018
「さあ、天下分け目の天王山だ! 初戦は恐怖の体現者、軍神アレスが率いる神々の軍団がメディア姫一行に立ちふさがるよ! さあ張った張った。オッズは女神アテナ1.2、メディア姫3.0、軍神アレス1200だよ!!」
処女宮の入り口の正面に構えられた本陣。本陣の中央にて静かに時を待つ私の耳に、兵たちの声に交じってヘルメスの賭博に誘う声が響くのを耳にする。
我らが父の先触れとして行ったくせに、早々丸め込まれて今やトトカルチョの総元締めである。
しかし、どうしてアレスのオッズが桁違いに高いのか。
「アテナ様、ヘルメス様を止めなくてよろしいので?」
「良い。アレはああしているのが正しいのです」
ヘルメスの声を耳にして、機嫌を害したように陣内の神の一人ペルセウスがそれを咎める内容の言葉を口にするが、私は構わないと首を振る。
あれはなんとも不真面目ではあるが、その不真面目さがオリュンポスを何度も危機から救ったことを考えれば、責めるに責めることは出来ない。
そも、あれは搦め手を駆使するタイプなのだし、ああいうのがいなければ諜報というのは成り立たない。
防衛において情報収集と攪乱は必須であり、それを専門とするヘルメス神の重要性は十二神の中でも抜きんでている。
それに、このような直接的な遣り取りに至ってまで彼を動かすことはないだろう。というか、そうでなければ我々軍神の存在意義が問われる。
「しかし、この分では我らの出番はありますかな?」
「油断してはいけない。向こうにはかのヘラクレスがいる。あの魔女の姫君の魔法でアレスの大軍を惑わし、少数精鋭で忍び込んでくる可能性は否定できません」
「なるほど、確かに我が末裔は私自身が驚くほどに優れている。メディア姫の卓越した魔術の助けを受ければあるいはと言うことでしょうか」
正面から戦うならば、アレスの軍勢の半数で足りるだろう。本来ならば。
だが、気にかかるのは彼女が準備期間に収集した怪物どもの死骸についてだ。もし彼女がアレを呼び覚ますのだとすれば、この軍勢の規模はむしろ頼りないほどと言える。
もちろん、エトナ火山に今のところ大きな動きはなく、タルタロスに異常が生じているという報告は受けていない。
だが、あの魔女が無策でこの聖域に訪れるとは思えないのもまた事実だ。
故に正道で、数と地の利を生かすことでこれを正面から打ち破ることを選択した。
アレスの軍と連携できない事は痛いが、しかし、5000もの神々の軍勢が揃っているなら話は別だ。
その多くは武闘派の神々、あるいは過去に英雄として名を馳せたことで天に召し上げられた半神半人たちであり、ヘラクレス程ではないものの十分すぎる戦力を有している。
下手に策を弄する必要もない戦力差。どれほどヘラクレスが優れた戦士であろうとも、ペルセウスといった英雄達を複数相手にできるほどではない。
勝ちの見えた戦い。
しかし、だからこそ警戒する。これだけの戦力差をそっくりひっくり返すような何かがあるのではないかと。
「アテナ様、ご覧ください! メディア姫一行が獅子宮からっ」
「予想よりも早いですね」
「罠が上手く機能しなかったようです」
「なるほど…。やはり一筋縄ではいかないかもしれませんね」
魔法を駆使して隠蔽した罠がいとも簡単に破られた。恐るべき魔法の力だ。流石は魔術の女神ヘカテーの弟子というわけか。
血統においても神の席に名を連ねるだけの神性を持ち、零落した女神という側面を有する以上、魔法の腕についてはさらに警戒すべきだろう。
とはいえ、それでも地の利や数の上で絶対的な優位にあることは変わりない。
メディア姫一行の中に彼女やヘラクレス以上の力があると思われる気配は感じられず……、いや待て、あの蜥蜴は何だ!? なぜ今まで気が付かなかった!?
「いかがしましたアテナ様?」
「馬鹿な…、何故今の今まで気が付かなかった!? 早急に調査をっ、メディア姫の頭上にいるあの蜥蜴の正体を探りなさい!!」
「え、蜥蜴…? それは一体……、いや、居た。なんだあの蜥蜴は…? なぜ今まで気が付かなかった? 斥候っ、あんな蜥蜴は報告になかったぞっ!!」
「え、いや、馬鹿な…。そ、早急に調べますっ」
声を荒げて指示を出す。なんだアレは。あんなモノ、いつの間に現れた? 彼女らがオリュンポス山に入山するタイミングで放った斥候からも、そのような報告は受けていない。
だが、異変はさらに続く。
獅子宮神殿の前でメディア姫が何かを土にばら撒いた途端、大地から殻を突き破るかのように骨だけの腕が突き出し、まるで最初からそこに埋められていたかのように骨の異形の人型が立ち上がりだした。
そして、その異形はさらに何かを大地にばら撒き、同じように大地からそれらは現れる。繰り返されるその行為により、異形は級数的な速度で増殖を開始する。
「あれは…竜牙兵!?」
「なるほど。そんな方法で数を揃えに来ましたか」
ネズミ算式に増えていく竜牙兵を前に全軍に動揺が走る。
これは予測していなかった。いや、そもそも予測しろという方がどうかしている。そもそも、竜の牙というのは貴重であり、あれだけの数を揃えるなど常識的にありえない。
だが、常識的にありえなくとも、現実にそれは実現している。認めなければならない。あの魔女はあろうことか、世界の均衡を左右しかねない力を手にしている。
ならばその数の力は偉大だ。
多少の質的優位など、訳の分からないほどの数の前には無力だ。覆すには百年単位で隔絶する技術的優位が必要だろう。
そして、彼我の兵の質の差にそこまでの隔絶はない。
総勢一万の神々の軍がいくら精強であろうとも、イアソンといった人間の英雄をも容易に殺す戦闘力を持った死を恐れず疲労を知らない百万の軍団を前にして、どれほどの意味を持つだろう?
加えて地理的な優位も大きいとはいえない。
今回、こちらは敵が少数であることを考え、オリュンポスでも隠れる場所や障害物の少ない視界の開けた場所を戦場に選んだのだが、明らかな裏目だ。
障害物や視界を遮るものがないのなら、軍の戦いは基本的に平押しから抜け出すことは出来ない。
そして、圧倒的に数に劣る側がそのような戦いに挑めば、大軍の側に包みこまれるように包囲されるだろう。
側面や後方を取られれば、こちらは後衛や前衛といった陣形の意味をなくし、被害は幾何級数的に増大する。
故に取れる手段は限られる。
一つは敵の増大を妨げるべく拙速に攻め込むこと。次にこの場で穴熊を決め込み弱点となる側面を無くすこと。あとは一度退いてこちらの都合の良い戦場で迎え撃つこと。
穴熊は論外だ。相手がどれだけ増えていくかも分からない中で守勢に回るのは下策だろう。
一つの竜牙兵が5つの竜の牙を大地に撒いては増殖を続けるならば、8回これを繰り返せば50万の兵が、10回繰り返せばそこに1000万の兵が誕生する。
そもそも、アレスがそのような守りの戦術に賛同するはずがない。気が短いあの男のことだから、簡単な陽動に引っかかって持ち場を離れるに違いないのだ。
つまり、苦労して作り上げた野戦陣地を放棄せざるを得ない。
無策に敵に突撃するという案はどうだろう? アレスの性質を考えれば、あの男の能力を遺憾なく発揮させられるだろうし、敵軍の増大を早めに潰せることは魅力的だ。
とはいえ、相手がそれに対抗する何らかの策を有していて、突撃の衝力が早々に失われればどうなるか。
敵の増大を妨げることが出来ないまま、多くの軍が敵中に孤立し、最終的には数で押しつぶされるに間違いはない。
一度退くという案も、結局のところ敵の増大という問題に対する解答にはなりえない。
大軍を少数で相手にする場合は地形を生かして敵を翻弄する戦術が基本とはいえ、結局は対症療法に過ぎないのだから。
敵がどの程度の数にまで増えるのかが分かっているのであれば、策の立てようもあるのだが。
「情報不足が祟っていますね…」
とはいえ、動かないことは最大の下策。兵は拙速を尊ぶ、いまだ巧みの遅きを聞かざるなり。
そもそもゲリラ戦などの非正規戦にあの弟が対応出来るはずもないのだから、私はすぐさま突撃案を採用し、アレスの陣中に向かって声を張り上げた。
「アレスっ、早急に突撃してください! あれを止めるのです!!」
が、当のアレスは私の声を聴くや否や、物凄く嫌そうな表情でこちらを睨み返してきた挙句、
「この俺に命令をするなアテナ!」 +1
などと反抗的な態度で咆え返してきた。うわっ、私の弟、無能すぎ…?
このあと滅茶苦茶敵が増殖した。
◆
「戦いは数だよ兄貴」
「真理ではあるが、あまり好きな考えではないな」
「アタランテちゃんは真っ直ぐですねぇ」
宇宙世紀の偉い人の言葉であるが、英雄には受けが悪いようだ。まあ、単機突入で勝負を決めるのは異相次元戦闘機とか宇宙戦艦の華ですがね。
でも、最強1機と雑魚1000なら、アホでもない限り雑魚1000が勝つ。いや、だって燃料弾薬体力とか続かないしさ。
戦力をいくつかに分けて、多方面からの攻撃とか波状攻撃、陽動などの戦術は数が多いほど実施しやすくなる。
つまり大きな視点からすれば、雑魚の支援あってこその主役機なのである。単機突入だって、陽動や敵主力の拘置のあるなしでは難度が桁違いに変わるはずだ。
え、主役機1000で雑魚1000を? そういう米帝プレイは他所(USA)でやってください。
…さて、目の前にはワニっぽい頭骨をした人型の骨たちの群れ。武装したそれらはカラコロという骨同士がぶつかり合う軽快な音を立てながら陣形を整えていく。
実家の元金羊毛の番竜から引き抜いた牙を元手に、大釜でクローニングして増産した大量の竜の牙から生み出されたインスタント軍隊。
数は既に50万弱。オリュンポスは霊脈の質が良いので最大6000万ぐらいまで増やせるのだけど、竜の牙の数は1200万ぐらいしか用意していない。
世界不思議大戦で有名な戦略ゲームで一つのプロヴィンスに数百万規模の軍隊がひしめき合う事があったけど、リアルで見るとこんな感じなのかしらん。
「自分でやらかしたとはいえ、すげーですねこれ」
あたり一面、骨、骨、骨。クローン戦争は地獄だぜ。21世紀後半までソ連が健在だったら再現してたかもしれんですけどね。
こんなの投入すれば、ギリシア世界どころかユーラシア全域を征服できそうなのだけど、もちろんそれは神様的な事情でアウトである。
つーかそういう事すると、インドの神話体系が超古代核兵器を実戦運用しかねないので、「やるなよ、絶対にやるなよ」と念を押されている次第だ。
ははっ、熱核弾頭がオシャレなキノコ雲を生やしているのを背景に、数千万からなる骨だけのクローン兵が前進する光景とか悪夢をとおり越して喜劇ですよね。
いや、でも、ちょっと見てみたいかも。キューバ危機当たりの時に米ソが全面対決した際のヨーロッパで一般的に見られるはずの地獄が再現できるはず。
やったね、道路が死体で舗装されて楽々パリまで一直線だよ!みたいな。
「しかしこれは…なんという……。こんな恐ろしいものが神々の戦争なのか?」
「いやー、流石にこれはインドぐらいじゃないとお目にかかれないですよアタランテ」
「インドでは起こるのか?」
「日常茶飯事ですよ?」
「恐ろしい場所だなインドというのは…」
戦慄するアタランテちゃん。
いや、誇張ってわけでもないんですがね。あるフランス人がムガル帝国を訪れた際に残した旅行記には、数十万からなる雲霞の如き数の軍隊について言及されていますしね。
生産性の高い穀物を栽培する地域の専制国家の軍隊なんて、基本そのぐらいだ。日本ですら戦国時代ではあるが、20万近い軍勢が一か所で殴り合ったのだし。
まあ、世界大戦よりはマシ。
古代では数千が関の山だけれども、一次大戦では1000万人、二次大戦では軍人だけで2500万人近くの死体を積み上げたのだから。
なるほど、統計的に見て人類は着実に進歩しているわけですね。
そうそう、未来の世界大戦といえば、この戦いのために用意したものがあるのだ。ダイダロスとイカロスにはその設営の指揮をとってもらっている。
私はアタランテちゃんと一緒にその設営状況を確認するためにダイダロスの下へ。
「上出来ですね」
「メディア姫、理論上は確かに有用ではあるが、本当にまともな検証もせず実戦に投入してもよいのであるか?」
「空を飛ばれたら、効果はほとんどない」
ダイダロスとイカロスがそんな不安を漏らす。確かにこの世界では一度も実戦経験がない、未知の兵器だ。普通は疑う。
この世に生れ出た新兵器と呼ばれ期待された兵器の多くが駄作であり、ごく一部が戦場での有用性を認められるのだから。
カヴェナンター巡航戦車とかシング対空火炎放射器とかボールトンポール デファイアントとかL85などの優秀な兵器は一朝一夕では作れないのだ。
まあ、空を飛べば弓で射落とせばいい。竜の牙や骨を使った合成弓の威力は、多少の航空戦力では突破できないはず。
「それに、時間さえ稼げればこの戦場での勝ちは揺るぎません。軍神アレスと女神アテナが本気を出して自ら出たとしても、それは望むところですしね」
ここでこの2柱を落とせば、後は女神デメテル様をとおした調略で中立となった海神ポセイドンと酒神ディオニュソス、そして契約で縛った女神ヘラのみ。
かの酒神についてはあまりよく知らないが、女性などからも多くの信仰を集める強力な神である。きっと目の覚めるようなイケメンなのだろう。
なら、ここで私の頭の上で欠伸している蜥蜴を投入してしまってもいいだろう。どうせ、アテナにはぶつけざるを得ないと考えていたし。
などと思索を巡らしていると、
「メディア姫」
「ひっ!?」
我らが大英雄ヘラクレスさんが傍に来られた。完全に戦闘態勢のお顔じゃないですか、心臓が止まりかけました。変な悲鳴出ちゃった。
「連中が動いたぞ。俺はどうすればいい?」
「ふむ、そうですね」
ヘラクレスさんが指をお指しになられた方に、私はこちらへ突撃してくる神々の軍隊を認める。
戦術もクソも何もない世紀末的ヒャッハーな突撃であるものの、士気は高いように見える。重装歩兵タイプの竜牙兵ともうすぐ衝突するだろう。
これで竜牙兵の増加は一時取りやめ、軍団を戦闘態勢に入らせなければならないが、まあ、既に竜牙兵の数は240万にのぼっている。
しかし、あの統制の欠片もない、世紀末的モヒカンを思わせる頭の悪そうな進軍はいったいなんなのか。
なんとなく、雰囲気的には女神アテナっぽくない兵の動き。
「あの脳味噌が足りない指揮は、アレスだな」
「あー、やっぱりですかアルテミス様」
特に何か感慨を浮かべるわけでもなく淡々と語る女神アルテミス様。うん、このヒト、けっこう意外に毒舌なのかしらん。
「後ろで隊列を組んで進軍するのがアテナの軍だ」
「アテナ様の軍はあまり速くはないですね」
「二人の加護の違いだろう」
なるほど、軍神アレスは士気と行軍速度にボーナスを与える加護、女神アテナは指揮統制と防御力にボーナスを与える加護といったところでしょうか。
まあ、この程度は事前に想定済みだし、開示する予定の手札だけで十分対応できるだろう。
流石に本気になったアレスについては抑えられないけど、そこは餅は餅屋ということで
「…では、ヘラクレス様。雑兵については私の竜牙兵にお任せください。貴方にはあの軍神、アレスを相手していただきたい」
「なるほど、望むところだ」
「はい。調子づいたところを横合いからぶん殴って下さい」
私はその後ろで大英雄様に支援魔法でバフを付ければいい。攻撃力や防御力、直感の冴えを上昇させてさしあげれば、軍神アレス相手に善戦していただけるでしょう。
少なくとも、時間は稼いでくれるはずだ。
……いや、流石に瞬殺はないよね? だよね?
◆
さて、アテナとの喧々諤々の姉弟喧嘩の後、軍神アレスは軍団の先鋒たる戦車部隊を率い、敵歩兵の隊列に一当てすべく弧を描くような機動をとって疾走を始めた。
この時代の戦車、すなわちチャリオットは歩兵の集団の中に突入するような兵器ではなく、機動性を生かしたヒット&アウェイを行う速度の兵器だ。
戦車は敵歩兵の隊列をかすめるように走り、長柄武器で削ぐように、あるいは弓矢で牽制するようにして襲撃し、そして走り去る。
故にこの戦場においても、その時代遅れの基本戦術は守られた。
ところが、突撃する戦車部隊の御者たちは、竜牙兵たちの戦列の前に黒色の蔦のようなものをコイル状にして杭で固定した妙な柵を視認し、怪訝な表情となる。
「なんだ、あの妙な…蔦?」
どうやらソレは、見た感じでは固くゴワゴワした蔦のような性状のようで、棘が付いており、どうやら簡易の柵として用いられているようだった。
しかし、戦車の突撃を以てすれば簡単に踏み潰せそうだ。棘が付いているようだが、そんなもので天界の馬がどうにかなるはずもない。
「あんなもの気にするな! あの程度で我々を止められるとでも思っているのか!? 舐められたものだな!!」 +2
軍神アレスは嘲笑う。周囲の戦車兵たちも同意するように声を立てて笑い、敵の愚かさを馬鹿にした。
とはいえ、ここまで来て進行方向を変えなかったことは、基本的には間違ってはいない。
こんな場所で一時退避を命じては、ただでさえ不安定な戦車が横転したり、互いに衝突してしまう可能性だってあるのだから。
よって、戦車部隊はそのまま竜牙兵が待ち受ける陣地に突撃する。弱弱しそうに見える陣地だ。短時間で展開できそうであるが、それだけだ。
そして、神々の軍団の先鋒を切った彼らは、有刺鉄線からなる鉄条網に向かって突撃を開始した。
そして、20世紀の初め、戦争を凄惨なものに変えたとされる偉大な発明の一つが神々に牙をむいた。
「あ…?」
戦車に乗っていた男の一人がそんな気の抜けた声を上げて、今の自分が置かれている状況への理解を拒んだ。
彼の乗った戦車はコイル状の柵に突撃した。
簡単に踏み潰せると判断したソレだったが、馬の脚に棘を備える鋼鉄のワイヤーが絡みつき、馬は悲鳴を上げて転倒したのだ。
馬が倒れたチャリオットの運命など一つだ。ひっくり返るようにして跳ね上がった戦車、そして彼はまるで人間大砲に撃ち出されたかのように放物線を描いて宙を舞った。
「うわっ…うわぁぁぁぁぁぁっ!!?」
放り出され、敵兵の真上に飛ばされた男が最後に見たのは、竜牙兵らが構える無数の槍の壁が迫る光景だった。
幸運な彼はシシケバブのごとく全身串刺しとなる直前に、恐怖のあまり意識を手放した。そう、彼は意識を失っただけ幸運だったのだ。
他の多くの同僚は、彼ほど上手く飛ぶことは出来ず、地面に叩きつけられた。
敵兵の前に落ちたものは、竜牙兵の振り下ろす槍や斧の餌食となった。
少し離れた、二重三重の鉄条網の外側に落ちたなら、逃げることもできずに頭上から降り注ぐ矢に貫かれた。
神々の住まう天界に、軍隊が一方的に蹂躙されるという地獄が生まれようとしていた。
「お、おのれぇぇぇっ!! 雑魚がいい気になるなよ…っ。貴様らごとき、一瞬でひねりつぶしてやる!!」 +3
その様を見て軍神が咆える。その顔は阿修羅のごとき憤怒の表情へと変じていた。
当然の事ながら、戦神アレスの乗るチャリオットもまた例外ではなく横転していたが、彼は伊達にオリュンポス十二神の一柱ではない。
並の身体能力であるはずもなく、横転した戦車から華麗に脱出し、カッコイイポーズで着地を決めて難を逃れていた。
が、だからといってこのような屈辱を許容できるはずもない。
「突撃だ! 体を張ってあの柵を乗り越えろ! 神々の振り下ろす拳の重さを知らしめろ!!」
「「「「「Уpaaaaaaaaaa!!」」」」」
アレス率いる軍の本隊、戦士たちが燃えるような赤い闘志を叫び声に乗せ斧や棍棒を片手に突撃していく。
多くが鉄条網に阻まれ、そこで矢の雨の洗礼を受けるが、兵士たちは体を張って自らを橋とし、後続のための道を作っていく。
対して竜牙兵の軍は、槍を手にした重装歩兵で構成された部隊を先頭に典型的なファランクスを形成する。
そしてようやく、二つの勢力が正面から衝突した。
◆
「ものすごい戦いじゃのぉ」
「こんな大きな戦争、初めて見た」
遠く前線では神々の軍と竜牙兵の大軍が衝突し、無数の骨の兵がバラバラになって宙に弾き飛ばされるのが見える。
竜牙兵は確かに弱くはないが、それでも神を名乗ることを許された相手と比較すれば強いとはとても言えない。
気分はバラライカでファイティング・ファルコンに殴りかかる感じ。やられメカが主役機になにやってんだよ的な。
なので、神々の軍は早々にこちらの軍の一部を突破し、竜牙兵の大軍を突破しようと突き進み始めている。
「大丈夫なのか? 弱いぞアレ」
「はは、心配ありませんアルテミス様。良く見てください。彼らの軍の動きを」
「……そうか」
5000ほどの神々の軍が骨の大軍を蹴散らしていくが、遠目から見れば場所によってその損耗率が大きく違うことが分かる。
こちらの軍の一部、左翼のごく一部が異様に脆く、そしてそこを誘導されるように敵軍が殺到していく様を見ることが出来た。
「使い捨てでなければ実現できん戦術じゃな」
「おや、ペリアス、そろそろ出番が欲しいんじゃありませんか?」
「はわ?」
戦場の様子を訳知り顔で評していペリアスたんに声をかけると、呆けた表情を返してきた。
まったく、この幼女はすっかり忘れていたらしい。お前にはこの私が直々に課す試練がありやがるのです。
私はペリアスの華奢な肩に両手を置く。幼女は「ひっ」とか可愛らしい悲鳴を上げるが、コイツ、元はゲスいオッサンなので問題にはならない。
「貴女も知ってのとおり、この場には2柱の軍神が揃っています。それはすなわち、この戦場がオリュンポスの最終防衛線、ここを突破すれば後は主神ゼウスの座まで障害は無いと言っても過言ではありません」
「して?」
「とはいえ、女神アテナと軍神アレスのコンビを相手にする以上、何が起こるか分かりません。そこで、先にここを突破して海神ポセイドンに接触し、相手の背後を脅かす役目を貴女に与えましょう」
「なるほ……、ふぁっ!? ななな、何を言っておるんじゃお主!? そんなの無理じゃ!」
私の言葉に慌てふためく幼女。
うん、でも、ここでヘラクレスさんが調子に乗ってアテナを倒しかけたり、あまつさえ貞操の危機に陥れてしまった場合、主神が出張してくる可能性もある。
ラスボスが持ち場を離れて出張サービスである。
最悪の事を考えれば、ここでポセイドンに接触しておきたいのだ。直接的な援護はなくとも、何か便宜図ってくれるかもしれないので。
が、ここでアタランテちゃんが話に割り込んでくる。
「待てメディア、確かにペリアスは惜しくはない命ではあるが―」
「おい、そこの野生児ちょっと表にでるんじゃ」
「単騎でどうやってあの軍を抜けるのだ?」
「いや、ワシ、単騎駆けする事決定なの?」
アタランテちゃんの懸念ももっともである。確かに、ただこの幼女を走らせただけでは、とてもじゃないが神々の軍勢を越えて行くなど不可能だろう。
そこで私はどこからともなく秘密道具めいたモノを、どこぞの青ダヌキめいたダミ声で呼びながら取り出す。
「デスルーラの首飾り~」
「ものすごく不穏な響きじゃの」
私は手にした首飾りをペリアスの首にかける。金色の髑髏をかたどったペンダントトップがキュートでポップなアクセサリーである。
「なんなのじゃコレ?」
「それは自分たちが説明しよう」
「しよう」
ペリアスの明らかに私を疑う声に応えたのはダイダロス親子。合作です。魔法の根幹は私のものですが、細かい処理とかは天才に任せるのが一番ですわ。
どこからともなく取り出され、立てられた黒板。イカロスがカッカッと小気味良いリズムでチョークを手に絵と文字を書いていく。
「……つまり、死んだ後に波動として変換した肉体と魂をリスポーンさせる際に、不確定性原理を利用することで―」
「先生、質問なのじゃ」
どうやら気づかなくていいことに気づいてしまったペリアスは、学校で先生に質問するかのごとく手を上げた。
「何であるかペリアス」
「今、死んだ後って聞こえたんじゃが?」
「それがどうしたのであるか?」
「………」
「………」
無言の空間が支配する。ダイダロス親子とアルテミス様は何が問題なの分からないのでキョトンとするが、私は確信犯なのでニヤニヤする。
アタランテちゃんは何かを察したような気不味そうな表情。アライメントが善に偏っているようですね。
そして、当事者たるペリアスはというと、無言無表情無拍子でダッと一目散に駆け出した。
「逃げたぞっ、追え!!」
私の指示と共にイカロスが飛び立つ。この後スタッフ(イカロス)が適正に処理しました。
◆
さて、ペリアスがイカロスとの結末の分かり切ったキャッキャウフフの追いかけっこに興じている頃、前線近くの竜牙兵の集団の中、一体のキャスケット帽を被る竜牙兵が焦りを感じてそわそわしていた。
確かに数に任せた包囲は完成していた。
神々の軍は『わざと』弱くしていた部分を『予定通り』突破し、なだれ込んだ彼らは案の定、用意されていた《金床》に衝突し、進軍を停止した。
そしてその膠着状態を利用して、騎兵による敵後方の遮断に成功し、軍神アレスの軍隊を見事に包囲することに成功していた。
「どうすんだよ、このままじゃ負けるぞ」
キャスケット帽を被る竜牙兵の漏らした言葉に、横にいた背の高い痩せた?竜牙兵と小柄な竜牙兵がウンウンと応じてうなずく。
そう、包囲は成功したのだが、だからといって個の性能を完全に覆せるわけではなく、神々の軍の損耗はわずかで、こちらの損耗は増えるばかり。
それに、包囲は成功したものの、陣地から出た女神アテナの率いる軍勢が第二波として迫っている。
このままでは包囲も破られ、さらに中央突破されるのも時間の問題。
「ここは、誰かが突入して流れを変えなきゃだな」
「だけど、突っ込んだやつは間違いなく死ぬな」
二体の竜牙兵が少し黙り込み、そして示し合わせたようにキャスケット帽を被る竜牙兵に視線を送る。
キャスケット帽を被る竜牙兵は二体のあからさまな意図に気付く。いつもそうだ。この二人はいつだって自分にこういう役回りを押しつけようとするのだ。
だからキャスケット帽を被る竜牙兵は駄々をこねるように、
「無理無理っ! 俺は絶対に行かないからな!!」
強い抵抗の意思に二体の竜牙兵はため息をつく。どうやら諦めてくれたようだ。すると、背の高い痩せた?竜牙兵が仕方がないと苦い表情?で右手を挙げた。
「しょうがないな、俺が行くよ」
すると、慌てたように小柄な竜牙兵も手を上げた。
「待てよ、俺が行く!」
するとどうだろう。周囲の竜牙兵たちも「いや待て俺が」「いや俺が行く」と率先して手を上げ始めた。
キャスケット帽を被る竜牙兵はなんだかいたたまれない気分になり、そして自分がとても卑怯な存在に思え始めた。なので彼は、
「じゃ、じゃあ、俺も」
「「「「「「「どうぞどうぞどうぞっ」」」」」」」
示し合わせたように自分に役目を譲りだした竜牙兵。え、ちょっと待てお前ら。嵌めやがったなこんチクショウ!
「あ、ちょっと待って今のタンマ」
「いやいや、さすがだなお前」「尊敬するわ」
キャスケット帽を被る竜牙兵はイヤイヤと首を横に振るうが、周囲の同胞たちはニヤニヤ笑いながら自分を担ぎ上げる。
「やめろっ! やめてくれ! ぬわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
そして、キャスケット帽を被る竜牙兵は神々の軍勢のど真ん中へと放り投げられる。
そんな茶番が骨の軍勢の中のあちこちで行われ、次々とキャスケット帽を被った竜牙兵が敵中に放り投げられる。
「じゃ、じゃあ、俺も」
「「「「「「「どうぞどうぞどうぞっ」」」」」」」
「じゃ、じゃあ、俺も」
「「「「「「「どうぞどうぞどうぞっ」」」」」」」
そんな奇行に戸惑ったのはアレスたちの軍勢だった。前線の向こうから飛来するキャスケット帽を被った骨。
予想外の状況に彼らは一瞬、判断が追いつかなかったものの、必死にこれを迎撃するも、そのうちの一体がすり抜けるように彼らの頭上に到達した。
そして次の瞬間、彼らの頭上に到達した、到達してしまったキャスケット帽を被った竜牙兵が、その全身から閃光を放つ。
彼らとて一流の勇者たちだ。だから、本能的にそれが恐るべきもの、致命的な何かであることを察した。
むろん、それは遅すぎた。
前方に抜けようとも、完全に守りに入った竜牙兵の陣形を越えることはできず、側面もまた敵集団。そして、いつの間にやら後方にも蓋をされ完全な包囲が完成していた。
放たれた閃光は解放されたエネルギーである。TNT爆薬に換算して1ktものエネルギーが大気を焼き、落雷すら仔犬の鳴き声のように思えるような爆轟をもって世界を揺るがした。
◆
「何が…起きた?」
軍神アレスは突然背中から受けた圧力と熱に弾き飛ばされた後、揺れる視界を振りほどくために頭を振って立ち上がり、背後を振り返って唖然と口を開いた。
あれはいったい何なのか。
まるで火山の噴火。噴煙を彷彿とさせるキノコのような形の雲が、先ほどまで率いていた軍勢があった場所に立ち上っている。
少し遅れて、自分に従って共に突入した地方の神が、下半身を失った状態で側に落下してきた。
※注 腰から下が千切れてピンク色のがはみ出ているので、頭の中でモザイク処理をしてください。
「だ、大丈夫か?」
「死にそうっす」
「オノレ…、お前の仇は必ずとってやる」
「あの、まだ死んでないっす。その、これ以上は危険っす。アレス様、ここは一旦退いてアテナ様と合流すべきでは…?」
「はは、馬鹿な奴だ。この俺が戦場から帰ってこなかったことが事があるか?」 +4
「いや、貴方、けっこう黒星多いですよね」
「ふっ、しかし敵もなかなかやるようだな。やはり、この俺も本気を出さなければならないようだ。うぉぉぉぉぉっ!!」 +5
部下の冷静なツッコミとかを一切聞き流し、軍神アレスは雄叫び上げる。圧倒的なオーラが噴き上がり、そして彼の肉体が大きく変容、肥大化を始めた。
そもそもオリュンポスの神々は基本的にいえば巨人、ティターン神族の流れをくむ者たちである。よって、本来、彼らは巨人であると言える。
そして軍神アレスの真の姿とは、全長200mを超える輝ける巨人だ。
天を摩するがごとく巨体、その体重と長大な歩幅。巨大なる神の疾走は恐るべき衝撃をもって大地を揺らしていく。
下半身が残念なことになった地方神はそれを見送りつつ、静かにぼやいた。
「あの、自分、不老不死なので死なないんすけど、医者とか呼んでほしかったっす」
ギリシア神話における神は基本的に不死という設定なので、物理的には死ぬことはない。ただし怪我はするし、再起不能になることもしばしば。
というわけで、地方神は歩けないので超助けてほしいなーと思いながら、ぐでーっと大の字に寝転がった。あ、足がないから大の字にならないや。
「ん?」
色々と諦めた地方神。そんな彼だが、ふと戦場には似合わない女児の叫び声が聞こえたような気がした。
「は、放せっ、ワシはまだ死にとうないっ、死ぬのは嫌なんじゃぁぁぁぁっ!!」
倒れ伏した彼の傍を風のように通り過ぎる、処女宮に向かって疾走する栗色の髪の幼女をラグビーボールよろしく抱えた竜牙兵。
「……なんすかアレ?」
◇
巨人となったアレスに続くように残った軍勢も、敵に向かって走り出す。
それは敵から離れた後方に固まっていれば、またあの攻撃がくると直感的に理解したからに他ならない。つまり生存本能である。
立ち止まっては死を座して待つに等しい。
それに、確かに骨の軍勢による包囲網も狭まってきているが、しかし包囲の外から女神アテナの軍勢が第二波として迫りつつある。
先の爆発を見たせいか、女神アテナの軍勢の動きが鈍っているものの、援軍の到着は時間の問題だ。今は軍神アレスに従い全員で突撃を行うのが正しいはず。
そして、先頭を走るアレスがその巨腕を振るい、竜牙兵の集団をなぎ払おうとしたその時、
「ぐぉっ!? また爆発だとぉぉっ!?」
アレスはとっさに両腕を盾に顔を庇う。雷鳴の如き轟音が一列に槍を手にして並ぶ竜牙兵の一団より発せられたからだ。
極超音速で飛来する、鋭利に尖った無数の竜の骨の破片がアレスのいる側に弾け飛び、彼の肉体を強かに打ち付ける。
アレスは盾にした腕の隙間から、顔を失い崩れ落ちる竜牙兵の一団を見た。なるほど、その顔面を炸裂させたのか。
彼が知る由もないが、それは未来のどこぞの無修正の国で開発された指向性対戦車地雷をモデルとしたトラップだ。
もちろんそんなモノが上級神であるアレスを殺すには至らないが、竜種の骨片を発射するというそれは確かにアレスの肉体を傷つけた。
そして、アレスほどの神格を持たない神々にとってそれは、十分すぎるほどの暴力として猛威を振るう。
よって、この死の空間を突破するにはアレスただ1柱の働きに全てがかかっている。
がんばれアレス、全ては君の双肩にかかっている。やれる、君にならできるさ!
アレスは獰猛な笑みを浮かべて両腕の盾を解き、前を睨む。これこそ彼が待ち望んでいたシチュエーション。圧倒的不利からの大逆転劇。
これでもう、役立たずだの軍神(笑)などと呼ばれることはない。本物の武勇をたてて、神話に偉大な名を残すのだ。
痛みをこらえて薙ぎ払った巨腕は数十の竜牙兵を一撃で根こそぎ薙ぎ払う。強い!
「くははははっ、やはり我が父ゼウスが出るまでもないようだな!!」 +6
軍神アレス。
その勇壮な肩書とは裏腹に、彼の武勇に関する神話は驚くほど少なかった。それは彼にとって屈辱であり、コンプレックスの源でもある。
「そうだ、確かに俺は重要ないずれの戦においてもマトモな活躍は出来なかった。例えば、神々に挑んだ愚かな巨人の双子に俺は負け、そしてその復讐も果たせなかった」
アロアダイと呼ばれたポセイドンの息子である双子の巨人は、その怪力を以てオリュンポスの脅威となった。
そして双子は神々に挑み、軍神アレスを破ってアレスを青銅の壺に13か月も閉じ込めてしまった。
アレスは瀕死となったが、ヘルメスに救われ事なきを得た。なお、その巨人の双子はアポロンに殺されている。
「ギガントマキアではギガースを一人も倒すことは出来なかった」
ガイアが生み落した巨人族との最後の戦いギガントマキアでは、アテナを始め、アポロンやアルテミス、ヘルメスやディオニュソスまでが活躍したのに、彼の活躍は描かれない。
つーか、むしろヤラレ役であった。
アレスは静かに、誰に聞かせるでもなく、決意を秘めて呟く。 +7
屈辱的な過去。
だからこそ、今こそ、数多の神々を退けたこの強敵を打破することで、真なる軍神、英雄神として神話に名を刻むのだ。
「俺、この戦いが終わったら皆に尊敬される軍神になるんだ!」 +8
アレスは誓う。そして力強く未来への一歩を踏み出し、………突然横合いから殴られて吹き飛んだ。
「おぼぉぉぉっ!? ま、まさかっ!? 貴様はぁぁぁぁっ!!?」 +9
「そうだ、俺だよヘラクレスだよ!!」
「ひぃっ!?」
無様に歪む顔面、半泣きのその目でアレスが見たのは、モリモリ筋肉マッチョのネメアの獅子の毛皮を被った本物の英雄が拳を振りかぶる姿だった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」
「あばばばばばばっ!!?」
乾いていない粘土細工とか、うどんの生地とか、そういうのみたいな感じにアレスの肉体はクシャッとなっていく。
ざんねん!! アレスの ぼうけんは これで おわってしまった!!
◆
「酷いオチを見ました」
処女宮の最奥。
大理石の玉座に座る女がため息交じりに鏡の前でゆっくりと横に首を振った。鏡には戦場の様子がTVか何かのように映し出されている。
女は気怠げに背筋を伸ばして伸びをする。黒髪が砂のように肩から落ち、豊かな胸がポヨヨンと揺れた。
もしどこぞの未来から転生した変態魔女兼王女がここにいれば、おっぱいの下に潜らせるように青い紐を通して二の腕に括り付けてたいという衝動に駆られただろう。
いや、まあ、ラノベの例の女神とは別なので、彼女は《例の紐》なんてまだ身に着けてはいないのである。
というわけで、処女女神ヘスティアさんが伸びをした後、何気なく横に視線を滑らせると、
「……誰でしょうこの娘?」
ヘスティアはいつの間にか、気絶している栗色の髪の幼女が傍に落ちて(リスポーンして)いるのを目にとめた。
+1 感情論で味方と仲間割れ。アレスは死ぬ。
+2 敵を侮る慢心。アレスは死ぬ。
+3 慢心からの逆上。アレスは死ぬ。
+4 今まで大丈夫だったから今回も大丈夫。アレスは死ぬ。
+5 大きな被害が出た後にようやく本気になる。アレスは死ぬ。
+6 自分が仕えているボスが出るまでの相手ではないと発言。アレスは死ぬ。
+7 唐突な過去話。アレスは死ぬ。
+8 俺この戦いが終わったら…。アレスは死ぬ。
+9 予想外の敵の増援にパニック。アレスは死ぬ。
番外 ヘラクレス。アレスは死ぬ。
今回のテーマは死亡フラグでした。
ところで、アレスの武勇伝を探し回ったけど、何一つ見つからなかった件について。裁判ネタぐらいしかないとか、これは間違いなく訴訟レベル。
でも、レベル20まで上げればギャラドス…じゃなくてマルスに進化できるってどっかに書いてあったし…。でも、マルスって城とか玉座を制圧するだけのキャラだったような…。
話変わるけど、ファルシオンって名前的にカッコイイよね。でも、現実のファルシオンを調べたらショボイ剣が出てきてガッカリした記憶あります。
…何の話だったっけ?
ああ、そうそう。今回の軍団vs軍団はもともとの構想ではロマサガ3のマスコンバットを再現しようとしてたんですよ。
で、神王教団の自爆部隊を再現しようと思ってたんですけど、どこからともなく竜牙兵から牙を抜いたら竜兵だよねっていう悪魔の囁きが…。