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第4話 ダンジョン守りの再調査

 都内某所、『東部第十五迷宮』での異常現象を受け迷宮庁は緊急会議を行っていた。現地へ向かった職員の佐藤の報告を受け迷宮庁上層部は苦虫を噛み潰したような表情でため息をついていた。

 

「…その、『15ダンジョン』での人的被害は本当にないんだな?」

「はい、今現在に至るまでそのような方向は受けておりません。三ケ島様も消耗こそしておられましたが見た限りでは大きな外傷などは受けておられませんでした」


 普段ほとんどかかわることのない上層部を相手に佐藤は若干震える声で質問に答えた。佐藤の隣に座っている現地へ向かった二名の職員も普段にはない背筋の伸ばし方をしていた。


「そう、か。正直なところ、異常が発生した以上そのダンジョンな封鎖して調査、さらには近隣も立ち入り禁止してしまいたいが...。あの辺一帯はダンジョン産業で成り立っているからなぁ」

「確かにそうだ。目立った被害が出ていない以上、静観するよりほかないのでは?」

「だが、いざ外部に被害が漏れてみろ。バッシングを受けるのはこちらのほうだぞ。冒険者に対する被害だけなら自己責任な所があるからいいとしても...」


 ダンジョンが発生して十年。人間社会が受けられる恩恵ももちろんあったが、被害も多数あった。よくあるのはモンスターがこちらの想定をはるかに超えて異常発生しそのまま外にまで漏れ出てしまうケース。中にはダンジョンがその周囲一帯を巻き込んで消失してしまうこともあった。

 ダンジョンという未知のものに対応するには十年という年月はあまりに短い。完璧な制御を世界各国どこも未だできていないため、その場しのぎで対応するしかなくなってしまっている。人類は未だダンジョンに対して後手後手の対応をとることしかできていないのだった。


「日本でかつてこのような事態は...?」

「ダンジョン守り制度が始まり、適切にダンジョンが管理されるようになってからは十件ほど。『西部第一迷宮』が特筆して大きな被害を出したのみです。その他は上位冒険者の迅速な対応のおかげもあり即座に鎮静化されています」


『西部第一迷宮』、近畿地方にて最初に発見されたダンジョンでありかつて大災害を引き起こし消滅していった場所だ。ダンジョン守り制度が全国で始まった僅か数か月後に大量のモンスターを周辺一帯にまき散らし、最終的には周辺の家屋などを引き連れるように消え去った。誰の記憶にも新しい、痛ましい事故だった。


「あの近畿のか...。過去と照らし合わせても意味のないことは分かっているが、今回は逆にモンスターの数が減っていたと?」

「はい、あくまでダンジョン守りである咲間様の所感ではありますが最深部に近いほど少なくなっていたと」

「…そうか。あくまで暫定的な対処ではあるが、十分に警戒するよう周辺にも通達を出すか。迷宮庁としては情けない限りの対応だが」


 世間からは早くダンジョンを完全に封鎖しろ、という声ももちろん少なくない。迷宮庁側としてもそうしたいのは山々なのだがこの十年でダンジョン製品を扱った産業は世界中で活発となっており、それは言わずもがな国の軍事面へも転用されてきた。ダンジョンを手放すことは国防面でも大打撃であり、なによりダンジョンを完全封鎖し冒険者たちの成長の機会を逃すとなるとそれこそダンジョンの災害に対応できなくなる可能性がある。

 国としては世界中から一斉にダンジョンが消え去るか、超常級の力を持つ冒険者が現れてくれるのを待つしかないというどうにも歯がゆい対応をとるしかないのだった。


*   *   *


 翌日、いつもと同じように職場へ着くとまず、昨日帰宅後に警報が鳴ったというログを確認した。


「え、またかよ。…監視カメラもまた何も映ってないし。また三十五層まで行かないといけないのコレ」


 急いでいけば一時間かからずにたどり着けるとはいえ、そう何回も行きたくない場所だ。シンプルに疲れるし、なにより昨日みたいなモンスターが現れてしまっては一人で対応することは困難だ。昨日はたまたま三ケ島さんがいたから助かったが今日はそうもいっていられない。

 ログを確認してすぐに上司に報告を行ったが、そうこうしているうちにダンジョン開場時間が迫っている。とりあえず足早に第二層手前までの点検を終えて、その他監視カメラに異常がないかを確認する。

 今までこうした異常が何もなかったせいで、こういうときの対処方法が定まっていないのがダンジョン守りの仕事のつらい所だ。どうしよ、どうしよ、とプチパニックになっていると、携帯に見知らぬ電話番号からの着信があった。


「…もしもし?」

「あ、こちら『東部第十五迷宮』ダンジョン守りの咲間様のお電話でお間違えないでしょうか?」

「はい、そうですけど」

「あ、よかったです。迷宮庁の佐藤です」

「あぁ、昨日はどうも」


 意外も意外、電話口の相手はまさかの佐藤さんだった。俺の電話番号なんて教えてないはずなんだけど。


「警報が鳴っていたということで、昨日の事もあり上司の方からつい今しがた連絡があったため、番号を聞いてかけさせていただきました」

「あ~、そういう」


 俺の個人情報駄々洩れだけどいいのかそれ。


「それでですね、警報が鳴ったようだけどなにも確認できない状況でお間違えないですか?」

「はい。こちらからは何も確認できないです、すみません」


 この事務所に設置してある警報は、あくまで何かあった時に鳴るだけ。中で何が起きているかは基本的に監視カメラ映像で確認するしかない。しかし前回や今回のように何も映らない場合は現地まで赴くしかない。完全に出たとこ勝負の運試しだ。


「いえ、咲間さんが謝ることでは。こちらこそすみません、こういった警報だけが鳴る事象は過去、機器の故障のみなので対応策が未だにないんですよ。先ほど、三ケ島さんに連絡を取りまして、まだ周辺に滞在しているとのことなので今向かっていただいております」

「はぁ...なぜでしょうか?」

「申し訳ないのですが、今回も咲間さんと三ケ島さんで対応していただけませんでしょうか? こちらもできるだけ急いで駆けつけますので...その間はいったんダンジョンの開放を待っていただく形で」


 そう佐藤さんが言い終わると、誰かが窓口の小窓をノックした。びっくりしてそちらを振り向くと、甲冑姿の冒険者が。三ケ島さんだ。


「あ、三ケ島さん来ました」

「え、もう?! …あ、すみません。ではお願いしてもよろしいですか? すぐに招集できる冒険者と共に私共も向かいますので!」

「あ、えぇ、はい。ではお願いします」


 電話を切り、受付の方へ。昨日素顔を見たとはいえ甲冑姿だとすごい威圧感がある。


「三ケ島です。今のお電話は佐藤さんの...?」

「はい、そうです。あ、おはようございます」

「あ…おはようございます。ということは私と三十五層へ行くということでよろしいでしょうか?」

「そうですね。佐藤さんも冒険者を連れてすぐ来るそうなんで時間しのぎではありますね。でも三ケ島さんとしてもよろしいのですか?」

「私の方は大丈夫です。昨日の手痛い失敗を取り戻すチャンスと考えていただければ」


 なんて律義な人なんだろうか。少し驚きつつも、俺はコーヒーを一口飲み外へ向かう。今回の武器は鉄パイプではなく、昨日拾ったあの剣だ。流石に鉄パイプよりは自衛できるはずだ。今まで慣れ親しんだ鉄パイプを置いていくのは悲しいがそうもいっていられない。

 

 受付窓口に対応不可、一時閉鎖の看板を掛けていざダンジョン内部へと向かう。

 今日こそは機器の故障であってくれよ、と心の中で祈りつつ階層を下へと向かっていく。やはり途中現れるモンスターは三ケ島さんが簡単に倒してくれるので俺は道案内に専念できる。


「へぇ、行きにもこんなにバグ道が」


 途中、いつものようにバグ道を通っていると三ケ島さんは少し驚いたような声をあげた。『行きにも』ってことは昨日はこの道を使わずに自力で最下層まで行ったのか。逆にすごいなそれ。いやまあ確かに、まだバグ道がそんなに発見されてない頃は俺も普通の道を使っていたけども。


「逆に昨日この道を通っていないことに驚きです。普通の道を走り抜けたってことですもんね?」

「はい。バグ道なんてあるダンジョンの方が珍しいのであんまり考えてなかったです」

「え、そうなんですか?! 俺ほかのダンジョンの事ほぼ知らなくて...お恥ずかしい限りで」

「いやいや、そんなことは! ダンジョン守りしていると他のダンジョンに行こうって思う方が珍しいと思いますし。…あ、そういえば昨日も思ったんですけどよく迷いませんね」

「え、あぁまあ。もう三年の付き合いなんでここも。下まで潜ることは珍しいですけど、三十層くらいまでなら目を瞑ってても迷わない自身がありますよ」


 このダンジョンでしか通じない特技をベラベラ喋っても恥ずかしいのだが、意外にも三ケ島さんは新鮮に驚いたような表情をした。流石にダンジョン守りを名乗る以上それくらいはみんなしているんじゃないのだろうか。いやまぁ、特別このダンジョンが平和という利点もあるか。

 

 ダンジョンというものはそれぞれ全く違った特徴がある。階層にしても他の平均的なダンジョンでも軒並み五十層を超えてくるらしいし、ここは地下に潜るタイプだが中には上へと伸びている塔の形のものもあるそう。しかし、階層型というのは共通らしく、日本で一番階層が多い所だと百二十層もあるらしい。誰がそんなところまで行けるんだ。モンスターの種類もやはり違うらしく、非常にかわいいモンスターや全身機械でできたモンスターもいるとか。


「当り前みたいに言ってますけど、結構すごいと思いますよそれ。よほど好きなんですか、このダンジョン」

「…ん~、まぁ好きと言えば好きですね」


 家が近いからですけどね。


「そういえば、冒険者免許を持っているという話でしたけどどのランクなんですか? 三十層以降も問題なく進めるってことは結構上位だったりします...?」

「いや、それが、昔取ってそのままなんで。D級止まりなんです」

「...それは、もったいない気が。申請してみてはいかがですか?」

「う~ん、冒険者みたいに大量のダンジョン生成物を国に収めているわけではないですしね...。機会があればということで」


 本音を言うと、もう過去に諦めてしまった冒険者という道を再び歩むのか、という一種のプライドが邪魔をしている。今の生活に満足しているし、冒険者になってしまったら今回の三ケ島さんやほかの冒険者みたいにいろんなところに駆り出されるのでは、という面倒くささも感じてしまう。なによりこの初心者歓迎の『15ダンジョン』でしか通じない俺の長所が他のダンジョンで通じるとは全く思えないのだ。

 また、冒険者と社会人の両立は相当難しいらしく、今煽てられたから仕事をやめて冒険者で食っていく、というのはあまりにリスキーな気がしてしまう。あと、冒険者は個人事業主だから税金関係が難しそうだしね。


 そうこう喋っている間についに三十五層手前までたどり着いてしまった。


「どうでしょうか、三十層以降はやはり何か変わったところがありましたか?」

「…はい。どうしてもモンスターの数が少なくなっているように感じられます。今日もそう思うってことは違和感ではないのかもしれません。まぁ極端に増えるよりかはいいと思いますけど」


 過去の『西部第一迷宮』の事件をおもいだすと、モンスターが少ないのは逆にいいようなことにも思えてしまう。外に溢れられて俺の家まで被害にあってしまってはたまったもんじゃないし。

 

 そうしてついに問題の三十五層までたどり着いた。

 どうか警報の誤作動であってくれ、その俺の願いは目の前の光景に瞬時に打ち砕かれることとなってしまう。


——昨日は一体だった赤黒い騎士型モンスターが今日は二体出現していた。しかもこれまたおかしなことに剣を持たずに素手で。

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