3話 バスターズジャンパー
翌日。食堂
「諸君。おはよう」
恭介が食堂にきて、真人、理樹、鈴に挨拶をする。
「おう」
「おはよう。恭介」
「鈴。おはようぐらい言ったらどうだ」
恭介の足もとで猫にエサをやっている鈴に言う。
「……馬鹿兄貴か」
鈴は顔をあげてそれだけ言うと、また猫のほうを向いてしまった。
「たまにはお兄ちゃんぐらい言ったらどうだ?」
「………」
鈴は聞こえていないのか猫にエサを与え続けている。
「わふー。リキー」
クドがおぼんを持って駆け寄ってきた。
「クド。おはよう」
「はい。おはようございます」
「おう。くー公。筋肉、筋肉ー」
「わふー。筋肉、筋肉ですー」
クドはおぼんをテーブルに置いて、真人と2人で怪しげな踊りをし始めた。筋肉筋肉言いながら。
そのクドの背後に影が1つ現れる。そして、その影はクドを後ろから抱いた。
「わ、わふ?」
「ははは。クドリャフカ君の抱き心地は最高だな」
その影は来ヶ谷で、抱きながらどさくさに紛れてクドの胸のあたりを触っている。
「わふー><」
クドが逃げようとじたばたしている。
「来ヶ谷さん。放してあげなよ。クドがかわいそう」
理樹が言うと、来ヶ谷は仕方がなさそうにクドを手放す。
「まぁ、理樹君がそういうなら仕方がない。もっと愛でたいが我慢しよう」
「わふ~」
クドは目を回していた。
「あれ? みんな、集まってどうしたの?」
小毬も来る。
「ほわー。猫ちゃんだ~」
小毬が鈴の近くにしゃがむ。
「こまりちゃん?」
「おはよう。りんちゃん」
「おや。みんな集まってますね」
葉留佳まで現れた。
美魚と謙吾以外のリトルバスターズのメンバーが一か所に集まり、朝食を食べ始めた。
「いやー。みんなで食事というのも楽しいものですね」
葉留佳が笑いながら言う。
「しかし、謙吾少年と美魚君がいないな。恭介氏、謙吾少年は?」
「謙吾か? 理樹。わかるか?」
「いや、わからないけど」
そんなことを話していると、
「おはよう。みんな」
謙吾が現れた。
「おう、おはよう」
恭介は今日出た週刊誌なのか、漫画を読みながら返事をする。
「おは…って、ちょっとまったあぁぁーーっ!」
真人が学食内に響き渡る大声を上げる。
「なんだ、騒がしいやつだな」
「はぁー!? はぁー!? はぁー!??
真人が混乱する。
「朝っぱらから誰が3わけわからんポイントを取得か…何事だよ」
雑誌から目を離し、謙吾を見る。
「………。はぁー!? なんだよ、おまえ、それ、はぁー!?」
恭介も混乱に陥る。
「なんかよくわからんが、計5わけわからんポイントだな。で、なんなんだ?」
鈴が小毬と一緒に顔をあげる。
「こわっ! なんだ、こいつ、こわっ! うわっ、こわっ!」
「ほわー!? ほわー!?」
鈴と小毬も混乱する。
「今のも集計に加えていいのか……」
「いいぜ。鈴のこわっ! は、わけわからんと同義語だ。小毬も同じくな」
「なら、計10わけわからんポイントだぜ……」
「なんだ騒々しい」
来ヶ谷も謙吾を見る。
「………………」
来ヶ谷も言葉を失う。
「恭介氏。そのわけわからんポイントというのにお姉さんから3ポイントつけてくれ。先ほどの無言は、鈴君のように同義語だ」
「僕もふたつ言っておくよ……。はぁ? はぁ?」
「おっと、これで15わけわからんポイント、よくわからんが、ぶっちぎりで優勝だ、謙吾」
「よくわからんが、ありがとう」
わけのわからない握手をする謙吾と恭介。
「で、どうかしたのか」
「いや、スルーしろというほうが無理だから」
「え? ああ、このジャンパーのことか?」
そう。謙吾はlittle bustersというロゴが入ったジャンパーを羽織っているのだ。胴衣の上に。
「これはな、手作りの……リトルバスターズジャンパーだ」
「て、手づくりぃぃぃぃ?」
「こわっ!」
「このロゴも自分で作ったのか……」
恭介が生地を指で触って確かめる。
「ああ。その通りだ」
そして、謙吾は紙袋からサイズの違うジャンパーを取り出す。
「できたら、正式に認めてほしくてな。みんなの分を作ったんだ。どうだ?」
「……。どうだと言われても……。もう飛躍しすぎてて、会話の繋ぎ方すら覚束ない状況だが……」
「ああ…いきなりトップギアだな」
「ほほう。全員分手作りか」
来ヶ谷がジャンパーを1着取る。
「もちろんだ」
「サイズとかはどうやって調べたのだ?」
来ヶ谷がジャンパーを隅々まで見ながら聞く。
「保険医に聞いた。理由を聞かれたので正直に答えたら教えてくれたぞ」
「なるほど。変な理由ではないしな」
「おおー。裏地に名前が入ってますね。サイズぴったり」
葉留佳が自分の名前が裏地に刺繍されているジャンパーを見つけ、それを着る。
「どれ。私も着てみようか」
葉留佳はジャンパーを着て、うれしいのかクルクル回っていた。
来ヶ谷も着てみるとぴったりだった。
「試合のときみんなできるのはどうだ?」
来ヶ谷がとんでもないことを言った。
「「「え゛っ?」」」
リトルバスターズ、謙吾以外の男子メンバーが声を出す。
「え? 嫌なのか?」
謙吾が聞いてくる。理樹はどう答えようか迷っていると、
「え~と……。まぁ、その話はいい。お前たち、俺は今日から就活で数日いなくなる」
恭介がとんでもないことをいきなり言った。
「なにっ? 俺は今日、西園にバトルを申し込むつもりだったんだぞ!」
真人が立ち上がりながら怒鳴る。
バトルとはバトルランキングのことである。
ちなみに現在の順位は、
1位、宮沢 謙吾 バトルランキング暫定王者
2位、棗 恭介 ロリコンの王様
3位、来ヶ谷 唯湖 カレー食べたら火を噴いた
4位、西園 美魚 よくわからん
5位、直枝 理樹 堕天使
6位、井ノ原 真人 謙吾LOVE
7位、三枝 葉留佳 シスコン
8位、棗 鈴 実は犬のほうが好き
9位、神北 小毬 太ってきた?
10位、能美 クドリャフカ 小毬ちゃんに負けました
「心配するな。理樹、お前にリーダー代理を言い渡す」
「え?」
「でも、バトルを言われても人たくさん集めることできないよ?」
「心配するな。それは来ヶ谷に頼みたい。できるか?」
「うむ。やろうと思えば可能だ」
来ヶ谷が頷く。一体どんな方法で呼ぶのだろう?
「それ以外は理樹、お前がやるんだ。ミッション、代理リーダーを成功させろ」
「わかった……」
理樹のリーダー代理の日々が始まる。
そして、謙吾がわけわからんポイントをもらっている頃。西園美魚の部屋。
「……困りました…」
ベッドで寝たまま美魚が独り言のようにつぶやく。
いつもならばすでに朝食も食べ終わり、本を読んでいる時間である。
「……いたっ」
美魚は昨日の練習のため、全身筋肉痛で動けないのである。
美魚は1人部屋のため助けを呼ぼうにも呼べない。携帯でリトルバスターズのメンバーに助けを呼ぼうにも手も痛くて動かせない。
「………」
再び食堂。
「小毬。鈴。2人で西園の部屋に言ってもらっていいか?」
恭介が急にそんなことを言い出す。
「ほえ? どうして?」
「俺の予想なんだが、おそらく西園は昨日の練習で筋肉痛になっていると思う。そして、それで動けないんじゃないか。と思ったんだ。チェックしてきてくれ」
「わかったー。りんちゃん、行こう~」
「うん。こまりちゃん」
2人で行こうとすると、
「まて。私が行こう」
来ヶ谷はそれだけ言うと、走って食堂から出て行った。
「鈴。今すぐ来ヶ谷さんを追いかけて! 西園さんが危ない」
「……」
理樹が急いで言うと、鈴は無言で頷くと、猫を肩に乗せ、来ヶ谷を追いかける。
再び美魚の部屋。
「こうしていると本当に退屈ですね」
美魚は何度目かわからないため息をつく。
本を読もうにも手が動かない。足も動かない。少しは動かせるようになったが、それでも本を読むのも立ち上がろうとするのも無理なのである。
「ふはははは。このお姉さんについてくるとはさすがだな」
「まて、こらーー」
「……どこかで聞いたことあるような声が近づいてきているような……?」
直後。バンッ! とドアが思いっきり開く音が聞こえる。
「!??」
そして、そこには来ヶ谷がいて、ベッドで寝ている美魚をみて、顔がにやけていた。
「おお。恭介氏の言っていた通りだ。美魚君。私が優しく介抱してあげよう」
「!?」
美魚は危険を感じて逃げようとするが、体が動かず逃げられない。
「まてこらー」
鈴の飛び蹴りが来ヶ谷に迫る。が、
「おっと」
来ヶ谷はそれを軽く避ける。鈴はそのまま美魚のベッドの近くに着地する。
「り、鈴さん?」
「邪魔をするのか? 鈴君」
「理樹に来ヶ谷を止めろ。と言われている。だから止める」
「なるほどなるほど。では鈴くんを倒してから楽しむとしよう」
来ヶ谷の姿が消える。
「くっ」
鈴が前に飛ぶと、もともと鈴のいた場所に来ヶ谷の蹴りが来た。
「ほぉ」
鈴はそのまま部屋を出て行った。
「なるほど」
来ヶ谷はにやけると、また姿が消えた。
「……。鈴さん。もしかして、私の部屋で暴れないように?」
「予想通りに動きすぎだろ」
なぜか恭介が美魚の部屋に入ってきた。
「お邪魔するぜ」
「恭介さん?」
「やっぱり動けないのか」
「はい」
「実はな、筋肉痛用の鎮痛剤をなぜか保険医が開発しているらしくてな。1錠もらってきたんだが……。飲むか?」
「すごく怪しいのですが」
「まぁな。まだ開発途中で人によって薬が効くかどうかはわからないらしい。副作用はないらしいが……」
「……。やめておきます。今日一日寝ていれば治るでしょう」
「そうか。じゃあ、俺が寮長とかに伝えておこう。俺は今日から数日、就活でいないからな。リーダーは代理で理樹に頼んだ」
「わかりました。就職活動頑張ってください」
「おう」
恭介はそう言って部屋を出て行った。
今日一日。美魚は部屋でずっと寝ていた。
バトルランキングの称号は適当にその時思いついた言葉を付けているだけなので、文句を言わないでください。