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5.登校


「おはようございます、和音様。」



ガラッと引き戸が開いて千景さんの声が部屋中に響く。

私はその声で目を覚まし、天井を見上げた。

あぁ、昨日の事は全て夢じゃないんだ・・・現実なんだ・・・


「今お目覚めでしたか?申し訳ございません。学校へ行く時間にギリギリでしたので強行をお許しくださいませ」

「・・・・え?」


その声に思わず飛び上がる。

壁時計は7時45分を差していた。


「龍平様が一緒にご朝食をとりたいとの事でしたが、和音様が熟睡されてたためギリギリまでお休みになるのを優先されました。優しい方ですね、龍平様。」

「本当に優しい奴はここから出してくれるよ」


私は布団から出て心底嫌な目覚めだと実感した。

昨日はあの後、本当に何もしてこなく千景さんを呼んで布団を引いてもらい加島龍平はあっさりと出て行った。

最初は眠れなくて困っていたが、いつの間にか眠っていたようだ。


「和音様、制服にお着替えになりましたらまたお呼びください。そこの呼び鈴を押していただければすぐに駆けつけます。」


千景さんはそう言いながら手際よく布団を畳んでいく。


「あ、はい」

「では、失礼します。」


こんな錯乱状態で学校かぁー・・・

気が乗らないよ。


クローゼットの中から紺色のブレザーを取り出す。

クローゼットには私の洋服が綺麗に整頓されている。

部屋が違うだけで家にいたころと同じ待遇なのに・・・あぁ、私は不幸だ。

こんなにも自由がほしいと思ったことはない。









*************






「では時間もほとんどありませんのでお車にてご朝食となります。」

「え?車?」

「はい、龍平様が大変心配されててお車の移動をと命じられております。」

「まぁ・・・この場所どこだか知らないしね」

「和音様の学校からは以前のおうちよりは遠くなりますね。」

「あ、そう」


あまりにも用意周到であっけに取られてしまう。


「さ、お車の準備もできたようです。向かいましょう」


千景さんの後に着いていくと長い廊下が私を出迎えた。

本当に広い家だなぁ・・・。

部屋がいくつもあってとてもじゃないけど覚えられない。

私の部屋はとりあえず一番端にあるらしい。

あいつの部屋はどこなんだろうー・・・?


「おはようございます、和音様」

「和音様、お目にかかれて光栄です。」

「和音様!おはようございます!」


な・・なんなのこれ?

お手伝いさんらしき人達に次々と声をかけられる。

しかも賛辞の嵐。

前の家でもちやほやされてはいたけど、さすがにここまでではない。


「はぁ・・・おはようございます」


このお屋敷のお偉いさんの・・・・認めたくないけど“僕の女”だと公言してたそうだからこういう待遇は仕方ないのかもしれない。


「和音ちゃんおはよう」


玄関で靴をはき終えた所で私が最も聞きたくない不幸が始まる音がする。


「・・・・・おはようございます」

「挨拶してくれるの?僕感激しちゃうよ。ま、その目は相変わらずだけどね」


“挨拶とありがとう、ごめんなさいをきちんと言いなさい”

それがお母さんの口癖だったから反射的に挨拶はしてしまった。


「行ってらっしゃい。今夜は一緒に晩御飯食べようね。僕も頑張って仕事終わらせるからさ」

「・・・・・行ってきます」


晩御飯の事は一切触れず私は千景さんが苦笑いして待っている車へと向かった。






************




「お味はいかかがですか?」

「おいしい!!」


私はおにぎりと卵焼きを頬張りながら千景さんを見た。


「和音様が笑っていらっしゃるの初めて拝見しました」

「え?そう?」

「昨晩はずーっと不機嫌そうなお顔でしたから。状況が状況でしたものね」

「まぁねぇ・・・」


あの状態でにこにこ笑える人が見てみたいものよ。


「あ!それより私急いでて顔洗うのも髪とかすのも忘れてた!どうしよ!!」

「それでしたら、蒸しタオルがございますよ。髪は私でよければとかしますよ」

「・・・ありがとう」

「当然のことですよ」


千景さんがいなかったら私本当にもっともっと不幸だっただろうな・・・・。

髪をとかす手がとっても優しくてお母さんを思い出した。


「元々色素が薄い髪質なのですね。染めてらっしゃるかと思った」

「お母さんがイギリス人のクォーターだからその遺伝らしいよ。」

「そうなんですか!だから和音様のお顔もはっきりした綺麗な顔立ちなのですね」

「綺麗なのは千景さんだよ」

「またまたご冗談を」


千景さんは恥ずかしそうに笑った。


「到着です」


運転手さんがぶっきらぼうにそれだけを伝えると千景さんはすばやく降りて、私側のドアを開けてくれた。

さすがにここまで丁寧に扱われたことないから緊張してしまう・・・。


「行ってらっしゃいませ」


千景さんは満面の笑みで私を送り出してくれた。



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