5話 美鳥登場
そして、観客が去っていく。
来ヶ谷がマッド・鈴木のもとに近づく。
「鈴木氏。すまないが、この件は黙っていてもらいたい」
「わかりました。過言しないことを約束します」
「それと、そのNYP値の測定器。だったか? それを貸してもらえないだろうか?」
「いいですが、壊さないでくださいよ」
「わかっている」
来ヶ谷が鈴木から電卓のようなものをもらう。
「それと、さきほどの西園女史のNYP値を教えてくれないか?」
理樹、真人、美魚は倒れている子にどこから持ってきたのか。来ヶ谷の持ってきた、タオルをかけて近くに立っていた。
「真人、この倒れている子を連れて行って。場所は……」
理樹はリーダーらしくしようと真人に言う。しかし、こんなタオル一枚かけただけの少女を一体どこに運べばいいのか迷っていた。そこで、美魚は、
「私の部屋がいいと思います。今の時間ならだれもいないと思いますので井ノ原さんも寮の中に入れるのではないかと……」
と、自分の部屋を提供する。
「わかった。ありがとう、西園さん。真人お願い」
「おう」
理樹、美魚、真人、来ヶ谷で美魚の部屋に行く。
「それで、これはどういう状況?」
美魚の部屋について、美魚に似た少女が美魚のベッドで寝かせてから理樹が聞く。
「お姉さんが何が起きたのか大体予想はしたのだが……」
「難しい話はやめてくれ。筋肉が耐えられん」
「筋肉関係ないよ?」
「では、お姉さん予想を言ってみよう。実はこんなものを借りてきた」
来ヶ谷が電卓のようなものを取り出した。
「それって。NYP計測器?」
理樹は永遠の一学期で見たことのある装置だったため、すぐにわかった。記憶があいまいなため?マークがついているが……。
「うむ。先ほど、美魚君のNYPを測らせてもらったのだが、先ほど勝負が始まる前に調べた値よりかなり下がっている。
例を出すならば、美魚君のマックスを100として、バトル前に測ったときは2.5倍。つまり、250だったわけだ。そして、今測ったところ、100だった。さて、理樹君。その150はどこに行ったと思う?」
「え? え~と……」
「そして、この美魚君似の少女もなんと、NYPを持っていた。値は現在と美魚君と同じだ。ここまでいえばある程度理解できるだろう」
「わたしのNYPで美鳥がこの世に生まれた……?」
「少なくとも、私や観客のみんなが存在を認知していたことから、NYPによって実在していることになったのだろう」
「え? ちょっと待って。残り50はどこに行ったの?」
「うむ。それについてはもう少し調べてからでいいか? 練習のときには教えられると思う」
「了解」
理樹がそういうと、その話が終わった。そして、美魚が部屋に残ることにして、理樹と真人は5限目から普通に授業に出た。来ヶ谷は情報招集と言って授業に出なかった。
6時間目の最中。美魚の部屋
「………」
美魚は部屋で本を読んでいた。
「ん……。ここは?」
ベッドで寝ている美鳥と思われる子が目を覚ます。
「美鳥。起きましたか?」
「お姉……ちゃん? そっか。ここお姉ちゃんの部屋。ってなんであたしここに?」
美鳥が起き上がり、周りをみる。
「今から説明します。実は……」
美魚は真人と戦っているとき、NYPの暴走によって美鳥がここにいることを説明した。
「ふ~ん。で、そのNYPってなんの略称?」
「科学部部隊の話によると、『なんだかよくわからないパワー』。通称NYP。らしいです」
「……なんだかよくわからないパワー?」
「はい。え~と、確か科学部部隊が言うには……。
人体にはまだ、なんだかよくわからない未知のエネルギーが秘められていて、
そのなんだかよくわからないものを、よくわからないなりに発見したのが化学部隊の鈴木という人らしいです。
それで、そのなんだかよくわからないエネルギーは……
このなんだかよくわからない物質を通してよくわからない反応を起こし、よくわからない次元空間に作用させ、なんだかよくわからない状態になるらしいです」
「何一つわかってないよね?」
「ですね」
コンコンッ
とドアをたたく音が聞こえた。
「はい?」
「私だ。入ってもいいかな?」
「はい。どうぞ」
来ヶ谷が扉を開け入ってくる。
「お。もう1人も起きているようだな」
「確か、来ヶ谷唯湖……」
「うむ。来ヶ谷ちゃん。とでも呼んでくれ」
「呼ぶわけがないでしょ」
「はっはっはっ」
美鳥のツッコミを来ヶ谷は笑ってやりすごした。
「それで、来ヶ谷さん。一体何を調べていたのですか?」
美魚がお茶を入れ、3人でテーブルに座って話を始めた。ちなみに美鳥は美魚の白と黒のワンピースを着ている。
「うむ。実はいろいろ調べた結果。西園美鳥君。君は最初からこの世界に存在していることになっている」
「え?」
「何を言っているのですか? 来ヶ谷さん」
美魚の問いに来ヶ谷はお茶を一杯飲んで、
「戸籍が存在し、君たちの両親も最初から双子。と思っているらしい」
「わたしたちが最初から双子だったと思い込んでいる?」
「この学園の外だけだがな」
「もしかして、残りのNYPはこの記憶改ざんを?」
「そういうことだな。全く不思議なエネルギーだ。はっはっはっ」
「……なんでこうなるのかな? あたしはお姉ちゃんを影から見守るつもりだったのに」
美鳥はため息をつきながら言う。
「見守る……か。いいではないか。影から見守っていては助言ができないぞ? だが、隣にいれば、すぐに助言ができる。それに、話を聞いた感じだと、君は我々と一緒にいたかった。違うか?」
来ヶ谷の言葉に美鳥は頬を膨らませる。
「お姉ちゃん。あたしのこと、話したの?」
「う、うん」
「………」
美鳥がさらに不機嫌になったようで、頬をさらに膨らませる。
「はっはっはっ。かわいいな~」
その様子をみて、来ヶ谷はいつの間にか反対側にいるはずの美鳥の後ろに回り抱きついた。
「え? え?」
「来ヶ谷さん。わたしの妹なのでそういうことは……」
「ほほう。姉妹丼か。おいしそうだ」
「お、お姉ちゃん。助けて」
美鳥が涙目になって姉に助けを求める。
「……わたしも助けてほしい気分です……」
美魚はそういいながらいつでも逃げられるようにする。
『プルプルプル』
と携帯が鳴り始めた。
「む。至福の時を邪魔されたな……」
来ヶ谷が美鳥から離れると、携帯を取り出し電話に出る。
「何の用だ? 葉留佳くん。わたしの至福の時を邪魔するとはいい度胸だ」
『ちょっ。待ってくださいよ。姉御』
「早く要件を言え。美魚君たちに逃げられてしまうではないか」
『逃がした方がいいのかもしれませんね。要件は、もうみんな集まってますよ? 練習に来ないのですか? 姉御』
「む。もうそんな時間か。理樹君に説明をすることを約束してしまったからな。行かなければ……」
『了解ですね』
葉留佳がそういうと、電話が切れた。
「さて、どうする? 2人とも練習に来るか?」
いつの間にか入口の近くにまで行っていた姉妹に聞く。
「わたしは行くつもりです。美鳥はどうします?」
「……あたしはいい。ここでまってる」
「そうか。では行こうか? 美魚君」
「はい。美鳥、部屋の物は好きに使っていいですので」
「うん。ありがとう、お姉ちゃん」
2人はそういってグランドに向かって部屋を出た。
「……お姉ちゃん。幸せそうだった……」
誰もいなくなった部屋で美鳥は独り言を言う。
ついに美鳥登場です。う~ん。ちょっと無理やりすぎましたかね?