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ダンジョン守りを初めて三年、異動を促されている。  作者: 未色
第一章 ダンジョン守りと異動案内
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第28話 ダンジョン守りの遠征調査③

 篠塚さんたちと共に車で現地の検査所まで戻った後、俺と森さんと迷宮庁職員数名で食堂へと来ていた。人も少ないし飲み物をいくらでも飲んでいいと言われたので会議室ではなくて食堂チョイスだ。

 ちなみに篠塚さんは回復と検査のために医療班に担がれて別の場所へと言ってしまった。


「──今日確認できた異常としましては、三十階層の変化と騎士。そして謎の石碑とその鞘ですか」

「はい、そうだったと思います」


 毎度おなじみ、聞き取り調査を終えてコーヒーを啜る。

 う~ん、まだ日が昇ってるけどお酒が飲みたくなってくるな。でもダメって止められちゃったしなぁ…。


 俺の気の抜けた考えとは別に迷宮庁職員達は皆渋い顔をして考え込んでいる。どう上の方に報告しようかと悩んでいるようだ。

 確かに今の段階で明確にどんな脅威があるのかは分からないもんな。


「ありがとうございます。ではその鞘の事に移りたいんですが、それはただ単に鞘としての役割になっているんでしょうか?」

「はい、おそらく。何か確かめたわけじゃないんですけど少なくとも特殊な何かが出てくるとか、身体能力が強化されたとかは感じていないですね」

「じゃあ別に何か、例えば剣の切れ味が変わったとかは? 聞くところによるとその剣もすごい力を持っているんだとか」

「いやぁ、それもまだわかんないですね。明日また潜ってみて何か確かめられればいいんですけど」

「いや、変わっているわよ人間。一回それ引き抜いてみなさい」

「え、なんでミィエヌエがそんなことを」

「まぁいいから」


 急に頭上のミィエヌエが喋り出したかと思えば何か分かっているかのような口ぶりで俺に指示を出した。特に反論することはないのでそれにおとなしく従い剣を引き抜いてみると、先ほどまで赤錆びていた刀身が綺麗になっているではないか。


「あれ?! 錆びがなくなってる!」

「でしょう? ようやく鞘を取り戻したことで本来の剣としての見てくれになったんでしょうね」

「‥‥‥いや、なんでお前がこんなことになってるって知ってるんだよ」

「逆に今の今まで気づいていなかったことが驚きだわ」


 あらわになった刀身をよく見てみると今まで錆びていたのはどうしたのか、うっとりするほどきれいな見た目になっている。ようやく本来の輝きを取り戻したのか、剣の腹の部分は俺の顔を映し出すほどにピカピカだった。

 でも剣の色は今までと同じくらいに赤黒いのね。コレちょっと怖いんだよなぁ。


「綺麗になって、しかも呼び出した時に変な所に刺さる恐怖も無くなったしラッキーだな」

「‥‥‥そこじゃないでしょ気にするところ」

「いや、気にするだろそこ。俺の家の床まだ傷ついたまんまなんだからな」


 俺とミィエヌエが盛り上がって軽口をたたいているとその様子を職員さんたちは目を丸くして見ている。何か気になるところがあったんだろうか。


「どうしました? そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

「…はっ! いやいやいや、気になるでしょう?! だってさっきまで赤錆びていた剣が本来の輝き、なのかは分からないですけど、それを取り戻しているんですよ?!   何かあるって思うでしょ普通!」

「そうですよ咲間さん! 特に驚いていないことの方がこっちとしては驚きです!!」


 おぅ、森さんそんな大きな声出せたんですね。剣幕も相まって怒られているみたいでちょっと怖いですよ。


 まぁそんなことはいいとして。そうか、普通びっくりするよないきなりこの厄ネタである剣に大きな変化が現れたら。もう最近は何か起こってもまぁドリスだしな、程度に思えるほどには感覚が慣れてきていたので皆の反応は新鮮だな。


「そう、ですよね。でも俺の感覚としましては、だから何が変わったのかが全く分からないので…ビームとか出せるようになっているんだったら超驚いてましたけど」

「そんなおとぎ話みたいなことあるわけないでしょ…ないですよね?」

「俺に聞かれましても…。まぁとりあえずは明日の調査で何が変わったのかも含めて確認しますね」


 あんまりなんでもかんでも聞かれても答えれる材料がないのでお開きにしようかと思ったら、職員の方から三十層の騎士との関係についても深堀されてしまった。でも本当に答えられることが何もない、知識的には森さんと何も変わらないと伝えたことでやっとその場がお開きになった。


*   *   *


 続いて二日目。昨日は意外にもおいしかった検査所のご飯をごちそうになり大浴場に入って疲れを癒したことで泥のように眠ってしまった。


「篠塚さん、体の方は大丈夫ですか?」

「当り前だ。これでも元超強力なモンスターだったんだからな。そんでそっちは?」

「十分疲れを癒せました。森さんも回復しましたか?」

「はい。しっかり睡眠をとったことでようやく回復しました」


 今日は昨日とは違い、三十層まで直通で行けるので森さんがダンジョン入り口の壁に魔力を流すと瞬時に三十層に到着した。


 視界が開けると目の前の光景は昨日までの物とは違っていた。


「おっ…まさか戻っていやがるとは」

「ホントですね。じゃあ昨日のあの空間はこの鞘のためだけのものだったんですかね…?」

「ぽいな。…お前だけが得したみたいなもんじゃねえか」


 昨日の三十層は浮島のようなフィールドだったのだが、今目の前に広がっているのは下の階層と同じような見た目だった。昨日篠塚さんが言っていたようにこれが三十層の本来あるべき姿なんだろう。


 にしたって俺だけが得したなんてそんな嫌な言い方しなくてもいいじゃないか。別に狙ってあの空間を生み出しているなんてことはないんだし。


「じゃあ、進みましょうか…あれ?」


 昨日からずっと剣に鞘が付いたところで何が変わるのかずっと疑問だったがダンジョンに入った途端にそれを実感した。

 明らかに体が軽い。昨日森さんにかけてもらった支援魔法の比ではないくらい足取りも軽く、なんだったら最近悩みだった腰の痛みも消えていることに気が付いた。


「どうしました?」

「いえ、大きなことじゃないかもしれないんですけど体がすごく軽いんです。支援魔法がなくてもこれなら大量のモンスターたちの相手することができるかもしれないです」

「ほう? じゃああれらの相手してみろよ」


 若干ニヤついた声を出しながら篠原さんはとある方向へと指をさした。そこには十匹単位で隊をなしている騎士たちがいた。昨日のような巨大で真っ黒なものではなかったが、初めて見る個体でその鎧は純白で眩しかった。


「ちょっと、篠原さん。いくら何でも咲間さん一人じゃ無理でしょう? あの個体数ですよ?」

「大丈夫だろ。だって他でもないこいつ自身が大量のモンスター相手にできるって言ってんだぜ」


 森さんは心配してくれているが、正直な所俺は篠塚さんの意見に概ね賛成側だ。これまでならば絶対に無理だと思っていただろうけれど、なぜかわからないが今は大丈夫だという確信しかない。

 また、その確信に応えるようにかはよくわからないが、柄に巻き付けられている黒紐が一段と暖かい。


「…大丈夫だと思います。いけそうな気がしているんですが、もしやばそうだったら助けてくださいね」

「おう。ま、無理はすんなよ」


 その言葉を受けて、群れをなしている剣士たちを見つめて抜刀術のような構えを取った。そして息を整えて、篠塚さんのように一気に敵に距離を詰められることを想像しながら地面を蹴った。


——ダンッ


 その一蹴りで俺の体は今まで感じたことがない風を受けてトップスピードへ至る。そして武器を構える純白の騎士達に急接近して剣を抜き放つ。


「クビ」


 ドリスの言葉が一瞬聞こえ、そのまま剣を横なぎに振るった。


 その瞬間、サクッという軽すぎる音と共に十体すべての騎士の首が宙を舞った。もはや弱点を攻撃することなんて意味がないとでもいうように、紙切れのように騎士を切り伏せることに成功した。


「ふうぅ…。意外と簡単にいきましたね」


 二人の方へと振り返りピースサインを作ると、二人そろってドン引きしたような感じになっていた。‥‥‥あ、あれ、間違えたかな。


「……うわぁ、ホントにやりやがったアイツ。きんもちわりぃ」

「はぁ、私もう帰ってもいいんじゃないかしら?」


 何て言い草だ…。そう思いながらも剣を見るとその刀身は今までと同じように赤錆びていた。


「あれ?! あ、もしかしてこれきり?」

「…」

「あ、モンスター狩るごとにチャージがいる感じか?」


 驚いてドリスの方を見てみると、無言のままで倒れ伏している純白騎士たちを指さしていた。

 いつものをやらないといけないのか。じゃあ連続でこんな楽にモンスターを倒すことはできないんだな。


 少し残念に思いながら剣を置くと、騎士と共に消えて再び現れた。そしてその剣を鞘に納めてからまた引き抜くとさっきと同じ綺麗な刀身になっていた。


「なるほど? 原理はよくわからないけど、毎回のこの吸収作業がより必須になってくるのね」

「いやぁ末恐ろしいわね‥‥‥ドリスちゃんも、あなたも」


 頭上のミィエヌエまでもがドン引きした声を出していることには少々納得がいかなかった。

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