第20話 ダンジョン守りの剣
「私たちが生み出された理由? そんなの知らないわよ。アナタ達人間も何で生まれてきたかなんて知らないでしょ?」
目の前のミィエヌエはさも当然のように言い切った。
主神から生み出されただのダンジョンを潰すことが目的だの、規模の大きな話になったのでその場を一旦神田さんが取りまとめて質問を投げかけていった。
しかしそのほとんどの回答はよく分からない、知らない、というものでありこれには俺を含めその場の全員が肩を落とした。
「知らない、なら何故あの場で人間を集めるような真似を?」
「さぁ? それが私たちの本能とでも言えばいいかしらね。別に何かを隠しているわけではないわ、単に知らないだけ」
「そうすることで主神は迷宮を潰そうとしていた...? 人の祈りがそんなに大事なのか...?」
神田さんはまた難しい顔をして腕を組んだ。誰も彼も同じような表情になっているのがわかる。
「主神とやらは人類の味方か? それとも別の何か目的があるのか?」
「さぁね。私たちは皆気がつけばあのような場所に生み出されていた。与えられていたのは名前とその意味、やるべきこと。この三つね」
「・・・仮に主神がダンジョンを滅ぼすために人間に祈らせていたのだとすると、海外で廃人になって排出された人はなんでそうなったんだ?」
ここで俺はふと疑問に思ったことを聞いてみた。
ミィエヌエが言っていることが本当だとすると、あの弓使いさんが語ったように女神に誘い込まれ廃人になって出てきた冒険者がいることに疑問が浮かぶ。
だって、祈りさえすれば別に廃人になる必要なんてない。さらに言えば祈りによって力を蓄えたいのなら人を外に帰すなんてことするのだろうか。
「さぁ? 何か同胞の気に触るようなことでもしたんじゃないかしら? あー、別の神を強く信仰していたとか?」
「なるほど...? ミィエヌエでも他の女神のこともよく分からないのか」
「ところで、アナタは何故この一週間で急に人を誘い込むようになったんだ? 最近生み出されたのか?」
「いいえ? 元々私ドリスちゃんのいた迷宮にいたのよ?」
急にミィエヌエはドリスの方を向きそんなことを言い放った。みんなの視線が一気にこっちに向くが、一番驚いているのは俺だ。
「え?! なんで言わないんだよ!」
「聞かれてもいないこと言うわけないじゃない。というか、ドリスちゃんに声かけたんだからそれくらいわかるでしょ」
「いやわかるか! え、だって俺三年間一回もお前のことなんて見てないぞ?」
「まぁ表立って行動してないし。ドリスちゃんいたから好きなように動けなかったのよ」
まさかのコイツの出身が『15ダンジョン』とは夢にも思わなかった。この場にいる誰もが例外なく。
思わずドリスを見るが反応なし。だが、今回も違うとは言わないので本当なのだろうか。
もしかしてミィエヌエが俺についてくるなんて言い出したのは馴染みのドリスがいたからなのだろうか。じゃないとこの無駄に高慢ちきな女神が人間についていくと言い出すなんて考えにくい。人間のペットのような扱いになるくらいなら死を選びそうだ。
「…ところで、なぜあなたは外に出ようと?」
「それはもちろん、そっちについていく方が死ななくて済むしなによりより早く迷宮を塗り替えられると思ったからよ。なにしろドリスちゃんがいるのだから」
「ドリスちゃん、というと咲間さんが持っている剣の事でしたか。なぜそれがあればダンジョンの塗り替え? が行えると?」
確かドリスはあの時、迷宮進行がどうのとか言ってたな。もしかすると主神率いる女神たちは迷宮と敵対している勢力なのかもしれない。
ミィエヌエはモンスターの事をずっと魔物と呼んでいたし、そこも関係しているのだろうか。
昔聞いた話だとモンスターの中には所謂悪魔のような外見をしているものもいるらしい。そのほかにも鬼など、古来より人間に魔として恐れられていたものもいるとか。だとすればそれと相反する神を自称する存在はモンスターたちと敵対していてもおかしくはない。
俺もいずれ、より自分の実力を試したくなった時には戦ってみたい。
「ドリスちゃんは正しく迷宮の具現よ。争い、取り込むことで他者を自らの力とし果てには他の迷宮そのものを塗り替えていく。それがドリスちゃんの権能。自ら話しはしないから推測でしかないけど」
「ま、待ってくれ。じゃあなんでそのドリスが俺のもとに?」
恐ろしいことを話しているがそこでさらに疑問が浮かぶ。
ただのダンジョン守りの手元に収まるにはさすがに荷が重すぎるのだ。俺は伝説の勇者でもなければもうすでに冒険者を志半ばで諦めた半端ものだ。ドリスの能力を正しく扱うには力が足らなすぎるだろう。
「知らないわよ。それこそ本人に聞いてみなさいな」
俺の疑問を面倒くさそうにミィエヌエは跳ねのけた。俺の方を向かずに手であしらうような動作までつけている。
俺だって聞けるのなら聞きたいのだがいかんせん本人が口を割らなすぎる。いや、極端に喋らなすぎる。俺が知りたい情報を出さないくせに一丁前に指示と文句はつけてくるのでこれじゃどっちが使われているのかは分かったもんじゃない。
「…咲間さん、いずれ何かがお分かりになりましたら教えてください。今回の件を鑑みて咲間さんにはさらに何かしらの要請をかけるかもしれません。もちろんこちらもできる限りのことはしますが、どうしてもというときはお願いします。もちろんその分の報酬は多くお支払いします」
神田さんは申し訳なさそうにしながらもこちらに頭を下げてきた。
いやだなぁ、とは思うけどお金がもらえるんなら仕方がない。もらえるものはもちろん頂くよ。
「…俺にできることであれば。仕事と兼ね合いにはなりますけどね」
* * *
その会はお開きとなり、検査所から出るとそこには私服姿の三ケ島さんの姿があった。全国を飛び回っていると思っていたのでこの場にいることに驚いてしまった。
「あ、お疲れ様です。どうして検査所に?」
「お疲れ様です。ニュースで『渋谷ダンジョン』の報道がされてましてそこに咲間さんがインタビュー受けている映像が乗っていたので…」
「あ~、そういう」
「——あれ?! 明ちゃんじゃん!」
突如俺の背後から明るい声が聞こえた。
そこにいたのは俺よりも後に出てきた沖田さんと斎藤さんの姿があった。あぁ、そうかこの人たちもA級冒険者だもんな。少しは面識があるのかな。
「あら、久しぶり沖田さん、斎藤さん。あぁ、あなたも咲間さんと一緒に『渋谷ダンジョン』にいたのよね」
「うん! あれ、でも明ちゃんはなんで咲間さん知ってるの?」
沖田さんが尋ねると三ケ島さんは俺との出会いを簡単に語った。とはいえ知り合ってから日にちが浅いためそこまでの話はないわけだけど。
「ところで咲間さん、その奇妙なマスコットのような生物は?」
「あ~、なんか倒したらついてくることになっちゃいまして。よければいります?」
「おい。すぐに私を別の人間に差し出そうとするのはやめなさい」
「あはは...遠慮しておきますね。…でも変わらずお元気そうでよかったです。ところで、咲間さんはまだダンジョン守り業務を続けるご予定ですよね?」
「え、まぁはい」
「そうですか。では私はすこし検査所で用があるので。では」
そう変なことをいい三ケ島さんは検査所へと入っていった。一体何の確認だったんだろうか。
その後お二人とも別れ帰路へと着いた。ただの休日のつもりがまさかのダンジョン消滅まで行ってしまった。しかも被害ゼロで。
「ぐふふ...いくら金もらえるんだろうか。ちょっと不動産屋行ってみようかな」
「あなた、そんな下種な笑い方もできたのね。…気持ち悪い」
頭上からむかつく声が聞こえたが気にならない。なんせいっぱいお金もらえる(予定)だもんね~。
* * *
とある夕方のニュースで報道された番組は日本中に即座に伝播した。いつもならば首都圏のみで放送される番組もSNS上で大注目され、咲間の顔が日本中全国へと流れていくことになる。
ネット上の冒険者が集う掲示板でも大々的に『渋谷ダンジョン』をほぼ単騎で消滅させた人物として一夜にして有名となった。
また、この事態を重く受け止めている迷宮庁上層部は咲間自身の扱いについてもより深く検討されていくことになった。
しかし、連日の疲れで泥のように眠る咲間の目にその情報が入るのは少し先のこととなる。




