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001 夏の夢

少年はごく普通の夢を見た。

夢を見た。

なんだか知らんが、俺は、これが夢だとはっきり自覚していた。



それは夏祭りの真っ只中で、人という人で賑わっている。俺はそこの歩行者天国に私服で立っていた。浴衣を着た集団。御輿を担ぐ男たち。狐の面をつけて舞う人間。そこに一人で立っていた。

だが、現実の季節は、冬だ。だからこれは夢だと思ったわけだ。

ちょっと季節外れだが、どうせ夢なんだ。折角なら楽しんでやろうじゃねーか、というわけである。

歩きながらよくよく町並みを見てると、結構近所だと言うことが分かった。見慣れたスーパーに、俺の住んでるマンション。よく行くラーメン屋まである。リアルな夢だなあと感心しながら俺は人混みをかき分け進む。屋台から漂ういい香りが俺の鼻をくすぐって行く。

「よっ!」

突然軽快な声で俺を呼び止めたのは、中学時代の級友だった。にっ、と歯を見せて笑うその顔は、当時と全く変わってない。

「元気だったかー?」

「まぁな」

「オマエってそーやって短く返事をするとこ、変わってねーな!」

「お前の歯を見せて笑うところ、かわってねーよ」

お互い様だな、と笑っていると、浴衣姿の女性がこっちへ向かって走ってくる。朝顔が咲き乱れた青い着物が少し風になびく。

「お待たせ」

「おうおう待ってねーよ!」

えへへ、と微笑むその人は……俺の知らない人だ。

「紹介するよ。俺のカノジョ」

「はじめまして」

そう言って軽くお辞儀をするカノジョさんの姿に、思わずこっちも頭を下げてしまう。

「お前……カノジョいたのかよ……」

「まあな。高校からの付き合いさ。オレから告白したんだ。まさか両想いだったなんてなー……あんときは驚いて3回くらい聞き返したもんだぜ!」

「もう……恥ずかしいよっ」

そうやってカノジョさんは顔を真っ赤にして軽く頭をこづく。へへっ、と級友は笑う。あれは反省してないって顔だ。

というか、なんかここにいても二人を邪魔するだけであんまり意味無い気がしてきた。夢なのだからいつ覚めるか分からない。

「じゃあ俺、そろそろ行くな」

「そーか。じゃあなー!」

にっ、と笑って見せ、カノジョさんとしっかり手を繋いで人混みに紛れてしまった。

俺はそれを見届けてからまた歩き出す。正直、あのカップルを見ていると、カノジョの一人も作ったこともなく、そもそも縁の無い俺の心は一瞬にしてダメージを負ったからである。


腕にぶら下がった時計を見る。デジタル時計は20時を示していた。

うーん……何も口にしてないため、小腹が空いてきた。

夢の中でもなにか食べたり飲んだり出来るとするならば、ある意味貴重な体験だと思う。

ポケットに手を突っ込む。金属質の塊が指を掠め、すぐにつかんで取り出す。手を開くと、500と書かれた金色の硬貨がそこにはあった。

よし、なんか買おう。

辺りを見渡す。かき氷の店が視界に入る。300円でシロップかけ放題は得だと判断した俺はその屋台に向かってまっすぐ進む。

屋台の周りには何人かの人がおり、シロップを混ぜようとしたり追加で注文している客もいる。店主はかき氷の機械をぐるぐる回していた。同時に柔らかそうな氷の粒はさらさらとカップの上に降り積もってゆく。

「あのーかき氷……」

それを遮るかのように俺の間に声が被さる。長く下ろされた髪の毛が宙を舞う。

「かき氷ひとつください!」

その横顔を見て俺は思わず声が出ていた。向こうも俺に気づいたのか、笑顔で反応する。

「あっ久しぶりー♪」

いつかどこかでお世話になった、先輩の姿だった。


迷ったあげく、氷だけというかき氷を買った俺は久しぶりにあった先輩と道を歩いていた。食べ歩きはマナー違反だが、こういうときくらい、神様だって許してくれるはずだ。

先輩は高校で知り合った。生徒会に興味はないかとしきりに声をかけられ、結果的に充実した三年間を送ることが出来るきっかけをくれた人物である。真面目で太陽のように明るいその先輩は、今でも全然変わっていないようだ。

オレンジとコーラをかけた先輩はかき氷を頬張りながら、ちょっと濃い味かなーと呟いている。

「最近どうですか?先輩は」

んー、と首をかしげて氷を飲み込む。

「結構充実してるよ。みんな楽しい人ばかりだし。そっちは?」

「俺もそこそこ充実してます。楽しいですよ」

「そりゃあよかった!」

よしよしと満足げに頷きながら俺の頭を撫でる。

「人がたくさんいる所でやらないでくださいよ」

「ごめんごめん♪」

別に嫌なわけでは無いがやっぱり恥ずかしい。変な誤解を招かれても困るからだ。

「そうだ。このあと生徒会メンバーで一緒に花火をするんだけど……一緒に来ない?」

「あーでも、先輩たちの中に混じるのは……」

「大丈夫!何人か誘ってあるから♪」

そう言って俺の手を握って走り出した。

少し長くて暖かい先輩の手は、知らないうちにしっかり握りしめていた。



そこで夢は終わった。

窓の外は、一面の銀世界。

やっぱり夢かと思う気持ちと、もう少し夢の続きを見ていたかった気持ちが混ざりあって、とても変な気分だ。

本当に級友にカノジョはいたのか?

あのとき食べたかき氷の味は本当に氷だけだったのか?

偶然あった、ちょっとだけ気になる先輩は本当に俺の知ってる先輩だったのか?

どうしようもなくよく分からないこの思いは、他人にぶつけたって笑われることは目に見えている。


だけど、次に来る夏は。

きっと、こんな感じで。

夢で体験できなかった花火を、きっとやるんだろうなあと。

想像したら、寒さが少しもどかしくなった。

もはやテスト投稿に近いなにか。

若干実話混じってます。


2014.08.30(土)

着物という単語を浴衣に直しました。

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