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ダンジョン守りを初めて三年、異動を促されている。  作者: 未色
第一章 ダンジョン守りと異動案内
23/30

第23話 ダンジョン守りの胸の内

「もしかしたら、牛肉買ってそれをドリスで切ればドリスも肉食えるんじゃないか?」


 街中で鬼ごっこをするという変な目には合ったものの、最高な四連休が明けた出勤日の朝そんなことをふと思った。

 結局焼き肉屋に行ったのはあの日だけで残りの休日は部屋でごろごろしているだけだったのでドリスに肉を食わせることはしていないため平日の朝にそんなことを思いついてしまって愕然とした。


「まぁ、早くても今日の夜だからそこまで我慢しててくれドリス。あとチャリで剣を運ぶのはむずいからとりあえず家にいてくれ。あとで呼び出す」


 ドリスの事をどうしようかと思ったが、流石に家からダンジョンまでが近いとはいえ肩に剣を担いだまま自転車はこけてしまいそうだし、警察に止められちゃいそうだ。呼び出せば出現するのだから置いていくことは大目に見てほしい。


 ミィエヌエも家にいてもらおうかとも思ったが本人が連れ出せとうるさいためこいつは頭に乗ってもらう。


 そこからいつものように『15ダンジョン』に到着したが、ダンジョン入り口に誰かが腕を組んで座っているのに気が付いた。不審者か開場を待っている冒険者かが分からないため恐る恐る近づくとそれはあの時一緒に戦った弓使いさんだった。


「なんで? ‥‥‥あの、おはようございます?」


 何をしているかわからないため控えめに挨拶をすると、弓使いさんはその眼をカッと見開き俺に熱い視線を向けてきた。ようやく来たか、そう言わんばかりに鼻息も荒くしているのでとても怖い。


「あぁ、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ。二日間もダンジョンを開けないなんて何をしていたんだ?」

「え? あの、四連休だったもので。確かホームページもそう更新されていたはずですが」

「む、そうか。…あやつら、分かってて言わなかったな?」


 もしかしてこの人俺に用があって二日間ここで待ってたってことか? 当然事務所も開けてないので外で待っていたのか? 何がしたいんだ......。


「咲間、というそうだな。疑問なのだが、なぜお前さんは冒険者にならない?」

「…えぇ~、藪から棒にその話ですか。なんでって言われても仕事があるからとしか」

「‥‥‥本当だったのかその理由」

「はい。というか、ダンジョン開けなきゃいけないんで、とりあえず事務所入ります? 俺にお話があるんだったらそこで聞きますよ」


*   *   *


 いつものようにダンジョンを開場し、まばらに来る冒険者たちを中に入れた。常連の人達の俺を見る目が若干違うように思ったが、やはりモラル意識が高いのか積極的に『渋谷ダンジョン』の事について聞いてくる人は少なかった。

 正直何を聞かれるかの心構えはしていたので拍子抜けしてしまった。


 そして今日はダンジョン内には異常はなくようやく平常運転に戻ったような気がするな。正直もう困りごとは起こらないでほしい。


「で、お話というのは俺が冒険者にならないことでよかったですか? あ、そういえばお名前聞いていませんでしたね」

「あぁ。俺は源田堂次郎。これでも一応S級冒険者をやっている」

「‥‥‥え?! S級なんですか?! すごいですね!」

「あの情けない姿を見られていては最早情けをかけられているようにしか思えんが...純粋に言っているようだな」


 弓使いさん改め、源田さんはまさかのS級冒険者。日本でも指折りの実力者なのだろう。あのミィエヌエのほぼ即死トラップダンジョンに出会う前はあらゆるダンジョンで暴れまわりモンスターを狩っていたのだろうか。


「情けなんてそんな。実際あの場で助けてもらいましたし。ありがとうございました」

「よせ。ほぼお前さんが単独で打ちのめしたようなものだ。その珍妙な姿の女神をな」

「あはは...それで、冒険者に専念しない理由ですが、もちろんこの職場まで家が近いという理由がありますが...自信がないんです」

「自信? あれだけしておいてか?」

「はい。今俺はあの剣、ドリスに頼り切ってモンスターを倒しています。この最弱と名高い『15ダンジョン』内においては経験があるのでドリスがなくても問題ないのですが他でドリス無しではまず通用しないでしょう。もし何かしらの問題があってドリスが使えなくなってしまうと冒険者として立ち行かなくなります。元々の俺の力はD級を抜け出せないほどの物でしたから」


 三ケ島さんはパーティを組もうというありがたい申し出をしてくれたが、もし剣を振るえなくなれば彼女におんぶにだっこになるのは目に見えている。負担しかけることができないのでどちらにせよ冒険者を続けられなくなるだろう。


 だから、冒険者としての才能が元々ない俺は今のように一般の会社員を続けている方がいいと思うのだ。そこに家から勤務地が近いという最高の条件も合わさればわざわざ冒険者に転職するメリットが少ないような気がどうしてもしてしまう。


 もし、魔法でも爆発的な身体能力でも獲得できればその限りじゃないのだが今の時点では望み薄だろう。頑丈さはなんとなくドリスがいてからこそ成り立っているような気がするし。


「ふぅむ、職場に家が近いという変な理由はあくまで副次的な理由で本命はよくある悩みか...。分からないこともないが、逆に安心だな。本気でふざけた理由だけで冒険者に戻らないと思っているのならぶん殴ろうと思っていたところだ」

「え、こわ‥‥‥」


 何かに得心がいったようで立ち上がった源田さんの発言に恐怖していると、その瞬間、急に目の前の机に横たわるようにしてドリスが現れた。


「?! な、なんで急に?! 呼び出してないよね?!」


 ドリスは家に置きっぱなしだったのになぜ今になって急に出現したんだ。俺まだ呼び出してすらないのに。


「あら、もしかしたらドリスちゃんそっちの人間のぶん殴るっていう発言に反応して出てきたのかしらね。使い手に向けられる悪意に敏感に反応するのかしら」

「え?! 俺そんな仕様あるなんて知らないぞ!」

「……いいねぇ。武器に愛されている証拠じゃねぇか。なかなかないぞそんな武器。大切にした方がいいぜ」


 源田さんはさほど驚いた様子もなく、それだけ言うと事務所を出て帰って行ってしまった。二日間もダンジョンの前で俺を待っていた様子なのに少し俺の話を聞いただけで帰って行ってしまうとは本当に何しに来たんだあの人。

 心なしかせっかく現れたドリスがすることがなくなったせいで肩を落としているような気がした。


 その日はその後、特に大きな出来事はなく久しぶりに思えるようないつもの暇な勤務が過ぎていく。今日も『15ダンジョン』にくる冒険者はまばらなので仕事はほとんどない。

 メールなどをチェックしてみても特に何か大事なことが書かれているわけではないので、俺の異動の話は一体どうなっているのか見当もつかない。もう立ち消えになったのではないかという希望すら持ち始めている。



 そんな感じに時間が過ぎて行き、太陽が傾いてきた時ある冒険者のグループが奇妙な迷宮産出物を持って帰ってきた。


「お疲れさまでした‥‥‥ところでこちらは?」

「いやぁ、僕たちにはさっぱり。確か十三層に落ちていました」


 冒険者たちが差し出してきたのは真っ黒の少し分厚い紐だった。柔道の帯のような大きさだが、これまで俺が触った紐とは感触が違う。

 紐というには若干硬すぎるくらいに質感がしっかりしているにもかかわらず引っ張ってみればよく伸びる。しかしゴムかと言われればそんな手触りではない。


「なにこれ...ちょっと暖かいし」

「そ、そうなんですよ! でも、ダンジョン守りさんでも分からないのか…」

「はい、初めて見ましたこんな素材。聞いたこともないので買取自体に出せるかどうかも分からないです。すみません…」

「そうですか...あ、でしたらダンジョン守りさんに差し上げますよそれ! どうせ使い道とかわかんないんで、ダンジョン守りさんが引き取ってくれた方がなにかしらのお役に立ててくれそうですし!」


 買取可能か分からないことに肩を落とす冒険者グループは思い立ったようにそんなことを言い出した。グループ内ですでに合意が取れているかのように他の人もそうだそうだと声をあげている。


「え?! でも冒険者の方が取得されたものをこちらが受け取るのはちょっと…」

「なら、ダンジョン守りさんが発見したってことにしていただければ! いつも僕たちもお世話になっていますし、恩返しだと思って! では!」


 それだけ言うと、冒険者たちは半ば強引に俺にその紐のようなものを押し付けて帰っていった。あれ、これじゃあダンジョンに落ちていたよくわからない紐をゴミとして俺に押し付けたのと変わらなくないか…? どこに捨てればいいんだよこんな変なモノ...。


「まぁ、あとで考えようか」


 一旦その紐のようなものを机の上に置いて業務へと戻った。その後は帰りの冒険者たちの手続きを淡々と終わらせて、全ての冒険者が帰った夜八時前ようやく一日の業務を終了させた。


 業務後、一息ついていると半分忘れかけていた机の上の黒い紐が目に入った。


「あ~、どうしようかこれ。もらったはいいもののこの程度のもので上に掛け合うものなのか...。ゴミにしては変だしなぁ」


 どうするべきか腕を組んで考えていると隣に立っていたドリスが急にその黒紐へと触れた。俺以外のものに触れることにすこし驚いた。

 何を? と思った瞬間その黒紐がドリスと同化するようにその体へと吸い込まれた。


「あっ、えっ!? 何してんの?!」

「持ってかれちゃったわねぇ。もしかして元々ドリスちゃんの持ち物なのかしらそれ?」


 ミィエヌエも目を丸くしつつそんなことを口にした。


「いや、でも最初に出会った騎士もこんなもの身に着けてなかったぞ」

「…騎士?」


 完全にドリスの体に黒紐が吸収されると今度は壁に立てかけてあった剣の持ち手の部分にその黒紐らしきものが巻き付いた状態で音もなく現れた。

 戸惑う俺には興味がないようにそれ以降ドリスは動きを止めた。


 えぇ、今度は何がしたいのドリスさんや…。

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