3.不安、ふあん、フアン
私は今知らない部屋に1人でいる。
あっという間に私の荷物が片付けられて
あっという間にこの家に連れてこられて
あっという間に私の部屋が完成された。
私の家は洋風の家だったけど、この家はいたって和風の昔ながらの家なようだけど・・・広い。
畳のにおいが何故か懐かしく感じる。
「私・・・何したらいいの・・・?」
アイツ・・・加島龍平は
「とにかく部屋にいてね。色々こっちも手続きがあってさ。それが終わったら会いに行くから。逃げようなんて考えないでね?和音ちゃんが選んだんだから」
と一方的に話して私をこの部屋に置いて何人かスーツの男の人達を連れて出て行った。
お父さんとお母さんがどうなったかは分からないけど・・・アイツはきっと嘘はつかない。
出会って数時間だけれどそんな気がした。
ただ、無事で暮らしていってほしいな・・・悪いことってどんな事をしたんだろう?
間違いじゃないの?
たった数時間で両親を疑えるわけがない。
いつも優しく私を守ってくれた。
私が出した答えは間違っていない・・・・はず・・・。
この先どんな事が起こったとしても・・・・
トントン
引き戸からノックの音がする。
「・・・・・はい」
「失礼します。」
引き戸から着物を着た女の人が頭を下げている。
顔を上げると、黒髪が似合う綺麗な人だった。
「和音様のお世話役になりました、近藤 千景と申します。以後お見知りおきを」
「はぁ・・・」
お世話役・・・?
何だか家にいた時と変わらないなぁ。
「今後何かありましたら、この近藤に何でもお申し付けください。」
「あ・・・はい。あの・・・」
「はい?」
「私ってこれからどうなるんですか?」
「どうなると・・・おっしゃいますと・・・?」
近藤さんは困ったように私を見ている。
「だってここに連れてこられてどうしたらいいか分からないんです。早速一人ぼっちだし・・・」
そう言うと近藤さんの口元が緩んだ。
「自由になさって結構ですよ。ただ今日の所はこの部屋にいてほしいと龍平様からの言伝でございますので龍平様がお戻りになるまで私がここにいさせていただきます」
この人は敵ではないよね・・・?
人を見る目だけは17年間の人生の中でも自信がある・・・
だから加島龍平は危険人物だ。それも自信がある。
「分かった。とにかくアイツが来ないとどうにもならないって事だよね。はぁ・・・・何かもうパニック」
「無理もございません、今日突然のことですものね。私たちも正直驚いております。今までに龍平様がご婦人を連れて帰って来た事などありませんし、その方が住むとなりましたし・・・」
「あぁ・・・私やっぱりここに住むのね」
まぁ荷物が運ばれた時点で分かっていたんだけれど・・・まだ心のどこかでは認めたくなかったのも事実で。
「龍平様はさぞかし和音様と離れたくなかったのではないですか?龍平様はお忙しい方なのでなかなか時間が取れないかと思いますが、必ずここにおいでになりますのでお待ちください。」
「いや、私は別に会いたくないんだけどさー・・・」
「え?!お二人は恋人同士ではないのですか?」
「数時間前に会ったばっかりの人を好きになれるわけがない。それに・・・」
お父さんとお母さんを囲っていたリーダーだよ?
どんなに悪いことをしたとしても私はアイツを良くは思えない。
私がしばらく黙っていると近藤さんは、優しく声を掛けてくれた。
「そうだったのですね。私たちはただ前々からお付き合いされていた和音様と離れたくなくてお連れになったかと・・・。少々強引な所がございますからそれぐらいするかなと・・・」
近藤さん、なかなかストレートな所があるね。
親近感が湧く。
「それに私たちに“僕の女だから、失礼のないようにしてね。苛立ってると思うから”とおっしゃっていて・・・。」
「苛立ってる原因はお前だろーが!」
「和音様なかなかお口がお達者ですね」
ニコッと嫌みのない笑顔で近藤さんはそう言った。
***********
「そーなんだよー・・・それでね、聞いてよ千景さん!!」
「はい、それでそれで?」
数分後、私たちは初対面にも関わらずすっかり意気投合した。
千景さんは22歳の独身。
一家代々この家に仕えてるそうで、加島家はとにかくすごい家柄らしい・・・。
その中でも龍平は優秀なサラブレットらしく、警察や裏ルートから直接依頼を受けて調査など受け持ってるらしい。
「だけどさ、そんなの分からないでしょ?普通・・・ってか今日の出来事だし!!あの横暴さは私は無理」
「アハハハ。」
ガラッ
引き戸が突然開かれる。
私は体をビクッとさせてその方向に振りむく。
あ、やっぱり・・・・
「ただいま、お姫様。横暴な僕が帰ってきましたよ」
「!!!!」
「お、お帰りなさいませ!!」
千景さんは深々と頭を下げ完全に土下座体制。
「千景さんお勤めありがとう。君を指名して大正解だったよ。」
「もったいないお言葉、誠にありがとうございます。」
「アハハ、もういいよ。顔上げて、綺麗な顔が台無しだ」
本当にこいつは口がうまい・・・。
ペラペラとよくもそう次々と言葉が出るものだ。
「もう上がっていいよ。これからも頼むよ。大事なお姫様だから」
「はい!ではごゆっくり。失礼致します。」
きびきびと歩き出しまた深々とお辞儀をして千景さんは部屋から出て行ってしまった。
こいつと2人きりなんて嫌だ!
行かないで!!
「ただいま」
「・・・・・」
絶対顔なんて見てやるものか。
私はそっぽを向いて抵抗をする。
「ご機嫌斜めに戻っちゃったみたいだね。そういう気が強い所がお気に入りなんだけど。」
「・・・・」
「そのままでいいから聞いてね。約束通り、和音ちゃんのご両親は警察には差しださずこちらで独自に監視をしつつ業務見直しを検討させる手続きをとったよ。」
少なからず私は安心をおぼえる。
お父さんとお母さんが無事なら良かった。
「そして君は僕のものとなるから今日からここに住んでもらうよ。僕は寂しがり屋でねぇ・・・傍に置いておきたいんだ」
そう言いながら私の目の前に腰を下ろした。
「和音ちゃん」
「・・・」
私は不覚にも奴の顔を見てしまった。
今まで出会ったことのないような綺麗な男の人。
とてもじゃないけど初対面では気付けなかった。
「和音ちゃんって処女?」
「・・・・は?!」
い・・・いまなんて・・・???!!!
「その反応・・・処女で間違いなしだね。よかった、最初から僕の色に染められるよ。」
「な・・・な・・・」
「そういう動揺した顔もカワイイ。男の子と付き合ったことはあるの?」
私は何も答えられずただ顔が赤くなるのを感じた。
今までこの強気な性格で男に怖がられることはあっても好かれた試しなんてなかったわけで・・・
それに加えて私は男の人に恋心を抱いたことすらないわけで・・・
付き合うなんて・・夢のまた夢なことで・・・
「うっそー!そんなに可愛いのに~?きっと男どもは高嶺の花で声もかけられなかったんだろうなぁ。君お金持ちだしね」
私が何も言わないのをいいことにベラベラと・・・!!!
「だったら何なのよ!!」
「あ、やっと話してくれた~。フフ。じゃあこれから毎晩ゆっくり教えていってあげるから、僕を夢中にさせる女になってね」
「何であんたのためにそんな努力しなきゃならないのよ!」
「いや、今でも十分魅力的だけど更なる向上は必要でしょ?お互いのために。もちろん僕だって和音ちゃんを夢中にさせる男になってみせるよ」
自信たっぷりの笑顔で私を見つめる。
「だから僕を早く好きになって」
普通の女の人ならきっと一瞬で恋に落ちるんだろうな、この目。
悪いけど、私は普通の女じゃないようですよ。
「その目、やっぱりいいね。僕の目に狂いはない。・・・・さて、じゃあ今日から始めなくっちゃね」
「・・・・は?」
「レッスンスタートだよ」