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ダンジョン守りを初めて三年、異動を促されている。  作者: 未色
第二章 ダンジョン守りと再挑戦
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第32話 三ケ島さんの正体

お読みいただきありがとうございます。

ここから第二章が始まります。

 休暇が明け、無事に渋谷のダンジョン守りさんに粗方の引継ぎを終えた俺は久しぶりに本社の方に来ていた。もちろん新卒から今まで働かせてもらったこの会社の上司に話をするためだ。

 社内スペースのレイアウトが変わっていることに新鮮味を感じつつも小さい会議室で上司と向かい合う。


「——これまで本当にお世話になりました。急かつ身勝手な話にはなりますがこの会社を退職させていただきます」

「‥‥‥本当、なんだな。もちろん上の方から諸々の事情は聴いたが現実味がわかなくてな。これから大変になるんだってな?」

「はい、おそらくは」


 若干気まずいような空気になってしまってはいるが、上司の顔は思っていた以上に曇っていない。まぁ事情は聴いていると言っているし了承はしているのだろう。でもダンジョン発生もあったことで職業難になっていた時代に拾ってくれた会社だから後悔しないかと言われれば全くそんなことはない。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、上司は全面的に応援する形で話を聞いてくれているのでとてもありがたかった。


「咲間さんの個人情報等につきましては厳重に管理していただくようにお願いいたします。事態が事態なのでなるべく彼の存在は世間、いや世界に広まってほしくはありません」

「はい、それももちろん徹底させていただきます」


 この場に同席してくれていた佐藤さんが俺の上司に向かって再度確認を行った。


 ここ最近はこの人を見る機会が多すぎるので俺の専属マネージャーなのかと思うほどだ。でも、絶対に忙しいはずなのに俺個人の事まで付き合ってくれているから本当に頭が上がらない。

 

 佐藤さんは俺の存在が明るみに出ないように、と入っているがそれは無理だろうともつい先ほど言っていた。個人でダンジョン解体を進めていく冒険者なんて世界中探してもいないはずだし、奇妙なマスコットを頭に乗せているだけでも話題にはなるだろうとも言っていた。

‥‥‥好きでミィエヌエの事頭上に置いてるわけじゃないんだけどな。


「咲間、さっき提出してもらった諸々の書類と合わせてお前の退職手続きはこっちで滞りなくやっておく。その辺の心配はするな。俺個人的には直属の部下のお前が辞めてしまうのは物悲しいが…できることを精一杯やってこい。無理はするなよ」

「はい…!」


 上司からの熱い選別の言葉を貰い、俺と佐藤さんは本社を後にした。


*   *   *


 ところ変わって都内の検査所、俺は以前よりも小さい会議室にいた。今回は三ケ島さんに正式にパーティを組んでもらうためだ。つい先日電話をした際に諸々の事情を語り、了承はもらっていたのだがやはりここは正式に顔を突き合わせて話をする方がいいだろうと言われてしまいこの場に来ていた。


 ただ、この場をセッティングした神田さんが含みを持たせて『実際に見てもらった方がいい』と言っていたのが非常に気になった。なにを今さら見ることがあるのだろうか。


「三ケ島さん、わざわざお越しいただいてありがとうございます。なんかお久しぶりですね?」

「はい、そうですね。というかそれを言うなら咲間さんもわざわざこんなところまで、って思いますけどね」

「いやいや、俺は佐藤さんに車で連れてきてもらいましたから。三ケ島さんの方がご足労だったでしょう」

「いえ、それは…」


 まずはそんなビジネストーク染みたことをしていると突然三ケ島さんが逡巡するような表情をして神田さんと佐藤さんの方を見た。そちらの二人は三ケ島さんへ頷き返し、何やら俺にはわからない確認を取っているようだった。


「あの、どうしたんですか?」

「咲間さん、唐突にはなりますが三ケ島さんが『15ダンジョン』に初めて訪れた時のこと覚えていらっしゃいますか? そしてその時どう思われましたか?」

「それはもちろん覚えていますけど…それこそあの日を境にこんなことになってますからね。どうって言われても…あ~、なんでA級の人がわざわざこんなところに、って思ったくらいですかね」

「ですよね。その理由を今からお話します。では、三ケ島さん」

「はい」


 そう神田さんが声をかけると会議室のカーテンが自動で閉まり始めた。

 なんだなんだと驚いていると、カーテンが閉まり切るのと同時に三ケ島さんが急に立ち上がった。そして徐に服に手をかけて脱ぎ始めた。……服を?


「ちょ、ちょっと三ケ島さん?!」

「目を瞑っていただかなくて大丈夫です。……目を開けてください」

「え、でも。‥‥‥いやなんかのドッキリですかこれ?!」


 目の前の唐突すぎる出来事に慄いていると頭上のミィエヌエが身を乗り出すのを感じた。


「へぇ、トコヨガエリねぇ。まさか本当にあるとは思っていなかったわ」

「し、知っているのですか。この体の事」

「そういうものがあった、としてだけね。…というかあなたいつまで目を瞑っているのよ。いい加減見なさい」


『トコヨガエリ』なる初めて聞いた言葉にも困惑しつつも恐る恐る目を開けると、目の前の三ケ島さんは全裸になっていた。


 が、それよりなによりも…。


「体が…ない? いや、それは…?」

「はい、見ていただいている通り私には首、手首、足首より先以外の体がありません。いえ、感覚があるにはあるのですが存在していないというか…」


 息をのんで目の前の驚くべき光景を見ているが、確かに三ケ島さんの体の部分は吸い込まれるように黒く透けていて、その中には宇宙を思わせるような光が輝いていた。


 状況を全くの見込めず視線を三ケ島さんと神田さんの方に行ったり来たりさせていると今度は神田さんが口を開いた。


「我々は名前があるなんて知らなかったのですがそちらのミィエヌエが言うには『トコヨガエリ』という名前がついているものなのですね。……先ほどの質問に対する理由をご説明します。三ケ島さんはあの日『15ダンジョン』でそのお体の実証実験をされに行きました。まぁ、結果的にはあの強力なモンスターのせいで失敗に終わってしまったわけですが」

「…? あの、まったく意味が…」


 実証実験と言ったり、それが失敗だと言ったりおおよそ人間に使われるべき言葉ではないことが出てきて吃驚した。

 

 神田さんのその説明でさらに疑問を重ねている俺に対して今度は三ケ島さんが説明を続けた。


「私、本来は『西部第一迷宮』の大事故の影響で死んだんです。

「えっ——?!」

「でも、その影響かは未だ分かりませんがなぜかこの体になり、生きているのか死んでいるのか、はたまた自分が何者なのかもあやふやな状態のままこの場に立っています」


『トコヨガエリ』…おそらくそのまま『常世帰り』なのだろう。おそらく意味もそのまま生き返った人。


 そんなことがありうるのか、と頭の中がぐるぐるの俺を無視して三ケ島さんはさらに言葉を続けた。


「第二の人生をこの施設で過ごしながらようやく身体機能を取り戻してダンジョンに潜れるほどになったので『15ダンジョン』に向かいました。…今はお教えできませんが他に試すべきこともあったので」

「なるほど…? ようやくあの時の疑問が解消されました。あと、全身甲冑だった理由もなんとなくわかりました‥‥‥」


 多分、甲冑でいる方が自分の身体構造について周りに知られなくて済むのだろう。声まで男のものに変えていた徹底ぶりを見るに相当秘匿されていることなのだろうか。


 以前俺が町中の人から追われた時に三ケ島さんは女だからという理由で下に見られたことがあるので甲冑を被って声を変えていると言っていたがあれは方便だろうな。


 目の前の情報と神田さんと三ケ島さんが語った新事実に驚きつつも何とか咀嚼しようとして、じっと腕を組んで黙っていると三ケ島さんは俯きながら声を出した。


「——ところで咲間さん、私には夢があります」

「え? あ、すみません」

「もちろんそれは元の自分の体を取り戻すことです。とはいえ以前の記憶も曖昧なので自分が思い描いている通りの体かもわかりませんが…。その、だから私がこんな体になる原因となったダンジョン自体とダンジョン創造主を咲間さんが消滅させるお手伝いをさせてください!」

「…はい。それはもちろん。ぜひよろしくお願いします」


 そう言葉を交わし、さらに俺たちは固い握手を交わした。


 その後すぐに三ケ島さんは服を着なおし、席についてから改めて俺は頭上のミィエヌエに話を伺うことにした。


「なぁ、その『常世帰り』ってなんだ?」

「…ねぇ、そもそもなんで迷宮が作られたか知っているかしら?」

「え、急に? ‥‥‥知るわけねえけど、創造主のはた迷惑なお遊びなんじゃねえのか?」

「違うわ。元々迷宮はこことは別の世界、いわゆる異世界で運営される予定だったの。この世界とは全く関係のない、魔物や神が当たり前に存在する世界にね。‥‥‥で、そこで運営される予定だった迷宮には中で死んだとしても復活できる機能が備わるはずだったと聞くわ。でも、作った段階で創造主様はミスをした。あなたも知るように魔物共が想像以上に溢れかえるというね。…それで『常世帰り』はいわば復活できるシステムの名残のようなもの‥‥‥のはずよ」


 その説明を聞いて更にげんなりしてしまう。つまるところ結局ダンジョン創造主絡みじゃねえか。

 そのお遊びの救済システムがどういうわけか変な発動の仕方をして三ケ島さんの身に降りかかったと。それで今の奇妙な体の構造になってしまって、さらには記憶の混濁までしている。


「…どんだけこっち側だけに押し付けるつもりだ創造主」

「咲間さん…ありがとうございます、そこまで責任感を持っていただいて」

「いや、当然のことですよ。絶対に創造主をぶん殴って消滅させてやりましょう」


 目の前に座る三ケ島さんはいたって真剣に、しかし気丈に振舞ってはいるが大事故以来気が気ではなかったのだろう。通常の人間とは異なる肉体、そして記憶。一人の人間が背負う事情にしてはあまりに重すぎるだろう。

 色々したいことだってあっただろうに大事故に巻き込まれて、結局ダンジョンに関わらないといけなくなっているのを見ると居たたまれなさすぎる。


 三ケ島さんの話を聞いたことで改めて、俺はダンジョン創造主を打ち倒すという決意をより強固にすることとなった。





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