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ダンジョン守りを初めて三年、異動を促されている。  作者: 未色
第一章 ダンジョン守りと異動案内
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第31話 ダンジョン守りの遠征調査⑥

 ヴェストと呼ばれたモンスターが腕を広げた瞬間、俺以外の二人がその場にへたり込んでしまった。その瞬間にこの間ミィエヌエが行った攻撃と同じかと反射的に思い身構えたが俺には何の効果もなかった。


「お、お二人ともどうしたんですか?!」

「…? なぜあなたは立っていられるのですか? おとなしくこちらへ祈りをささげるしかないはずですが」

「‥‥‥やっぱお前の仕業かよ。何が目的だ?」


 ヴェストに目を向けながらも篠塚さんと森さんの様子を伺ってみたが、二人とも生気を抜かれたように虚ろな目をして(篠塚さんは全身甲冑だから顔は見えないけど)へたり込んでいる。ミィエヌエが行ってきたものとは別種のようだがコイツも何かしらこちらに強制させる手段を持っているらしいことが伺える。


「ミィエヌエがいるということは聞いていませんか? 崇高なる創造主への賛美を唱えていただくのですが…。迷宮を煩わしく思っている点では我々とあなた方は目的が一緒だと思っていたのですが違うのでしょうか」

「やり方が気に食わねぇんだよ。自分の不始末は自分で片づけろよ」


 ミィエヌエが言っていた通りダンジョンをなくしたいという目的に関しては人間とダンジョン創造主側で一致している。しかしそのために俺たちを利用して何に必要かもわからない強制信仰を強いられるのが気に食わない。廃人になってダンジョンから出てきたっていう人の話もあるし俺たちばかりが損をしているのが確定なのだ。


「もしや、基点を出現させたのもお主か? ヴェスト。なぜあのようなものを人の目が届く場所に?」

「おや、もしかしなくても基点を破壊して回っていたのはあなた方ですか。なぜと言われましても、基点をむき出しにすれば迷宮は原初の姿まで回帰していくからとしか」

「それでなにになるん——」

「あなたの剣に巻き付いているそれ『堕天の聖骸布』ですか…あぁだから私の強制が効かないのですか」


 俺の言葉を遮りヴェストは俺の手元を凝視しながらそんなことを言った。


『堕天の聖骸布』…? 堕天なのに聖骸布とはこれ如何に。


「知っているのか?」

「もとはこちらの物でしたからねぇ。なぜ人間ごときが持っているのかが不思議でなりません」


 ヴェストが言うことが本当ならなぜあちら側の所有物が『15ダンジョン』の中から出てきたのだろうか。それも一般冒険者が普通に拾ってくるというなんとも間抜けな取得方法だ。そんな大層な名前の付いたものならどこにも出回らないはずなのに。


「ま、それについては今はどうでもいいですか。後々あなたも服従させて回収しますし。あぁ、基点の話でしたね。壊しまわられることは少々想定外でしたが、あれを出現させて迷宮を原初まで巻き戻せば必然的に迷宮内は活発に、魔物たちも強くなっていきます。そこであなたたち人間の出番です。迷宮内に異常が出れば自ずと人間はそちらから入ってくる。そうすれば信仰も増えていく、という算段でしたが…」


 そう言葉を切りヴェストは空中で足を踏み出した。


「…なかなか賛同いただけないようで」

「——?!」


 その瞬間、俺の背後から声がした。一時も視線を切っていないのに当然の如くヴェストは俺の背後に陣取っていた。


「くそっ!」


 咄嗟に振るった刀身は何にも当たらずに空を切った。ヴェストは今度はまた別の方向へと移動していた。


 なんでこうも神側の奴は瞬間移動が得意なんだよ、そう思いながら剣を再び鞘にしまった。


「ふむ、なかなかにいい殺気ですね。剣が大振りなのは問題ですが我らが信徒となっていただくには心強い。…そういったわけでもちろん協力、していただけますね」

「何が協力だ。お前らのその人間に強制させるスタンスが気に入らねえんだよ。神は祈らせるもんじゃねえだろ」

「? なぜでしょうか。創造主への信仰は万能への第一歩。人間からしてみれば喉から手が出るほどには得たいものでは? ミィエヌエもそう思いますよね」

「何を言っても正直無駄だわ。私はもうそちらから離れた…堕天したとでも言おうかしらね」

「…『堕天の聖骸布』に堕天の女神、ですか。それをただ一人の人間が手にしているとは見上げた…いえ失礼、見下げたものがありますね」


 そう言い終わると泰然と立っていたヴェストの羽の一つが呼び動作も音もなく高速で俺に迫ってきた。


「くっ——!」


 俺の顔面に迫った羽をすんでのところで鞘で受け止めた。


 派手な音を立てて一瞬そこから火花が散った。たかが羽とはいっても俺の知るものとは全く別物のようで質量、硬度共に何か別の物のように感じられる。もろに顔にそれを食らっていれば頭が吹き飛んでいただろう。


「…こういうことするから敬語キャラって好きじゃねえんだよ。人畜無害そうなのに何も言わずに先制を仕掛けるとことかなっ——!」


 反撃に出るため、地面を蹴り剣を抜き放ったが先ほどと同様剣先は空を切る。それと同時にヴェストは上空へと移動しており膠着状態になった。

 しかしヴェストは安全な空中から先ほどと同じく羽で攻撃してきた。今度は一枚だけでは無く三対、計六枚の羽を一気に向けてきた。


「いっつ——!」


 流石に剣と鞘では防ぎきることができずに太ももや腕などに鋭い痛みが走った。ドリスのおかげで頑丈な体になっていると自負していたが流石に瞬時につけられた傷は痛みがある。


 だがその痛みも一瞬で、すぐに流れていた血が止まった。


「なんですかその異常な回復速度は? 本当に人間でしょうか」

「当り前だ——!」


 剣を鞘に納めて抜刀術の構えを取り、すぐさま地面を蹴って空中にいるヴェストと距離を縮めた。


「?!」


 ヴェストも流石にこの速度に驚いたらしく目を見開いた顔が見えたが構わずに剣を抜き放つ。しかし羽でガードされてしまい、一瞬の浮遊感の後に地面へと着地した。


 まだ剣は赤錆びてはいないようなので、もう一度と、思い同じ抜刀術の構えをとると、あたりに大爆音のラッパの音が響いた。


「なんだ?!」

「…ふむ、ここまでのようですね。お呼びがかかってしまいましたのでこちらの迷宮はあなた方にお譲りしましょう。どうぞお好きなように。どうせ人間がそうそう立ち寄らないような場所だということも分かりましたし」

「おい、なに帰ろうと——!」

「では」


 突然戦意を喪失したのか、ヴェストはそれだけ言い残すと瞬時にその場から消え去ってしまった。お呼びがかかった、ということなので逃げたわけではないらしいのが非常に悔しかった。




 ヴェストが去った後でも鳴り響いているラッパの大爆音に顔をしかめながらもその場に立ち尽くす。わずかな間だがヤツの言っていたことが気になるので整理のための時間が欲しかった。

 ヴェストが言うことがすべて本当なら創造主側はダンジョンを潰すために人間をこれからも使い続けるつもりなのだろう。そのために石碑型の基点を用いてダンジョンを原初の姿まで回帰させてから強化する。そんなことされてしまってはこの十年、なんとか保ってきた世界とダンジョンの均衡は容易く壊れてしまうだろう。

 

 そんなことをわかっていながらも創造主とやらは自らの尻拭いをこちらに強引に押し付けていることに非常に腹が立った。俺の天職だと思い誇りを持っていたダンジョン守り業務すらもひどく醜いものに見えてしまうほどには。


「そんなことのために三年間ダンジョン守りしてたんじゃねえぞ」

「…人間?」


 いつの間にかラッパが鳴りやんだ静寂な空間に俺の声がこだました。


 もう家が近いからダンジョン守りを続けている場合ではない。現状神側の精神感応に対処できうるのは『堕天の聖骸布』を持っている俺だけ、なはず。ならば冒険者へと逆戻りしてダンジョンの創造主のやり方を打倒するしかない。


「ドリス、ミィエヌエ、これから忙しくなるがいいか?」

「ダメ、といったら?」

「…関係ないな」

「……ボク、ハ…イイ」

「オッケー。‥‥‥こりゃ異動、どころじゃなくもう退職だな」


 数年ぶりに、当時とは大きく違う闘志を胸にして冒険者になることを志すことになった。






—————————————————————————————————————


あとがき


「第一章 ダンジョン守りと異動案内」がこれで終了となります。

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