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第8話 ダンジョン守りの初検査②

『この剣は、ダンジョンそのものです』


 迷宮庁お抱えの『魔法師』が口を揃えてそう言ったことはどこから漏れたのか検査所をすぐに駆け回った。職員たちは過去の事例を探し回ったり迷宮庁本部まで確認を行うことになる。当然、検査所にいた冒険者にもその異常は伝わり各々に緊張感が走った。


 

 しかし、外がそんなことになっているとはつゆ知らず俺は今し方鑑定を終えた魔法師たちに疑問を投げかけた。


「それは...どういう影響があるんですか? 驚かれていますけど普通に使う分には何にも問題なかったですよ」


 目の前の人たちは焦った様子だがこっちとしては何も起きていないんだから焦る理由がイマイチ掴めない。剣を拾った一昨日なんかはダンジョンを出る際の杖にしていたくらいだ。


「・・・正直に申し上げて、この剣自体がダンジョンそのものの特性と何ら変わらないという事が分かった程度でそれがどのような影響を及ぼすのかは分かりかねます。しかし、世界中でダンジョン製の武器が多いとはいえどこれまでそういった話は聞いた事がありません」

「それで、そんなに慌てているんですね...ちょっと改めて持ってみてもいいですか?」


 魔法師さんに断りを入れ、一日ぶりくらいにに剣も持ち上げる。軽く振ってみたり、よく刃を見てみるがどうってことはない錆びたような剣だ。騎士が持っていた時のように赤黒くありつつ綺麗な刀身はどこへやら、見た目だけでいえば市販の包丁の方がよほど切れ味がよく見える。


「...あ、そういや切れ味どうなってるんだろ」


 昨日は折れてから使っていないので、復活した後に何か変化があったんじゃないかと思った。どうしても気になり、皆がみている目の前だが手のひらに刃をそわしてみるとすぐに血が滲んだ。


 切れ味はやっぱいいな、と見当違いの事を思ったすぐ後に痛痒い感覚が襲ってきた。


「いたっ、あ、うわ。ちゃんと切れるわ」

「——?! 何してるんですか?!」

「え、あ、切れ味とか変わってないかな〜と思っちゃって...ダンジョンそのもの、なんて言われたんで。でも別に変わった様子はないですねほんとに」


 当然のことながら俺の奇行に神田さんを始め全員がドン引きをした。三ヶ島さんなんかはモロに顔を歪めてこちらを見ていた。


 騎士に殴られてもピンピンしてたんだからこのくらいの傷なんてすぐ治るでしょ、とたかを括っていたがどうも手のひらの血が止まらない。あれ、おかしいな...とか思っているうちにも床に血が垂れてしまいそうだ。もしかしてあの時の頑丈さはあの時限定なのか?


「あ、あのすみません...ティッシュとか絆創膏ってありますか...? 血、止まんなくて」

「ちょっと、何してるんですか? ティッシュならありますけど...絆創膏は持ってないです」


 ドン引き&呆れ顔の神田さんからティッシュを受け取りとりあえず傷口に当てておく。変わらずティッシュに血は滲むがないよりは全然マシだ。


 再び剣を魔法師の方の前に置き、気まずさを抱えながら自分の席に着くとノックもなく会議室のドアが開いた。そこには昨日出会った冒険者の篠塚さんが立っていた。


「邪魔するぜ〜。お、咲間さんやっぱりいた」

「あ、どうも昨日ぶりですね」


 物知り顔で部屋に入ってきた篠塚さんにびっくりしながら挨拶を返す。普通に入ってきたのを考えると神田さん達とも知り合いなのだろうか。


 にしても篠塚さん、やっぱりここでも全身甲冑で覆っているのか。喋り方に反して意外とシャイだったりするのか? 日常生活はどうなっているのかが全く分からなくて怖い。


「し、篠塚?! なんでお前がここにきてるんだ?!」

「お、神田もいるのか。しかも魔法師とその剣も...」

「あれ、神田さんは篠塚さんともお知り合いなんですか?」 


 フランク、というには剣幕な気がするが意外と慣れた様子で言葉を交わす二人を見て思わず神田さんにそう質問を投げてしまう。すると神田さんは咳払いをして、話し出した。


「...すみません、取り乱して。篠塚について佐藤からは何も聞いておられないのですか?」

「え、あぁA級冒険者ということ以外は特に」

「そうですか...。これはここだけの話にしてほしいのですが。篠塚は実は、元はダンジョンモンスターです。あまり詳しくは今は言えませんが、昔冒険者に転向した、という経緯がありまして」

「...どゆことですか?」


 あまりにも突拍子のない話に素で問いかけてしまった。

 神田さんが言うには、数年前都内のダンジョンで異常なほど強力な甲冑姿のモンスター(篠塚さん)が現れ、暴れまわっていたそうだ。そこで迷宮庁は急ぎで上級冒険者総出で討伐に向かった。


 強力とはいえど高位冒険者の数には勝てなかったようで討伐成功の一歩手前まで行った。しかし、篠塚さんはモンスターにも関わらず日本語で話しだし命乞いを始め、迷宮庁飼い殺しでいいから命だけは助けてくれと懇願したそう。


 当時ダンジョン探査に余裕のなかった迷宮庁は苦渋の決断で篠塚さんを捕縛し、冒険者にしたのだ。そして今は、この検査所に監視付きで軟禁されているような状態なんだとか。名前は仮称としてつけているそう。


「そういうわけで、こちらとしてもこの事実は世間に公表するわけにはいかない。アイツはモンスターではあるが今の冒険者業界にとっては貴重な戦力なんです」

「は〜、なるほど。あ、だから甲冑をいつも装着しているんですか?」

「そこなんですね、気になるところ。まぁ、実際甲冑を着ている、というよりかは甲冑姿こそが篠塚本体といった感じです」

「へぇ...三ヶ島さんはこのことは?」

「知っていました。私だけ、というよりはA級以上の冒険者ではこのことは共有されていますので」


 あ、だからA級以上にあがるには面接試験も必要なのか。その場でこの事実を公表しないことを約束させているってわけか。


「昨日、森さんも一緒に向かったのはアイツの監視を行ってもらうためです。鑑定の資格を有する冒険者は監視装置として重要ですから」

「そういうことだったんですね...」

「それで、篠塚。何しにきたんだ?」


 神田さんは俺の隣に立っている篠塚さんへと話を振った。


「あ〜、その剣のこと、検査所中で話題になってるからおもしろ…咲間さんがいるんじゃないかと思って見に来ただけだ」

「はぁ...聞かれてたのか。どこから漏れたんだ一体? …申し訳ございません、咲間さん。本来徹底して機密にするべきなのに」

「いえいえ、俺も別にどんなものなのかよく分かってないのでいいですよ。めちゃくちゃ高価で狙われるとかなら考えますけど」


 今の所よく切れる(たまに折れる)剣くらいの印象しか持っていないため情報が漏れたとしても特に問題がないように思える。より多くの人に知ってもらって研究を進めてもらった方がいいとさえ思っているし。


 というか、さっきから魔法師の人たちは黙ったままで俺と剣を交互に見ているが、何か追加で分かった事があるのだろうか。


「あの~…どうしたんですか皆さん。俺と剣を見つめて」

「先ほど、手を軽く切られたじゃないですか?」

「あ、はい。すみません、なんか」

「いや、それはいいんですけれど。その瞬間、この剣の持ち主が咲間さんに確定しました。所謂血の契りみたいな感じに」

「へ?」

「あ…そう考えると、何故この部屋に剣が現れたのかも納得がいく気がします。剣を元々持っていた騎士型モンスターが倒されたことによって、持ち主を探し求めていたんではないでしょうか。だから着いてきたっていう...」


 待って欲しい、そんなホラーチックなことを言わないでほしい。まるで呪物みたいじゃないかそれは。元の持ち主を殺されたことで俺にずっと着いて回るってことか?!


「いや待ってください! そんな、武器が意志を持っているみたいなことあるわけ──!」

「いえ、実はあるんですよ、咲間さん。これも数が多いわけではないですがダンジョン産の武器や防具はまるで意志を持っているような動きをする事が稀にあります。主に海外での発見例が多いのでこの場で物的な証拠をお出しすることができないのですが」


 まじか...。ダンジョン守りに従事して三年目にしてダンジョン自体が先回りして俺の逃げ道を潰しているような奇妙な感覚に陥ってしまった。まるで、どうやっても逃さないという執念を感じてしまう。やっぱ呪物じゃないか。


「ただ、そう気味の悪い話ってわけでもありません。身をもって体験していただいている通り所有者として確定した武器は紛失や盗難の恐れがありません。なにしろ勝手に所有者の元に帰ってくるわけですし」

「...いや、しかし気味悪いです。しかも冒険者未満である俺の元になんて」

「冒険者未満、かどうかはこれから身体検査を受けていただきますのでそこでわかると思います。手のひらの傷も処置していただかなければなりませんしね。精密検査となりますのでどうしてもお時間いただきますが、宜しいでしょうか?」

「はい...それは大丈夫です。あ、三ヶ島さんも身体検査受けるんですよね?」


 俺ばかり身体検査を受けるような流れになってしまったが、昨日佐藤さんは三ヶ島さんも検査を受けてもらうと言っていた気がするので念のため確認をとる。


「はい、それはもちろんです。剣の方は一旦預からせていただきますね?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 なんかもう逆にそのまま奪って研究対象にしてもらって構わない、とか思ったけどどうせ俺の元まで帰ってくるんだよなぁこいつ。

 

 俺の困っている様子を篠塚さんは隣で愉快そうに眺めていて、ほんとダンジョン産のモノって性格悪いよな、と思った。

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