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ダンジョン守りを初めて三年、異動を促されている。  作者: 未色
第一章 ダンジョン守りと異動案内
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第25話 ダンジョン守りの遠征案内

 黒紐が剣の柄に巻き付いてから早数日、今日も今日とて『15ダンジョン』は平和だった。ここ最近の異常は何なのかと思うほどにいつもの業務に戻っている。たまにD級やE級冒険者の人が迷子になってその人たちを助けるために中に潜るが、変なモンスターが出てくることはまずなかった。


 まぁ、相変わらずダンジョン内の気温は低いままなのだが、それが何か不都合を引き起こしていることはない。この辺の調査を行いたい気持ちはやまやまだが実害が出ていないので何を調査すればいいのかわかっていないのが現状だ。


 そして、この数日の間に改めて三十五層に降りてみたのだがあの時あった階段はなくなっておりモンスターの湧き状況も騎士型が出現する前の状況に戻っているように感じた。なんだったんだあの時の異常は。 


 ようするにこれまでのなんてことない日常が戻ってきたわけなのだが、やはり平和な日常というものはそう長くは訪れないようで、ある日ミィエヌエと軽口を言い合っていた時に意外な人物が事務所を訪ねてきた。


「——あなた、また別のダンジョンに入ってもっとお金稼ごうって思わないわけ? あの時みたいに多くの人救出してお金もらって私においしい人間の食べ物食べさせなさいよ」

「たまにはいいこと言うって思った俺の純真な心を返してくれ。結局お前がうまいもん食いたいだけじゃねぇか。あんだけ人間の食いもん忌避してたわりによく言うぜ全く...」


 そんな不毛なやり取りをしていると事務所の受付窓が叩かれた。入場手続きか、と思い椅子を離れてそちらに向かうとそこに立っていたのは全身鎧の冒険者だった。


「はい...あれ、篠塚さんじゃないですか。どうしてここに? 今日はお一人なんですね」

「あぁ。機械兵討伐した時以来だな。ちょっとお前に話があるんだが...中入っていいか?」

「え、まぁそれはいいですけど…」


 事務所の扉を開けて篠塚さんを招き入れる。


 改めてその体を見ると以前にはなかったように思える傷がところどころにできていた。篠塚さんでもそんなに手こずるモンスターがいるのかなと、少し違和感を抱えていると彼はドカッと椅子に座り語りだした。


「咲間、お前東北の方に行ったことはあるか?」

「え? ないですけど...。急にどうしたんですか? いつか旅行しに行きたいなぁと思っているくらいですけど」

「そうか。まぁ——ちょっとまて、なんだそいつ」


 唐突に東北地方について喋り出した篠塚さんは俺の頭の上に座っているミィエヌエを指さして疑問を唱えた。あぁ、この人もこいつの事は初見か。


「あぁ、こいつは『渋谷ダンジョン』でなんか勝手についてくることになった女神、の成れの果てでして」

「ちょっと、成れの果てってなによ! というかそっちの魔物こそ何なのよ。なんで魔物が好き勝手外に出ているの?」

「ほう、一目で俺の事を元ダンジョンモンスターと見抜くか。なかなかいないぜそんな奴。…ということはそいつが『渋谷ダンジョン』の行方不明事件の元凶ってことか?」

「えぇ、まぁそうですね。篠塚さんがかつてされたという取引とほぼ一緒で無力化してから外に出せってうるさかったもんで、連れてくることになっちゃいました」


 そう軽く説明すると、興味深そうにミィエヌエの体をジロジロと見始めた。やっぱり元ダンジョンモンスター同士気になる部分も多いのだろうか。


「ほぉ。なかなかかわいらしい見た目になっちゃいるがさぞ凶悪だったんだろうな。…ま、そんな話は今はいいとして。つい先日、俺は調査のために東北のとあるダンジョンに行ったわけだ。規模的にはこことそこまで変わらない弱小のな」

「へぇ。あ、だから『渋谷ダンジョン』に来られなかったんですか?」

「そうだ。そんでそこのダンジョンの敵がどうも変でなぁ。俺の戦闘スタイルは知っての通りほとんどのモンスターを初撃でぶっ飛ばせるんだが、どうもそのダンジョンの奴らは俺のこのスタイルを見切っているらしく反撃されちまってよ」


 篠塚さんの言う通り瞬時にトップスピードに至りあっという間に敵を殲滅する戦闘スタイルについてこられるモンスターはそうそういないだろう。それをある弱小ダンジョンのモンスターが対応しあまつさえ反撃したのか。だから体に傷ができているのだろうか。


 三十五層でみた素手の騎士型モンスターでさえ篠塚さんの攻撃で吹き飛ばされていたのに、それ以上となると相当強い個体なのだろうか。


「でも、ここにいるってことはそのモンスターを倒してきたってことですよね?」

「あぁ、一部はな。だが俺がそんな状態だから他の個体を殲滅するよりも逃げ帰ってきたというわけだ」

「え、まだまだそんなモンスターがいるってことですか?」

「たぶんな。そこでだ、お前に依頼をしたいんだ。もちろん俺個人の依頼じゃなくて迷宮庁側からではあるが…」


 そこにきてようやくこの人がここを訪れた理由が分かった。そして、いやな予感ほどよく当たるという俺の持論の正確性がより強固になった気がした。


「俺と一緒にそこのダンジョンに潜ってくれ。そんでもってできれば渋谷みたいにダンジョンを消し去ってくれ」

「ごめんなさい! いやです! ダンジョンを消し去るなんてこともあの時がたまたまだっただけで再現性があるわけじゃないです!!」

「なんでよ! また一杯お金稼げるかもしれないんでしょう?! 早く行きなさい!」

「いやなんでお前がそっち側につくんだよ!」


 佐藤さんのような迷宮庁職員がここに来なかった理由はすぐに依頼の事が感づかれて忌避感を持たれると思ったのだろう。だから当事者でもある篠塚さんを一人でここに来させて交渉をさせようと思ったのだろう。元モンスターに交渉させるってどんだけ人員が少ないんだ迷宮庁。


 そもそもなぜ俺に頼むのかもよくわからない。俺以上に腕利きの冒険者なんてたくさんいるはずだしそっちに頼めばいいはずだ。『渋谷ダンジョン』を潰したとはいえただのダンジョン守りに依頼を行う方がおかしいのではないか。


「確かにお前の言うことはわかる。でも前例ができちまった以上それに頼るしかないのが今の日本のダンジョン事情だ。高位冒険者に行ってもらってもいいが、何も成果を得られなかったときの損失がでかい。…あいつら依頼料高いらしいからな」

「それって、俺が足元見られているだけじゃ…?」

「ま、まぁそう言うな。高位冒険者になればなるほど忙しんだわ。その点お前はダンジョン守りで冒険者じゃないから上としても扱いやすいんじゃないのか?」

「‥‥‥もしかして冒険者になった方が休みが多いなんてことになるのでは?」


 篠塚さんの発言を受けて俺が戦慄していると当の本人は何を思ったのかおもむろに外へ出ていった。なんだ、と思っているとすぐに何人かの人を連れて中に戻ってきた。

 その中にはどこかで見たような人が一人混じっていた。


「俺が話せることは話してやったからあとはお前が話せよ」

「あれ、佐藤さんじゃないですか。やっぱりいたんですね」

「はい…。少しだますような交渉の仕方で申し訳ないのですが、依頼の内容は篠塚さんが話した通りです。ぜひとも咲間さんのお力をお貸しいただきたく。もちろん現地までの移動経費や活動経費はこちら負担なので。あと、調査の成功の有無にかかわらず前金として報奨金はお支払いさせていただきます。ですのでどうかご協力していただけないでしょうか?」


 そこまでいうと佐藤さんはこれまた深く頭を下げた。ただのダンジョン守りに頭を下げないといけないなんて迷宮庁の人は大変だなと毎回思う。

 そこまで請われてしまっては断るのも申し訳ないのでどうしようかと思ったが、ダンジョンの管理業務もあるのでそうやすやすと頷けるものではない。


「う~ん...でも俺が東北まで行っている間このダンジョンはどうすれば? 現地調査なんで一日二日で終わるものでもないでしょう?」

「はい、おそらくそうだと思います。ですので咲間さんが留守にする間はこちらの方が業務を引き継ぎます」


 佐藤さんはそう言い一人連れてきていた女性を紹介した。


「『渋谷ダンジョン』の元ダンジョン守りです。一応ダンジョン守り業務にも慣れておりますので業務の心配は大丈夫です」

「あ~、あの時の。どうりで見たことがあるなと思っていたんですよ。…あれ、もしかしてもう外堀って埋められてますか?」


 そう返せば佐藤さんは何とも言えないような表情をしていた。代わりのダンジョン守りまで用意されているのを見るに俺を誘い出すことは既定路線だったように思えてしまう。有無を言わさずにつれ出すための人員まで用意しているとはなかなかあくどい方法とるんだな迷宮庁…。


「外堀、埋める形になっちゃいましたね。ですので、というのは変ですがお願いします咲間さん」

「‥‥‥はぁ、分かりました。俺になにができるかはいまいちわからないのでそこまで期待してもらわなくてもいいんですよ?」

「あ、ありがとうございます!」


 俺自身、自分とドリスの力が果たしてどこまで通用するかは検証結果が少なすぎるので分かっていないので保険をかけておいた。前金をいただけるというのでほどほどに協力すればいいと思うのは流石に不義理だろうか。


 でも東北地方のダンジョンなんてそれこそ完全所見なのでどんなモンスターが出てくるのか見当もつかない。もしかすると寒いかもしれないのでちょっと暖かい黒紐が役に立つのかも。それか黒紐に秘められし力が何か解放されるとかありそうで少しだけワクワクしてしまう。


 佐藤さんの話では調査にかける日程は最長でも一週間、もしその間に完全に調査が成功してもしダンジョンを消去できたのなら単なる旅行を楽しんでもいいそうだ。

 そんなこと言われてしまったらやる気が出てきてしまう。


「ドリス、がんばろうな!」

「…」

「う~む、何も言わないか...。あ、ところで出発っていつなんですか? 一週間後とかですかね」

「それは...申し訳ないです。明日です」

「‥‥‥あ、明日?!」


 驚愕のスケジュールにもはや恐怖を覚えてしまうのと同時になにを持っていけばいいのか瞬時に頭の中で計算を始めた。

 家にあるスーツケースって荷物いっぱい入るかな…?


 予定としては明日の朝10時ごろに家まで車で迎えに来て新幹線に乗って現地まで連れていかれるそうだ。新幹線駅まで電車に乗らなくてもいいのはありがたいが、それにしても急ピッチで予定組みすぎでしょ。空飛べる冒険者とかいてくれたらいいのになぁ。


 その日は定時まで元『渋谷ダンジョン』ダンジョン守りさんに業務を引き継ぎしたのだが、やることが少なすぎて逆に驚かれてしまった。ごめんね、暇な職場で。

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