異界式試作型『魔王』一號機
異界行き100番窓口シリーズの外伝です。
初めての方は、そちらからお読みください。
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「お姉さま…。紅茶に砂糖の代わりに魔導燃料を入れる癖を直してくださいと、あれ程いったはずですが…」
「ひゃくちゃん、厳しい。栄養補給と美味しさ、これ合理的なり?」
「自分で首を傾げてどうするんですか……」
五つの恒星がからなる銀河系、イースオリオン銀河。
その恒星の一つ、デイラシウスの第三惑星であるとある星。
嘗て、五次元宇宙開発機構と呼ばれる機関によって、生態系から形作られた惑星の大気圏に浮かぶ浮城に存在する一室で、和気藹々と話す二人の女性がいた。
メガネをかけた理知的な風貌を持つ、小さな角が3本生えた緑髪の女性。
そして、三次元宇宙に置いてメイド服と呼ばれる衣装を纏った、若干動きがぎこちないもう一人の女性。
「ひゃくちゃんが、お姉さまなんて他人行儀じゃなくて、いちちゃんと、呼んでくれるなら、治すと、誓う?」
「…え?お姉さまのどこが他人行儀何ですか…。これ以上ないほど親しみを込めて呼んでますけど」
「じゃあ、せめて、おねえちゃんと?」
「う、お、おおお、おね、おねえ……」
「じーーーーーーっ」
「見つめないでください!お姉さま!」
「むう、残念…?」
毒ガスが噴出し、可燃性ガスが爆発し、地表が噴火し、海が爆発し、大気が生き物全てを蹂躙する惑星で、楽しげに暮らすメイド服の少女。
これは、そんな彼女の日常を綴った物語である。まる。
――『魔王』ちゃんの日常――
どうも、私の名前は試作型『魔王』一號機。
プロトタイプ一號ちゃん。
略して、いちちゃんと呼ばれたいです。
いちちゃんと呼んでくれる人が全然いないので、悲しい毎日です。
悲嘆に暮れてます。
そんな、私の朝は、爽やかな毒ガスから始まります。
「初代様……、起きてくださいなのです、初代様」
私を初代様と呼ぶのは、部屋住みのマリナさん。職業家事手伝いさんです。
私のお仕事を手伝ってくれる、可愛い助手さんです。
最近、幼体から中整体に成長したばかりの、可愛い盛さんなのです。
ひゃくちゃん譲りの、綺麗な緑髪。
中整体に成り、自在に操ることのできる様になった、三本の角は髪と一緒に後ろに流れ、私を起こすために、浮いている状態の体を支えています。
ただ、体内循環系の制御は、ひゃくちゃん以外はまだ不可能らしく、濃い魔素の篭った、人間程度なら一ミクロンで1000万人程度なら死滅させることができる二酸化魔素を吐き出しています。
幼体のずんぐりむっくりな体型も可愛かったのですが、こうして中整体として、ひゃくちゃんの様に人型に近い幼い姿で私を起に来てくれる姿は、なんか、昔を思い出して、こう、抱きしめたくなりますよね?
「初代様…、苦しいです、起きてるなら、起きてると言って欲しいのです」
あ、もう抱きしめてましたか。
暖かいです、このまま、もう一眠りしましょうか。
「ダメです、今日はお菓子作りを教えてもらう約束なのです」
「お菓子作りなら、明日でも、できますよ?」
でも、マリナちゃんを抱きしめるのは、今しかできません、これ合理的なり?」
「どこがですか!早く起きください、初代様!」
腕の中で暴れるマリナちゃん。
力を込めれば、収めることもできるでしょうが、そうすれば、もしかしたら、マリナちゃんを殺してしまうかもしれません。
私は、渋々体を起こしました。
「おはよう、ございます。マリナたん?」
「はい、おはようございます、初代様」
ふむ、反応なしですか。
では今日は、マリナちゃんの呼び方は、マリナたんで決定ですね。
「ほら、早く起きてください、今日は当代様がいらっしゃるんですよ!」
「ふえ、ななちゃんが来るのですか?そんな、予定ありましたっけ?」
「素で忘れないでください!当代様は、我らが星にご帰還してから月の初めは、必ず初代様の所を訪れてます!」
「そうだったのですか?最近、物忘れが激しくて。それにマリナたん。月の初めといっても、千日前のことですよ?よく、覚えてましたね」
「その前も、その前も、いらっしゃってますから!帰り際に、また来月のはじめの日にと伝言も残して!」
小さなマリナたんの手に引かれて、渋々お布団とお別れしました。
ちなみにメイド服はデフォルト。
寝巻きは追加パーツです。
つまり、寝巻きを脱いだら、メイド服なります。
「さて、張り切ってお菓子作りですよ、初代様!」
小さい子がエプロンを来て腕まくり、鼻息荒く、魔素タップリの二酸化魔素が世界に還元されていきます。
元々増えすぎた魔素の吸収管理は、私の役目だったのですが、私は吸収は出来ても還元することは、出来ないので、ななちゃんが来た時に管理権限は全てななちゃんに移譲しました。
いまでは日々、ごきらく隠居生活イン子育てモドキです。まる。
「さて、今日は何を作るのですか?初代様!」
「そうですね、今日は、クッキーを作りますか?」
「はい!」
元気があって宜しい。
それでは、まず、材料を用意しましょう。
鬼 ……九体。
魔導燃料 ……1テラg
惑星粉末 ……少々
恒星粉末 ……少々
デビルシードの卵 ……二ヶ
ヒューマンの白魂 ……二百ℓ
「これだけあれば、十分です?」
「はい!」
いい返事です。
それでは、地上にまず鬼とデビルシードの卵を取りに参りましょうか。
―――『魔王』&少女、お出かけ中―――
「初代様!鬼が沢山います!」
「取り敢えず、焼き払っちゃいましょう?」
「はい!」
―――少女、熱線攻撃中―――
「初代様!デビルシードです!」
「取り敢えず、お昼がまだでしたので、食べておいでなさい?」
「はい!」
―――少女、お食事中―――
「初代様、卵と鬼が揃いまいした!」
「では、私は、適当に惑星粉末と恒星粉末を、とってきます?」
「はい!」
―――少女、お留守番中―――
「ただいま戻りました?」
「おかえりなさい!初代様」
「惑星に、丁度、生まれたばかりのヒューマンが一定数いたので、惑星と一緒に刈り取ってきました。
手間が省けて、合理的なり?」
「はい、合理的です!」
「それでは、帰りましょうか?」
「はい!」
と、いうわけで、材料は揃いました。
魔導燃料は、備蓄がたくさんあるので、わざわざ採取しなくても大丈夫なのです。
「それでは、まず鬼を磨り潰します?」
「はい、ゴーリゴーリゴーり」
目の前ですり鉢に鬼を九体詰め込んだマリナちゃんが、すりこぎで鬼をすり潰していきます。
一生懸命で可愛いですねー。
「次は、ボールに固形の魔導燃料を湯煎しながら溶かしていきます?」
「はい、チャカチャカチャカー」
「よく溶けて、クリーム状になったら、デビルシードの卵とヒューマンの白魂を入れてよくかき混ぜます?」
「はい、グチュグチュグチュー」
あら、新鮮な白魂はイキがいいですね。逃げちゃダメですよー。
「次に、よく振った惑星粉末に、少量の恒星粉末を混ぜ合わせてから、溶かしながら徐々に入れていきます?」
「はい!シャカシャカシャカシャカー」
「後は、ひたすら混ぜる!熱い魂の赴くままにひたすら混ぜるあるのみ!!」
「はい!」
元気な返事。
止まることのない、手際によって等々、クッキーのタネが出来上がりました。
後は、焼くだけす。
「それでは、私は適当に型どりしていきますので、マリナたんは、熱視線を送ってください?」
「はい、初代様!」
私がクッキングシートに、型どり置いていくクッキーが端から、マリナたんの熱視線を受けてこんがり焼けていく。
なかなかの手際ですよ、マリナたん。
正味三十分かけて、マリナ手製クッキーは完成した。
そして、ナイスタイミングで玄関が来客を知らせるベルを鳴らした。
「あ!初代様、当代様がいらっしゃいました!」
「あらあら、じゃあ、お出迎えしましょうか?マリナたん」
「はい!」
可愛い妹を迎えに走って行く、マリナたん。
さて、私はクッキーの味見でもしながら、待ってましょうか。
「ふむ、なかなかにサクフワで、美味しいわ?」―――まる。
後日、とある異界の100番窓口にて。
「魔王。なぜお姉さまの家はあまり顔出さないの?ここには、よく来るのに」
「ああ、まいどまいど出されるお菓子がな……」
「ああ…、美味しくないの?」
「いや、美味しいんだがな、マリナも可愛いし、だが……」
「だが?」
「アレからは、怨念の様なものの残滓と、消化不良をおこしそうな程の魔力が感じられるんだ……」
「ああ、お姉さまがきっと魔導燃料をいれてるんでしょう」
「姉さんが!」
「ええ、私たちの惑星の基盤となる状態を作り上げたのは、お姉さまですもの。
お姉さまは還元はできないけど、固体化保存はできるのよ」
「つまり…?」
「嘗て、あの惑星は今の数億倍の濃度の魔素に覆われていたわ……、その全てを現状の状態まで吸収固体化して、私の子供たちが住めるようにしてくれたのがお姉さまなのよ」
「はあ…、まあ、君の子供たちにも驚いたけど、あの姉さんがそんなことしてたとはね…」
「ふふ、あの機関を、私とたった二人で潰した『魔王』さまの所業とは、思えない?」
「ええ」
「彼らも、まさか最初に作り上げた試作品が、あそこまで底なしの化物だとは思わなかったのよ…。事実、私の子供達でも、機関の総督府までは届かなかったわ」
「と、いうことは」
「お姉さまが、銀河中の魔素を固体化して、総督府に投げ込ん後、私が熱線を叩き込んだのよ…。
超高温を流すと固体化が溶けるらしいわ…」
「……」
「というわけで。まあ、私の功績ということになっているけど……、姉さまが一人で滅ぼしたようなものよ?
事実、やろうと思えば、できただろうしね…」
「いや、それは、言いすぎじゃないか…」
「私は、そうは思わないわ。
……ねえ、中整体の子の肉体強度って知ってる?」
「は?何、急に」
「中整体になった子は、強度的には、ほぼ私と変わらないの、つまり、どこぞの勇者の様に星ごと滅ぼせるくらいの力を持たないと、私は、殺すことはできないのよ。
まあ、文明レベルでそれができたあの機関の事は置いておくとしても、私を殺せる人間は、もう、殆ど世界にいないわ」
「……それで?」
「姉さまは、私が中整体になった時、思いっきり抱きしめてくれたのだけど、私、その時死にかけたのよ……」
「いまでも、マリナを、あまり抱きしめないように気をつけているらしいわ…」
「なんというか…」
「ええ…、機関の最終目標って、私、つまり最強の繁殖生物を作ることらしかったんだけど…」
「最強云々では、最初に作ったもので完成してた、わけか…」
「ええ、やっぱりお姉さまって……」
「……ああ、正真正銘の」
―――「「『魔王』ですよね」だよね」
完