RE:プロローグ
三月とはいえまだまだ寒い、コートのポケットに突っ込んだ手で握り拳を作って寒さに耐える。
吐く息は白く、吐き出した二酸化炭素の変わりに取り込んだ空気は、田畑の肥料の匂いがした。
歩道を歩く青年は、バスケをやっていたおかげで170cm後半にまで伸びに伸びた身長を有している。ガタイは良くないが手足は多少ひょろ長い。そのせいで身長以上に背丈がある様に見えたとか。
中学、高校と続けてバスケ部に所属し、部活に学生生活を費やした6年。勉強なんて二の次だった倉見は、大学に行かずに神奈川の専門学校に進学する道を選んだ。選んだ、というよりそれしか道が残されていなかった。部活を引退してからは1つの教科だけ勉強し、受験科目がその1つだけの専門学校を受けた。
都会に出る道を選んだのは、田畑ぐらいしかない田舎である地元でくすぶっているのが嫌になったからだ。都会に出ればビッグになれる。そんな気がしていた。調子に乗って髪も金に染め上げてしまっている。専門学校デビューするつもりだったのか? 過去の自分を問い詰めたい。
「神奈川県っても田舎じゃねぇか」
視界には歩道と車道、その横に立ち並ぶ家しか見えない。人はおろか車すら通らないそんな退屈な道を歩いているのには理由がある。借家から学校までの道を実際に歩いてみると、どれぐらい時間がかかるのかを調べる為だ。学校が始まる前に下見をしておこうという算段だ。
神奈川は高いビルが立ち並び、今時の若者はお洒落な店でたむろする。江ノ島では小麦色した肌のサーファーが、荒れ狂う波を華麗に乗りこなし、水着の似合う美女と戯れる。そんな場所だと思っていた。
ところがどっこい何だこれは、俺の住んでいた場所とそんなに違いがないじゃないか。俺が頭の中で考えていた黄金の未来図は灰色に汚れてしまったよ。これじゃあ地元から出てきた意味があまりないんじゃないのか。
学校が目視できる距離まで歩いたところで、俺は踵を返して歩いてきた道を辿っていく。
下見といっても今日はコレの為に丸一日空けている状態だ。ここまで来るのに電車を数本乗り継いで着てるし、時間がかかった。このまま大人しく帰ってしまうのも癪だから、途中で少し遠回りをして駅に向かう事に決めた。
細道、塀と塀の僅かな隙間、裏道、路地裏。人の利用しなさそうな道を寄り好んで通っていく。ちょっとした冒険気分だ。それでも目新しい物は見つからず、あるのは立ち並ぶ一軒家ぐらいなもんだ。どこまで行っても人の家ばかり。それでもたまに見かける雑貨屋や、地域特有の独特な雰囲気が好きで、更に奥へ奥へと足を運んでしまう。
歩き続けると少し開けた場所に出た。大通りだろうな。そこでは両側に向かい合うように建物が並んでいる。商店街みたいだが、視界に映る範囲にある店は全部シャッターが閉まりきっている。シャッター街と呼ばれる場所なのだと察すると同時に、1店舗のシャッターにA4ぐらいの紙が貼ってあるのに気づいた。
興味を持って近寄って張り紙を読む。
「バイト募集の張り紙か。時給は2千円!?」
思わずマジックで書かれた字を凝視してしまう。滲んで多少くすんではいるが、見間違いではない。確かに二千円と書かれている。
張り紙には右下の方にはここら周囲の地図らしき絵が描かれているが、絵が汚くて読めたもんじゃない。この潰瘍みたいに膿んでいる絵の左にお問い合わせ先の電話番号が書いてある。
すかさずズボンのポケットから取り出したスマホで張り紙の写真を撮る。
このバイトは美味しい、これならこれからの生活で金に困る事はなさそうだ。そう考えると体と心が軽くなる気がした。ルンルン気分で帰路に着いた。
remakeってことでRE。なんか格好良いですね。
説明多めに書き直してみました。これで良かったのかな。