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022

くっころ


「あ…が……?」



雷神の未だ何が起こったのかを正確に理解していない呆けた表情はしかし、コンマ一秒すら保つことはなく、すぐさま苦悶に塗りつぶされる。


心臓を突き破る雷霆は苛烈。


生命の象徴たる血液を通電したのは、都市を壊滅させ大地を蒸発させるに十分に足る50ペタジュールに迫るエネルギー量。


その身を循環する血潮を瞬時に沸騰させ、神経系をズタズタに引き裂き、なお荒れ狂う電撃は雷光となって彼の肉体の各所、例えば眼球などから火花のように漏れ出した。


神をも焼き尽くすこの雷霆にこのように肉と霊魂を打ちのめされたのならば、いかに全知全能を誇る最高神とて無事では済まない事は明白である。


ビクンと一度痙攣し硬直した後、全身を焼かれた彼の体は弛緩してドサリと力なく顔から地面に崩れ落ちた。



「あ、うん、その…、すごいところでファンブル出しましたね。いつかやるとは思っていましたが、このタイミングというのは流石に予想外でした」



片翼を失った竜の背より、私はいささか緊張感のない声音であることを自覚しながら、そう所感を述べる。


だって、本当に、このタイミングでやらかすとは思わなかったですから。



「まあ、勝負は時の運といいます。きっと、サイコロの女神さまが今頃腹を抱えて笑っていますよ」



もちろんサイコロの女神など、この結果には一切かかわっていない。というか、そんな知り合いはいない。


そもそも架空の盤上を転がるサイコロを振るのは、そのような無名の神ではなく、名のある3柱の神々である。


すなわち、私がトート神に鋳造を依頼し、そして3柱の神々に助力を願って製作した《サイコロ》は計3つ。


一つはギリシア神話における魔術の女神ヘカテーの神力を込めたもの。


一つはエジプト神話における智慧の神トートの神力を込めたもの。


一つはアブラハムの宗教における天空神エロヒムの神力を込めたもの。


その権能は観測される事象のあらゆる《段階》の直前に、それが成功・失敗するかサイコロの目により判定する…事を強要するというもの。


本来ならば運命を支配する神々に、結果の見えない《サイコロを振らせる》という冒涜的な魔法のサイコロ。


その規則は単純だ。


3つのサイコロを振り、その合計値が一定以上であればその《段階》は成功、一定値以下ならば失敗と判定される。


ただし、《6》のゾロ目が出た場合は大成功、《1》のゾロ目が出た場合は大失敗、すなわちクリティカルが適用される。


なお、判定を行う『頻度』は対象の神性の高さに反比例し、成功値の下限値の大きさはサイコロを振る3柱に対する影響力の高さにより決定される。


さて、今回、このサイコロの効果対象となったのはギリシア神話の最高神ゼウスだ。


彼はギリシア神話の最高神であるために、女神ヘカテーへの影響力が最大値となるため、『公正のため』今回に限り女神ヘカテーはサイコロを振る権限を放棄している。


よって、今回、判定はサイコロ2つで行う特別ルールが適用された。



「確率にして5/6の成功率ですか。流石はギリシアの最高神、レートが厳しかったですね」



流石に、相手は一つの神話体系の最高神。インド・ヨーロッパ語族の神話体系における天空神に起源を有する相手に圧倒的に優位な状況を作るには至らなかった。


バハムートという盾がなければ、瞬殺は免れなかっただろう。


何しろ行為判定の頻度はプランク秒毎から一つの行動に対して1回という低調なものとなり、成功の下限値は5という極めて低い値に留まっていたのだから。



「でもまあ、そんな確率でも回数をこなせば、失敗する期待値も積み上がるわけですし」



成功率が5/6であっても、これを4回繰り返せば、4回全てにおいて成功を出す確率は50%を割る。



「それにしても、外し過ぎじゃないですかね? 感覚的には3回に1回は失敗してましたよ、この主神」



まあ、空中戦において途中で墜落を免れていた事を考えれば、彼は十分に『成功』を出していたと考えるのが妥当だろう。


ともあれ、致命的な時にサイコロが彼を裏切ったという事実は変えようもない。最大威力の攻撃で自滅とは大した運勢である。



「少しばかり締まらない終わり方でしたが、いいでしょう。幕です」





「父上の霊圧が…消えた……?」



女神アテナは今の今までオリュンポスを覆っていた一種の重圧、主神ゼウスの神威が消失したことを知覚し、その空白に戸惑った。


あまりにも呆気ないその感覚に、彼女の頭から目の前に存在する強敵のことすら消えてしまい、それが致命的な隙となった。


何しろ彼女の事情など、彼女に相対する大英雄には何の関係もなかったからだ。


「フンヌッ!!」


「しまっ…」



失念に気づいた時にはすべてが遅く、激しい衝撃が彼女の手にある盾を激しく打ち据え、そして弾き飛ばす。


ギリシア世界最強の守りは放物線を描いて宙を舞った後、回転しながら地面に落ちた。



「勝負あったか。いや、これは俺の勝利とはいえないか」



太く硬くゴツゴツとした棍棒が女神アテナの眼前に突きつけられる。


その、黒ずんだ太く硬くゴツゴツとした棍棒が彼女の体にブチ込まれたなら、きっとCEROあたりで大問題になるだろう。



「くっ、殺せ」



彼女は都市の守護を司る軍神であるが故に、陥落した都市に住まう若い女にどのような仕打ちが待ち受けているのかは良く知るところだ。


そのような辱めを受けるぐらいならば死んだ方がましであると思うアテナであるが、残念ながらギリシア神話の神は設定上不死である。


よって、そういうわっふるわっふるな事態を回避する権限は彼女にはない。



「その意気や良し」



ヘラクレスはニヤリと笑うと、何故かモザイク処理のされた黒ずんだ太く硬くゴツゴツとした棍棒を振り上げる。


そして今まさに放送倫理に触れかねない流血を伴う行い(意味深)がなされようとした、その時、



「それ以上はいけない」



今まさに振り下ろされた青銅の棍棒が、横から突き出されたカドゥケウスの杖によって阻まれた。



「お前は…?」「貴方は…っ」



ヘラクレスと女神アテナの視線が同時に同じ方向に向かう。その先には、



「卑猥はない! イイネ!」


「「デュオニュソス…っ」」



そこには杖を構えヘラクレスの棍棒を受け止める梨の妖せ…ではなく、酒神デュオニュソスの姿があった。



「女の子に暴力振るっちゃダメって習わなかったYOU KNOW? みんな仲良くラブ&ピース! 音楽は世界を変えるセックス&ドラッグ イヤッフーー!!!」



そしてどこからか取り出した竪琴をかき鳴らすキグルミ。


そのハイテンションで激しい動きに女神アテナとヘラクレスはイラッとした後、盛大に溜息をついてやる気を失い、肩をすくめて撤収を開始した。





「ゼェェェェウゥゥゥゥスゥゥゥゥくぅぅぅぅぅん、生きてますかぁぁぁ?」


「PIIGA!(意訳:手間かけさせんじゃねぇぞグズ)」



私は白目背いて仰向けに倒れ伏したゼウスの傍に向かって、でっかい蜥蜴の上に乗って近づく。


丸焦げになっている主神であるが、不死という設定のはずなので、とりあえずは生きているはず。



「バハムート、生死確認をしてみましょう」


「PIGA(意訳:おk)」



生死確認はバハムートさんによるヒップ・ドロップ、ようは上空からの飛び乗りです。落下速度は時速500km。



「がはぁっ!?」



ズドーンッという地響きと共にゼウスの体が地面に沈んでクレーターが形成される。するとゼウスの口から吐血がブワッとなって、痙攣した。


生きていたようだ。


死屍に鞭打つような行いだが、すまない。古来より戦争で死んだ敵の死体に対しては、とりあえず生存確認を含めて槍をブッ刺すのが慣例ですので。


無事で何よりだったので、そのままバハムートにゼウスの体をうつ伏せにさせて、馬乗りしてもらい、後頭部をむんずと掴ませて顔を上げさせる。



「PIGAPI?(意訳:コイツ、どうします?)


「まずは説得ですかねぇ。っていうか、なんだか今の私、物凄く悪役っぽいですね」



具体的には、舎弟の強面がボコったオッサンをゆすっているの図。妙な気分になりながら、バハムートが掴んで面を上げさせたゼウスの顔に近づく。


オリュンポスの神々がティターンであるという設定は生きているので、目の前には私の身長よりもずっと大きな爺の顔面。


まあ、いろいろあって至る所から血が出ていて、血涙鼻血喀血状態でとても見れたものじゃない酷い顔なのだが。



「では、起きてくださいね」



魔法で大量の水を生み出し、滝のようにしてその顔面にぶっかける。すると判定に成功してゼウスが覚醒し、ゆっくりと瞼を開き、そしてせき込んで血を吐いた。



「ごふぉっ…、ごほっ…、ごぼっ…。わ…我は……敗れたのか……? ありえぬ……」


「戦わなくちゃ現実と」


「何故だ…何故そのような道理がとおる?」


「因果応報では?」



バハムートさん、そんな「何言ってんのコイツ?」みたいな表情はどうかと思いますよ。まあ、私もほぼ同意ですけどね。


ギリシア神話なり様々な神話において多く見られるルール、すなわち因果応報。しかし、この主神様はその結果に納得がいかないらしい。


天空の神ウラヌスはキュクロプスとヘカトンケイルをタルタロスに封印し、それが原因となってクロノスに放逐された。


農耕の神クロノスは巨人ギガースたちをタルタロスに封印し、それが原因となってゼウスによって討たれた。


であるならば、同様に自らに敵対したティターンらをタルタロスに封印したゼウスの末路がどのようになるかなど判り切った事だろう。


まあ、従来の神話ではその失墜は描かれず、その運命から逃れるべくゼウスが行ったクズ極まりない行為の数々が神話として残ったのだけど。


こいつら、親子三代でやってる事たいして変わんないですからね。



「貴方の事情とか特に興味はありませんので、さっさと真の名を吐いてください」


「…っ、貴様、まさか我から神々の王の座を奪おうというのか!?」


「え、いや、別に…」


「ならぬっ、ならぬぞ!! 貴様に最高神など勤まるものか!!」


「解せぬ」



突然元気に怒り出す主神様。なにこの独り相撲。会話のキャッチボールしてください。


エジプトのイシスよろしく真名を奪うのは、ただこの男が報復を望まないよう証が欲しいがためだ。


ここまでやらかして、ペーパー捺印でもう私に手を出さないでね的な契約書作成で済ますわけにはいかないのだ。


だいたい、ギリシアの神々ってのは粘着質で陰険だし、神話における戦いというのはヴリトラよろしく抜け穴探しが基本だしで、約束だけじゃあ不安すぎる。



「どうしても教えていただけないと?」


「当然だ。神の王とは増長するヒトを律し、世界の正常な均衡と運営を保証する者でなければならぬ。貴様は人間どもと親しすぎる。そのようでは、決して神の王の器とはなりえぬ」


「うん、そういうの正直興味ないので」


「愚かな。そのような蒙昧な意識で王となれば、いったい誰が人間どもの傲慢を掣肘するというのか。我々神々がこれを阻まねば、人間どもはいずれはその数を50億を超えるまでに増やし、その浪費は豊かな大地の恵みを枯渇させ、その強欲さは清らかな水を汚染し、多くの動植物は滅びに瀕するであろう」


「うわぁ、超具体的」



神はこの惑星を守るため理不尽な自然現象を体現し、文明を破壊し、人口を制限しなければならない。


地震、洪水、噴火、疫病、旱魃。神の鞭は人間の思い上がりを叩きのめし、神々と世界に対する畏れを常々思い知らせる必要がある。


などと、ゼウスは主張する。


うん、まあ、大切ですよね地球環境。ヒトの命は地球より重いなんて云う思い上がりを許してはならない。わかります。


現地民の集落一つよりも、絶滅寸前のベンガルトラ1匹の命の方が重い。わかります。



「ところで、それと私が貴方の女にならなければならない事って、何の関連性もねぇですよね?」


「ん? いいいや、そそそそそそれは…それはだな、あれだ。より大局的な視点をもってだな……」



めっさ目が泳いでるんですけど、この主神。じゃあ、何だったんだよさっきの意味深な言い訳はって話なんですけど。その辺りどうなんすかねぇ?


眼球にピン刺してやろうかコイツ。



「つ、つまりだな、お前は人間と親しくしすぎていて…、そ、そうだ、お前は人間に技術を与えすぎていて…、えー、人類も文明を加速させるような影響をだな…」


「ゴタクはええから、さっさと真名を吐かんかい。せやないと……、分かるやろ?」



私はクソ爺ぃを押さえつける蜥蜴さんにわざとらしく目くばせするのを見せつける。



「ええんやで? バハムート兄さんに任せてしもうても、ええんやで?」


「くっ、殺せ!」


「はいクッコロいただきましたー。ふざけんなや、コチトラ手ぶらで帰るわけにはいかんのや。……せやな、そういや社長、あんたんトコ、たしか別嬪な娘さんがおるらしいやん?」


「なっ、まさか貴様アテナに手を出す気か!? 止めろ! 娘に手を出したら許さんぞ!!」



うん、良い反応である。私は超ゲス顔でニヤリと笑い、ゼウスの顎を蹴り飛ばした。



「それは社長、あんたの態度次第ちゃうんか? なあ?」


「ぐっ…」



ようし、畳み掛けよう。「すみません許してください何でもしますから」発言をいただき、「ん? 今何でもするって言ったよね?」と返すだけの簡単なお仕事を始めよう。



「社長、実はな…、あんたんとこの娘さん、アテナちゃんゆうたかな…、その子な、今、ヘラクレス兄さんのトコにおるんや」


「ヘ、ヘラクレスだとぅっ!?」


「せや社長。あんたの息子さんや。今頃姉弟仲良うしとるんちゃうかな? 二人っきりで、岩陰とかでなぁ?」


「貴様…どこまで……」


「ヘラクレス兄さん、男女とか見境ないからなぁ。早うせぇへんとどうなるか……、へへ、あんたやったら分かるやろ?」



近親相姦とかどう考えてもアウト的な表現なので、そういうのは止めてほしいと言い含めてはいますが…。まあ、私が止めて止まるような大英雄ではありませんし。



「どや? 気ぃ変わったか?」


「……答えぬ」


「あん?」


「たとえ、どのような事があろうとも屈っしはせぬ!! アテナも軍神、覚悟の上である!!」



おお、娘を見捨ててまでも答えないとは…。これがテロとの戦いにおける断固とした意志というわけですね。


まあ、単に地位に固執しているだけっていう線もあるんでしょうが。



「なるほど、その度胸は買いました。ではゼウス様、貴方の娘、アテナと同じく、貴方自身の貞操もベットしてもらいましょうか」


「は?」



私はバハムートに目線で合図を送る。バハムートは不満げな声で応えるが、まあ、当初の予定だったし、大西洋クロマグロ大量に食べさせてあげたし、ここは諦めてもらおう。



「ふぉっ!?」



ゼウスが今までにない情けない声を上げた。そして、みるみる表情が蒼褪めていく。


きっと、今頃臀部の腕にハイパーな魚雷的なグレートウェポン、スラング的な表現で云うディックが押し付けられた感触を覚えただろう。



「さて、ギリシア中の神々と人々がどう思うでしょうかねぇ? 自分たちが信仰してやまない偉大なる最高神ゼウスが竜姦されたと知れば……。恥ずかしいでしょうねー、信じる神様変えたくなるでしょうねー」


「ま、待て、話せばわかるっ。話し合いで、平和的に解決しようっ」


「おや、まだ立場を弁えていないようですね。しかし、ドラゴンにレイプされた爺ぃですかー。需要なさそうですねー。そんなの誰が好き好んで信仰するんでしょうねー」



ドラゴン♂にケツ穴掘られた主神のいる宗教体系。改宗待ったなしですね。私なら速やかに逃げ出しますよ、そんな泥船。



「頼むっ、それだけは止めてくれっ。なんだってする!」


「ん?」



よっしゃキタ。言質とったどー。主神ゼウスの屈服を示すように、周囲の霊的場が落ち着いていく。



『もう、どっちが悪役か分かりませんねメディア』



おや、これは久しぶりの巫女巫女通信ではないですか。どうやら場の安定により通信状況が改善したようですね。


ところで、



「ヘカテー様ヘカテー様、ここ神界なんですし、いいかげん姿見せてくれません? 私の大勝利のご褒美として」



私、生ヘカテー様って見た事ないんですよね。どんな姿なのかなー。話ではオッパイ大きいって事ですけど。



『いえいえ、遠慮します。私はシャイなんです』


「そんなこと言わずに。私、どんなヘカテー様でも愛してますよ」



ちっぱいでも、普通でも、おっきくても、オールオーケー。



『老婆でも?』


「………」


『おい、なんとか言えよ』


「ヘ、ヘカテー様は三位一体ですから、若い姿もありますよねっ?」



通信の向こうから盛大な溜息が聞こえる。いや、でも、仕方ないですよね? 私は悪くない。



『相変わらず発言に一貫性のない子ですね…。まあいいでしょう。後ろを振り返りなさい』



その言葉。まさか、ご褒美タイムですか? 分かります。分かりますとも。今まさに私の背後に近づいてくる神の気配。どこかで感じた事のある気配です。


きっとヘカテー様ですね。そうに違いない。いやー、まったく恥ずかしがり屋さんだなんて嘘ばっかり。でも、そんなところもキュートだと思います。


では、私が今、すぐに貴女のお傍へ飛んで行って、その胸をこれでもかというほど堪能させてもらいますからねぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!



「しゅわっち!」



私はこの時第三宇宙速度を超えた。月面宙返りの無駄に洗練された無駄のない動きにて、すみやかに背後の人物の背中をとる。


おや、ヘカテー様ってピンク髪だったんですか?


良いと思います。私は流水のごとき流れるような動作で彼女の脇の下に両腕をくぐらせ、そのままねっとりとした手つきでその胸部を揉みしだく。



「きゃぁっ」


「柔らけぇ」



ありがてぇ、ありがてぇ。神徳、神徳。まったくヘカテー様も人が悪い。何が老婆でしょうか?


このフレッシュなハリのある豊かな感触、ピンク髪から香る甘い芳香。すなわちトレビアン。


でも、この後ろ姿、どこかで見たような…。具体的にはエジプトとかで。



「あん……」



ふむ、なに切なそうな声あげてるんですかねぇ……、ではなくて、そういう問題ではなくっ。あれ、これ神違い?


私の額に滝のような汗がダラダラと。え、なにこれぇ?



「お、おのれっ、我の妻に手を出すとはっ!?」



いや、テメェは黙れ。いや、お前の妻…? あー、うん、あれじゃろ? デスクトップの壁紙とかの。



『見境なくガッツクだなんて、変態ですね。この変態っ、変態っ、大変態!!』



そして巫女巫女通信からの笑い交じりの罵倒の声。は、嵌められた!?



「い、いえっ、これは友達同士のスキンシップですっ! 女の子同士の、そう、フレンドシップ! 倫理的には全く無問題。友情無罪っ、セーフセーフ!」


「これが…女同士の友情……、フレンドシップ…つまり合法。そう、そうなの……」



そして振り返る神妃さん。頬を赤く染め、トロんと潤んだ瞳で私を見つめる。なにこれキマシタワー?



『これがエロス神の金の矢の力……、恐るべしですね』



すみません、意味が分かりません。神妃さん、そんなトロけきったメスの顔で納得しないでください。


っていうか、ちょっと前までツンデレぐらいで済んでいましたよね? どうしてこんなになるまで放っておいたし。


そんな風に私が固まっていると、女神ヘラは正気を取り戻したのかバッと私から離れ、顔を真っ赤にしながら乱れた着衣を直し始める。


なんだこの浮気現場を見られた人妻的振る舞いは…。



「コホン…。神妃ヘラの名において宣言します。この戦い、貴女の勝利です、コルキスの王女メディアよ。しかし、これ以上に主神の名が貶められれば、私たちオリュンポスの神々はその信仰を失い、世は混乱に叩き落とされてしまうでしょう」



うん、まあ、どちらにせよあと100年もしないうちにギリシア世界は暗黒時代に突入するわけですが。



「これ以上の混乱は許容できるものではありません」


「しかし、女神ヘラ様。ここで私が退いたとしても、私の身と私の家族、そして祖国の安全が保障されません。それでは私がオリュンポスに挑んだ意味すら失われるでしょう」



この辺りが保障されないから、私はゼウスの真の名を奪う事を目標としたのだ。


契約では破られる可能性を否定できない。長い時間をかければ、ギリシア最高神の力を以ってすれば不可能とはいえない。


そうでなくとも、なんらかの抜け穴を見つけ出して報復してくるかもしれない。



「では、私が人質となりましょう。いかがですか?」


「それでこの男が止まると? 私にはそうは思えませんが」



人質救出や奪われた物品の奪還は神話の普遍的なテーマだ。テュフォンの敗北はそれに起因している。



「ならば、主神の座の禅譲を。ポセイドン様かハデス様にならばいかがでしょうか?」


「ハデス様ならば文句はありません。であるなら、雷霆の所有権についてもハデス様に譲っていただけますか?」



冥王ハデス様ならば基本的に温厚な性格であるし、全知全能の主神の役割を禅譲するならば力関係はハデス様がゼウスよりも格上になるはず。


主神としての権能と、そして雷霆を奪われればゼウスなど単なる力自慢の種馬野郎に過ぎないのだし。


まあ、妥当なところだろうし、ここはヘラの顔を立てようか。


こうして、私とヘラはゼウス後のオリュンポスについての素案のようなものを作成していく。





押し倒される傍において、コルキスの魔女と我が妻であるヘラとの間で、神の王である自分を差し置いたまま重大な裁定がなされようとしていた。


その屈辱に怒りがこみあげ、脳が沸騰するような感覚を覚えるがしかし、もはやこの身にそれを阻むだけの力は残っていない。


いや、今だ。今せねばどうするというのか?


このままでは我が今まで積み上げてきたもの、多くの権益と財貨が奪われてしまう。そんなことは許容できはしない。


この身を押さえつける竜も既に油断している事だろう。今ならいけるはず。


そして我は肉体の限界を超え、全力をもって竜の拘束を解く!



「ぬぉぉぉぉぉっ!!!」


「え?」



呆けたような魔女の表情、驚愕の表情を張り付ける竜。我は己に恥をかかせた女を討ち取るべく立ち上がり、



「油断したなぁぁぁぁぁ!!」


「しまっ!?」



右手で魔女の体をつかみ取る。油断はしてはいけない。ここでこの女を一挙に握り潰し、そのままタルタロスに放り込まなくては。


これで我の勝ちだ。フハハハハハハ…は?


その時、視界の隅に、自分を酷く冷たく蔑んだ目を向ける妻の姿を見て、



「殺すわ」


「ぐもっ!?」



鉄拳が打ち下ろされるのを目撃し、次の瞬間、視界が点滅して、手から魔女をこぼれ落とした。





「うわぁ」



油断した私が悪かったとはいえ、容赦なく鬼の表情で夫に鉄拳をブチかますヘラの姿に私は身震いをした。


女って超怖ぇぇ。


あまりの威力にゼウスの顔面が地面にめり込んでクレーターを作る。結婚の女神と書いてグラップラーと読むわけですね分かりますん。


そしてすぐさまバハムートが自らの手から逃れたゼウスを再び捕まえるために、主神にのしかかる。


まったく、私を倒したところでバハムートが止まるわけでもないのに。


そうして、大きなトカゲさんがゼウスの背中にのしかか……、



―― ずぶりんこっ♂ ――


「あっーーーーーーーーー!!」



その時、ちょっとアレな挿入音と共に男の野太い悲鳴が響き渡った。


え、もしかして、え? あ、アカン奴やこれ。BPOとかCERO的にアカン奴やこれ。神話として残したらアカン奴や。


私は思わずお尻がきゅうっとなって血の気が引いた。



「わわわ、私は悪くない」


「そうね」



傍に降り立った女神ヘラも同意してくれる。そうだよね、これはゼウスが全部悪い。こういう♂な事になったのは私のせいじゃない。



「私の大切なお友達に手を上げるなんて、ああなっても仕方ないわ」


「はは、なかなかに過激な発言ですねー」


「そうでもないわ。私、決めたんだもの。そう、大丈夫よ」


「何を…」



私は苦笑いしながらゼウスの惨状から目を離し、ヘラの方に視線を移した。そこには、



「大丈夫。メディアは…あぁん…、私が守ってあげる…」


「ひぃっ!?」



火照った様な赤らんだ頬、恍惚に潤んだ瞳、花弁の如く包み込むように頬に当てられた両手。



『コングラチュレーション、メディア。これで人妻寝取りルート確定ですね』



オワタ。



友情エンドです(真顔)。


次回、最終回です。


ネット小説大賞とかに応募?してみました。まあ、ダメ元ですがねー。ランキング上位の作品が受賞するんじゃないでしょーか。

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