序
闇と怨念の国ファントム。
いつからか、この地はそう呼ばれるようになった。外交は殆ど無く、隣国とは常に緊張状態であるこの国もまた他国からの略奪により成り立っている。
血を。血を。
ひたすら血を求める亡者が巣食う永遠の夜の闇に包まれたこの地についに光が。
「なんと……」
喜ばしいこと。
漆黒の聖堂にて一人瞑想をするのは日課だ。しかし、これほどまでに喜ばしい知らせはない。
我が花嫁が現れる。四百年。この四百年待ち続けた我が花嫁が。
まだ、日時はわからぬ。しかし、我が花嫁の姿が確かに我が脳内に浮かんだ。
髪は黒。瞳は鳶色。肌は我々ほどではないが白く、なにより愛らしい顔立ちをしている。私好みだ。少しばかり気が弱そうに見えるが、きっと自分の考えをしっかりと持っている娘だろう。さらに特筆すべきは、人の子の娘であるということだ。
ついに、この国に。人の子が。これほど喜ばしいことは無い。
やっと、長年望んだ人の子との共存。それが叶うのだ。
「ウィル、ウィルはどこだ」
これは真っ先に騎士団長に知らせねばならん。
我が花嫁のために、庭を整えよう。それに、茶会などを楽しめる離宮を与えるのも良い。とにかくこの国に飽きさせず、留まらせることが重要だ。
人の子の娘。我が花嫁。名はなんというのだろう。
早く来い。異界の娘よ。私はお前を待ち続けよう。