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ダンジョン守りを初めて三年、異動を促されている。  作者: 未色
第一章 ダンジョン守りと異動案内
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第27話 ダンジョン守りの遠征調査②

 このダンジョンの二十五層に出てくるモンスターは牛をモチーフにしたようなものばかりだった。

 牛の頭に蜘蛛の体を持つものや闘牛型も多くいたがやはり大半が大小さまざまな牛人種(ミノタウロス)だった。そのおかげもありドリスの一撃で倒すことができるのだが『15ダンジョン』とは比較にならないくらいに強いモンスターばかりだったので二十五層を抜けるころには皆疲れ果てていた。


 さらに上層にあがるにつれてモンスターの強さもだんだんと強くなっていき、続く二十六層では巨大な鳥型が多く二十七層、二十八層では巨大スライム型モンスターが縄張りにしていたこともあり俺の知識が通じないところがほとんどだったので非常に苦戦を強いられた。

 でも、一回そのモンスターを吸収することで同じモンスターの弱点がドリスに学習されてしまうため普通に戦うよりは楽だったと思うが。


「はぁぁああ、しんどいですねぇ」

「あぁ、骨のあるやつばかりだったからな。俺ですら結構疲れたぞ」


 二十九層へと上がりモンスターたちがいない場所で休憩を取りながら少しの雑談タイムになった。


「このダンジョン、バグ道とか近道がないせいで余計疲れますよ。やっぱ『15ダンジョン』は偉大だったんだなぁ」

「そりゃそんな道ある方が少ないからな。いいじゃねえか、どうせお前冒険者になるつもりなんだろう?」

「あ、それ私も三ケ島さんから少し聞きましたよ。もし冒険者になる時にはパーティ組むって約束したらしいじゃないですか」

「あの人...。まぁ、そうですね。この前の報酬もらったことで結構気持ちが揺らいじゃいまして。どうせ『15ダンジョン』勤務の異動案内も出ていますので、それが決定になるのなら冒険者に転向しようかとは考えています。とはいっても今日明日の話にはならないんですけどね」

「お前は人間なんだからそううだうだしてっと、あっという間に年取っちまうぞ」


 うぐ。篠塚さんは人間じゃないだけに意外と痛いところを突いてくるな。流石に三十代にもなれば体にガタが来るのだろうから本当にどうするか早く決めなければならない。あと五年、いや一年以内にはどうするか決めないといけない。

 

 一生安定はしているが給料が思うように上がらない社会人を続けるのか、安定はしていないがもしかすると一攫千金を狙える冒険者になるのか。


「ま、今それ考えても仕方ないか。さぁ、気合入れてとりあえず三十層までは行くぞ」

「え、もしかして三十層まで行ったら今日は撤退ですか?」

「まぁそうだな。あくまで初日の調査だし。ただ、今来た道を下るわけじゃねえ。このダンジョンは珍しく三十層から入り口までの直通転移門がある」

「え?! 珍しっ!」


 直通転移門は極稀にダンジョンに生成されるその名の通りダンジョン内の指定の個所を行き来できる門だ。しかし条件としては一度その転移門のある場所に踏み込んだ者しか使えないためそこまで行く必要がある。所謂セーブポイントみたいな役割だ。


 バグ道と似ているが一番の違いは分かりやすく門として存在している点だ。そのためダンジョン内各所に存在しているバグ道は転移門の名残ではないかという研究もなされている。ただどこにもその確証はないため結局未だ謎の多い門だ。


「もしかして篠塚さん、門を使って三十層まで直で行けるのに俺のために一緒に来てくれたんですか?」

「当り前だろ。なんのための調査だと思ってんだ」

「篠塚さぁん…」

「気持ちわりい声出すな。さっさと行くぞ」

「…あれ、でも転移門ってドリスとミィエヌエ通れるんですかね?」


 転移門は同じく基本モンスターは通ることができないようになっている。そのなぜ人間だけが通れるのかも謎なのでもはやダンジョン側が人間のために用意したものじゃないかとすら思われている節がある。


「それも確かめるために佐藤さんは咲間さんをここに来るように任命したんじゃないでしょうか? 未だどちらも謎が多い剣と生物ですからね」

「迷宮庁、なかなかやり手ですね…。あ、いやでもバグ道も通れたし、ミィエヌエに関しては『渋谷ダンジョン』脱出のゲート作り出してたし行けるのか?」

「どうかしらね。その門が私たちが作り出すものと同等の物かは分からないわ。その場合歩いて入り口まで戻ることになるわね」

「えぇ...おいてっちゃダメ?」

「ダメに決まっているでしょう!」


 その時は流石に面倒くさすぎるためどちらも置いていきたいのだが。いや、どちらにせよドリスは手元に呼び出せるから大丈夫か。


 二十九層ではまさかの騎士型モンスターが数多く割拠していた。そのどれもが素手ではなく武器や防具を持っており、そしてどれもが四、五体の小隊をなしていた。


「数が多いな。流石に飛び込んでくのは悪手すぎるか」

「だと、思います。『15ダンジョン』のものとも強さの桁が違うでしょうし。俺もできるだけ頑張りますから合わせていきましょう」


 まずは森さんに補助魔法をかけてもらってから二人で駆け出す。そして篠塚さんが先頭にいる盾持ちの盾を拳で弾きあげてその隙に肩口を切り上げてから首を断つ。

 騎士型モンスターはすでにドリスへと吸収されているのでどの騎士も同じような戦法を取っていく。篠塚さんが相手の体勢を崩してから俺が弱点を突いてから首を斬る。うち漏らした場合には森さんが後方から火球などの魔法を放ち仕留めていく。


 機動力が高く強そうだと思った騎士型もこれまでと同じような戦法を取り、五つのグループを倒したころにはもう作業のようになっていた。しかし疲れていないわけでは決してなく、この一層のみで相当体力を削られた。


「はぁ......はぁ......」


 それは魔法に自分の生体エネルギーも消費する森さんが顕著であり、結構顔色が悪くなっていた。


「大丈夫ですか? しっかり休んでからあがりますか?」

「いえ、大丈夫、です。もう結構時間も経っていますし…。この時のために回復薬を持ってきています」


 自分のポーチから小瓶に入った回復薬を取り出してから、森さんは一気に飲み干した。とはいえ回復薬一本で全快するわけではないので早めに三十層から転移門で地上に戻らないといけない。


「人間は大変だなぁ。俺はダンジョンに満ちている魔素をある程度取り込めるからいいけど」

「便利ですねぇ、元モンスターって」

「嫌味か?」

「いえ? 全く?」


 こんなところでちょっとバチバチするのやめてもらっていいですか?


 やっとの思いで三十層までたどり着いたがそこは、ミィエヌエと戦った場所を想起させるような、ある意味神秘的な場所だった。

 意匠は異なるがそこは広い円形の浮島のような場所だった。


「なんだここ。話じゃこのダンジョンの三十層はこんなんじゃなかったはずだぞ?」

「そうなんですか?」

「あぁ。今までと同じようなつくりのはずだ。なんせ元弱小ダンジョンだぜ。こんな派手な場所があると思うか?」


 場所は関係ないんじゃ? と言おうと思ったが俺以外の二人が真剣な顔をしていたため口をつぐんだ。


「そして何よりあいつだ」

「はい…」


 ダンジョンの形云々より注目すべきは、浮島の中央部に直立している身長が三メートルはありそうな巨大な真っ黒の騎士だった。その手にはなぜか剣ではなく鞘だけが握られていた。

 その騎士の異様さを際立たせているのがその黒さ。黒すぎて靄でもかかっているのかと思うほどその全貌をつかみづらい。


「見た感じあいつがもしかして元凶ですかね…?」

「いや、それはまだわかんねぇな。一旦は普通のフロアボスとして考えるしかなさそうだな」

「じゃあ、さっきまでと同じ感じでいいでしょうか? 私は今回補助魔法かけるだけで疲れ果てちゃうと思うから二人で何とか頑張ってくださいね」

「え...頑張ります」


 森さんの言葉に焦りを感じたが先ほどまでと同じく森さんに補助魔法をかけてもらい、一気に篠塚さんが飛び出した。


「——チガウ」

「え?」


 今までよりもはっきりと、ドリスが違うと声を発した。

 その瞬間、飛び出していったはずの篠塚さんがほとんど同じ速度で俺の後方まで吹き飛ばされた。


「し、篠塚さん?」


 浮島のようなエリアだというのに見えない壁にでも激突したように篠塚さんは派手な音を立ててから地面へと倒れ伏した。


「しの…篠塚さーーーん!!」

「……あ、そいつ、一応強力なモンスターだから吹き飛ばされたくらいじゃ死なないわよ」

「え、あれ?」


 篠塚さんの方を見るとピクピクはしているが、仰向けのままサムズアップを返してきた。

 心配したこっちが恥ずかしいっ!


「そう、っぽいですね。…こほん。で、ドリス、なんで違うんだ?」

「…ダイジョウブ」


 大丈夫? なにが大丈夫なんだ。


 そう思っているとドリスは騎士の方を指さした。


「向かえってことか? でも倒すわけじゃ、ない…? ホントに?」

「…」


 肯定も否定もしないってことは一応そういうことなのか?


「じゃ、じゃあ行くぞ? 万が一殴られても頑丈だから大丈夫だよね…?」


 ビクビクしながら意を決して騎士のもとまで歩いて、その顔の方を見上げたが何もアクションを起こさない。

 若干間が開いて気まずく思っていると急に騎士が手に持っている鞘を手放した。


「えっ?」


 そしてその手放された鞘は導かれるようにして俺の持っている剣に吸い込まれていき、カチッという音と共にその刀身へと被さった。

 目の前の光景に困惑しつつその姿をよく見ると剣の意匠と非常によくマッチしており元々この剣の鞘だったかのような見た目になっている。


 ポカンとしてドリスを見るともうその手は降ろしており、どうやらこれでよかったことが伺えた。


「…カイシュウ」

「回収…? コレもしかして元々お前の物?」


 それ以降はドリスは喋らなくなってしまった。訳が分からずとりあえず森さんの元まで戻ると、彼女も何が何だかよくわからない顔をしていた。


「どういう、ことですか?」

「どういうことでしょう? 俺にもさっぱり‥‥‥」


 とりあえずの危機は去ったはずなのに全く釈然としないまま篠塚さんを叩き起こした。そのまま何とか引きずりながら、微動だにしない騎士を素通りしつつその後ろにあった転移門を使い地上へと戻った。

 通れるか心配だったミィエヌエも問題なく門を通ることができて少し安心した。


 地上に出てみると外は時間がほとんど進んでいないのか、まだ太陽が高い位置にいた。

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