第29話 ダンジョン守りの遠征調査④
三十層には純白の騎士型モンスターが数多くいたが、剣を振るうことで一掃することができたので難なく突破することができた。
続く階層も今まで通り篠塚さんが突っ込み俺が切っていく方式になっていたので一撃で屠れはしないものの苦戦を強いられることは少なかった。しかしその中でも三十三層にいた、フィールドボスのようなでかい木にしか見えないモンスターはドリスが全く反応しなかったので他の二人に何とか対処をお願いする形となった。とはいえ森さんの火魔法で焼き尽くすことができたのでどうとでもなったのだが。
最上層に近づくほどに確かにモンスターたちは強くなっていき、篠塚さんの攻撃がなかなか通用しないものも増えてきてはいたが、より問題なのは獲得する素材が多くなってきたことだった。
当然核石が大きくなってくるので勿体ないなぁとは思いつつも小さなものは捨てていくことになってしまう。また、モンスターたちは核石以外の素材も落とすことがあるのでそれも悩みどころだった。
「もうそろそろ荷物が多くて重いですね・・・」
「それは咲間さんがいっぱい拾ってるからじゃ? 別に拾わなくてもいいのに」
「でも、もったいなくないですか? お金になりますし」
「私は別にそこまで・・・」
その森さんの口ぶりから結構普段から儲けているようなニュアンスを感じてしまったのでシンプルにうらやましい。俺からしてみれば核石も宝なのでカバンに入る分はいっぱいゲットしたいんだけど。
そんな中でも篠塚さんは落ちているものには見向きもせずにただモンスターに突っ込んでいる。まぁ元モンスターからしたら金は別に必要ないかもしれないんだろうけど少しは持ってほしい感じもしてしまう。
順調に階層を上がっているが途中からペースが早くなっているように感じることが多くなった。一階層あがる感覚がだんだん短くなっている気がするのだ。
「なんか、早くないですか? なんというか一個上がるのにそんなに時間が経っていない気がするというか」
「あれ、お前知らなかったのか? ここのダンジョン三十層以上はだんだん先細りしているんだぞ。だから五十層が一番狭いんだが…よくそんなことも知らずに来たな」
「まぁまぁ。仕方ないですよ、そもそもこのダンジョンは人があまり来ないこともあって踏破者が極端に少なくて情報が出回りづらいんですから」
「なんか…すみません無知で。じゃ、じゃあもう今日中には最上層まで行けるんでしょうか?」
「いやいや、まさか。狭くなるったってそんなお手軽に駆け上がれるもんじゃない。四十層には中ボスみたいなんがいるはずだし、そこまでに整えとかないといけねえし」
「整えて…? 昨日みたいに転移門で帰れるところが?」
「そんなわけねぇだろ。今回はダンジョン内で一日を明かすつもりだ。そのための軽い道具も持ってきてるしな」
「もしかして咲間さん、ダンジョン内で野営をしたことないですか?」
「え、もちろんそうですけど…」
ダンジョン内では迷宮庁に事前申請した場合のみ野営をして潜り続けることができる。『15ダンジョン』ではそんなことをする人たちはいないし、俺も冒険者を目指していた当時したことがなかったので久しぶりにその制度を思い出した。
「ダンジョン守りやってたくせにその辺の考えがなさすぎないか?」
「そう言われても、冒険者続けてたわけじゃないんで…。立ち位置的には普通の会社員ですからね俺。というか俺何にも道具ないですよ」
「ま、それは大丈夫だ。ほら」
そう言うと篠塚さんは徐にその場の空間に手を伸ばした。その瞬間手だけが消滅して、何かを引き抜くような動作をするとテントが出てきた。
「え?! 何そのマジック!」
「驚きすぎだし、マジックでもねえよ。俺は人間じゃなくてダンジョン産だからな。こういう亜空間に物をしまうこともできるってわけよ」
「咲間さん、これも初見ですか?」
「はい…便利ですねぇ。あ、だから篠塚さんって迷宮庁で監視されてたりします?」
「はい。亜空間にものをしまえるなんて人類のあこがれですからね。研究対象にもなりますよ」
ここにきてようやく一つの疑問が解消された。なぜ単に強いという理由だけで篠塚さんが討伐されずに迷宮庁で飼われているのかということが。この反則ともいえる謎技術をみんな知りたがっているのだろう。
ただ、続く森さんの説明では未だにどうなっているのかを突き止められていないため、実用化できそうもないとのこと。
「俺としちゃ、こんなこともできないのに人間がダンジョンに入りまくることの方が驚きだがな。あ、だからって核石とか素材を入れさせてとか言うなよ。そんなにいっぱい入らないんだからな」
「う…あ、じゃあミィエヌエはないのなんかそういう特殊なの」
「当然できるわよ? というかあの時私の力を再現するのにあの場にあったあの程度の石ころで足りると本気で思っていたのかしら? こっちが持っていた物もすべて取られたわよ」
「は?! それ早く言えよ! 俺が持っている素材、その亜空間にしまわせて! お願い!」
まさかのカミングアウトだった。いつも聞かれなきゃなにも答えないと思っていたが、そんな重大情報まで話していなかったとは…。
俺のお願いをミィエヌエは嫌がっていたが、居候していることを引き合いに出して何とか丸め込んでその亜空間に荷物を入れてもらえることになった。容量について聞いてみたが、そんなことをバラせば何でもかんでも入れようとするから言いたくないと突っぱねられてしまった。非常に残念。
でもこれでミィエヌエがただの傲慢な居候から荷物持ちにレベルアップしたのでとてもうれしい。
三人で喋りつつ階層を上がっていると、三十七層からあの石碑が再び現れるようになった。俺と森さんは嫌な雰囲気をその石碑からずっと感じているので見つけても近寄らずに素通りすることに。その間ミィエヌエはその石碑がずっと気になるようで凝視していたが特に何も言ってくることはなかった。
* * *
「これでやっと三十九層ですか…。昨日より昇る階層が少なかったのに疲れましたね」
「まぁ、モンスターがその分強くなってるからな。特にこのダンジョンは狭くなっていってるから強いやつが残りやすくなっているんだろう」
順調に階層を上り続けて三十九層の安全な地帯で腰を下ろした。先ほど言っていた通り今日はここで野営をするのだろう。敵に時間をかけていた分昨日よりも時間がったっているが、外はどうなっているんだろう。昨日みたいにやはり時間の進みが違うのだろうか。
俺たちはその場で簡易テントを張り、栄養補助食を俺と森さんが食べてからすぐに睡眠をとることになった。俺たち二人以外は睡眠が必要ないので外の監視を行ってもらう。
このダンジョン内は外と違い灯りがずっと灯っているので明るい中寝るのは変な気がしてしまう。とはいっても疲れていたのですぐに眠りにつくことができた。
眠りから覚めてまたすぐに動き出すことになった。時間にして約六時間ほど眠っていたらしく疲れはだいぶ取れていたが、固い地面の上に寝ていたので体が痛い。
篠塚さんによれば俺たちが寝ている間、特にモンスターが襲撃してくることはなかったようだ。まぁ、一応安全地帯のようだしね。
すぐさま四十層にあがると、その階層には大きな石扉だけがありおそらくこの先に篠塚さんが言っていた中ボスがいるのだろうことがすぐにわかった。
「この先、ですか」
「あぁ。聞いた話だと半魚人? みたいなやつらしい」
半魚人というと顔が魚っぽくて体がムキムキで二足歩行で武器は三叉槍を持っているイメージが強いのだが、このダンジョンはどうなのだろう。というか半魚人なのに水辺もないダンジョン内で生活できているのか?
俺のそんな些細な疑問をよそに篠塚さんは扉へと手をかけて開け放った。
開け放った瞬間、これまでの階層とは違い熱気が中からあふれ出すのを感じたが半魚人がいるフィールドが暑いのは何なんだ?
「暑いな…おい、なんもいねぇじゃねえか」
「…ですね。あれ、でもここにも石碑が」
石造りの円形フィールドの内部にはモンスターの影もなく、ただ中心部にあの石碑がポツンと置かれていた。流石にここにまであるとなると無視もしておけないため三人でそこに近づいた途端、ミィエヌエが身を乗り出すのを感じた。
「‥‥‥あ! 思い出した。それ、基点だわ」
「基点? なんのだよ」
「私も聞いたことがある程度だけれど、迷宮成立そのものにかかわった私よりももっと高位の神が置く基点。なんのために置かれたかまでは知らないけれど突然こうやって人前に姿を現すのだから意味があると思うのだけど…」
「え、ダンジョン成立にお前たちみたいな神がかかわっているのか?」
「もともとだけれど。迷宮成立はずっと昔、神々が起こしたものと私は伝えられているわ。けれどその時は作ったはいいものの迷宮管理という概念がなかったから内部の生物たちが好き勝手暴れだしたの。その結果生物は魔物になり、人間たちに迷宮が押し付けられて世界に出現して、私たちみたいな女神が創造された…はずよ」
「じゃあなんだ? お前らの不始末のせいで俺たちの世界はこんなことになったってことか?」
ミィエヌエの驚愕告白に思わず語気が強まってしまう。勝手にダンジョンを作り出しといて手に負えなくなったから俺たちに押し付けたと聞いては納得ができない。なんでそんな神とやらのために俺たちが頑張らなきゃいけないんだ。
「それを私に言われても困るわよ。言ってみれば私も被害者なわけだし。というか迷宮資源のおかげで人間界も成長しているでしょう? 利益は得るけど不都合だけは負いたくないのはちょっとできすぎた話じゃない?」
「いやそもそも、その神々とやらがダンジョンなんて作んなかったらこうなってねえだろ」
「ちょっと、咲間さん一旦その辺で。ミィエヌエの話が本当だとしても今はこのダンジョンをどうするかを話さないと」
「…そうですね。で、ミィエヌエ、その基点はどうしたらいいんだ?」
「知らないわ。なんでそんなものを作ったのかも知らないのに何をしたらいいのかまで知るわけないじゃない」
まるで呆れかえるようにミィエヌエは言い放った。聞きたいことは山ほどあるのにこの様子じゃあ本当に何も知らないのだろう。
というかあの語り口だと、ミィエヌエは偉そうな女神面しているけど相当末端の女神なのだろうか。神々の手を離れてしまったダンジョンを取り戻すための迷宮進行に必要な人間の信仰を集めるためだけに生み出された存在か。
俺みたいな平社員ってことね。理解理解。
「そんな難しく考えなくてもいいんじゃねえの? 本来現れないその基点が現れてるんならそこに意味があんだろ」
「確かに…? でも何をすれば」
「一旦壊してから考えればいいだろ。成立の基点なら壊してなんぼだ」
そう言った瞬間に俺たちの言葉も聞かずに篠塚さんは猛スピードで石碑に迫り足蹴りを放つ。でかい衝撃音と共にいとも簡単に石碑は壊れたようで篠塚さん本人も呆気にとられた顔をしている。
「すげー簡単に崩れたな…。これ、破壊しつくせばダンジョン自体なくなんじゃねえの?」
「確かに…いいのかミィエヌエ」
「どうして私に聞くのかしら。勝手にしたらいいじゃない?」
ミィエヌエのお墨付きも出たということで俺たちは再び下の階層まで一旦戻り、石碑を壊しつつ最上層を目指すことに決定した。




