第30話 ダンジョン守りの遠征調査⑤
昨日見つけていた三十七層から三十九層までの石碑は順調に壊したのだが、初日に見つけた二十五層にあった石碑は下る時に壊そうという話になった。とはいっても五十層から降りていたら面倒くさいので五十層にもあるらしい転移門で外に出て、今度は三十層に戻ってから壊そうということになったが。
下の階層の道中のモンスターは昨日あらかた倒していて数が減っていたので再び大量のモンスターと戦わなくてもいいのは非常に助かった。まぁ追加でゲットした素材や核石なんかは全部ミィエヌエに収納してもらったのでこれも非常に助かった。
そんなわけで四十一層に足を踏み入れたのだが、この辺りになるともうフィールドが小さくなっているのをありありと感じるようになってきた。移動が楽になってきたことと引き換えにモンスターの質が上がってきているのを感じていた。なんせ狭い場所でモンスター同士が陣地の奪い合いをするため必然的に強いものしか残らないためだ。
四十一層で現れたのは主に体調が一メートルを優に超えるムカデ型モンスターだ。森さんは虫がダメみたいで端の方で縮こまっていたが篠塚さんは関係がないのでドンドンと狩っていた。俺も得意ではないが大きすぎると見失うことがないので逆に問題なく対処ができた。最初の一匹さえドリスが吸収してしまえば、そのモンスターに対しては必殺の剣となるためこれも非常に楽だった。
「いやぁ、やっぱ咲間がいると楽だな。連れてきて正解だったわ。その剣も謎のレベルアップを遂げたことで使いやすくなっているし」
「えぇ、その点は本当に同意ですね。さっきから攻撃するときにドリスも攻撃個所を指定しなくなりましたし、一匹でも吸収してしまえばいいんでしょうね」
「お二人とも、本当に助かりました…虫だけはどうにも無理で」
「俺も得意じゃないんですけどね…。大きいのと倒せば金になるものを落とすということで全然大丈夫になりました」
倒したムカデたちが落とす核石と硬い外皮を回収しながら階層を進んでいく。ミィエヌエは自分の収納空間にムカデの外皮をしまわれるのを最初は嫌がっていたがおいしいものを食べるのにいずれ必要になると力説したら渋々承諾した。ダンジョンの外に出たら本当に高級食材を大量に要求されそうで怖い…。
「今日は四十五層で一泊だからな。そこまでさっさと進むぞ」
「え、今日もですか…」
「当り前だ。転移門はこのダンジョンは三十層と五十層にしかないんだから仕方ないだろ。ま、いちいち下まで戻りたいってんなら俺はいいけどな」
「いえそんなこと言ってないですよ…」
ダンジョン内での宿泊経験が希薄な俺にはどうしても忌避感があるが、森さんは何とも思っていないらしく普通に篠塚さんの話を聞いていた。高ランク者ともなればそこまで頻繁ではないもののダンジョン内に泊まることはあるらしい。
二人の話だとパーティを組んでいる人だと仲間内でその辺を良く揉めるらしく特に男女混合パーティだとその辺もデリケートだとか。
* * *
さらに時間をかけてようやく四十四層まで俺たちは辿り着いた。途中の階層では俺が知るものより巨大な蝙蝠型や蜘蛛型など見知ったモンスターが出てきたが、ドリス的にも知っているモンスター判定だったようで一撃で葬ることができた。
「さて、今日はあと一層だけだが……ここにきてやばそうなのがまた来たな」
「はい…」
四十四層では一匹しかモンスターいないが、その代わりに見るからに強そうな首が三つ生えた犬、ケルベロスのようなモンスターが鎮座していた。
「グギャァアアア——!!」
俺たちを見るなり三頭とも威嚇をしてきて思わずその場に硬直してしまった。
ただ、篠塚さんは関係なく突っ込んでいきケルベロスの爪と篠塚さんの拳がぶつかる大きな音があたりに響きまわった。
「——かってぇえ! やっぱびくともしねえな」
こちらに退避した篠塚さんが手をプラプラさせながらそんなことを言った。
「また何も言わずに一目散に突っ込んでいくからですよ」
「しょうがねえだろ、先手必勝のスタイルなんだから。…で、お前はどうなんだ? やれそうか?」
「お二人の支援もあればおそらく…ドリスは爪を指定していますね。でも一体しかいないんで普通に戦うことになっちゃいますけど」
ケルベロスは吸収していないようでドリスは攻撃個所を指定してきた。しかも一匹しかこの場にいないため倒し切らないとドリスが学習できないので非常に困る。
「ま、ようやく普通の冒険者ってことだな。普通は一撃で倒すことなんてほとんどないんだからな」
「あぁ、確かに。じゃあ、より気を引き締めていきます」
まずは篠塚さんが飛び込み、そのうちに俺は抜刀術の構えを取る。隣で森さんが魔法を放っているのを確認しながら、加速をつけてケルベロスに飛び込んだ。
すぐにトップスピードに達したその勢いのまま爪をめがけて剣を振るうと、抵抗がない、とまではいかないが割と簡単に爪を切断することに成功する。
「ガァァアアア!!」
結構深く切断したようで足先から血を吹きあげながらケルベロスは悲鳴を上げた。
「ん…あれ?!」
やけに痛がっているので何を爪の一本でそこまで、と思ってよく見てみると前足と後ろ足のすべての足先から血を流していた。
「え?! あ、もしかしてあの純白の騎士を一気に切断したみたいに今回は一気にすべての爪を切断したわけ…? お前、レベルアップしすぎじゃ?」
俺がその力に驚愕している内にも他の二人は攻撃の手を緩めることはない。ケルベロスが吠えている隙に篠塚さんは一頭の顎にアッパーを決めて、森さんは別の頭に火球を炸裂させていた。
その光景にホントに冒険者パーティみたいだと妙にワクワクしながらも、再び赤錆のついた状態に戻った剣を構えて攻撃されていない頭を狙う。
「ン…クビ」
今回はもう首を狙ってもいいらしく、その言葉通り俺は大きく跳躍してケルベロスの首を跳ねた。抵抗する間もなく一つの首を切り落とされたケルベロスはさらに大きく後退したのでこれは好機とばかりに他の二人も攻撃を強めていった。
その結果あれほど強大に見えたケルベロスはすぐにこと切れて地面に横になった。
「倒せ、ましたよね?」
「あぁ多分な。その辺の判定もドリスができるんじゃねえの?」
「あ~、そうですね。…はい、ケルベロスの事指さしてるんで吸収しますね」
ドリスの指示のまま倒れ伏した巨大なケルベロスの横に剣を突きさすと、これも問題なくドリスへと吸収された。そして綺麗な状態の剣が再び現れた。
「よし、それじゃこのまま拾うもん拾ったらさっさと上るぞ」
その場に残った核石と爪、さらには毛皮を回収して四十五層へと上る。
四十五層にはケルベロスが二体だけ出現しており、みんなまたかよという気持ちになったが一匹は俺が瞬殺。その個体の回収が間に合わず剣が赤錆びている状態だったので順当に首を切断していった。
その二体を倒したことで俺たちは無事に安全地帯に腰を下ろすことができた。
ちなみに四十四層には階層を上がる手前に、四十五層には階層を上った場所のすぐ近くに石碑が置かれていたので篠塚さんがすぐに壊していた。
* * *
翌日、野営をした俺たちはこれまたすぐに階層を駆け上がったのだが、すぐさま違和感に気が付いた。
「なんでこの階層に転移門があるんだ? まだ五十層じゃねえぞ」
「ですよね? しかもなんかフィールドの小ささがさっきまでの比じゃないですよね? …もう間の階層吹っ飛ばして五十層に来たんでしょうか」
そんなことを疑問に感じていると、急にフィールド内が明るくなった。
「おやおや、人間ごときがこの場所までくるなんて…近づけないくらいには魔物どもが強く育ったと思ったのですが。‥‥‥おや? その小さな生き物はもしかして…ミィエヌエ?」
「なんであなたがここにいるのよ…ヴェスト」
上空から荘厳に現れたのは背中に三対の羽根を生やした生物。ミィエヌエの語り口だとこいつも神関係か…?
「随分と醜くなって人の手に堕ちたか…。まぁあなたぐらいではその程度でしょうね、ハハッ。まあいいです、まだ人間が来ていい頃合いではないのでさっさと退場していただきましょう」
そんな不穏すぎることを呟いてから、ヴェストと呼ばれたモノは仰々しく腕を広げた。




