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ダンジョン守りを初めて三年、異動を促されている。  作者: 未色
第一章 ダンジョン守りと異動案内
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第19話 ダンジョン守りのペット事情

 巨大泥人形討伐後、現場の指揮は佐藤さんから別の迷宮庁職員へと引き継がれて俺と沖田さん、斎藤さんは車に乗せられて検査所へと運ばれた。無論聞き取り調査のために。


「ねぇ、なんなのその油の塊のような食べ物は? …少しよこしなさいよ」


 途中バーガーチェーンに寄りハンバーガーを奢ってもらった。手っ取り早くカロリーを摂取するにはやっぱこれだね。

 普段あまりハンバーガーを食べることはないためありがたく頬張っていると頭上のミニ女神から強請られた。


「お前べつに飯食わなくてもいいんじゃないのか」

「なんでよ。別に食事は必要ない体だけれどくれたっていいじゃない。外の世界に食事は初めて見るんだもの」

「えぇ...てかハンバーガーなんてお前みたいな姿の神が信仰されてる海外の方がメジャーだろ」

「知らないわよ、そんな人間の価値観持ちだされても」


 あまり車内でギャーギャー騒がれても他の人に迷惑なので少しちぎって与えてやった。皆困ったような顔してて、斎藤さんなんかまったく関係ないのに善意で分けてくれようとしていたし申し訳ない。


 というかホントにダンジョンモンスターが外の飯食うのはどうなんだ。

 

 これまで動物感覚で人間の食べ物をモンスターにあげようとした奴ももちろんいるらしいけど見向きもされなかったらしい。主にダンジョンモンスターは何も食わないか人間もしくはモンスターを狩って食うと言われている。

 まぁ、その研究がどこまで正確でどれほどの規模で行われたのかは俺たちの知るところではないが少なくとも『15ダンジョン』内では人間の食べ物を食べている形跡はなかった。


「…ふーん。別にびっくりするほどおいしいってわけじゃないのね。期待して損したわ」

「お前さぁ、せっかく俺が分けてやったんだし奢ってくれてるんだし嘘でもそんなこと言うなよ」

「い、いいんですよ咲間さん。ダンジョンモンスターは人間の食事を好まないっていう貴重な言質も取れたわけですし」

「なんか、ホントすみません...。きちんと躾けときますんで」


 ほら、佐藤さんに気遣わせちゃったじゃないか。俺からしたら本当においしいですからね?


 そんな感じで終始俺とミニ女神が言いあいながら車は目的地へと進んでいく。

 その中でふと気になったことがあったのでミニ女神に聞いてみた。


「そういやお前、名前とかねぇの? 俺についてくんならそれくらいあってくれないと困るんだけど」

「あら、言ってなかったかしら。じゃあその陳腐な耳を良く澄ませて聞きなさい。私に与えられている名前はミィエヌエ。その意味が為すのは博愛よ」

「みぃえぬえ…? また呼びにくい名前だな。ミとかでいい?」

「いいわけがないでしょう?! 名前をなんだと思っているのあなた!?」


 だって発音しにくいんだもん。特に「ィエ」とか喉潰した感じに言わないとじゃん?


 その会話を聞いていた助手席の佐藤さんが身を乗り出してこちらに顔を向けた。どうやらとても驚いているらしい。


「な、名前持ちですか?!」

「なにようるさいわね」

「しかし! 人間と普通に会話できてさらに外に出るための交渉も行い、その上名前持ち?! こ、これはえらいことに...」


 何やらこの女神が名前を持っていることにたいそう驚いているらしかった。確かにもともと強力で人間と条件交渉ができるうえに名前があるのは珍しいのか。俺も今までダンジョン守りしてきてそんなモンスター現れたことないしな。


 あれ、でも確か…。


「でも佐藤さん、篠塚さんとかそうじゃないですか?」

「いえ、彼は...確かにその女神と似たような出自ですが名前はこちらが勝手に命名したものです。もしかしたら神田さんから聞いているかもしれませんが、冒険者になるにあたって名前がないのは不自然なので...」

「あ、確かにそう言ってましたね」

「あら、私と似たようなのがいるのかしら。人間に勝手に名付けられるなんてさぞ哀れな魔物なのね?」


 いや、今のお前の姿の方が哀れだと思うぞ…。


 そう会話しているうちに割とすぐ検査所に到着した。まぁ今回いたのが『渋谷ダンジョン』だったので俺の家からと比較すりゃそりゃ早く到着するに決まっているか。


 またすぐにここにきてしまったことにややどんよりとした気持ちになりながら俺たちは所内へと入った。


*   *   *


「咲間さん、沖田さん、斎藤さん今回の件は本当にありがとうございました。行方不明者の救助だけでなく今回はダンジョンを周囲への被害を最小限に抑えた形での消滅。国内初です!」


 前回みたいな精密検査ではなく、問診のみの簡易検査を終えた俺たちは再びあの会議室のような場所へ移動して神田さんやほかの迷宮庁職員から厚いお礼を受け取った。


「いえいえ、私はたまたま今回咲間さんと一緒に潜っただけですので...!」

「ぼ、僕もですよ! 感謝は全部咲間さんに!」


 一番恐縮している俺を差し置いて隣の二人がまさかの俺に手柄を譲るような発言をしてきた。まさかのここで梯子外し。


「待ってください! コイツがいる場所に行けたのもお二人のお力があってのことじゃないですか! 確かに、コイツの本体は俺が倒しましたけど天使たちの討伐されてたじゃないですか!」


 実際にダンジョン内で最初に出会った蜥蜴も二人が入れたから倒し切ることができたし道中の他のモンスターにしたってそうだ。特に天使の足止めをしてくれていたのは本当にありがたかった。

 どこをとっても俺一人の力じゃ成し遂げられなかったことだ。


 というか他のダンジョンに別の冒険者と一緒に入るってだけでもうありがたい。帆の所見の土地で土地勘がある人がいるときの安心感は半端ないからね。


 俺の発言を謙遜と受け取ったのか二人は、またまた~、みたいな顔をしているけれどマジですから。俺一人の手柄だと本気で思ってたら謙遜なんてしないからね、多分。


二人が納得したかは知らないが一旦感謝タイムは終了して次は質問コーナーへ。もうここ数日で聞き取り調査は何度も受けたのでなんでもござれという気持ちだ。出されたお茶菓子をつまみつつ気の抜けたような気持ちでいたって真面目に受け答えた。もうあの時みたいな面接染みた圧迫感は感じていない。


「ダンジョン自体が消失したので検証ができないのが心残りですが、皆さんのお話はこちらのほうでも積極的に研究に使わさせていただきます。貴重なお話ありがとうございます」

「はい、お願いします。…あ、ところでミィエヌエ、あの核石がいっぱいあった部屋って何だったんだ?」


 聞き取り調査がひと段落したところで、頭の隅っこの方でずっと気になっていたことを机の上に移動した駄女神に聞いてみた。神田さんに話している最中もずっと何だったんだろうと疑問だったのだ。


 皆が次はミィエヌエの方を注目し、そちらへの質問へと移っていく。


「あ~あれね、というかやはり知らなかったのね。私迷宮の事すべてを知っているわけじゃないし全部がそうとも言えないのだけど、あそこはあなたたちが核石と呼んでいるあの石ころの本体が落ちる場所よ?」

「…え?」


 皆俺と同じ顔になっていたことだろう。


 核石の本体…? じゃあ俺たち人間が今まで拾っていたものは?


「全員、直ちに外部通信をシャットアウト、この場でのことはオフレコにしてください」


 直後に神田さんがそう言った。その顔には納得と険しさの両方の表情が滲んでいた。


「あら、あなたたちは少しは勘づいていたようね。よく考えてもみなさい人間。魔物どもの結晶があなたたちが拾っていた石だけに凝縮されると思っていたの? そんなわけないでしょう」

「…毎回、核石は密度に比べて軽いなと感じていたのって」

「そうよ。おそらく七割八割はあの部屋に転がっていた方に凝縮されているわ」

「だから、あの部屋にあったやつあんなに重かったのか...て、そんな大事なもの俺使いきっちゃったってこと?! なんてことを…!」


 その俺の発言を受けミィエヌエは意地の悪そうな笑みを浮かべた。こいつまさかそれが狙いで俺に自分の能力再現させたのか…!


 もしいつもあの場にあったような高純度の核石があればどれだけ人間社会が潤うと思っているんだ。たかだか三割程度の純度の核石で今の豊かになった生活を享受できているんだから、高純度の核石なんて市場価値がどれほどのものになるのかは計り知れない。


「咲間さん...あまり気に詰めないでください。あの場ではあれが最適だったとこの場にいる全員が痛感しております」

「そうですよ。あの量の高純度核石と咲間さんのどちらかがかけていたら今回のような成果は出せませんでした」


 俺の悲痛な思いを慮ってくれたのか神田さんと佐藤さんの両名から温かい言葉がかかった。


 でも、そうはいってくれても実際あの量の高純度核石があれば...。


「よかったじゃない。慰めてくれているわよ、喜んだら?」

「…つくづく煩いし鼻につくのやめろ。神田さん、佐藤さんありがとうございます。またいつか、高純度なもの取ってきますね」

「その心意気は大変ありがたいのですが...それはできれば当分は差し控えていただければ」

「え…?」

「実は私共のなかでもその可能性は示唆されていたのです。生体エネルギーの結晶にしては発電や機械へ組み込んだ時の効率が低いと。いや、それまでの物と比べれば効率はいいのですがね。しかし、その事を発信してしまえば皆高純度なものを得るために躍起になるでしょう。冒険者や民間人に余計な被害を生む可能性があります」


 あぁ、だからオフレコにしろってさっき言ったのか。

 確かにダンジョンのどこかにより高純度で高く売れる核石が転がっているかもしれないと言ってしまえば皆それを求めるか。それであるかも分からないものを探そうとしてダンジョンの変な場所に行ってしまう可能性がある、と。


「なるほど。だから純度の低いものでもモンスターから発生したもののみを採取させてそれ以上は探させないようにさせるために…」

「はい、仰る通りです。ですから今一度このことは今はまだ内密にということでよろしいでしょうか?」


 神田さんの言葉に皆黙ってうなずく。まぁ誰もそんな火種を外に持ち出したいとは思わないだろう。


 もし今後何かしらの形で高純度の核石が取り出せるってなったらそこで初めて公表するのだろうな。


「でも、あの部屋にあれだけあったのって…?」

「それはもちろん、魔物どもを再出現させるためじゃないかしらね。迷宮は一丁前に自己完結しているから腹立たしいわね」

「なるほど...で、お前のことなんだけど。なんであの場所に天使みたいなやつといたわけ? てかなんで名前があってその名前の意味すらあんの?」


 待ってましたと言わんばかりに迷宮庁職員たちが姿勢を正しメモを取る準備をして、ミィエヌエに注目した。こればかりは俺も知っておきたい情報なので少し前のめりになった。


「それは、私たちが主神から生み出されたからに決まっているじゃない。あの場で迷宮を潰すために待っていたのよ。あぁ、でも全部の迷宮に私のようなものがいるかは知らないわ。だって私たちの方が後に生み出されたのだから」


 また、反応に困るようなことをポンポンと言われてしまってその場で全員固まってしまった。


 もちろん、当の本人のミィエヌエを除いて。

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