもそもの大きさが違う。それも告げられないままだ。

「そこに座ろう。今夜は星も見られるな」

 珍しい。厚い雲が跡形も無い。

「私の居た世界とは星も違うみたいです」

 そう言う叶は少し寂しそうだ。

「私の居た世界では、どこに居ても空がつながっているからと言って別れを惜しむのですが、ここは空もつながっていないみたいで少し寂しいです」

「すまない」

 やはり私が辛い思いをさせてしまっている。

「謝らないで下さい。今、幸せなんですから」

 叶が笑む。

「エドが私を必要としてくださっていることが嬉しくて堪りません。これからもどうかお傍に置いてください」

「当然だ」

 肩を抱き、頬に触れる。

 愛おしくて堪らない。

「私の傍を離れることは許さん。いや、違うな。傍にいて欲しい。お前の命の炎が絶える時まで」

「はい、きっと」

 嬉しい。こんなにも嬉しいことはない。

「お前の命が絶えるその時まで、何よりもお前を一番に想うことを誓おう」

 ゆっくりと唇を重ねる。叶の熱が私の鼓動を蘇らせる。

「私の后は生涯お前一人だ」

「男の人のその言葉だけは信じるなという家訓ですが」

 叶はからかうように言うが、私の想いに偽りなど無い。

「では、この命で誓おう。もし、誓いを破れば私の命はそこで絶える」

「よろしいのですか? そんなことを言って」

「ああ。我が一族と、この薔薇に誓う」

 青い薔薇を一輪手折り、叶の頭に挿す。

 頬を赤く染めた叶と視線が重なる。そして、自然と、引き寄せられるように、再び唇が重なった。

 それは確かに、永遠の愛の誓いだった。

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