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第6話 ダンジョン守りの発見

 騎士型モンスターを二体討伐し終えた俺たちは、佐藤さんが引き連れてきた三人のA級冒険者に守られるような形で事務所まで戻ってきた。しかし、ぶっちゃけこのダンジョンの難易度はA級の人からすれば雑魚レベルなので守られるというほどのものでもなかった気がするが。


「すみません、狭い場所で。あまり人が入ることはなくて...」

「お構いなく。では改めてお話を伺いたいと思います」


 事務所へと到着し、テーブルを挟んで俺と三ヶ島さんは佐藤さんと三人のA級冒険者と向かい合うような形で席に着いた。六人も部屋にいるなんてことはないからぎゅうぎゅうに感じてしまう。

 さらに言えばA級冒険者と仕事の発注元の人に囲まれるなんて経験はなかったので胃がずっとキリキリしている。


「まず、朝こちらに咲間さんが出勤されると昨日の時点で警報が鳴っていた、ということを確認、報告。その後三ヶ島さんと共に三十五層へ向かわれて昨日と同じモンスターが二体出現しているのを発見。ここまでお間違えはないですよね?」

「はい、その通りです」

「では、私共が駆けつけた頃には一体しか見つけられませんでしたが、それは三ヶ島さんが討伐なされたということでよろしいですか?」

「いえ、私ではなく咲間さんがお一人で」

「「「「えっ....?!」」」」


 思ってもいなかった三ヶ島さんの言葉に目の前の四人が揃って驚いた。確かに俺自身が倒せたことに驚いているんだから、冒険者の人はもっと驚くだろう。


「アレを咲間さん一人で、ですか。...失礼ですが、冒険者の階級って?」

「えーと、結構前に取りっぱなしなのでD級止まりですね」

「...篠塚さん、アレをD級一人で、しかもほぼ怪我もない状態で倒せるものですか...?」


 俺の言葉にさらに驚いたように佐藤さんは隣の篠塚さんへと話を振る。

 篠塚さんは三ヶ島さんと同じく、全身甲冑姿の冒険者で主な戦闘スタイルは徒手空拳なのだそう。三十五層で聞いた、物が落ちたような『ドスッ』という音は、瞬時に加速した篠塚さんの足跡だったらしく踏み出したと思われる場所には大きく抉れたような跡がついていた。


 ちなみに何故か、事務所に着いた今も甲冑を上から下まで装着した状態だ。動くたびガチャガチャ言うので、何で脱がないんだ? とさっきからずっと思っている。


「俺たちは三人でアレをボコボコにしたから正直な所アテになるかわかんねぇが、まず無理だと思うぞ...。咲間さん、あの二体は強さは同じくらいだったか?」

「同じだったと思います...自信はないですけど。ですよね、三ヶ島さん」

「はい、速度も威力も同じでした」

「...そうか。それならやっぱりD級一人でアレを倒すのは無理だな。何をした?...やはりこの剣が関係あるのか? そんなに大した業物には見えないが」


 篠塚さんに合わせるようにして全員一斉に、机の上に裸のまま置いてある剣を見た。彼の言う通り特段なにかが変わっている印象はなく昨日と同じ姿だ。復活したのにも関わらず相変わらず錆びついているような色をしており、あの時みたいな切れ味が出せるとは到底思えない見た目をしている。


 というか、もし仮にこの剣が何かとんでもなく強い物であっても俺が使ったところであんなにあっさり騎士型を倒せてしまうのかが今でも甚だ疑問だった。正直夢とか、実は俺が倒した方の騎士は滅茶苦茶弱かったとかの方が納得できる。


「私、ある程度なら武器類も鑑定ができますが...してみましょうか?」

「え、あ、えぇっと...?」


 それぞれが腕組みをしてどうしたものか、と考えていると冒険者の森さんがそう言葉を発した。初めて喋る人がこちらに向かって提案してきたため思わず吃ってしまった。


「鑑定って言っても、見たまんまだと思いますけれど...?」

「あぁ、森さんは様々なものの鑑定を行える魔法を行使できるんです」

「あ、そうなんですか。すみません、魔法を扱える人をあまり見たことなくて...」


 ダンジョンが出現してから変化したことは何も土地の変化だけではない。全人類ではないが、一部の人は魔法やそれに変わる何かしらの超能力を得ることができた。ただ、あまり母数が多くないこともありその力の研究は進んでいるとも言い難いそう。


「そうなんですか。まぁ統計的に見てA級以上の方が魔法を使えることが多いようですしね。では、お願いしてもよろしいですか?」

「俺からもお願いします」


 森さんは俺たちの会話に頷くと剣に手のひらを向けて目を瞑る。その瞬間、小さな耳鳴りのような音が聞こえ少し顔を歪めてしまう。これが魔法を使うってことなのか...。


 しかしすぐに森さんは目を開けて何故か拍子抜けのような、疑問を抱えた顔をした。


「終わりました。でも、特に変わったところはないようです...。普通の剣、ということしか私には感じられませんでした。すみません、もう少し精度が高ければ何かわかったかもしれないんですけど。...ただ、何というか、他の方が持つものと比べて修復力...? という物が高い気がします。感覚的でしかなくて申し訳ないのですが」

「そうですか。ありがとうございます。...修復力、というと折れても復活したことと何か関係がありそうですね」


 俺の期待とは裏腹に、剣の鑑定は少し期待外れの結果に終わってしまって、森さん自身も満足のいくような回答を得られず少し落ち込んでいるようだった。


「...あ、そう言えば! 咲間さん、頭! 大丈夫なんですか?!」


 会話が一呼吸置かれたところで唐突に隣の三ヶ島さんが声を上げて俺の方を凝視した。一同何のこと? というふうに首を傾げ、俺は唐突にディスられたことに驚いてしまう。


「頭...?」

「あ、いえ、すみません。血が出てたじゃないですか?!」

「あ〜、そういう。う〜ん、大丈夫そうですね...傷も特にはなさそうですし。どうなってるかってわかります?」


 今改めて、騎士に思い切り殴られたことを思い出して初めてその箇所に手を当ててみた。腫れてたり、切れているわけではないので取り敢えず傷が残ってなくて安心する。ただ、あの時血は出ていたので血が固まったせいなのか少しザラザラしていた。


「ほ、ほんとに大丈夫なんですか? 確かに見た感じ血がついている以上のことはなさそうですけど」

「ほんとです、ほんとです! ほら」

「...咲間さん、三ヶ島さん、どういうことでしょうか? 頭に血がついているなとは思っていましたがやはりなにか...?」

「あー、実はアレを倒す時に思いっきり顔を正面から殴られまして...。でも、今は何ともないんで大丈夫です! この血もその時出ただけなんで!」


 額を三ヶ島さんと四人に見せてそう言った瞬間、正面の四人の顔が固まる。何も言わずに俺の頭を凝視して腕を組み始めた。


「...はっきり言ってそれは異常、というか化け物です咲間さん」

「河原さん! 言い方!」

「いやだって! モンスターにぶん殴られてちょっと血が出るだけなんてわけわかんないでしょう!」


 数秒の沈黙の末、口を破ったのはその場で一番若そうな、フレッシュな青年の河原さんだった。盾を使うタンク役の冒険者だそうで、今も壁にその盾が立てかけてある。


 佐藤さんは河原さんを嗜めるが確かに彼の言う通り。真正面からあの騎士の攻撃を喰らっておいて何事もないなんて、上級冒険者ならまだしもただのダンジョン守りには考えられないことだ。俺も逆の立場なら同じような反応をしているはずだ。


「いや、大丈夫です佐藤さん。確かに俺も客観的に見たらわけわかんないです...どうしちゃったんですかね、俺の体? 怖いです正直」

「ま、まぁ頑丈になったと考えれば、プラスですし! ...いや、でも一度詳細な検査を行いましょうか。早速明日にでも」

「あ、明日?! いやしかし明日も仕事が」

「明日のことは大丈夫です。必ず、検査を受けましょう。明日朝イチで都内の国立迷宮総合検査所に行ってください」


 国立迷宮総合検査所、それはダンジョンの誕生と同時に全国の各都道府県に一箇所ずつ設置された文字通りダンジョンに関する研究を行っている施設だ。

 迷宮庁直下の組織であり、各自治体のダンジョン産物と冒険者の管理やその他様々なことを行う、いわばファンタジーで言うところのギルド的な役割を担っている。


 俺は数年前に行ったっきりなのでもう行き方もよく覚えていないが、冒険者には馴染み深い場所だ。


「今日明日の業務のことと、検査所へ向かうことは私から話を通しておきます。ですので、今日はもうこれで業務終了としましょう」

「え...いやしかし」

「大丈夫です! 昨日も大変だったのですから体を労るつもりで! 咲間さんの会社の方にも話をつけておきますから!」


 強引に佐藤さんに押される形で話をまとめられてしまった。あまり遠慮しても意味がなさそうなので口を噤んだが、考えてみれば迷宮庁この仕事の発注元なので話はつけ易いのか。


「...では、今日はこれで終わりにしましょう。あ、ダンジョンホームページで今日は臨時休業ということだけは周知させてましょうか」

「あ、はい」


 そう言うとすぐに佐藤さんはどこかへ電話を掛け始め、俺はパソコンを操作してホームページを更新した。もう向かってきている冒険者の方々には申し訳ないが、上の者が言うんだから仕方ないよな。


「では、昨日に引き続き本日もお疲れ様でした。咲間さん、そして三ヶ島さんもですが、明日午前中に検査所へ向かってください」

「...え、私もですか?!」

「はい、攻撃を受けていらっしゃったのでやはり一応検査だけでも必要だと思います。明日は私の名前を受付にて出していただければスムーズに動けると思います」


 そう言い佐藤さんは名刺を差し出してきた。三ヶ島さんは最後まで大丈夫だと言っていたが、佐藤さんはお構いなしだったため最終的には三ヶ島さんは渋々了承していた。


 その後、三ヶ島さんとどうせなら検査所で落ち合おうという運びになり連絡先を交換した。ダンジョン守りになって何気に初めて冒険者の人と連絡を交換した。


 太陽が高い時間に職場から帰宅することは初めてなのでなにか悪いことをしているんじゃないか、そんな気分になってしまった。

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